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有名美少女配信者を助ける Sideリオ

――見える。

私、水無瀬リオには、見えてしまっている。


小さい頃から、幽霊とか“なんかヤバいモノ”とか、そういうのを感じやすい霊感体質なのだ。

だからこそ、心霊スポットでの生配信をやってるんだけど……。


「どうしよう……!! 今回はガチでやばいかも……!!」


ダンジョンの暗い通路を抜けて、異様な車体の気配が近づいてくる。

軋むレールの音。

徐々に輪郭がはっきりするその車体。

ダンジョン内の壁を貫通して現れたのは、血塗れの幽霊電車だった。


恐怖のあまり全身の血が冷たくなっていくのがわかる。

一刻も早く、この場から逃げ出したいのに。


足を必死に動かそうとしても、びくともしない。

視線を落とすと、地面から生えた白い手が、私の両足首をぎゅうっと締めつけていた。


「足が動かない……っ。でも、せめて映像だけでも残さなきゃ」


手を震わせながら、スマホを高く掲げた。

この世ならざるものが確かにいる証拠を、残すために。


配信画面では、コメント欄が一気に流れていく。


《血塗れの電車が走ってくるんだけど!?》

《やばいって! 本物!?》

《りおまる逃げて!!》

《笑えないドッキリ始まった》

《まって心拍数バグってる》

《コメント欄パニックwww》


混乱するコメントに、私もパニック寸前だ。


「だ、誰か……助けて……っ。このままじゃ幽霊電車に轢かれちゃう……!」


返事が返ってくるなんて思わなかった。

けれど、聞き覚えのない低い声が、背後から静かに響いた。


「掴まれてるのはどっちの足だ?」


えっ――誰!?


振り返ると、暗がりの向こうに黒い影が立っている。

ダンジョン探索者の装備をしているけれど、顔はライトの逆光で見えない。


「右か左か、早く答えろ」

「両足!」


私が震える指で位置を示すと、彼は躊躇わずに剣を振り抜いた。


瞬間、耳障りな唸り声が響いた。

そして、私の足を掴んでいた白い手が、砂のように崩れ落ちた。

ふっと体が軽くなる。


「……嘘みたい。幽霊に、攻撃が通るなんて……。キミって、一体……?」


そう呟いた直後、線路を擦るような低い軋みが一気に大きくなった。

こうしてはいられない。


「幽霊電車が突っ込んで来る! もうすぐそこ、避けないと!」


私が叫ぶと、彼はやれやれというように私の手を掴んだ。

強くて温かい感触に息が詰まる。

彼の手は驚くほどしっかりしていて、頼もしかった。

彼の力に引かれて体が動き、手持ちカメラが指先から滑り落ちる。


直後、幽霊列車が目の前を轟音とともに通り抜けていった。


血で汚れた鉄の車体の中には、青白い顔をした使者たちでひしめき合っている。

生気を失った亡者たちの、冷たい視線が全身を撫でていく。


心霊現象は何度となく目にしてきたけれど、それでも慣れることはない。

憎しみを込めた死者たちの眼差しに射抜かれ、 鳥肌が立った。


さらにアクシデントは続く。

さっき私を拘束した白い手が、再び地面の裂け目から這い出してきた。

ズルズルと嫌な音を立てながら、少しずつ女の体が地上に現れる。

女の顔は憎しみで歪んでいた。

口は大きく裂け、こちらへ向けられた目は怒りに満ちている。


「……ねえ、どうしよう。私を捕まえていた幽霊が、地面から出てきた……」

「次から次へ、忙しいな。きっちり倒したほうがいい感じか?」

「多分……。じゃなくて、うん! 襲い掛かってきた……!!」


私は震える指で幽霊の居場所を指し示した。

言葉を詰めながらも、できるだけ正確に伝えようとする。


「右斜め前から、すごい速度で接近してくる……!」

「了解」


彼は腰の剣を抜き、幽霊の胴体めがけて振り下ろした。

見えていないはずなのに、その動きは完璧だ。

空気を裂く鋭い音とともに刃は幽霊の胸を引き裂いた。


幽霊の体は崩れるように形を失い、やがて粉じんのようになって消えていった。

途端に、あたりの空気が軽くなる。

全身から力が抜けて、私はその場にぺたりと座り込んだ。


「おい、大丈夫か?」


彼の声が、頭上から静かに降ってくる。

その声は、不思議と安心できる響きをしていた。

張り詰めていた緊張の糸が、ふっとほどけていく。


「うん……。助けてくれて、本当にありがとう……」


そう言いながら顔を上げると、ライトの角度が変わり、彼の顔がはっきりと見えた。

黒髪の無造作ヘアに、鋭い目元。

年は私と同じくらい……ううん、少し上かもしれない。


(なんでこんなに落ち着いていられるの……?)


不安で押し潰されそうな中、冷静で頼りになるその態度に、思わずドキッとしてしまう。

そんな自分に、心の中でアホかってツッコんだ。


その直後、私はハッとなった。


(あれ……? これ、配信、切れてない……?)


指先でスマホを拾い上げ、画面を見た。

コメント欄が、恐怖と興奮で埋め尽くされている。


《やばい!》

《今の映ってた!!》

《え、幽霊斬った!? なにこれ!?》

《りおまる神回すぎる!!》


「……ウソでしょ……」


震える唇から、掠れた声が漏れる。

どうやら、生配信内に彼の姿が見切れてしまったようだ。

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