15 ――余命数分の救世主――
「しかし、まさか貴様と格闘をする羽目となるとは――」
「無駄話は後でしてくれないか? 悪いが、時間が無いんだ」
魔王は軽い口調で言葉を紡ぐが、如月双樹はそれを制止して、右腕の電撃を一度大きく迸らせた。それは、青年が自分の寿命を気にして焦り、怒りを露にし、また脅すようにしたものではなく、魔王の心情を察して起こした行動だった。
魔王は恐れている。それを、彼は理解していた。
電撃は、魔王にとって防ぎようが無い。彼は数多の能力を有しているものの、実際に対戦闘用の能力で、魔王から見てそれなりの実力を持つ人間に通用するものは数少ない。それが、今まで青年が見てきて感じ、結果として出す推論だった。
そしてまた、それが事実でもあった。
だから魔王は少なくとも、如月青年とまともに対峙するつもりはなく、
「最早体裁を取り繕う必要など無い。なりふり構う意味は失せた」
という所が彼の本心だった。
程ほどに相手を痛めつけ、程ほどに、相手が自分に立ち向かえる力を持ち始めたところで、興奮が冷めるまで部屋を出るかのように、その場を後にしよう、と。魔王は浅はかにそう考えていたが、彼が本気で逃げようとすれば誰も後を追えないことは確かな真実に違いが無い。
だから如月青年は、出来る限りの挑発で足止めを試みた。しかし、それが意味のない事だと知ったのは、次の瞬間のことである。
「命を削るのではなく、命が続く限り無制限に……という訳だな。その電撃は。しかし、私が貴様の命を受け止める義理も無ければ義務も無い」
「逃げるというのですか?」
「勘違いするなよ。貴様が死ぬのを待つだけだ」
「それを逃げると――」
胸が、心臓が、激しく高鳴った。ただでさえ荒い呼吸が更なる激しさを迎える頃、彼は焦りに身を任せて、目の前の虚空に向かって殴り抜ける動作を行う。その中で、言葉は半ばで失せていた。
電撃に包まれる腕は、そういった行動の中で手首から先を切り離し、それを電撃の塊として前方に――今にも逃げ出しそうな気配を持つ魔王へと撃ち放つ。一瞬にして空気を喰らい、貫き、引き裂いて魔王へと肉薄する雷塊は、最早逃げる暇も与えぬ速度で、彼の水月を撃ちぬき、五臓六腑を貫いた……かに見えた。
しかし掌大の雷が弾丸と成って打ち破るのは、魔王の影。その残像だった。そして結局虚空を駆けるそれは、魔王の背後にあった、暗闇に塗られた中庭に落ちて、一瞬――空間全体が輝きに満ちた。その直後に、遅れた爆発音が大気を激しく振動させ、肌を叩いた。大地が激震し、天と地が曖昧の存在が曖昧になった。
中庭は、まるで水面に巨大な岩を投げ入れたかのような土飛沫を上げ、クレーターを作る。候補生は皆それから身を守るように屈み、あるいは壁に身を任せて待機する。その中で必死に辺りを見渡すのは、如月双樹だけだった。
――健在な転送の能力は、それでも疲弊によって視界に収まる範囲までしか移動できない。
しかし、今はそれで十分だった。この暗闇では、胸の穴から垂れる血の跡を追うことも出来ず、また転送によって跡は残らない。青年の嗅覚は恐らく死んでいるだろうし、彼は魔力の放出やらで周囲の存在を認識する事が出来ない。
そして、仲間は如月に手を貸さない。彼がそれを望んだが為に、である。勝ち目があってもなくてもそうするのは、過程を何よりも大切にする者達だからだろう。だが、今という状況においては、ソレが一番愚かで、浅はかで、そして何よりも命取りだった。
だから、魔王はふふんと頬を引き上げながら、背を気にしつつ前を向く。――その瞬間であった。
