番外編 妖精申告
ちょっとだけ変なものが書けました、詳しくは考えなきよう。好奇心は猫のほかにも殺します。妖精はどうかな。生物か、あれ。よく考えたらこの話もちょいダークだけど仕事関連だな。
昨年末想像外の(予定外どころではない)収入が生じてしまっていたことが判明したため、この時期に我ながら更に想定外の場所の来ることになってしまった。来ること及びその場にある事は別に不慣れとかいうことはないが、まさか僕が再びここに来る羽目になろうとだけは思ってもいなかったのだ。気恥ずかしさもあり、妖精たちは家に置いてきた。ミイナは大変不満そうではあったが、戌がいる場所だと脅かしたゆえか引き下がってくれた。まあ、いぬがいる場所であることに間違いはない。内情を知らない者にとってはまあ、そのように思えることであろう。それは理解している。だが、別に他者が思うような政府の犬、という立場ではないのだけど。それよりは・・・まあ、門を入った所で膝を震わせてうだうだ思い悩んでいるのも別の客の邪魔だな。意を決して玄関に進むのも・・・面倒だな、今日は日が悪いから帰ろうかな。
ミイナ「うん、無理しなくてもいいよ。今日は帰ろう。」
シイナ「何甘やかしてるのよ。せっかくここまで来たんだから、どついてでも中に入れるのが妖精さんとしての役割でしょうが。」
何故か、置いて来たはずの悪夢が耳元で騒いでいるのが、聞こえる⁇
そう言えば出がけに肩から下げてきたバッグが不自然に盛り上がっているような。恐る恐る開けてみると、妖魔がいた。慌ててバッグを閉じると、すぐさま不満げな声が聞こえる。
ミイナ「何するのよう。ア・ナ・タ。酷いよう。」
シイナ「あんた一人じゃ心許ないから付いてきてあげたんじゃない。邪魔者扱いは良くないわよ。」
いや、実際邪魔なんだが。と言うより心臓に悪い。とはいえこれだけ妖精どもが騒いでいても、誰も気にする人はいない。その点は安心かな。ともかく僕自身が不審人物扱いを受けないためにも、さっさと中に入ってしまおう。
税務署の中に入って受付で順番待ちのチケットを受け取る。順番が来るまでは待合コーナーで一人座り、ただ待つ。普通の人と違うのは何が行われるか解っている事。今回ばかりは緊張する。自分が何か悪事でも働いている気分だ。何と言っても自分が稼いだお金ではない。妖精どもが用立てたお金だ。とはいえ、そのままなら誰が申告できるお金でもない。ただし僕は関わってしまった。強制的に関わらされたと言うのが正解か。あいつら、勝手に僕の口座を使いやがって。面倒この上ないが、一応僕には勝算があったのだ。勝算とはちょいと違うか。正しい理解と知識があったと言うべきか。売り上げは昨年末までの合計で、年間100万円ちょい。経費は領収書等がいただけるものでもない(相手が動物じゃあね。現物支給だし。)。領収書がなければだいたいで計上して良い道理はない。ではどう考えるか。申告というものは、もしそれが営業、この場合は農業所得と言われるものであるが、1月から12月までの収入からその年に支出した経費(掛け払い等時期がずれることはあるけれど)、その他自動車等減価償却が必要な資産を購入した場合はまた別口の計上方法で計算を行って収入から差し引く。その残額が所得控除と言われる金額を上回っていれば、その差引金額に対して課税される。それがいくらかは金額次第という事だが、ここからが解りづらい所があると思う人が大半なのだ。例えば僕の場合、元公務員でおととしの12月に退職している。退職理由はどうあれ、もしも今回申告するのが一昨年の収入であるのなら、計算は面倒だったかもしれない。でも去年の分の申告であれば、去年の収入から去年の必要経費を差っ引いて残りが去年の所得控除金額を上回らなければ、所得税を払う必要はない。具体的に言えば、例えば収入から差し引ける必要経費が無かったとしても、僕の今年の所得控除金額を超えなければ税金はかからないという事だ。僕の今年の所得控除金額としては、まず社会保険料控除。これは前職退職時に2年間割賦で払う事を選択し、実際に昨年、52万円ほどを支払っている。それが差し引ける。また、生命保険料を控除最大額、丁度10万円分差し引ける金額ほど支払っており保険会社からの証明書も持参した。それに基礎控除が38万円分。それだけで仮に農業にかかる必要経費が無くとも収入100万円なら所得税の対象外なのだ。