密着・勇者伝説24時
前もって断っておきますが、これは夢と希望に満ちたファンタジー小説ではありません。というか、ファンタジーの要素は一切期待しないでください。
もしも、この話がテレビに流れるとしたら、時間帯は日曜朝でも、深夜でもなく、たぶん、昼ドラの時間帯なのだろうと思いますので。
話のジャンルは書いた本人にも不明なんですが、広義にエンターテイメントとして、皆さまの大らかな感性で読んでいただければ幸いです。
*はじめに*
諸君等は勇者Aを知っているだろうか?
そう。一年前に闇の大魔王を討ち果たし、見事に世界を救って見せたあの勇者Aである。
その勇者Aの旅に、私は、ジャーナリストとして密着してきた。
輝かしい勇者の活躍も、また、知られざる勇者の苦労も、そうした全てに私は同行し、間近で見聞きしてきた。勇者Aの旅は、決して平坦ではなく、また、決して巷で語られているような輝かしいものばかりではないのだ。
その全てを知っている私には、その全てを伝える義務があるのだと信じている。
私は、ここに、勇者Aの伝説を、勇者Aの真実を語ろうと思う。
*出会い*
私と勇者Aの出会いは、今から四年前のことだ。
その頃、私はとある王国の取材をしていた。
その王国では、突如王が豹変し、他の国々との交流を断絶。国民は悪政に苦しんでいるという話であった。私は噂の真偽を確かめるためにそこに潜入していたのだ。
王国は噂以上の惨憺たる状況で、まるで地獄のような状況だった。
王の暴走により、処刑者の数は日を追うごとに増えていく。
国民は覇気を失い、死んだ魚のような眼になって、家の中で怯えるだけの日々を送っていた。
城から吹く風は腐った血肉の香りが混じり、分厚い城壁を揺るがすほどの悲鳴が途切れることなく響いていたのである。
そんな国に…。
勇者Aは現れたのだ。
彼と、彼の引き連れている三人の仲間は、朝日を背にしながら国の土を踏む。
それは、正に希望の象徴のような、とても神々しい姿だった。
勇者Aは街の惨状を見て、すぐに、それが魔物の仕業であると見抜く。そして、近くの洞窟より手に入れた真実を照らす光の杖を使い、国王に化けていた魔物の正体を暴いて見せた。
正体を現した魔物は、それは巨大な竜の怪物であり、けれど、そんな怪物にも勇者Aと仲間達は一歩も怯みはしなかった。
勇者Aとその仲間達は強かった。
仲間の一人は戦士だ。彼は五十六歳と高齢ながら、数々の戦争に傭兵として参加し、多くの武勇伝と武功を残してきた男である。生涯を戦士一筋に送ってきており、職人気質な洗練されたメンタルと、屈強な肉体を持っていた。
二人目の仲間は武道家である。彼は十八歳と若いが、全ファンタジー界武術大会で三年連続優勝という偉業を成し遂げた人物である。立ち技、寝技、古流武術と、多くの体術に精通しており、
何と、四歳の頃には既に、独学で「か○はめ波」を撃っていたという伝説を持っていた。
更には、最後の三人目。彼は齢二十四にして、職業は遊び人だ。特技はナンパで、何と、一週間ごとに彼女が変わる。一時は百股をかけていたという話だが、最近は世界を救う旅があるため、浮気相手は一ケタで抑えているようである。勿論、ファンタジーの世界とはいえ、そういった人種に世間の評価は厳しい。けれど、それを物ともせずに遊び人の職を堂々と続けている彼は、ある意味、勇者以上に勇者たる逸材といえた。
そんな兵達である。
魔物との戦いは一昼夜に及ぶ壮絶なものだったが、勇者Aのパーティーは見事に魔物を打倒し、王国に平和を取り戻したのである。
そんな戦いを間近に見せられた私の魂は震えた。
勇者の戦い、それは私のジャーナリスト人生を懸けるに相応しいと直感した。
私は、すぐに、勇者Aの旅への同行を願い出た。すると、勇者Aは私の申し出を快諾し、その瞬間より、私は職業・ジャーナリストたる勇者Aパーティーの一員として、共に闇の大魔王の居城を目指すこととなったのである。
*転職*
勇者Aにまつわる印象的な事件は多くあるが、その中でも特筆すべき一つが、遊び人の転職についてだろう。
それは、旅の途中で訪れた、とある神殿での出来事だった。その神殿は転職のできる転職神殿として有名だったのだが、そこで、遊び人が、ついにその遊び人人生に終止符を打つと宣言したのである。
