1話 俺は他の誰とも違う
俺はこの世界には、納得がいかなかった。『不公平』それはいくらでも存在するかもしれない。生まれたときの初期ステータスにはきっと優劣があるのだろう。俺はそんな細かい優劣、例えば外見、運動能力などには、全く気にしていなかった。俺が気にしているのはこの体質だった。世界でたった一人だけが持つこの体質に。
七瀬希偉16歳の高校一年生だ。先日、高校の入学式が終わったばかりで、それぞれのクラスに分かれるのは今日からだった。学校に近づけば近づくほど、気持ちは憂鬱になっていった。クラスは、AからFに分かれている。十年前ほどから、高校も義務教育化され、受験と言うものは存在していなかった。俺は、最近ここに引っ越してきたばかりで、誰一人知り合いのいない高校に通うことになっていた。不安はなかった。なぜならこの先の立場については、もう決まっているも同然だ。そんなことを考えているうちに学校についた。そして、重い足取りでFクラスに向かった。
今日はオリエンテーションなどがメインだったため、午前のみで学校は終わり、今は放課後。俺は素早く帰宅の準備を済ませ、席を離れようとした。
「なぁ、お前見ない顔だな?引っ越してきたのか?俺は」
「悪いな、今日はちょっと用事があるもんで。」
後ろの席のやつの言葉を途中で遮り、嘘をついて教室を去った。今は優しく接してくれても、明日になれば誰もが俺を軽蔑するだろう。そんなことを考えながら、俺は帰宅した。
翌日、朝のSHRで今日の日程を確認した。午前の3時間は普通授業。午後は特別授業だった。俺は、午前の3時間が永遠に続けばいいのに…なんて考えていた。そんなことを考えているうちに昼休み終了まで10分となった。クラスは、ざわつき初めた。まぁそれもそのはずだ。この午後の特別授業のために、高校が義務教育になったようなものだ。俺のいた中学ではこの特別授業は、取り入れられていたが、この学区では、高校かららしい。そして、午後の授業が始まった。
「2074年、今から…40年前、この星の地下に眠っていた、EASが発掘されました。EASは、我々の人体に干渉し、超能力と呼ばれる物を与えてくれます。このFクラスは、基礎能力の向上と個々が持つ能力の向上がメインです。それでは、特別実習室に向かってください。七瀬君はここに残るように。」
何を言われるか、そんなことは分かっていた。40年前EAS(exploit ability stone)通称、能偉石は、発掘された。俺の親は、その研究グループの一員で、20年前に超能力の実在を証明した。その後生まれた俺は、親の人生の結晶とも呼べる石の名前を俺につけた。希望の偉業を成し遂げよと、希偉言う名前をつけた。だが俺はこの世界でたった一人の存在だった。誰でも超能力が使えるようになる石のはずなのに、俺だけは石から拒絶されてしまった。勿論親にも捨てられた。俺は自身の名前が大嫌いだった。国は、とんでもない力を秘めていると勘違いし、俺を能力開発の最先端にたつ、中学へ入学させ、能力開発を行った。結果はこの通りだ。
「七瀬君?七瀬?なーなーせ?聞いてますかー?」
「あんたは?俺は特別授業をやらずに帰らせてもらえると言う朗報を伝えにきたのか?」
「私は、安西道だ。安西先生でも、道先生とでも呼んでくれ。どうとかいったらぶち殺す。」
からかいでどう先生とでも言ってやろうと考えてた矢先にそんなことを言われると流石にびびる。
「で、安西先生は俺をからかいにでも来たのか?」
安西は困った顔をして続けた。
「それが、上からお前が担当しろー!とか言われたきりで、さっきも適当になんかやればいいって言われて…七瀬は何か知ってるか?」
「知るか…」
安西はさらに困った顔していたが何か思いついたのか、にっこりにて言った。
「ならなんか喋るか?七瀬は、小中っていじめられてきてるんだろ?私みたいな、女教師でいいなら愚痴でも、聞いてやるぞ?」