では何故申告に来たのかと言うと、道の駅の方には迷惑はかけられないという事と、消費税が今イチ解らなかったからだ。元プロとしては少々情けない。ついでに事業税の仕組みも聞けたらなあと思う所もあった。これは管轄外(事業税は県税です)だけど。まあそんなところで多少の不安も無くは無かったが申告相談に来た次第である。とりあえず収支内訳書と申告書は書いてきたので、出していくだけでも良いのだが、以上のような理由で聞きたいことがあったため、敷居は高い(考えすぎか)が地元を管轄する税務署まで足を運んだのだ。先ほどまで騒いでいた妖精たちも今は大人しく・・・してはいないな。普通の人には見えないのをいいことに何か色々な客の前でファイティング・ポーズをとっている。何が楽しいのかなと思っているうちに受付の番号が呼ばれたので、相談会場に向かうことにした。妖精どもは・・・黙っていても問題ないだろう、多分。どうせ見えないし。
さて、妖精どもを無視して、税務署の敷地内、駐車場の半分ほどを潰して増設されたプレハブが申告会場である。毎度思うのだが立て付けは悪いうえに玄関の外にあるために行きかえり寒い。暖房だって石油ストーブで、エコでない事この上ない。もっとも本庁舎の冷暖房だって、ここの署の場合、もう30年以上前に建てられた建築物用のものをやむを得ず使用しているのである。しかも職員の休憩スペースも確保されている訳では無い。会議室等の広いスペースは折り畳み式のテーブルを広げて、上は提出された申告書の山と化している。規模が大きい税務署ならば玄関口付近は広いオープンスペースで、見た目の良い観葉植物でも置いて来庁者及び偉い方向けのポーズを取ってはいるが、内情は違う。例えばそんな場所で昼食をとっているような職員がいれば、即日署長室に呼び出されることになる。来庁者にそういう姿を見せてはならないというありがたい訓示を長々と聞かされることになるのだ。ちなみに昔はもっと凄かった。何故か?今でこそ税務署では全館禁煙をうたってはいるが、少なくとも僕の就職時、職員の喫煙率はほぼほぼ100%。上司も喫煙者でほとんどであり、要するに日本語が通じない。一例を挙げよう。申告時期以外でも税務署の窓口には相談等で訪れるお客さんがいるのだが、20世紀末以降、官公庁での喫煙習慣の是正が行われた。それ自体は良いことだと思うし、先生方のオンオボエも良いのではあるが、さて、禁煙って、掛け声だけでできますか?喫煙者の方々。税務署には御用組合(ここに入ることがえらくなる道だったりする)があって、そこでも散々禁煙の必要性、健康面からの有用性も論じられてはいたのだけれど、いつも結果的にはなあなあ、、というか喫煙する者の権利の擁護も必要とか、そういう話になって先送りになっていた事案ですよ。窓口の職員がタバコを吸いたくなったらどうするのか。少なくとも以前は、職員専用の喫煙室を密かに用意して、タバコを吸いたい者は例えば、窓口が1階の場合、3階建ての庁舎ならば3階の奥、一般の方には禁煙なのでそれが見つからないように、隠れて吸いに行っていたわけですよ。臭いですぐ判るんですけどね。その間来客をどうあしらうのか。待たせるわけです。担当者が決まっている場合は、所用があるとかいうことにして。では担当者が決まっているわけではない案件(お分かりの通りこの場合が一番多い、と言うか当然じゃん。)の場合はどうなるのか?職員では珍しい非喫煙者素ごとが集中する訳なのです。窓口付近にいることが多い職員は通常、他の手持ちの仕事を抱えている事が多く、それでも喫煙のために席を空ける者が多発して、非喫煙者でも窓口業務が面倒なので、色々理由をつけて喫煙場所に入り浸る。果ては署内の比較的重要な会議を喫煙場所で行うことを決めてしまったりする。本末転倒である。何と自分勝手でタテマエを気にする職場であろう。一度文句を言って見たら、「吸わないやつが悪い」と嘲られてしまった。いや、禁煙が大事でしょう。正論だと思うのだけどなあ。タバコ吸うために来客を待たせて、まあ確かに、本来なら昼休みの時間に来る方にも問題があるとは思いますけどねえ。もっとも本人が喫煙所に消えちゃうと、吸わない身としては文句を言いに行くのも嫌だしたばこの煙は吸いたくない。お客さんは待たせたくないがそもそも他人事ではあるし、専門的というか担当者でなければどうすることもできない。いっそ事実をぶちまけてやろうかと何度おもったことか。そんな葛藤の中、何人の方が辞めて行ったのだろう。別にそれだけが原因ではないだろうけど、今でも思ってしまうのは、僕の今更なところだろう。・・・妖精たちが何故か神妙だ。それはそれで怖い。水ぐらいはこっそり飲んでもいいぞ。ウオーターサーバーあるし。汲んでやろうか。何だよ、気持ち悪いって。僕もそのぐらいは・・・目の前の職員さんが、うさんくさいものでも見るような目で見てる。慎もう。