彼の心は、そのたった一つの心臓は、急速に縮まったのは。驚きが、腹の臓腑に電撃が走るかのような激痛を与えていた。
「貴様ッ!?」
目の前には、およそ予想だに出来ぬ影があった。否、それは少し考えればそこに居る事くらいは容易に想像できたものだったのだが、自身の過度の疲労やダメージによって、それが不可能だった。だから、彼は目の前のそれに、如月双樹の右腕の光源によって淡く照らされるその”彼女”に、思わず声を漏らした。
それが、青年に居場所を教える事になろうという事に気がつくのは僅か数秒後の事だが、どちらにせよ、ミスは取り戻せないし、どうでも良いと思えた。
かちゃりと、金属が擦れる音がした。前のほうから、恐らくその影の、手元から。だから自然に、彼女が武器を、多分刀剣を持っているのだろうと察する事が出来た。だから、魔王はそこから放たれるであろう一閃を避けようと一歩後退したその刹那。
冷たい殺気が、その首筋に優しく触れた。それは紛う事無き刃だった。殺気を物質化し現実に干渉できるレベルまで引き上げたのかと思うくらい、静かに、そして息をするのも忘れるくらい素早く、魔王の命を奪おうと其処に触った。
しかし、次いで魔王に与えられたのは死などではなく、台詞だった。
「男らしく、戦いなさい」
何よりも――愚かな、浅はかな、そして命取りな、そのひと言だった。冷たく、だが一方で優しい囁きに似た声だった。
「これが私の戦い方だ。何も殴りあう事が闘いの全てではなかろう?」
「なら私は、お前の行動を阻止する。それが私の戦いだ」
彼女、シャロンはそう告げ終えると直ぐに剣を振りぬける。だが、それと同時に魔王は彼女の背後に、瞬間的に転送する。が、シャロンはそれを予測するように、薙いだ勢いを利用して背後へと、魔王を追うかのように向き直る。
回転斬りと成り代わるそれは、余裕の無い魔王の背を、薄く切り裂いた。風を切り裂き、音を置いてゆく速さ、鋭さで、その切っ先だけを魔王の皮膚を、肉を裂く。薄くとも痛みは走り、魔王の動きは微かに鈍る。
今はそれで、十分だった。
魔王が僅かに前へよろける。張り詰めた緊張がその瞬間に解けたシャロンは、出入り口付近の壁に寄りかかった。そして如月と魔王との位置が、直線で繋がった。その時彼は既に魔王の背を見つめていて、そして次の瞬間、強く寄る眉間の皺から、蒼白い稲妻が解き放たれた。
彼の額から蒼白い閃光が放たれた。それを青年を除く全員が本能的に察する頃、それは一瞬にして魔王の後頭部に肉薄し、力強く叩く。まるで車のタイヤが破裂したかのような爆音が鼓膜を破ると、魔王はそのまま軽く前へ浮かぶように吹き飛ぶと、直ぐに床に落ち、そのまま滑った。
周囲の仲間が稲妻を残像で見ることで漸く理解できる。そんな頃には既に青年は、巨大な岩石よりも重くなる足で、精一杯に魔王の元へと駆け出していた。
彼はすぐにシャロンの横を通り過ぎた。彼の右腕が彼女の憂いを持つ顔を照らすが、青年は声を掛けない。掛けられない。そんな余裕は、とうの昔に消え去った。
彼が一歩を力強く踏みしめる度に、数百メートルを全力疾走したかのような疲労が全身を襲う。心臓はその負担に耐えながら、如実にその力を弱めていた。魔王はそれを見極めているかのように、痛みを堪え立ち上がり、青年へと向き直る。
彼らは二階部分となる吹き抜けの下、その玄関ホールの中心近くで対峙し、視線を交叉させる。しかし、それを維持持続させる余裕は共に無く、また逃げる選択肢を自ら切り捨てた魔王は、ある程度距離を縮めると同時に、強く床を蹴り飛ばした。
魔王が青年へ肉薄する。能力は最早無力と理解る彼は、拳に全ての力、勢い、魔力、その全てを付加させて如月双樹へと襲い掛かった。
