忘れられた門
レンジロウは、周囲の景色がもはや見覚えのないものになった時、自分が正しい場所にたどり着いたことを悟った。
矛盾しているように聞こえるかもしれない。
しかし、理にかなっていた。
ヴィーナス・プロトコルを実行するたびに、エーテル・スカーのこの一帯は常に混乱を招いていた。
明確な道筋はなかった。
目印となるような大きな建造物もなかった。
あるのは廃墟だけだった。
沼地。
パイプ。
機械の残骸。
そして、至る所に漂う有毒な霧。
レンジロウは錆びた足場の上にじっと立っていた。
マスクの下でゆっくりと呼吸を整えた。
目の前には、広大な窪地へと続く地形が広がっていた。
「ここだ…」
確信していた。
彼は下層階に到達した。
そのどこかに施設がある。
そして、その内部には…
ヴィーナスが。
彼は慎重に降りていった。間に合わせの金属棒は、体重をかける前にそれぞれの表面を確認するための道具だった。
一歩。
よし。
もう一歩。
よし。
彼は急いでいなかった。
急がば回れ。
特にあそこでは。
ようやく底に着くと、まず最初にフィルターを確認した。
小さな印がその状態を示していた。
半分以下しか入っていない。
「最悪だ。」
フィルターはあと一つしか残っていない。
下層部は黄色い霧に覆われていた。
それほど濃くはなかった。
それが余計に厄介だった。
自分がそこにいることを忘れてしまいそうだった。
レンジロウはそれが何を意味するか知っていた。
毒だ。
ビデオゲームでは、ゲージがゆっくりと上昇していく。
ここでは、警告してくれるインターフェースはない。
彼は自分の体の状態を注意深く観察しなければならなかった。
頭痛。
めまい。
吐き気。
息切れ。
方向感覚の喪失。
これらの兆候はどれも危険を意味する。
「ゆっくりだ。」
彼は歩き始めた。
それからわずか10分後、最初の敵に遭遇した。
マッドストーカーだ。
その生物はパイプの陰から現れた。
レンジロウは発砲しなかった。
金属棒がそいつの頭に叩きつけられた。
ドスン!
生物は倒れた。
2発目。
これで終わりだ。
レンジロウは歩き続けた。
すると、もう一匹が現れた。
さらにまた。
3匹目が彼に追いついた。
爪が彼の脇腹を切り裂いた。
「うっ!」
レンジロウは後ずさりした。
痛み。
深い痛みではない。
しかし、確かに痛みがあった。
彼は両手で金属棒を握りしめた。
マッドストーカーは再び襲いかかってきた。
レンジロウは振り向いた。
彼は身をかわした。
彼はその片足を攻撃した。
その生物はバランスを崩した。
レンジロウはあっという間に戦いを終わらせた。
それから彼はその脇腹に手を置いた。
手を離すと、血が滲んでいた。
「完璧だ。」
彼は建物の陰に腰を下ろした。
救急箱を取り出した。
傷口を洗浄した。
消毒した。
包帯を巻いた。
大したことはなさそうだ。
しかし、それは積み重なっていくものだった。
それが本当の問題だった。
小さな傷が一つ。
そしてまた一つ。
それから疲労。
それから脱水症状。
そしてミス。
そして最終的に、個々には取るに足らないように見える一連の問題が連鎖し、誰かが命を落とす。
マサトは以前にも同じような光景を見ていた。
「調子に乗るな。」
彼は救急箱を片付けた。
彼は立ち上がった。
次の1時間はさらに悪かった。
巨大な怪物はいなかった。
それならもっと楽だっただろう。
小さな問題が次々と発生した。
絶え間なく。
略奪者。
ストーカー。
壁から現れる奇形の虫。
レンジロウが何としても避けようと決めた、巨大なヒルに似た生物。
2度も身を隠さなければならなかった。
一度は、何かが廃墟の中を歩き回る間、10分近くも身動き一つしなかった。
ドーン。
ドーン。
ドーン。
彼はそれが何なのか確かめようとはしなかった。
知る必要もなかった。
これもまた生き残るための手段だった。
すべての敵に名前をつける必要はない。
ましてや戦う必要などない。
しかし、すべての遭遇を避けることはできなかった。
略奪者の1人が高い建造物から落ちてきた。
レンジロウはかろうじて腕を上げることができた。
爪が袖を突き破った。
「ちくしょう!」
彼は肘で攻撃した。
怪物は後ずさりした。
もう一体が背後に現れた。
恋次郎は拳銃を抜いた。
バン!
