『新しい生活(2)』
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「あぁ、おじいさん。撫子が布を織りたいと言っておったのでの。今、あの娘は一人で家にいるよ」
家を出た義母は義父を見つけるとこう言った。
「なぁ、ばあさんや」
突然、彼は話を切り出した。
「何ですか?突然?」
「お前さんは…竹取物語を知っているかい?」
竹取物語。それは、撫子のいた世界では『かぐや姫』と呼ばれる日本の童話だ。
「もちろん、知っていますよ。どうしたんですか?」
「わしはな…時々、撫子がかぐや姫ではないかと思う事がある」
何も言わずに、彼女はただ黙って先を促した。
「突然現れて、その家の中を幸せにし、結婚を拒み、やがて去っていく…。本当はあの話は作り物だと理解しているはずなんじゃがな」
「ほんに。それに私らがもう少し裕福な家だったなら、とも思いますよ。立派に嫁いで、幸せになれるんですから」
「まぁ、撫子はそれを望んじゃあいないみたいだがな」
彼はしみじみとそう言う。
「あの娘が幸せになれる方法はないのかね…」
彼女もそういって、悲しそうに笑う。
「あの器量なら、身分さえよければ帝のもとにお仕えすることも出来ようものを…」
きっと、帝にお仕えし、子供を産めることが、上流階級の女性にとっての一番の幸せ。
たとえ上流階級でなくても、中流階級ならば更衣としてだったり、女房として宮中の女性に仕えることができる。
しかし、彼らには身分が足りないのだ。
「彼女を養子に貰いたいと言う、貴族の方がいれば良いのに…」
養子にしてくれる人が現れれば、彼女の世界は広がる。
しかし、それは同時に、彼女の自由を奪うことにもなりかねない。
「一番良いのは、彼女の身分が低いうちに、外に出すことですね」
身分が低い人間なら、女性でも外に出る事は出来る。
そして、養子にしたいと申し出てくる人が現れたのなら、彼女の意思に合わせる。
送り出すかどうかは父親の権限なのだから、その意思を元に考えれば良い。
一番大切な事は、大事な娘の幸せを一番に考える事なのだ。
彼女の幸せになる道は何なのか。
2人はそんな事を考えながら、畑仕事をはじめた。
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