そして、遊び人は賢者となるため、神殿が定めている賢者検定試験に臨むこととなった。
そう、実は遊び人は、遊びながらも、影で賢者検定試験の勉強を重ねていたのだ。遊び人とは仮の姿で、彼は本当は賢者浪人という肩書だったのである。
結果として、遊び人は難関と呼ばれる賢者検定試験を突破。
見事に賢者として、旅を再開することとなった。
そして、パーティーは強化され、旅は幸先良く進んでいく…。
…はずだったのだが…。
実はその話には続きがある。
賢者となった遊び人だったが、喜びも束の間、賢者たる彼には、大いなる呪いが付きまとうこととなるのである。
遊び人が賢者としての再出発を果たして二日目のことである。
朝、宿屋を出ようとした賢者の靴の中に画鋲が仕込まれていた。
次の日は、賢者のためにと勇者Aが買ってくれた杖が修復不能なほどに折られていた。
その次の日は、道具袋に保管してあった賢者のマントに醤油がかけられ、台無しにされていた。
そうした奇妙な出来事が、毎日のように、続いたのである。
勇者Aは困惑した。
私も、また、困惑した。
そういえば、先日、悪魔系の魔物の巣窟に攻め入り、多くの悪魔系モンスターを退治したことがあった。今にして考えてみれば、それは、確かに呪いの振りかかりそうな事態である。また、大魔王が賢者の参入の話を聞きつけ、早々の対応として、呪いのスペシャリストを雇ったという可能性も考えられた。
とにかく、私は賢者に教会で呪いを解いてもらうことを薦めた。
賢者も私の意見に賛同し、彼は教会で呪い解除の御祈りを受けた。
しかし、それも効き目はなかった。
よほど強力なのか、御祈りの後も、呪いは続いたのである。
私は、「テメェ、この似非神父ッ!!テメェの御祈り、全く、効果出ねェじゃねぇかよッ!!オゥ、こりゃ詐欺だ。金返せ、馬鹿野郎ッ!!」と、悪質クレーマーさながらに、教会の神父に事態を相談してみた。すると、神父は「いや、御祈りっていっても万能じゃないんですからね。だいたい、はっきりした原因が解らないんじゃ、そりゃ、効き目も薄いですよ。」と、逆ギレ気味で答えてくれた。
結局、呪いの原因も解除方法も解らないまま、賢者の顔色は日々青ざめていった。
これには、勇者Aも頭を悩ませていたようだ。
そうして、賢者に呪いが振りかかって二週間が過ぎようとしたある日のこと。
私達、勇者Aのパーティーは、とある村の小さな宿屋に泊っていた。
安っぽい宿屋である。トイレや風呂は共同で、部屋はただ、ベッドが置いてあるだけだ。見れば壁もベニヤのような薄っぺらい板で、耳を澄ませば、隣の部屋の声やら、生活音やらが丸聞こえであった。
さっさと寝てしまおうと、私は早々と消灯して布団に入っていた。
すると…。
隣の部屋から、何やら会話する声が聞こえてきたのである。
隣は戦士の部屋だ。会話をしているのは、どうやら、戦士と武道家のようだった。
何事だと、私は耳をそばだてた。
・・・・・・・・・・・・。
「いやぁ、戦士さん、この作戦は大成功ですねぇ。」
「おぅ。予想以上に効果あったな。」
「はい。あの遊び人、いや、賢者の野郎、もう、だいぶ参ってますよ。」
「まぁな。っつうか、テメェのイジメがえげつねェんだよ。ったく、武道家ァ、オメェも、悪いヤツだな。」
「いやいや、まぁ、自分も、昔、ちょっとは悪かったんで、まぁ、その時の名残ですわ。…まぁ、確かに、少し、やりすぎてますけどね。」
「いや、やりすぎくらいで良いよ。っつうか、あの賢者、元遊び人のくせに、ホント、最近調子に乗りすぎだからよぅ。見てるだけでも、ホント、頭にくんだわ。」
「いや、それはあります。いや、ホント、苦労知らずのボンボンはムカつくッスよ。」
「だよなぁ。こちとら、中学卒業してから戦士一筋よ。勇者のパーティーまで昇り詰めるのに、そりゃ、苦労したんだよ。」
「解ります。俺も、小さい頃から、スゲー武術鍛錬しましたから。」
「だよなぁ。それが、アイツはどうよ。さんざん遊んで、急に、賢者かよ。ふざけんなっての。検定試験だぁ?キャリア組だか何だか、知らねェがよ。毎度毎度、楽そうに呪文唱えてんじゃねぇっつう話だ。」
「いやぁ、解りますよ。」