一発目。
怪物は回転した。
バン!
二発目。
三発目は横から来た。
速すぎる。
恋次郎は鉄棒で防いだ。
怪物は彼にぶつかった。
二人とも倒れた。
恋次郎は背中に衝撃を感じた。
息が詰まる。
「うっ!」
怪物は彼に噛みつこうとした。
恋次郎は鉄棒で怪物の首を掴んだ。
彼は押し込んだ。
腕が震えた。
疲労が彼を襲い始めた。
「来い…」
顎が近づいてきた。
恋次郎は角度を変えた。
彼は片足を使った。
彼は押した。
怪物は横に倒れた。
ナイフ。
一撃。
終わった。
恋次郎は数秒間横たわっていた。
呼吸をしていた。
黄色い霧が彼の頭上に漂っていた。
そして彼は自分がどこにいるのかを思い出した。
「しまった。」
彼はすぐに立ち上がった。
ただそこで呼吸しているだけではいられなかった。
比較的開けた場所を見つけると、彼は立ち止まった。
彼は傷を確認した。
蜘蛛腕に痣。
背中に打撃。
脇腹に傷。
致命傷ではない。
しかし、痛かった。
そして、疲れていた。
ひどく疲れていた。
恋次郎は水筒を取り出した。
振ってみた。
ほとんど残っていなかった。
水面を見つめた。
昔の訓練で、水を節約すべきだと教えられていた。
体は水分補給を求めていた。
どちらも正しかった。
少しずつ、数口飲んだ。
ゆっくりと。
水は驚くほど美味しかった。
恋次郎は数秒間目を閉じた。
「手術の時に恋しかったのは、まさにこれだ…」
水筒をしまった。
「水がどんな高級酒よりも美味しいってことを知った時…」
5分間休んだ。
たった5分。
そして、彼は続けた。
施設はすぐ近くにあるはずだ。
レンジロウは、見覚えのある構造物に気づき始めた。
巨大な壊れたパイプ。
傾いた二本の柱。
水没した産業機械の残骸。
「ああ…」
彼はそこにいた。
マサトとして。
プレイヤーとして。
彼は画面を覚えていた。
前進するキャラクター。
BGM。
インジケーター。
隅にあるアクティブなサイドミッション。
すべてがなんて単純なことだったのだろう。
今、レンジロウは膝まで泥に浸かっていた。
片方の袖には乾いた血痕。
背中が痛む。
使い古したフィルター。
弾薬は残りわずか。
そして、おそらく彼はこれまで遭遇した多くの生物よりもひどい臭いを放っていただろう。
「究極の体験だ。」
彼は歩みを続けた。
彼は道の分岐点にたどり着いた。
左。
右。
レンジロウは立ち止まった。
「あれは…」
彼は思い出そうとした。
数年が経っていた。
あの試合中、彼はセラフィーンのリアクターをアップグレードするための特別な部品を探していた。
彼は中に入った。
向きを変えて…
「右だ。」
彼は前進した。
5分後、彼は壁にぶつかった。
「ちくしょう。」
彼は振り返った。
「左だ。」
ゲームには限界があることを知っていても。
霧が濃くなり始めた。
レンジロウはフィルターを交換しなければならなかった。
彼は最初のフィルターを取り外した。
彼はそれを保管した。
彼は2つ目のフィルターを取り付けた。
カチッ。
彼は息を吐いた。
少しはましだ。
しかし、もう予備はない。
「ここからは、一刻も無駄にできない。」
彼は少し加速した。
あまり加速しすぎないように。
その時、彼は何かを見つけた。
廃墟の中に、長方形の構造物があった。
恋次郎は立ち止まった。
心臓が激しく鼓動し始めた。
「まさか…」
彼は近づいた。
ランプの光が金属の表面を照らした。
ほとんど消えかかっている記号が残っていた。
壁。
そしてまた壁。
そしてついに…
扉。
巨大な。
暗い。
根や瓦礫に覆われている。
恋次郎は身動き一つしなかった。
彼はそれを見覚えがあった。
彼はかつてその前に立っていた。
何年も前のことだ。
スクリーンの前に座っていた。
彼はその夜、何を考えていたかさえ覚えていた。
ここには何があるのだろう?
