妖精生活
妖精は農業もしています。ちと血なまぐさいですが。
なし崩し的に野良妖精を家に入れてしまってからというもの特に何の変化もない暮らしが続いている。まあ一人暮らしの生活に急激な変化があったら、それはそれで問題があるというものだ。家のテレビの稼働時間が延びたのと、見た目以上にものを食うやつらである故にかかる食費が、それでも倍近くなってしなったのは痛いけれど、まあその程度の事だ。食べる野菜なんかは時折どこからか妖精どもが調達してくるし、照明は点けなくても奴らには特に問題ないらしい。ただ、妖精は二人とも意外と早起きで、朝も5時を過ぎるとブンブンと家中を飛び回る音が聞こえる。まだ暗いのに。それとミイナが、よく僕の耳元で寝ていたりするから、寝返りを打つにも気を遣わねばならない、というのが困りごとではある。まあ一度くらいは潰しても良いんじゃないかと思わないでもない。耐久力試験は何事にも必要だろう。
それとテレビを見ているとき、特にシイナが時折意味不明な事を言いやがるのも困りものだ。毎週日曜日は「世界の〇供たち」から「兼高〇おるの世界の旅」だよねえ、とか、「生き物〇ンザイ」も捨てがたいとか。どうやら昔観ていた番組のことらしいが、ミイナにすら理解できないものがあるようだ。どうにもあの二人、いわゆる「昔」に数十年の誤差があるようで、たまに歌っている歌にも同様の傾向がある。ミイナも、さすがに僕でも、近江〇郎とか江利〇エミとか言われても、チンプンカンプンだ。いや、じいさんなら、世代だっただろうけど、孫の僕じゃなぁ。ミイナはまた違っていて、どちらかというと読書家?で、僕の秘蔵のライトノベルをむさぼるように読みふけっている。ここのところは、しばらく前に流行った無責任モノを読んで悦に入っている。
ミイナ「これ、最近じゃブック〇フにも全巻は置いてないんだよ。」
シイナ「あたしは銀〇伝とか魔界〇滸伝の方が好きだけどなぁ。」
ミイナもミイナだが、シイナよ、その片方はもう作者が亡くなっているぞ。僕も本人筆のグ〇ンが読みたいものだ。可能なら。
「ミイナ、ルナ・ヴァ〇ガーなら全巻あるぞ。」
ミイナ「押入れのあれなら、2も含めて完読だよ。」
うーむ、なんてアグレッシブなヤツ。でもいつの間に読んでるんだコイツ。
どうでもいいことで悩んでいても、やはり腹は減ってくる。何もしていなくとも生きている以上仕方ない事かも知れないが、何か最近、飯を食うのも面倒くさい。それに食材がなぁ。そんなこんなでダラダラしていると、ミイナがニコニコしながら耳元に飛んでくる。別に近づかなくとも聞こえるくらいの音量はあるんだが、それでも肩に乗ってしゃべるのがミイナの特徴だ。その後方から飛んでくるシイナの姿も見えた。
ミイナ「ねえ、暇してる?」
おかしなしなを作りながらミイナが続ける。
ミイナ「暇なら一緒に、収穫に行こうよ。」
シイナ「それはいいわね。」
シイナもミイナに続く。
シイナ「ちょっと山の方だけど、結構採れそうだから、運び手が欲しかったのよね。」
ミイナは僕の顔を覗き込むようにして見つめてくる。僕もまあ、体を動かすことはやぶさかではない。遠くないというなら行ってみるのもいいか。
ミイナ「やたっ。今日はごちそうだ。」
シイナ「ま、栄養はばっちりだね。他にも色々採れるだろうから。」
2人ともいつも以上にはしゃいでいる。どれ、家の裏にリヤカーがあったっけな。それを引いて玄関前に着くと妖精二人は荷台の縁に座って、変な歌をうたいはじめた。
妖精ども「おっ菓子はぁにひゃくごじゅうえん~、250えん~。」
「これ、お菓子なんて無いぞ。変な歌を歌うんじゃない。」
ミイナ「いいじゃん、誰も聞いてないんだし。」
シイナ「一人で騒いでいるようにしか見えないよ、多分。」
まあおそらくその通りなのだろう。妖精が見える人間なんて、会ったことが無い。どうやら死んだじいさんには見えていたようだけど・・・。
そこまで考えて僕は少し怖くなった。もしかして、死期が近くなると見えるとかそういうんじゃないよな。一度、病院とかそういう所にこいつらを連れて行ってみようか・・・まあ、それこそ縁起でもない、か。
ともかくシイナのナビゲーションで(ミイナは基本、はしゃいでいるだけだ。)、僕はリヤカーを山の方に向けて引っ張った。
家から歩いて10分ほど離れた川沿いの道の一角にお地蔵さんがある。その後ろ側には深い藪が茂っているが、ミイナがそこで僕を呼び止めた。
ミイナ「あ、ここここ。そこの藪に入って。」
シイナ「そうね、ここなら良いかしら。ほら、何ぼうっとしてんの?」
いやここ、薮だし。どこに畑があるんだよ。そう思うも言われた通りお地蔵さんの横でリヤカーを止める。
「こんなとこでいいのか、やぶ蚊もいそうだが。」
ミイナ「いいのいいのここで。じゃあシイナ、お願い。」
シイナ「じゃあ、行くわよ。辺りはよ~し。じゃあ、目をつぶってね。」
シイナは例の魔法のステッキ代わりのフォークをどこからか取り出すと、有無を言わさずお地蔵さんの脳天に突き立てた。するとどうだろう。お地蔵さんと辺りの藪が一瞬にして消え去り、その後ろにそれなりに整備された畑が現れた。いったいどこに隠れていたんだ?ミイナは得意そうに、シイナはしれっとして現れた畑の中に入っていく。慌てて僕もリヤカーを引いて後に続く。荷台が入ったタイミングで周りの様子が一気に変わった。
薮の中には、良く耕された野菜畑が広がっていた。いやいや、こんなに面積が有るわけないだろう。あの薮の中に。
ミイナ「何驚いてるの?当然じゃない。」
シイナ「このくらいないと、労賃も払えやしない。あ、ご苦労様、クマちゃん。丑さんとウサギには連絡しておいてくれた?」
いつの間にか畑の中には、お社で同居?していたらしいクマネズミたちがいて、畑の奥の方には牛もいる。と、いうことは、ウサギも増えるのか?