「あぁ、何か、アイツの話してたら、また、苛ついてきた。ちくしょうッ!!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。…あぁ、そうだ。戦士さん、ビール飲みます?」
「ビール?…まぁ、あるなら飲むよ。けど、どうしたんだよ、ビールなんて?」
「いや、さっき賢者が風呂入っている隙に、ヤツの部屋物色してたら、まぁ、その戦利品です。たぶん、アイツ、ストレス解消用に買っといたんじゃないッスか。」
「うわぁ、オメェ、泥棒じゃん。っつうか、武道家やめて盗賊に転職したらどうよ?」
「ああ、それ良いッスね。」
「ったく、…けど、勇者にはバレんなよ。後で煩ぇからよ。」
「はい。そこは上手くやりますよ。…あっ、ビールどうぞ。」
「おぅ、悪ぃな。」
・・・・・・・・・・・・。
私は…。
もう、途中から聞こえないふりをして蒲団を被ってしまっていた。
思えば、戦士の部屋の向こう隣りは賢者の部屋だったはずだ。
ならば、私がこうして戦士と武道家の会話を聞いているのと同じように、きっと…。
考えないようにした。
ああ、私は勇者ではないので、勇気がないのだ。
次の日…。
朝、宿屋の前に集合した私達の中に、賢者の姿はなかった。
勇者Aに賢者の行方を尋ねてみたところ…。
「ああ。…彼は転職したよ。」と、彼はどこか痛々しいものと接する態度で、乾いた笑いを見せていた。
「転職?」
「ああ。彼は賢者から廃人になったんだ。」
「…は?…ハイジン?…えぇと、…俳人ってコトですか?」
「うぅん。俳句作る人じゃなくて、ネジの飛んじゃった人の方だねェ。特技は引き籠りと妄想と現実逃避だそうだ。レベルアップすれば、妖精さん達を召喚して、会話ができるらしいよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「…まぁ、だから、今後、彼は同行することは出来ないんだけれど、まぁ、彼はずっと僕等の心の中で、旅を続けてくれると思うから…。」
会話の間、勇者Aは、ずっと、遠くの空を見つめていた。
ちなみに、戦士は二日酔いのため寝坊。
武道家は「ねぇねぇ、勇者ぁ。賢者の代わりは、若くて可愛い女の遊び人が良いんだけど。」とか、そんなことを言っていた。
この時、「俺も転職したい。」と、勇者Aが、その言葉を必死の勇気で口にしなかったのだということを、私は後から聞いた。
*結婚*
勇者Aが旅の途中で結婚したという事実を知らぬ者はいないだろう。
そのニュースは、闇の大魔王の被害を受けて暗い話題ばかりだった世界を、一気に明るく変えたものである。
世界中の誰もが、過酷な旅を続ける勇者Aに祝福の言葉を贈ったものである。
これから語るのは、その勇者Aの結婚の全てだ。
全ては、私達が、とある王国を訪れたことに始まる。
その国は、とても栄えていて、カジノを備えた賑やかな城下町と、そして、美しい姫君がいるということで有名な国だった。
そんな噂のあった国だったもので、私達は期待を胸に、その国へと向かった。
武道家などは、「カジノで息抜きだ。」などと、意気込んでいたし、普段は無骨で愛想のない戦士の足取りも、その時ばかりは軽快だった。
また、その時には元賢者で現廃人となった彼の代わりの仲間である女遊び人(三十四歳・バツイチ)も旅の一行に加わっていたから、旅路の楽しさは一際だったものである。
けれど…。
城門を潜った我々は、その国の光景に、目を疑った。
噂とは全く違った、とても陰惨とした雰囲気の漂う国の姿が、そこに広がっていたからである。
街ゆく人々に活気はなく、皆が死んだ眼をしていた。国が死んでいた。
それまで浮かれていた勇者Aの眼に、勇気の灯が点る。
この国を救わねばならない。
我々は、事態を詳しく確認するため、国王と話をすることにした。
まずは城を尋ねて、衛兵に我々が勇者Aの一行であることを伝えた。
すると、流石は風評に名高い勇者Aである。我々は、すぐに、王座の間に通され、国王に謁見することとなった。
豪華な王座の間で、国王と噂の姫君が出迎えてくれた。
見れば、噂通りに美しい姫であったが、しかし、彼女の顔にも、また、憂いの色が浮かんでいた。
姫君は、美しい顔を悲しそうに歪めながら、国王の隣に座していたのである。
聞けば…。
