2話 それでも尚責任を負うべきか
赤瀬炎王は、七瀬の幼なじみ、いや兄弟のようなものだった。2人の親は、EASの開発に関わっていた。赤瀬は、俺よりも1年前に生まれ、能力が使えない俺を励まし続けてくれた兄ような人間だ。あの日までは。ふと周りを見渡すと、倒れている教師の中にいる安西が目に入った。七瀬はすぐに彼女のところに駆け寄った。
「安西!すまなかった…最初から俺が戦うべきだった。きっと、そのための存在なんだよ。」
安西は力のない微笑みをした。
「っ。なぁに、お前が謝ることはないさ…誰かに助けてもらったことなんてないだろ?なのに助けるなんて理不尽な話だ…あとちゃんと敬語を使ぇ」
七瀬は頷いて、赤瀬を見た。
「七瀬君?恩師の前に立ち塞がっちゃっていいの?人じゃないけど、弟となんて殺りたくねぇなぁ!無能がぁ!」
「赤瀬ぇ!俺はお前をもう兄だとなんて思ってない!」
七瀬は赤瀬の元に走り出した。しかし、七瀬の前に爆炎が立ち塞がった。赤瀬炎王、能力ランクS。国内最強の称号をもつ最恐最悪の人間だ。星砕き《プラネットブレイカー》の名称を持つ。星を丸々一つの砕くほどの破壊力を持つ爆発と炎を操る。
が、七瀬には効かず。
「星は砕けても、俺は砕けないぃ!」
炎王は、驚愕してた。世界で最弱じゃないといけないやつに、ダメージを与えられなかったことを。いや、そもそも自分の爆発に無傷でいられるということがおかしかった。激しく動揺していた。だんだん迫り来る異物に、ふいに力が暴走した。異変に気がついた七瀬は、炎王の頭を掴み、そのまま地面におもいっきり叩きつけた。それと同時に炎王は、彼の体ごと大爆発を起こした。七瀬は、爆発に ダメージを受けることはなかったが、爆発を止めることは出来なかった。
結局俺は、責任を果たすことが出来なかった。守れるのは自分だけなんだ…
「少年。少年?」
ふと後ろから太い声が聞こえた。振り返ると、一人の大男が立っていた。
「EAS犯罪取り締まり現場班隊長兼、全警部本庁総長、大篠津修羅だ。お陰で間に合った。君は?」
目の前にいる大男は、この国の警察のトップであり、EAS犯罪者と現場で戦う男だ。この国には4人のSランクがいるが修羅もまたSランクの一人だ。
「七瀬だ。皆は?」
「無事だ。七瀬君があいつと戦ってくれたおかげで私がバリアを張ることができた。まぁ1ヶ月は再起不能だな…七瀬?七瀬博士のお子さんか?」
一番触れてもらいたくないところだったが、被害を0に抑えてくれた恩人にそんなことを言うことは出来なかった。
「あぁ…赤瀬は?赤瀬の雇い主は??」
「やはり赤瀬がやったんだな?それがどこにもいないんだ。とりあえず詳しい話を聞きたい。ついてきてくれるかな?」
とりあえず頷いて修羅についていくことにした。
修羅に言われるがままに車に乗せらた。
「まずは、本当にありがとう。赤瀬が暴れて死者が0ですんだのはこれまでにないことだ。この国のSランカーでも飛び抜けて強いからな。私のバリアもしばらくは使えん。君はAランクかなにかか?それとも5人目か?」
七瀬は自身でなんて説明すればいいのか迷ったが今まで通りの紹介をした。
「俺はランク外だ。あんたも聞いたことあるだろ?石の力を使えないやつがいるって噂。」
修羅はおったまげた顔をし、そして笑った。
「すまない。あれが噂じゃないとは思わなくてな、しかもそんな君が我々が手を焼いてる赤瀬を撃退されるなんてなぁ…赤瀬の弱点でも見つけたか?」
言ってることは確かだ。無能力だったはずの俺が、赤瀬を倒したなんてあり得ない。しかも無傷で。
七瀬は最初から全部話した。