ミイナ「そりゃそうでしょう。除草も面倒なんだから。手伝いが必要に決まってるじゃない。害虫担当はクマちゃんたちとか巳さんとかだけどね。まだ辺りが寒くて虫があんまり出ないから、巳さんは出てこないけど、今時期なら横の河原の土手の穴で待機(冬眠)中よ。」
シイナ「自然の摂理はそんなに曲げられないからね。一応出張った分はお給料出してるんだから。」
聞けば他にも動物たちを収穫物払いで雇っているらしい。畑をうなうにしても近所の牧場から牛とか馬を徴用して昔ながらの鋤とか取付道具を拝借して作業してもらっているとのこと。
ミイナ「昔を思い出して楽しいって言ってくれてるよ。」
シイナ「あんまりそういう作業をしたくないって子もいるんだけどね。」
作業直前になってごねられたら問題ではないだろうか?
ミイナ「ダイジョウブダヨ、ア・ナ・タ。そういう時は、ネ。」
シイナ「うちには寅さんもいるから。」
寅?とらって車さんかな?何か薮の中から妖しげな気配が漂ってくるのだが。
ミイナ「そんなわけナイヨ、サクラ。渥〇さんはもう鬼籍だよ。」
シイナ「そう、あたしたちの領分でも無いしね。問題はお礼の方なんだけど。」
そ、そうか。虎なら大抵の動物は言うこと聞いてくれそうだな。あれ、でも虎へのお礼って、野菜の訳無いよな。
ミイナ「私はよく判らないんだけど、ほら、うちにも、まんま害獣でよく増えるヤツがいるじゃん。」
シイナ「牡丹肉って美味しいらしいのよねえ。寅さんも大喜びよ。」
いやいや、お前ら、仲間に仲間食わせるのかよ。僕が頭を抱えていると、
ミイナ「世の中はね、ギブアンドテイクなんだよ、南無ぅ。」
シイナ「人間だって、強いモノが弱いモノを食い物にしてるじゃない。そうじゃなくとも、普通に増えると辺りの生態系が壊れることくらい、奴らも解っているのさ。南無ぅ。いずれ秋になれば、芋とか手に入るからね。まあ、そいう事さ。」
何だかなあ。でもそれだと、竜もいそうだけど。
ミイナ「よく判ったね。辰神様は私たちの守り神よ。」
シイナ「日照りの時とかよくお世話になるよね。普段の水の管理もお願いできるし。」
ははは。やっぱりいるんだ。いや、いるだけででもとんでもないが竜神って、お願いするのに何が必要なんだ?もしかして生贄?え、え、えっ?
