おふくろの味は生姜醤油の⋯⋯
私は偏食な上に、食べる事が面倒くさい。
『おふくろの味』と言えば、よく肉じゃがだのなんだの、もしくはそれぞれの母親が作ってくれた料理があがるのだろう。
だが私は幼い頃から好き嫌いが多い上に、母と食の好みが違いすぎた。
大抵カレーを作れば子供は喜んだであろうが、私はそこに入っているジャガイモ以外の野菜が嫌いだった。
ジャガイモですら大きすぎて嫌だった。とにかく具が大きかった。
人参と玉ねぎの嫌いな私には拷問だった。
給食のみじん切りかと言わんばかりに小さく切られたカレーの方が好きだった。
後に玉ねぎは食べるとお腹を壊す事がわかった。
そして何より油っぽいものが嫌いだった。
特に天ぷら。
母は「ジュワッとくる油が甘くて大好き」と言っていた。
いやいやいや、それが嫌なんだってば。
かぼちゃとさつまいもしか食べられなかった。
おせちは何を食べていいやら分からなかった。
煮物も嫌いだった。具は大きいし、醤油味があまり好きでなかった。
昆布巻などは、具材どれもこれもが苦手。
甘い卵焼きが嫌いなので伊達巻も嫌い。
佃煮も嫌い。
母の作る栗きんとんと、あんこは甘すぎた。
あげたらキリがない。
そんな私は上京して一人暮らしを始めて、ようやく自分の好きに食事を採ることが出来た。
と、言う事はさぞかし自分好みの食事を作っただろうと思われるだろうが、殆どスーパーかコンビニの弁当で済ませた。
いや、それはまだ良いほうだ。
食に執着がないので、食べるという行為すら面倒だった。
お腹が空くので渋々食べた。
朝はシリアルとカップスープ。
昼はコンビニのサンドイッチとおにぎりとヨーグルト。
夜は弁当。
平日はほぼ同じメニュー。
休日は朝ごはん抜き、昼はキットカットかミルキーウェイ。夜は弁当。
不健康まっしぐらである。
しかもタバコを吸っていた。
とはいえ、日に5本程度。一箱空ける頃にはメンソールが飛んでいた。
印刷会社の朝礼では貧血を起こし、飲み会後の電車で貧血を起こし、友達とネズミの国に行けば貧血を起こした。
そんな私だが、物好きな奴もいて結婚する事ができた。
が、その相手の男は私より10センチ背が高いくせに、指輪のサイズと手の大きさ、体重が同じの極細であった。
私は男に間違われたが、相手は女に間違われた。
そして、私と同じ様に偏食で食べる事が面倒だと思う男であった。
自律神経が弱く、「貧血は倒れたほうが楽」などと同意し合える様な不健康さ。
負の連鎖。
⋯⋯と、思われたがさすがにこれ以上痩せさせては相手の両親に申し訳ないので、料理をする事にした。
実家では家事を手伝っていたので、まったく料理が出来ないというわけではなかった。
ベシャメルソースを自分で作れるくらいには。基準になるかどうかわからないが。
夫は寛解したが病気も発覚したので、それ用に献立も考えた。
おかげで少しは食事がマシになった。
お菓子もパンも作れるようにはなった。
だが、相変わらず料理を作るのは面倒だ。隙あらばサボりたい。
自分以外が作ったご飯が食べたい。
そんなやる気のない私には、女神の様な存在がいらっしゃる。
義母、夫の母だ。
おもてなし好きで、料理好き。
特に芋煮が美味しい。
いまだにニッコニコでご馳走になっている。
実家を出て30年あまり。
おふくろの味を何一つ思い出せなかったが、先日やっと判明した。
『生姜醤油の焼きおにぎり』
これだけは好きだった。
もう自分で作る以外ないのだが、面倒なのでやらないと思う。