「どうも、34番の方、落ち着かれましたか。本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか。」
お決まりの事を聞かれたけれど、この会場に来るという事は、申告以外あるんかい、とも言えない。見た感じ、まだ若い娘だ。だが侮るまい。この仕事に就いている以上、通常一年間の研修所暮らしを経験し(採用条件によって異なります)、みっちり鍛えられているはずだ。なんせ落ちこぼれ気味の僕でも簿記検定(日商)2級、そろばん検定(同)3級は研修所時代に取った。それに少なくとも(仮に新任でも)、もう半年ぐらいの実務は経験している。舐めてかからないことがだ。だが、また気の抜けるような事を仰る職員さん。
「今日は寒いですね。お風邪は召しませんですか?」
いや、風邪をひいたらこんなところ来てねえよ。他人にうつしたくないし、別の日にして養生してますわ。まあ、人それぞれだし、こんな序盤で負けちゃいられない。何か後ろでシイナが笑いをこらえているのを感じる。くそぅ今度縫ってやる。ミイナは何故か静かに・・・していないな。ストーブの上で何焼いてやがる。何だ、アレ?匂いはしないようだが、煙が出ているぞ。まあプレハブ故に防火体制はザルだからスプリンクラーとか無いけどね。問題ないか。ただこちらの挙動が不審だった故か、職員のお嬢さんはいきなり、「真面目にしてください」ときたもんだ。ちょっと気を入れて面談に打ち込もう。妖精どもは無視だ。
「実は去年から農業による収入がありまして。」
「開業届は出されてますか。」
「いえ、本格的なものではない、採集農業みたいなものなので、そこまでは。」
あ、しまった。この人、職員としての経験は浅いわ。顔に?が浮かんでいる。
「採集農業って何ですか?」
ほら、やっぱり。
「要するにその辺で生っている野菜とかを収穫して、道の駅で販売してるんです。道の駅から販売証明書は頂いてきました。こちらです。」
農業というのは一様ではない。田圃や畑なら判り易いだろうが、例えば近郊の山に行って実っている木の実やキノコ、山菜等を収穫しても、それを売って金品に換えるのであれば、それは収入である。僕の場合、その収穫先が謎の畑であり、耕作してるのが妖精ども並びに謎の楽しい仲間たちであろうとも、販売して利益を得ている以上は収入になるのだ。しかも僕の名前で道の駅の販売会員になっている以上、それを黙っておくのは得策ではない。何故かと言えば道の駅はその公的な位置付け上、どこの誰がいついくら分の品物をここに出荷したのかを記録して、道の駅なりに、多分法人税だと思うけど(業態により、まれに個人経営の場合もあるが、その場合は所得税)、申告を行う必要がある。その際道の駅に出荷している者が未申告だと、道の駅側が買い受けた金額が確認できないことになる。もしも追跡できない買受金額がある場合は、仕入れに相当する額が認容されないことになる。考えてみればわかる話だ。中にはよからぬことを考えて「売ったものがあるんだから、買い入れがあるのは当然でしょう、その辺は認めろ」と強弁する者もいる。でもそういう輩はだいたい申告なんて考えてもおらず、その上「税金の使い道が納得できないから、納めるつもりはない」等のごね方をする。時折、国税局の査察が入ってどうたら、というニュースが流れることがあるのを知っている方もいるだろう。高額脱税者が主だったけれども、学の大小ではないのだ。罪の重さはともかくとして内側の苦労も知らないわけでは無いから、その辺しっかりしておきたいのだ。それでなくとも人に言えないような、いや言っても誰が信じるかよ、こんな実情を。しかもだれが責任とれるものでもない。実際お金は受け取っているのだからできる限り正確に申告はするべきでしょう。たとえ個人的に税務署に含むものがあったにしても。