ミイナ「こらこら、今時、人身御供なんて自然界では要求しないよ。」
シイナ「ましてや今の人間なんて、ねぇ。」
ねぇ、ってなんだよ。怖いなぁ。
ミイナ「怯えることないョ。今の世の中良い物があるしね。」
シイナ「七つ集めれば、何でも願いを叶えてもらえるし、便利よ。」
ん~アレか、アレなんだよな。でもアレはなあ。
ミイナ「いいのよ、そういう概念が必要なの。」
シイナ「あんまり考えすぎると良くないわよ。」
そういうものだろうか。やっぱり疲れているのかな。いや確かに憑かれてはいるのか、疫病妖精に。何か納得した。とりあえずは気を取り直して、収穫に励もう。
それにしてもまだ立春を過ぎたところだから初春の筈だが、やはりこの土地は不思議空間なのだろう。時季外れとしか思えない野菜が鈴なりだ。これ、持って帰って大丈夫か?そうこうしているうちにも、猿とかが荷台に次々と野菜を積み込んでいく。妖精どもは飛び回りながらてきぱきと作業を指示している。うん、僕も状況はどうあれ、作業に没頭するとしよう。
この不思議空間に現実の時間が当てはまるかは疑問であるが、とりあえず腹が減ったな。という頃合いで収穫作業は終わって、リヤカーの荷台には大量の野菜がこれでもかとばかりに積み込まれている。肩をたたく(突く、かな?)感触に背後を振り向くと、寅さんが昔ながらの(お寿司屋さんのお土産のような)包みを爪にぶらさげなて、僕に差し出している。
「これを僕に?」
頭を下げてその包みを押し頂くと、寅さんはウム、と頷くような仕草をして、後ろを振り向きながら右前足を上げて挨拶?をすると、肩をいからせながら悠然と立ち去っていく。何か、かっこいい。
ミイナ「あ~いいな。それお肉じゃん。」
シイナ「寅さん、あんたのこと気に入っていたから、ご褒美じゃない?」
いつの間にか近づいていた妖精どもが声をかけてくる。
「これ、肉?何の?貰っちゃって良いのかな?」
ミイナ「一生懸命仕事してたからね。ずっと視ていたし。」
シイナ「あの視線は獲物を捕らえる時の眼だったわよ。よほど気にいられたようね。」
何かあまり嬉しくないような事をおっしゃる妖魔ども。それにしてもこの肉って。
ミイナ「さすが血抜きは完璧だね。」
シイナ「お肉の美味しい食べ方を知ってるから大丈夫よ。いい牡丹肉じゃない。人間の決まりからは外れてるかもしれないけど、お客さんにも好評なんだから。」
ん?お客さん?そういえばこの大量の野菜といい、それ以外にも積み込まれた肉といい、こんなに大量にどうするんだ?
ミイナ「じゃ、急ごうか。みんな待ってる。」
シイナ「そうね、さあ、午さん、お仕事よ。」
いつの間にか荷車を引くような装備を身にまとった馬が、リヤカーの前に陣取っていた。妖精どもは慣れた手つきでリヤカーと馬をつなぐと、先ほど中に入った(とおぼしき)場所に背中を向けて立っていたお地蔵さんの頭に、シイナがまたもフォークを突き立てると、瞬間、薮が割れ、川沿いの道路が現れた。
ミイナ「さ、今なら大丈夫よ。」
シイナ「ほら、午さん、行くわよ。」
リヤカーが馬に引かれて動きだす。道路に出たところで後ろに見えていた畑が薮に覆われ、そこに広大な土地があったなどと思えない状態となった。お地蔵さんが不満そうにこちらを見ているような。
ミイナ「さあ、行きましょう。」
シイナ「道の駅まで、レッツラゴー!」
午が道を進んでいく。僕では引ききれないような重量であろうリヤカーを引いて。へっ、道の駅って?あの国道沿いの建物か?何をするんだ、このメンバーで?
ミイナ「ほら、アナタも頑張ってね。これから。」
シイナ「何をボケっとしてるのよ。道の駅のスタッフとお話をするのは、あんたの役目なんだからね。」
ミイナ「一応道の駅の登録は、アナタになってるんだから。」
シイナ「今までは目についた人間を都合(洗脳?)して運ばせるだけだったから、今日がオーナーの初めての御出座よ。」
はぁ、オーナーって?それも解らないけど、馬、どうすんだよ。だけど。道の駅に着くと妖精たちに装具を外された馬は踵を返して元来た道を戻っていく。妖精どもは手を振りながら去っていく馬を見送っている。
ミイナ「午さんはね、山の方の牧場に帰っていくの。」
シイナ「お礼は残しておいた人参一箱よ。よくやってくれるわ。午さんは。」
そのうち、僕の周りに道の駅のスタッフらしき人々が集まってくる。
道の駅スタッフ①「お疲れ様ね。あなただったの、代表の方って。待ってたのよ。お宅の野菜、評判良いんだから。」
道の駅スタッフ②「今日はお肉もあるのね。さっそくお店に並べましょう。あとはいつも通りやっておくから。さあ、さあ。」
そういってリヤカーを(凄い重量の筈なのに)引っ張って店の中に持って行ってくれる。でもいいのか、あんな妖しい食材。特に肉は。
ミイナ「気にしても仕方ないよ。品質は折り紙付きだし、牡丹肉の血抜き・熟成は完璧だって。」
シイナ「モノが良ければ喜んでもらえるの。良い事でしょう。お金も入るし。あ、口座はあなたで登録済みだから。」
いつの間に。そういえば通帳なんて最近見ていなかったな。一応確認しておこう。僕は道の駅スタッフと適当な話をして、空になったリヤカーを受け取った。それを引きつつ家までの帰路につきながら、僕は考えを巡らせていた。確定申告、いるのかな。それが一番問題だ。必要経費認められるのかな。領収書とか無理だろうし。まあ、その時期になったら考えるか。今日は久々に豪勢な夕、いや昼食だな。そして翌日、僕は更なる驚愕に目を見張る事になるのだが、とりあえずは手に入った野菜他ををどう使うかに頭を悩ませていたのであった。
終
とりあえず好きな小説を羅列してちりばめています・




