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第1-4話 満足してるから

 夕暮れ時の名古屋郊外、目の前には巨大な廃工場跡がそびえ立つ。

 その大半は既に錆びついていて、原材料かなにかを運び、建物同士を接続していたと思わしきベルトコンベアは今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

 当たり前のように屋外には雑草が生い茂っており、人が立ち入らなくなってから久しいことをより一層強調している。

 その工場がそびえ立つ反対側には現役で動く工場が多数群れてるけど、それがより廃工場群の気味悪さを掻き立てている。

 

「……で、呼び出された場所がここ?」

 

 思わず、誰に言うでもなくそうつぶやく。

 

 こういうのって、もっとこう、夕日が見えるテラス席だとか、学校の校舎裏でするもんじゃないの?

 かなり遠い立地だったから本当に場所がここで合っているのか確認したんだけど一字一句違わず住所はここで間違いないっぽい。

 なんでこんな場所に呼び出されたかは分からないけど……。


「よーし、後でルイ君に問いただしてやろう!」


 そうやって無理やり納得して再び歩みを進めていると、廃工場の錆の群れの中に1つ青い点があることに気がついた。

 

 誰かいる。

 けど、私って昔から目が悪いからあれがまだ他人なのかルイ君なのかは判別できない。

 もう少し近付いてよく目を凝らすと、栗色の毛、低い身長、病気を疑うほどの白い肌。

 ああ、あれは多分――。

 

「大和!こっちだ!」

 

 ルイ君。私を呼び出した張本人が、大声で私を呼んでいた。

 特に何か返事をするでもなく、気持ち速歩きで彼の下へ歩み寄っていく。

 って言っても早く彼と会いたいとかじゃなくて、少しでも用事を早く済ませるため。

 あくまで私は香蓮からのお願いでここに来てるのを忘れちゃいけない。

 

「来てくれてありがとう。放課後にいきなりこんなところへ呼び出してごめんね」

 

 彼の下へ着くと、ルイ君は私に労いの言葉らしきものをかけた。

 徒歩数分の場所ならまだしも、ここは学校からバスと徒歩で合計40分もかかるとこなんだけど。

 ちょっと遠すぎるとも思ったけど、どうやらそれはルイ君も認識してたみたい。

 ならもうちょっと近い場所にしても……って思ったけど、それを言うのも無躾ね。


 それにしても、学校が終わってからまだそう時間が経っていないのにルイ君は私服?に着替えていた。

 私もまっすぐ来たわけじゃないとはいえそれなりに早く来たつもりだったのに。

 

 わざわざ持っていったのか……それとも家がここに近いのかな。

 ってことはもしかしてここに呼び出したのも家に近いからだなんていう理由じゃ……。

 いやいやいや!まさかそんなはずは。


「……何か考え事?」


 ルイ君はそんなことを考えている私の顔を覗きながらそう聞いてきた。

 

「い、いや別にそういうわけじゃ……」

「ならいいよ」


 どこか余裕そうに振る舞うルイ君。

 ……なんか、不思議な感じな子だ。そう思ったのも束の間、その情報を忘却の彼方に送る。


 ルイ君は挨拶を終えると、私を不気味な廃工場の中に手招いた。

 えっ……こん中入るの?って最初は躊躇ったけれど、その外観とは裏腹に建物の中には明かりが灯っていたし、他の建物と違って中に草が生い茂っている様子もなかった。

 一言で言うなら、人の手が入って整備されている状態。


 恐る恐る踏み込んだけれど、横から彼の手下の暴漢が出てくることも、なにかトラップらしきものが発動する気配もなかった。

 なんでこんなところに招かれたのかは相変わらず分からなかったけれど、それでもここまで警戒する必要がないことはすぐに分かった。


 ……って、そうだ。ルイ君に会ったらやらないといけないことがあったんだった。


「そういえばルイ君。上の名前なんていうの?」


 新しい人と自分から関わりにいったことなんて、もう何年前のことだろう?

 初対面の人と会話を円滑に進めるっていう、他の人がオートマでやっていることが私にはマニュアルをこなさないとできない。

 

 ってことで香蓮に「会ったらまず上の名前を聞いてみて。あとはもう私と普段話す感じで全然大丈夫!」って言われたのを、今思い出した。

 ルイ君は学年では有名人の方みたいだから私もギリギリ思い出せそうだったけど、私の凝り固まった頭の引き出しから彼の上の名前を引き出すことは出来なかった。


「……今、なんて言った!?」


 ってあれ?

 なんか予想外の反応だ。

 最初は「お前、僕の名前を知らないのか」とか天狗に言い出すのかと思ったけど、どうやら違ったみたい。

 どちらかと言えば、私の事を何か疑う目で見ている。

 まさか呼び出すだけ呼び出しておいて、上の名前すら教えたくないだなんてことはないよね……?


「そこまで折り込み済みってことか。ま、知ってるなら話は早くて助かるよ」


 ……?

 な、何を言っているの?

 

「え、いやだから私は知らな」

「いや、いいんだ。取り繕う必要はない」


 もしかして何か勘違いされるようなことを言っちゃったのかな。って、ただ名字聞いただけだけど。

 ていうか結局名字教えてもらえなかったな。かといって何回も聞くのは悪いし……。

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