数日前に、使い魔が一匹、魔王軍の将軍よりの伝言を持ってきたということで、その内容は「姫を嫁によこせ。断れば我等の軍勢が王国を滅ぼす。」と、そういったものであったようだ。
国王は魔物の脅しに屈するか、それとも、脅しに負けずに抗戦するかの選択に迫られていたのである。
「勇者様。どうか、お助けください。」と、美しい瞳に涙を溜めながら、姫君が懇願していた。
どうやら、その瞬間、勇者Aは姫君に恋をしたようである。
「この勇者Aに、全て、お任せくださいッ!!」と、気合の籠った返事で、勇者Aは勢い良く拳を天に突き上げたのである。
勇者の気合は天をも揺らす。
姫君からの願いを受けて、勇者Aは城を飛び出した。
勇者Aは荒野を駈けた。
追っていく我々の追随すら許さぬままに、神速の足で、勇者Aは駈けた。
目指す先は、魔王軍の将軍が構える暗黒要塞である。
そして、単身、魔王の一軍勢に戦いを挑んだのである。
我々が暗黒要塞に辿り着いてみれば、既に、魔王の軍勢も、将軍も、勇者Aが倒してしまった後だったのである。
勇者Aの恋心、恐るべしだ。
そうして救われた国王は、勇者Aに酷く惚れ込んだようだ。
「勇者Aよ。私は、姫君の婿にするなら、オマエを置いて他にはいないだろうと思うのだ。どうか、勇者よ。姫の婿になってはもらえぬだろうか。」
国王は頭を下げて、勇者に頼み込んだのである。
その隣に構える姫君はと言うと、彼女は顔を赤らめながら、うっとりとした眼差しを勇者Aにむけているではないか。
「不肖ながら、そのお話。謹んで、お受けいたします。」と、実に堂々と勇者Aは答えた。
どうやら、勇者Aと姫君の結婚がここに成立したのである。
私は、心から勇者Aを祝福して、精一杯の拍手を彼等に贈ったのだ。
後日、勇者と姫君は新婚旅行に出た。
ペガサスに跨っての、一週間かけての、世界一周旅行だそうだ。流石は今をときめく勇者と、一国の姫君の新婚旅行である。ペガサスは、まるで二人の幸せな心地を象徴するかのように、高く、高く、優雅に空へと飛び立っていったのである。
そして…。
新婚旅行から帰ってきた二人は、その場で離婚した。
「…何があったんだ?」と、当然のように私は勇者Aに尋ねた。
「今は、何も話したくねぇッ!!!!」と、勇者Aは答えた。
言葉を投げ捨てるかのような口調である。
勇者Aは酷く憤慨していた。
彼の顔を一目見れば、いつ自爆呪文を唱えてもおかしくはないような彼の心情が、手に取るように伝わってきていた。
「…何なんだ?」と、答えぬ勇者に代わって、私は武道家に尋ねた。
「ああ。旅先で喧嘩したらしいッスよ。」と、半ば呆れながらに武道家は答えた。
武道家は、ジャーナリストである私よりも耳聡い男なのだ。
彼は武芸百般の他に、ゴシップの特技を持っているのである。
「喧嘩?…何が原因で?」
「よくある痴話喧嘩ッス。」
「どういうこと?」
「いや、旅先で、あのお姫様、勇者の予約した宿屋が古臭いから、もっと良いホテルに変えろだとか、ちょっとの距離も歩きたくないから、馬車侵入禁止の標識が出てる道でも、構わないから馬車を走らせろとか、そういうことを言いまくったらしいッス。」
「…ああ…。」
「一応、最初は、勇者も我慢してたみたいですけどね。でも、一週間も我慢するのは無理でしょ。だって、勇者って、そういうモラル的な部分、すごい気にするから。…ほら、しかも、一度怒りだすと、あの人、もう、鬼になっちゃうでしょ。…勇者Aは、俺等といると、まぁ、リーダーとしての責任もあるんでしょうけど、一応、大らかで、心広いんスけどねェ。それって、色々と無理してんスよねェ。プライベートになると、実は、心狭いってので、まぁ、有名な話ッス。」
「確かに。」
「そしたら、今度はお姫様が…。まぁ、お姫様だけに、今まで、怒られたことかなかったんじゃないスか。泣き出すわ、暴れ出すわで大変だったらしいッスよ。それで、まぁ、勇者としても、お姫様としても一緒に居ることに疲れ切っちゃって…。」
「まぁ、当然だな。」
「でしょ。そんな精神状態で、勇者と一緒にペガサスなんて乗っちゃったら、もう、終わりですよ。」
「ん?何で、ペガサスで終わりなんだ?」
「やだなぁ、解らないんスか。ペガサスに乗る時って、女の子の方は、こう、後ろから男に抱きつく格好になるわけでしょ。」
そう言いながら、武道家が腰に手をまわしてしがみつく格好を真似て見せる。