俺は、能力が使えないと言うことでいじめられていた。学校という存在から。教師も俺の能力開発に嫌気がさしてやめてくやつもいれば、暴力をふるってきたやつもいた。全ては国が認めていたから。国としても、能力の使えない人なんていてもらっては困るからだ。俺の遺伝子が広まり、国に能力の使えない人間が増大する恐れもあった。しかし人権を犯すことは出来ない。あらゆる手段を使ってまで能力開発を行った。
「過去のことなんていいですよ。いじめてきたのは学校そのものだった。国は俺の存在を隠すことで精一杯だったらしい。そんなことよりあんたのランクっていくつだ??」
「私はCランクの思考読み取り能力だ。」
能力には、大きく分けて2つの能力がある。基本的身体能力を伸ばす能力と、超能力。超能力は、人それぞれ違っている。2つの能力を、数値化することで、ランク分けをした。SランクからFランクまで。Sランクは世界でも数えれるほどの人数しかいない。Aも相当少ないが、この学校には2人いるみたいだ。たった2人のためだけに一つのクラスは成立してしまう。なんて理不尽だ。俺の方が珍しさでは勝るのに…。俺は能力がない訳ではない。いや石から与えられた能力に対する能力を持っている。この存在を知ってるのは俺ただ一人。最近気がついた。
「俺の考えてること読める?」
安西はじーっと七瀬を見ていたが、
「これはたまげた!?完全に何も見えないぞ?」
「これは秘密にしておいてくれ、まだ扱いに慣れていないから、国の連中に知られても困る。簡単に拉致られる。」
「これはどういう仕組みだ?」
「俺の体質は石の干渉を完全に拒絶する体質なんだ。分かるか?」
「石の能力の干渉も一切受けない…おいおい無茶苦茶じゃねぇか…」
「こんな能力なんていらないから、俺も普通になりたいと思って努力してるんだが…無理みたいだ。」
簡単な話だ。石を使ってる連中は、基本的な身体能力も向上されている時点で俺に勝ち目はない。唯一勝てそうなのは怠慢くらいだ。そんなことを考えながら安西の顔をみると、安西の顔は険しくなっていた。そして、
「!?」
安西は突然立ち上がった。
「どうした?」
「そろそろ敬語を使え。そんなことを言っている場合じゃなかったな。この学校には超広域テレパシーが使えるBランクの教師がいるのだがそこからの情報なんだが、ある組織の連中と思われる集団がこ4方からこの学校に接近して来ているとのことだ。狙いは…」
「石。」
安西は、頷いて席に座った。
「無理だ…勝てない。この学校で戦えるのは私含め10人前後だ。生徒は…Aランクは2人共実践経験0。他のランクにも実践可能な生徒はいない…それに対し相手はSランクの用心棒雇いの可能性があるとの情報だ。」
「どうす」ドカァーン!
七瀬の言葉を遮るように爆発音が鳴った。
「ひょっとしたらお前の力がみんなを救うかもしれない。一緒来てくれるか?頼む…」
「俺は…行かない。そんな勇気は俺にはない。」
安西は七瀬の言葉を聞いて教室を去った。
そうだ…俺にはそんな覚悟なんてない。自分の身は自分で守ればいい。戦うことなく、逃げればいい。俺にはそれができる…俺は考えていた。本当にそれでいいのかと…そんなことを考えている今も時間は過ぎていく、外では爆音がなり響いている。外にいる教師達がやられたらやつらはここに入って来るだろう。あるだけの石を回収していくだろう。それだけあの石には価値がある。こう言う隙を付かないと石は手に入らない。俺の親はなんて物を作ってしまったのだろう…俺は他の誰とも違う。だけど…俺の足は自然に動いていた。
特別実習室がある棟の前で十数人の教師が一人の少年に殺されかけていた。俺はその少年の名前を知っていた。
「あ…赤瀬。赤瀬ぇ!!」
「んぁ?あぁー!人間じゃない七瀬君じゃねぇーかぁ。」
俺は目の前に立つ人類最恐の赤瀬炎王の前に立ち塞がった。