青年も、電撃は確実に直撃なければハイドほどの効果が無い事を認識し、故に相対するかのように、右腕を大きく引いてから、前へ、魔王へ突き出した。
二人の拳は距離を忘れ、肉薄する。時間の概念は薄れ、両者の攻撃が到達するのが遅かったのか早かったのか、それを判別するものは、出来るものは、その場にいなかった。
故に、それは到達する。両者の頬に。凄まじい衝撃を、痛みを与えた。魔王の拳はその顔を歪ませ骨を砕き、砕いた骨で左眼球を突き刺し押し潰す。最早痛みは麻痺し、眼球が噴出させる血液は、魔王の拳を濡らした。
青年の電撃は、一寸ほど届かぬ位置で停止した。腕のリーチが足りぬ彼の攻撃は、だが電撃と言う形であるが為に、失敗には終わらない。
届けと、殺せと、貫けと願うよりも早く、電撃が彼の顔面を撃つ。が、電撃の放出は、まるで顔と拳との間に障害物があるかのように、力強い流れが左右に分断されていた。魔王はその左手を焼き尽くし犠牲にする事によって、致命傷、あるいは即死から免れていた。
彼がそれを理解する。魔王はそれを察して、右膝を胸に引き付けた。青年はそれを見て右手を背後に回すが、その間に放たれる蹴りは素早く彼の腹部を撃ちぬいた。
鈍い、骨がへし折れる音が籠って、幾重にも重なる。まるで腐った枝のように簡単に砕ける彼の骨は、彼の意思によって既に活動を停止していた内臓に突き刺さり、その死に掛けの肉体は背後へと吹き飛ばされた。
が、その中で、背後に回した右腕は再び電撃を、今度は床に向かって解き放つ。こぶし大の雷塊は瞬時にして彼の数歩分後ろの床を貫くと、途端に内部からそこを隆起させ爆発を生み出した。爆発は衝撃を波にして空間に行き渡らせ、すぐ近くに居た青年を前方へ、魔王へと吹き飛ばす。
後ろへと押し返す勢いと、前へと背を押す、全身を嬲るかのような衝撃。その室内が明るく瞬く頃、彼はその互いの勢いによって空中に静止した後、持続する衝撃波によって再び魔王へと肉薄した。
爆音は最早耳に届かず、痛みは彼の動きを止めるに至らない。彼は残る片目で魔王を捉えると、大きく腕を振って雷塊を弾き出した。
魔王はそれを予測し、大きく背を反らす。床を踏みしめたまま天井を仰ぐ彼の眼前を、凄まじい勢いを持って雷は通過し――魔王の背後の壁を、破壊した。再び爆音が全ての音を掻き消して、薄く、壁の崩落音が大地を揺らした。
次いで青年は、魔王が上体を引き起こすよりも早く、右腕の電気を放電する。電撃は四散し、くもの巣の如き網目を作ると、それは周囲の伝導体に余す事無く触れて回り、そして床に逃げてゆく。その中で僅かなタイミングのズレによって逃げ切れなかった魔王は、頭部を巨大な槌で殴られたかのような凄まじい衝撃で動きを止めた。
そんな威力を持つ放電でも失せぬ彼の電撃は底知れぬほどであり、今度は自分の番だと言わんばかりに、言葉にならぬ声で如月が咆えた。
途端に――漸く、ほんの数瞬の麻痺から立ち直る魔王の背後から、閃光が矢と化して肉薄する。そして、まるで対となるかのように、魔王へと向けられた電撃は同じく、それは槍のように鋭く魔王の、大きく開いた胸へと飛来した。
最早逃げられるはずが無い。これが当たれば、流石に絶命には至らぬであろうが、少なくとも寿命が尽きる前に決着がつけられる。これで、後を安心して任せられる。もう後戻りできないこの生命を、心残りなく燃え尽きさせる事が出来る。
そんな驕りが、故に驚愕を生んだ。魔王は次の瞬間、如月双樹の視界から消え失せたのだ。
