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平安霧花  作者: 西園寺 悠里
第三話
10/15

『出会い(1)』

 さて、桜も見頃になってきたこの時期。


 ―――――今日は花見見物である。


 *・゜゜・*:.。..。.:*・'


「さて、撫子。今日は花見にでも行くとしようかの」


 始まりは義父のその一言であった。


「それは良い。さぁ、撫子。この着物を着なさい」


 それに乗ってきたのは義母。

 私が以前織り、染めた布で作った着物を出してきたのである。

「もっと良い布で出来た着物を着させてやりたいんだけど悪いねぇ」

 義母はそう言って謝るのだ。

「いえ、お母様。お母様が作ってくださった着物を着られるだけで、私は幸せですから」


 この時代、農民が着れる布の種類など限られている。

 例えば、私たちの時代で着ていた着物。

 あれは主に絹織物である。

 しかしこの時代、絹織物は貴族の方々しか着用を許されていない。

 ちなみに、学校などでは平安時代の着物といえば十二単を学んだりするが、実際に一般人が着るのは所謂『小袖』と呼ばれるものである。


「撫子は此処に来てから、初めての花見じゃ。良い思い出を作らねばならん」

 そう意気込む義父。

「ほんになぁ。せっかくの美しい娘じゃ。そのまま閉じ込めるのはもったいのて」

 撫子が倒れていたのが農村で良かった、義母は小さく拳を握った。

 …この時代の人でもガッツポーズってとるんですね。それとも、無意識、かしら。

 兎にも角にも、私自身も落ちた先が農村で良かったとは思っている。

 

 ―――――もしも、貴族の方のお屋敷の近くにでも落ちていたら。

 私は元の時代では一応、読者モデルなんてしていた身である。―――つまり、そこそこ見られる顔ではあるということ、そこそこ綺麗と言われる部類の顔であるということだ。

 もし貴族の方に拾われていたら、私はあれよあれよという間に養女にされてしまい、政治の道具になっていたかもしれない。もちろん外には出れなかっただろうし、本名で呼んでもらうこともなかっただろう。

 平安時代とはそういう時代だ。

 女性である身は、圧倒的に社会に弱い。

 そういう意味では、私は幸福であったと言えるだろう。


 義父母が、何処かでタイミングを見計らって、私を貴族の養子にしたいと望んでいることは勿論分かっている。

 突如増えた一人の居候を養っていくことは想像以上に辛いはずだ。

 それ以上に、あの二人が私の幸せを願ってくれていることも理解している。

 

 そもそも。

 この時代、私の年であればおそらくはもう結婚しているはずである。

 それを何も言わずに自由にさせてくれているのだ。

 周りから、避難の目を向けられたこともあるのだろう。

 それでも、きっと私のことを庇ってくれているのだろう。


(ちゃんと、貴族の方の目に留まれるように上品に振舞ってきますから) 


 今回の花見見物か、秋の祭見物か。はたまた来年か。

 おそらくは、そう遠くないうちにきっとこの家を出る日が来る。

 貴族の養女として迎え入れられるか、はたまた妾扱いか。

 どうなるかはまだ分からない。

 それでも、間違いなくその日は来るだろう。

 根拠も何もないけれど、漠然とただそう感じている。


 だからそれまでは。


(もう少し自由にいさせてください)


 *・゜゜・*:.。..。.:*・'


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