「つまり君は、能力者の力を効かない体質を持ってるという訳だな。おっ、そろそろ着くぞ。」
車が止まり、修羅は車から降りた。続いて七瀬も車から降りた。
「ついてきたまえ。」
修羅は、大きな体をゆっくり動かして目の前の建物の中に入って行った。七瀬も後に続いた。建物の中はやけに賑やかな声が響いていた。階段を3階分あがり、目の前のドアの前で止まった。
「ちょっとうるさいかもしれないけど我慢してくれ。」
修羅は、そう言ってドアを開けた。ドアの向こうでは、だいぶ賑やかに騒いでいた。修羅がドアを開けたことに気がついたのか静まり返った。静まり返ったかと思えば、再び騒ぎ出した。
「帰ってきたぁ!」「無事でした?」「修羅さーん!」
修羅は気にせず中に入って行った。ちょっと気がのらなかったが修羅のあとを追った。修羅があまりにも大きかったため、後ろにいた七瀬の存在に気がついていた者がいなかったのか中にいた人が全員七瀬に視線を向けた。ちょっと歩きずらく感じていたが、すぐに個室に移動したため、一安心した。
「ここに連れてきたのは書類にいろいろ書いて貰うのが一つ、あとは赤瀬と君の関係の確認。そして君の存在を上にどう報告するか…」
「手間をかけさせて悪かったな。だけど昔、政府の連中に体の隅々まで調べられたり実験されたりしてるから、政府に身柄をなんてのは無しでよろしく。」
「もちろん。君の安全は私が保証しよう。それと引き換えと言っちゃなんなんだが…」
修羅は少し迷いを見せたが、すぐに迷いを吹っ切った顔をして話を続けた。
「うちの部署に入ってくれないか?」
「なんだぁ、そんなことなら…ってはぁ?」
俺は超戸惑った。人と長話するのも久しぶりなのに、いきなり訳のわからない部署に勧誘されるとは…
て言うかここどこ?何の部署??
「驚くのも無理もない。とりあえず紹介する。ここはEAS犯罪取り締まり現場班本部だ。各地に部署にが点々とあるが君の学校から近いのはここだ。私を含め、現在14人が所属してる。」
「確か、EAS取り締まりって公務員じゃないんだろ?その辺の有能な能力者とか集めてるっていう…」「あぁ!よく知ってるな。私は警察のトップもやってるがな!公務員はこの部署には私含め4人しかいない。どうだ?君の能力が役に立つかもしれない。」
俺は、俺の親が発明したものの責任を負うべきなのか?能力が便利なのは確かだが、その分犯罪の件数も爆発的に増加した。世界の国々では、非人道的なことを行ってまで強い力を生み出しているところもあるらしい。でも俺は誰にも救われることがない…それでも尚責任を負うべきか…
「どうする?一応給料も出る。この部署の中には、寮のようなところもある。生活には困らない。」
俺は…友達だって欲しかった。今までずっと悩んできた。友達がいないことや、能力がないこと。それは今も変わらない。もし仮にあの高校にいるみんなが俺の友達だったら?俺に能力があったら?その時こそ何も出来ない。何も出来ないまま赤瀬に全部奪われていた。だが俺は、赤瀬を倒した。安西を守れた。もし俺が戦わなかったら、大切な友達を失ってしまったやつもいたかもしれない…責任を負うべき?違う。俺が俺自身のため、俺自身の存在の証明のために俺の、俺だけの体質がある。責任なんて問題じゃない!じゃぁ俺は…
「協力する。」
「そうか…ありがたい!これからよろしく頼むぞ!」
俺は、俺であるために戦う。これからは友達という存在をつくるため、俺の憧れる存在を守るために俺を使う。そうすることで俺は俺でいることが出来るかもしれない。素直にそう思うことが出来た。