鼻をヒクヒクとさせながら…。
それを見て…。
「…ああ、そう言えば、勇者Aって、重度のワキガだもんな。」と、私は大いに納得した。
うん、うんと、武道家は頷いていた。
別れの台詞を告げたのは姫君の方で、それは、「臭い人は嫌いです。まだ、クーリング・オフできますよね。」だったそうである。
数日後…。
「俺、今度、女遊び人(三十四歳・バツイチ)と結婚することにしたからさ。」
ふと、勇者Aが、私達に向かって、そう言った。
私達は、彼の仲間として「おめでとう」と、それ以外の言葉を彼にかけることはなかった。
傷心から、そして伝説へ…。
姫君に振られてから、その後、勇者Aと女遊び人(三十四歳・バツイチ)に何があったのかは、情報通の武道家含め、誰も知らないし、誰も知ろうとしない。
ともかく、勇者Aは結婚して家庭を持つこととなり…。
それによって、旅は、朝九時から夕方六時までの定時体制(勇者Aは瞬間移動呪文で通勤することとなったのだが、)へと変化した。また、勇者Aは旅路を進んでいくことよりも、モンスターを倒して金を稼ぐことに執心(ちなみに、どれだけモンスターを倒しても勇者Aが手にするのは一日五百ゴールドのお小遣いだけだったようだが)するようになった。
これが、勇者Aの結婚(再婚)の全てである。
*そして伝説へ…*
そして、結末を語ろう。
長い旅の果て…。
勇者Aは、闇の大魔王の居城に乗り込み、そして、見事に、世界に平和を齎した。
そこに至るまでの苦労は、とても多かった。
けれど、勇者Aは常に勇者であり続けていた。
あれから一年…。
勇者Aがどうしているのかを知る者は、今や、誰一人としていない。
伝説だけが多くある。
ある者は、「彼は家庭裁判所で離婚調停の真っ最中なのだ。戦いは続いているんだ。大魔王よりも恐るべき真のラスボスは、実は、彼の嫁だったのだ。」と言う。
また、ある者は、「いやいや、家庭を顧みることなく、今更ながらも、例の美しい姫君(前妻)のストーカー行為に夢中なのだ。確かに、ストーカーは犯罪だが、彼は勇者であるから、法律なんてものは恐れるには足らないのだよ。」と言う。
更に、ある者は、「えっ?勇者Aなら、元賢者である廃人と一緒に、川のほとりに段ボールハウスを造って住んでいるのを見かけたよ。ついでに言えば、廃業した大魔王も一緒だったなぁ。いや、僕なんかにしてみれば、あれは、なかなか悲惨そうな状況なのに、それでも、彼は楽しそうだったぞ。流石は勇者だよねぇ。」などと言う。
その真偽は解らない。
けれど、どれも彼ならば、然も有りなんという伝説ばかりだ。
彼は只者ではない。
彼こそが勇者だ。
誰にも負けない勇気を備えた彼ならば、巷に流れる伝説の全てを実行してくれるのではないかと思うほどである。
勇気とは、どんな状況であっても、恐れずに、一歩を踏み出せる力のことなのだ。
(了)
初投稿で、失礼します。
matymatxです。
さて、「密着・勇者伝説24時」、いかがでしたでしょうか?
前書きでも述べましたが、ジャンルは不明のお話です。(表示は一応の広義での「文学」としてますが・・・。)
試し読みを頼んだ友人が曰く、「ファンタジーを舞台にした現実風刺」だそうです。
それを聞いて初めて、作者は「ああ、そういうカテゴリになるんだ」と思いました。
作者としては、ゲームやファンタジーに触れたりプレイしたりは大好きで、けれど、それを自分の文章にしてみたらば、酷い事になってしまいました。
純粋なファンタジーを期待して読んだ人がいたら、本当に、すみません。
まぁ、ただ、作者は書きたいように書いたので、完璧とはいかないまでも、満足はあります。ただし、「これは風刺である」だとか、この小説の価値を私が決めるつもりはありません。
小説を読む意義は人それぞれだと思いますが、この小説が、様々な形で皆様にとっての「小説」として受け取ってもらえれば幸いです。
などと・・・。
半ば偉そうに色々言ってしまいました。
すみません。
と、そんな感じの小説です。
最初にも述べましたが、投稿は初ということで・・・。
作法やルール等、もし、何かしらの失礼があれば、誤ります。
小説を読んでいただきたいという一心です。
こんな作者と小説ですが、皆様、どうぞ、よろしくお願いします。