ところがこの場合、の話であるが、若い職員の中には農業の何たるかの前に採集農業というものの意味が解っていない者が多いのだ。職員に限ったものではないが。そもそも前述の通り、申告が当然と思ていない者も多く、ただ採って売るだけの事を真面目に申告様な者はいない、と考えてしまう職員もいるのだ。経験を積むのはどの仕事でも同じだが、積むべき経験の種類が多様なのはこの仕事独特のものだとは思う。知らなきゃ聞けないもんな。そして何より、人付き合いがへたくそでは相手を怒らせるだけで終わってしまう。それを狙ってくる相手もいるし。僕はこの、人付き合いがからっきしだった。だから逆にあの畑での動物たちとの付き合いの方が性に合うのだろう。ありがとう、寅さん。自慢にもならないけれど。
おっと話がそれた。故に税務署の多くで農業担当という者がいる。部署ではない。者、だ。ある程度の経験を積んだ職員に農業関係の質問をしてきた、もしくは関係者とおぼしき納税者(納税しているとは限らないけれど)の対応を任せる、任せられてしまう仕組みだ。僕は経験ないけれど、毎日夜遅くまで(残業だね。手当はほぼ出ないけれど)段取りしていたっけなあ、と思い出す。
それはさておき、そんな事を考えていると、予想外、というかああやっぱり、というかのことを言われてしまった。
「それって、申告する必要あるんですか。」
へっ?それは斜め上過ぎるだろう。まじまじと見るのも失礼なので、僕は続けた。
「ですから、このように出荷の証明書は頂いてきました。それから収支内訳書も書いてきましたし。どうぞご覧ください。」
収支内訳書を見ていた職員さんは、次は、ああ、やっぱりそこか、という所で突っ込んでくれた。
「経費がないってどういうことですか?」
それで事前に考えていた通りに、始めたばかりなので、必要経費に関わる書類の保存が無かった、他に大きな出費はしていない。だいたい、で書くわけにはいかないので、次からは保存しておくよう努力するが、今回はこう書くしかなかった等と話しをごり押しして完成した申告書を提出した。職員のお嬢さんは、訝しそうな目で見てきたけど、
「完成しているなら、提出していかれるだけで良いんですよ。」
とのたまってくれた。良かった。詳細を突っ込まれるのは止めてほしかったし。精神的に。また、そこで消費税についてお伺いしたいのですが、と聞いたところ、
「失礼します。今、係の者を呼んできます。」
ときたもんだ。
いや、簡単な事ですから大丈夫だと思いますよ、という暇もなく待たされてしまう僕。
かくしてドキドキの確定申告は、本年分については無事に終了したのであった。ちなみによそから(近所の山から、という意味ね)採ってきたものを家で食べたらとなると若干面倒な所がある。ただキノコを採って食べるというくらいなら、その山に勝手に入って良いかという道義的な問題はあるんだけれど、基本的には申告はいらない(昔はマツタケ泥棒は死罪だったけれど)。基本的にと言ったのは量的な問題がまずある。そしてこちらの方が問題かな、普段はそれを売っているけれど多く取れた分は家で食べる、という場合だ。何がいけないのか。収穫に際して必要経費が計上されている場合、その中に、量によっては減算しなければならない部分が発生するのだ。まあ、実務上、そこまで突っ込むことも必要もないわけだけど。ちなみに自家畑の収穫物は食べたら家事消費と言って収入ですよ。内訳書に書く欄もあります。面倒くさいものもあるので詳しくはお住いの自治体を管轄する税務署(とか、市町村の税務課とか)に相談してね。でも興味本位や法律に関する苦情は場所が違うからね。お困りごとの相談所ではないし、特に確定申告時期はそもそも電話なんて通じないし、日本の戦後教育の脆弱さを思い知るだけですよ。
なお、消費税については、基準期間に1,000万超の課税売上が無いので申告の必要が無いのでありました。その辺は一般の税務署員でも回答可能ですよ。学校では面倒だからって教えてくれるところ無かったもんな。実際面倒だし。(今の、特に商業系の学校ではどうかはすみません、よくわからないです。)
以上は勝手な想定問答です。実際に相談に行ったものではありません。
ミイナ「あんまり活躍の場が無かったよ。冷たい。」
シイナ「ちょっと変な目してるから、近づくの止めよ。今日は。」
国税の申告を行えば市町村にも写しが届くのさ。忘れていなければ。まれに忘れがあるけれど。
書いたことは多分正しいのですが、検証はしっかり行っていません。まあ申告はお忘れなきよう。書いているうちに確定申告時期、過ぎちゃったけど。でもゼロだからみなおいしい。うまーべらす。




