『新しい生活(1)』
私がこの世界に来て、どれくらいたったのだろう。
カレンダーも時計もないこの世界では、日にちの経過が分からない。
何となく、三か月間ぐらい経ったかな?という程度の認識だ。
そろそろ、桜の開く季節も近いのかもしれない。
とりあえず、この世界で1つ、確実に成長したことがある。
星座がある程度分かるようになった。
名前を知らずとも、形、配置を知っているだけで、大きなメリットになる。
何せ、この世界の暦――――――太陰暦は不正確なのだ。
月の満ち欠けによる暦なんて、分かりにくい。
月が28.5日を周期としている以上、ズレるのが当たり前なのだから。
日にちは忘れてしまったとしても、季節がなんとなく分かっていれば、まぁ及第点ではないだろうか?
*・゜゜・*:.。..。.:*・'
私が来てから、生活が苦しくなったようだった。
もともとから、この時代の農村はあまり裕福ではないはずなのだ。
税の負担から逃れるために、貴族に土地を進呈した農民だっている。
そんなところに私は来たのだ。
人数が増えれば、もちろん出費も増える。
いくら、そこそこ裕福な名の通った家だとしても、辛い事にかわりないはずだ。
しかし、私が何か畑仕事を手伝うと言えば、危ないから構わないとかえってくる。
だといって、何もしないのも居心地が悪い。
何か、私に手伝える事はないのだろうか・・・?
そう考えていたとき、お母様が織っていた布が目にとまった。
*・゜゜・*:.。..。.:*・'
「お母様、布を織っているのですか?」
撫子は突然話しかけた。
「ええ、納めなければならないから」
そんな突然の問いにも、しっかりと答えてくれる。
「余った布や、糸はありますか?使いたいのです」
「布は少ししかないけれど、糸なら沢山ある。そんなに危険な作業でもないから、私が使わない時は、自由に使うといい。布の織り方は分かるかい?」
「ええ、分かります。お母様が織るのをずっと見ていましたから」
まさか、あっさりと返事がもらえるとは思わず、少し撫子は驚いた。
しかし、そんな驚きに義母は気付かずに
「糸を作る作業は大変だし、危険であるから私がやろう」
どこまでも過保護な義母である。
それでも、布を織る許可は撫子を喜ばせた。
正直なところ、何もしないこの数か月間、暇で暇で仕方がなかったのだ。
「さてと、私はおじいさんの手伝いをしてくるよ。ついでに糸の材料もとってくる。今日はもう使わないから、自由に使うといい。ところで撫子、これから少しの時間、家に1人になるから気を付けるんだよ。お前は綺麗なんだから」
「大丈夫ですよ。心配のしすぎです。襲われたりなんかしませんから」
「それでも、気を付けるにこしたことはないよ」
義母はそう言うと、外へとでていった。
撫子は、義母が出ていくのを見送ると、座って布を織り始めた。
起用な撫子は、義母を遥に上回るスピードで布を織っていく。
撫子の周りには、早くも布の山ができていた。
*・゜゜・*:.。..。.:*・'