『新しい生活(3)』
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2人が外で仕事をしながら、話をしていた時の事ーーー
撫子は、義母が家を出て行った後、布を織りはじめた。
元々、器用な撫子は織っていた義母の様子だけで織り方を覚えてしまっていた。
義母を上回る物凄いスピードである。
半刻を過ぎる頃には、義母の倍以上もの布を織り終えていた。
それから、また半刻程経った頃、二人は戻って来た。
「撫子。これは、お前さんが一人で全部織ったのかい?」
驚いたような声で義母が聞く。
当然である。
一刻程の間に、自分で織れる量の三倍近くの量が織られているのだから。
「はい。…あの…これから、納める布は、私に織らせて頂けないでしょうか?」
二人は顔を見合わせ少し考えた。
「だそうだ。やらせてみてはどうだろうか?」
「そうすれば、私の仕事は糸を作るのと畑仕事に専念出来るから…。遥かに効率が上がるねぇ…」
そうした会話の後、撫子の方を見て言った。
「良いだろう。やってみなさい」
「ありがとうございます、お義母様。早速ですが…納めるための布をお取りください」
義母は布を取ると、驚いた顔をした。撫子が作った布は軽く、そして、柔らかかったのだ。
「じゃあ、この束を貰うよ」
そう言って、義母は数本、布の束を取った。そして、その前に自分自身で織っていた布の束と合わせた、納める用の布を包んで仕舞った。
その作業を終えると、糸を紡ぎ始めた。
一方、撫子はと云うと、糸を持って外へ行き、近くを流れる川で濡らしてから戻って来た。そして、それを今度は木槌で叩いて柔らかくする。
「こんなものかしら?」
しばらくすると、布の束から1つを取り上げ、規則的にその糸で縛っていく。糸が続く限り縛りつづけ、糸が途切れたところでその作業を終えた。
「絞りの作り方ってこんなだったかな?」
そう、彼女は着物にある『絞り』というものを作ろうとしていたのだ。
彼女は布をもう一度畳むと、義父のいる外へと向かった。
冬も終わり、春らしい気候となってきたこの時期、夕方の時間は妙に肌寒い。
(まぁ、この時代の暦では、今は春と夏の境なのでしょうけど)
義父は、そこで藁を編んで俵を作っていた。
「お義父様、寒くはありませんか?」
撫子は声を掛けた。
「おぉ、撫子か。大丈夫じゃ。一体何の用じゃ?」
「明日、山の桜の木へと行きたいのです」
「山の桜?咲くのは、もう少し先の事じゃ」
「いえ、今の時期の桜、いえ、桜の木の皮でなければならないのです」
「皮?一体何に使う?」
「それは、秘密です」
彼女がそう言うと、
「分かった。明日の朝、連れて行こう」
そう返した。
「ありがとうございます」
そう言って戻ろうとした撫子を
「そう言えば」
と引き止めた。
「これは仮の話じゃから、答えたくなかったら聞き流して構わんよ。
もし、貴族の方がお前を養子に欲しいと言ったら、お前さんはどうしたい?」
お久しぶりです。
遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。
また、再開させて頂きます。