それが魔王の能力によるものだった事は容易に想像が、見当が付いた。だが何処へ逃げたのかまでは完全に思考の範疇に収まらず、そのまま対なる電撃は目標を貫く事無くぶつかり合い、そして宙で短く爆ぜてから、また残像だけを残して消えた。
「電撃が余命を削るのではなく、残された命の中で電撃を暴走させる。貴様の命は、後何秒だ?」
その音は、久しぶりに聞いたような気がした。音声としてまともに言葉を紡ぐソレは、最期に聞くものとして良い気もしたが、やはり魔王のものであるという限り、それはやはり嫌だった。
声は背から響き耳に届く。殺気は首筋に突き刺さり、緊張は電気が走るかのような痛みを全身に流すが、彼の感覚は大分前から麻痺していた。
「貴方が死ぬとき。それが僕が死ねる時です」
「死ねる、というのは貴様の希望だろう? それは運命付けられ与えられた貴様の寿命とは異なるモノだ」
「運命? ふっ、魔王ともあろうお方が、随分夢見がちな言葉を使うんですね」
青年の小ばかにするような台詞に、魔王は嘆息した。下らぬ応酬は共に時間の無駄と考えた故であろうか、彼は沈黙し、そして鋭い爪を持つ指先を、如月双樹の背に突き立てた。
「私はこのまま背を貫き心の臓腑を奪い去る。貴様はこれを、どう防ぐ?」
魔王と如月双樹の間では防御は一切無く、攻防と言うよりは激しいぶつかり合いと言うほうが正しかった。どちらにせよ、防御をするのならばその分直接ダメージを受け、その隙を狙い攻撃を仕掛けるほうが今の状況では正しかったし、何よりも適切だった。
だから、今更に聞く”防ぐ”なんて言葉に、彼は違和感を覚えた。何を防ぐというのだろうかと言う疑問が、胸の中に広がった。
どうせ足掻いても防げぬ攻撃ならば、どう避けるか、遮るか、耐えるか考えるよりも、どの瞬間にどの程度の隙が生まれるかを思惟し、そしてどんな反撃に出るかを目論んだほうが賢い。少なくとも如月はそう考えていたし、魔王も自身が口にした台詞とは裏腹に、彼がどう”攻撃”をしてくるか、ある種の楽しみとして待っていた。
だが、青年は何も答えずに沈黙したまま、背を向けていた。魔王はそんな彼に、時間を無駄にするはずが無い彼が無駄にする時間が不思議で思わず顔を覗き込もうとすると、如月双樹の頬が釣りあがっているのが見えた。
そして次いで、まるで魔王がそれを見るのを待っていたかのようにして、言葉は紡がれる。
「やってみれば、わかりますよ」
どこか余裕のある声は、震える事によってその自信を薄れさせていた。だがそれは恐怖や不安によって声調が歪んだのではなく、単なる疲労やダメージによって体力が限界に近づいているが故だった。
魔王は前者を信じたくとも後者を確信する。そしてどちらにせよ動く気配の無い青年に対して、却って退く事の出来ぬ舞台に立たされた魔王は、罠に嵌ったかと苦々しく呟いて、その背を掴むように力を込めた。
「避けぬのか」
魔王は最期にとばかりに問うた。それは、その言葉に対する返答が欲しいからではなく、最期と知った如月双樹という男はその瞬間に何を思い何を口にするのか、才も無い癖して自分を苦しめた人間を、知りたかったからだった。
しかし、如月双樹は沈黙した。それが彼の答えだと言う事は、肯定だと言う事は簡単に理解できたが、やはりそれが不満である事には変わりが無かった。思惑通りに行かないのは、やはり魔王であっても人間であっても、不快だったのだ。
だから魔王は指先に、さらに力を込める。鋭い爪は薄い綿のシャツを簡単に切り裂き、血の染みを浮かび上がらせる。その瞬間、指先に電撃が迸ったのを、垣間見た。