彼はただの好奇心から足を踏み入れた。
この場所が、自分が決して解き明かすことのできない最後の秘密と繋がっているとは、想像もしていなかった。
恋次郎はゆっくりと近づいた。
手袋をはめた手で金属の表面をなぞった。
「ついに…」
彼はたどり着いた。
しかし、彼はすぐには開けなかった。
長年の習慣はなかなか抜けないものだ。
まず、彼は周囲を警戒した。
周囲を確認した。
何もない。
耳を澄ませた。
静寂。
武器を確認した。
弾倉を抜いた。
弾はわずかしか残っていない。
弾倉を再び装填した。
カチッ。
ピストル。
まだ弾が残っていた。
ナイフ。
救急箱。
水。
レンジロウは再び水筒を取り出した。
水筒を見つめた。
3分の1ほど残っていた。
彼は二口ほど水を飲んだ。
今度は、飲み込む前に数秒間口の中に水を含んだ。
それから水筒を閉じた。
あの扉の向こうに何があるのか、彼には分からなかった。
もしかしたら金星かもしれない。
もしかしたら、また別の奇妙な謎かけかもしれない。
おそらく、マサトがまだ知らなかった何かだろう。
しかし、中に入る前に、彼は少し体力を回復する必要があった。
彼は壁際に腰を下ろした。
頭を休めた。
傷跡に入って以来、初めて、彼は体を休ませた。
ほんの数分だけ。
彼の両手はかすかに震えていた。
恐怖からではない。
疲労から。
レンジロウはそれを見ていた。
「悪くないな。」
彼は、はるかに強力な人物のために設計された領域を突破したのだ。
強力な魔法も使わずに。
エーテルフレームも使わずに。
基本的な装備だけで。
彼は記憶と経験、そしてかなりの幸運のおかげで生き延びた。
しかし、まだ終わっていなかった。
この狂気の真の理由は、その向こう側にあるからだ。
レンジロウは顔を上げた。
目の前に巨大な扉がそびえ立っていた。
彼は初めてその扉に遭遇した時のことを思い出した。
彼は中に入った時のことを覚えていた。
あの奇妙な機械のことも覚えていた。
そして何よりも…
あの謎かけのことも覚えていた。
彼はその答えを見つけられなかった。
そもそも、その問いの意味さえ理解できていなかった。
マサトは思った。
「後でまた来よう」
レンジロウは微笑んだ。
「一生かかったよ…」
彼は立ち上がった。
ライフルを手に取った。
バックパックを背負った。
そして、ドアに手を置いた。
「だが、戻ってきた」
彼は記憶にあるあの装置を探した。
そこにあった。
埃まみれだった。
レンジロウは表面を拭いた。
数秒間、何も起こらなかった。
そして…
ピーッ。
小さな光が現れた。
レンジロウは息を呑んだ。
補助システム作動
地面が振動した。構造物から埃が舞い落ちた。
何年ぶりか分からないほどの長い年月を経て、巨大な扉が動き出した。
蓮次郎は一歩後ずさった。
二枚の金属板の間に、狭い隙間が現れた。
冷たい空気が内部から流れ込んできた。
清々しい。
傷跡の悪臭とは全く違う。
恋次郎はライフルをしっかりと握りしめた。
ついに到着した。
あの地獄を通り抜けて…
彼はついに、あの謎の機械を見つけた場所の前に立っていた。
ヴィーナスは向こう側にあった。
第7章 終わり
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