それを見て、微かな痛みを感じて、彼は漸く青年の思惑を察する。だから、腕を引き抜こうとした。故に、身体は既に後方へと向き直ろうとしていた。
だがその全ては、遅すぎた――。
電気の痺れを感じた指先は、瞬く間に金色の輝きに飲み込まれてゆく。痛みは想像を絶するほどの速度で全身を満たし、そして全ての自由を奪い去る。これから魔王がそうしていたように、過程は違えど青年は自分に与えられるはずだった結果をそのまま彼に返していた。
指先から流れる雷はやがて勢いを増して魔王を飲み込む。激流となる電撃はそのまま、まるで青年の輝ける翼のようになって、魔王の上半身を焼き尽くしていった。
断末魔は無く、動く気配は無く、だが絶命した様子も無い。ただ僅かな命だけでも残すよう耐え忍んでいるようだった。
しかし、このまま続けば魔王は確実に堕ちる。それは確実だと思えたが、どこまで続けられるか、果たして魔王が死ぬまでこの命が続くのか、それは分からなかった。故に、振り向き、その心臓ないし頭部を、この電撃の根源たる右腕で潰さなければならない。成功するか失敗するか、その確率は別として、直撃れば殺れる。それはどんな状況でも変わらぬ事だった。
だから、迷わず青年は振り向いた。左足を軸にして、軽く回転するかのように。そしてその勢いを僅かながらでも力に加算するように、右腕を突き出した。
彼が背を向ける事によって雷の激流は相対的に消えうせる。だが代わりとして、彼を魔王へと、僅か十数センチ前に控えるその仕留めるべき敵へと、激流が背を押した。
が――魔王は、それを待っていた。確実にそうするだろうと、電撃を喰らう中で予想していた。察していた。勘付いていた。故に、彼も同じように、行動を起こしていた。
だがそれは正々堂々拳を交えるのではなく、身を低く屈める動作。その為に、如月双樹の拳は一瞬にして虚しく宙を貫き――懐に潜り込む魔王は、その鋭い拳で青年の顎を殴り抜けた。
「……っ!」
衝撃が脳に浸透する。それが漸く、彼に痛みを与えた。
肉体は背筋を伸ばし、顔は空を仰ぐ。痺れ、麻痺する体は僅かに宙に浮き、魔王は追撃の為に、彼より頭一つ抜ける程度に、飛び上がった。
そして流れるように彼は空を仰ぐ青年の顔面を、床に叩きつけるように殴り飛ばした。鼻は潰れ、額の骨が拳の形にへこむ。彼はあらゆる穴から血を流し、受身も取れぬ肉体事情を抱えたまま、その衝撃を全身で受け止めるように床に落ちた。
まるで力の入らぬ肉体は何度も床に弾み、そして魔王の着地点よりも少し離れた位置に落ち着いた。
「……他愛も無い」
全身を黒く焦げさせる魔王は、喘ぐ様な呼吸を収めて呟いた。魔王はそれからもう一度だけ大きく深呼吸をすると、静寂を取り戻す空間の中、如月双樹に歩み寄り、屈み、そしてその胸に触れた。
その瞬間、電気がまた一度ばちりと迸り魔王の胸を叩いたが――青年の、その心臓に動きは無く、故に脈は無い。
彼は大きく目を見開いてからさらに息を吐くと、潰れていないもう片方の瞼を撫でるようにして閉ざしてやってから、立ち上がった。が、まるで血の気が引くような感じがして、意識は急に薄らいでしまう。膝は簡単に折れて、意識とは反対に、気がつくと魔王は跪いていた。
如月双樹が最後に放った静電気のような弱い電撃は、確かな意思を持って魔王の心臓の動きを停止させていた。
そしてめまいと言う現象は誰よりも簡単に魔王を襲い跪かせ、
「如月双樹……惜しい、男だった」
眠りに付く幼子が最後に母の名を呼ぶような儚さを口にした後、彼はそのままの体勢で、静かに目を閉じた。
――約一日を要した長き戦闘は人間側の大きな損害を以って、この場に終焉をもたらした。




