サトシの嫁さん
そりゃあ、サトシは、イケメンやない。ボロいアパートに住んで、ちっこい会社に勤めとる。
仕事でミスして怒られたらしく、家に帰ってから、しょっちゅうメソメソしてる。
けど、サトシは、ワイの命の恩人や。あの雨の夜、気がついたらあれだけ仰山おった兄弟がおらへん。
一人ぼっちで心細うて必死に母親や兄弟を呼んどった。そやけど、誰も答えてくれへん。
冷たい雨に打たれて体の芯まで、凍りそうや。
腹は減るし、もう、あかん。ここでこの世とおさらばや。本当に短い一生やった。。と覚悟を決めとったら、ひょいとワイは、抱きかかえられとった。
「何や、捨て猫か」そう言うとサトシはワイをふところに入れて、家に連れてきてくれ温い風呂に入れて、ミルクをくれて、ほかほかの毛布で寝かせてくれた。
「今日から、家族や」サトシの言葉に嬉しくって泣けてきたで。
それからさとしはワイを大事に育ててくれた
この間も、猫風邪をひいてぐったりしていたワイをものすごく心配して寝ずに看病してくれた。
まだ動物病院開いてない明け方から、ワイを抱いて玄関前をうろうろして、スタッフの姉ちゃんを呆れさせてた。会社に遅刻して怒られたやろなぁ。
それから、「ポンタ」って名前もつけてくれた。ポンタって狸の名前やないか。 まぁ、 ええけど・・・
ワイは毎朝、仕事に出かけるサトシを玄関まで見送る。
サトシは「行ってくるで。ポンタ」って頭をなでてくれる.それからワイは、大急ぎで窓まで走っていって、道行くサトシを見送る。
サトシは、振り返ってにっこり笑って手を振ってくれる。
ワイはその後ろ姿を見ながら、どうぞ、今日は会社で怒られんようにって祈るんや。こんな幸せがずっと続くと思とった。
その日、なんかサトシが、そわそわしてたんや。あっちいったり、こっちいったり。もうすでに掃除の済んでる部屋をまたやり直したり。
そして、サトシは思いつめた顔でワイの体をがくがく揺さぶり「ポンタ。彼女が来てくれるんや。」って言うたんや。
そりゃ、めでたいことやけど、揺さぶるのやめんかい。
そりゃあ、ワイかって1人者のサトシを気の毒に思うとった。毎晩、どうぞ彼女が出来ますようにってお星さまにお願いしとった。
そやけど、いっかなそんな気配がなかった。
ワイは世界中の女性に言いたいで。ええ人やねん。世界一ええ人やねん。
そんな優しいサトシを好きになってくれた女性ってどんな人やろ。
見てくれにとらわれん素晴らしい人なんやろなぁ。ワイもドキドキしてきたで。
そして、チャイムが鳴って「今日は」と入ってきた彼女を見て、ワイは卒倒しそうになった。狸や、狸やないか。
しがらぎの狸の置きもんそっくりや。狸に似てる人間ちゃうで。本物の狸や。狸が服着てる。いくら人間の女に相手にされんかって狸はないやろ。
サトシはものすごくうれしそうや。サトシには、人間の女に見えてんやな。そやけどワイの目はごまかされへんぞ。
それに、水玉のブラウスにしましまのスカートってどんなセンスしとんねん。
着てる服かって化繊やし、持ってるハンドバックは合成や。靴かって、いっきゅうぱっの安もんや
どうせナンパするんなら、金持ちの狸ナンパせんかい。
いや、サトシにそんな甲斐性はない。そんならもっと出世しとる。
どうせ、うまいこと言い寄られたんやろ。
仕方ないのでシャーッっておどかしてやった。そしたら「あら、あら、初めてのお客さんに驚いているのね」と、きどった標準語で言いよった。
違わい。人のいいさとしをたぶらかしよって。怒っとるねん。
狸が帰った後、サトシはしばらくボゥーと夢心地やった。
「ポン太。どうだ。いい人やろ」いい人もなにも狸やないか。ワイは必死にサトシの胸にかけあがってギャン、ギャン訴えた。
(違う。違う、あれは人間やない)
「そうか、お前もそう思うか」
ああ、人の言葉の喋れんわが身がもどかしい。
サトシのおとさんやおかさんも「ええ人が見つかってよかったねぇ」と喜んどる。狸やのに。
そうこうしているうちに、結婚式が済んで、ワイとサトシのスィートルームに狸が入ってきよった。
なんとか、こいつを追い出さあかん。サトシが憑りつかれてしまう。そやけど、一匹のネコの力なんぞ空しいもんや。
二人が仲ようしとる中に割り込んで、ピッタリサトシに張り付いて睨みきかせるんやけど、ちっともこたえへん。
狸は、「ポンタちゃん」などと、なれなれしい。ポンタちゅう名前も気にいらんようになってきた。 いっちょ前に『サナエ』たら人間の女の名前付けよってからに。
おまけに、サトシとサナエって双子みたいやないかい。
そや、長老に相談しょ。長老は、もう五百年も生きとる猫又やちゅう噂や、ええ知恵くれるかも知れん。
満月の夜は集会があるねん。近所の公園へ皆集まって情報交換するんや。
人間みたいに声出さいでも、ワイらネコはテレパシーで会話するよって何匹ネコが集まっても静かなもんや。
さとしたちが寝た後、そーっと窓の鍵を外して(鍵外すくらいチョロコイもんや)公園に行った。おっ、もう皆来とるがな。
長老は、滑り台の一番上に座って皆の話を聞いとる。
「長老、長老。あの狸追い出すええ考えおませんか」ワイは藁にもすがる思いで、聞いてみた。
「実はな」長老は賢そうな顔を曇らせて、言いかけたとき「うちの家もそうやねん」と話に割ってはいってきたネコがおる。
こいつは、角のお屋敷のペルシャ猫のリズや。
こいつはいつも、血統書付きやの、おっきな家に住んで、自分専用の部屋があるやの、飼い主はイケメンのエリートやのと、自慢ばっかりしとるウザいやつや。
そのリズが、「うちのマスター、狐つれてきよった」と、この世の終わりみたいに言うた。なにがマスターじゃい。きどった言い方しおって。
しかし、リズがこれ以上ないほど落ちこんどる。ちょっとええ気味や。あっ、うちもや。
「キツネ~?」皆は驚いたけど、長老だけは、したり顔でうなずいとる。
「そや、二階の窓から見てたらマスターの車が止まってな。マスターと女の人が下りてきはった。
髪の毛なんかさらさらで、流行の服着てエルメスのバッグもってな。靴はイタリアのプラザのハイヒールや。。
うちはてっきり金持ちのお嬢さんや思た。ほら、うちはイケメンやし、エリートやし~、家は金持ちやし~」
そこでリズは、ちろりとワイを見た。なんやねん。そりゃ、うちは金はないし、顔かって十人並みやけど、心の優しさは負けへんぞ。
リズは、うちは勝ち組やといわんばかりにワイを見ている。何や。やんのか。
しばらくして、リズはこりゃ張り合っている場合やないと、気づき、あらためて皆を見渡した。
「二人似合いの恋人や思たんや。そやけど、そやけどな」リズは体を震わせた。「二階のウチに気づいて見上げた顔は、キ・ツ・ネ・やったんや~」
「ギヤァ~」皆はのけぞった。
「そのうえ、そのうえな」まだあるんかい。
「うちにニタリと笑いよった」耳を抑えるもの、しっぽを丸めて縮こまるもの、ひたすら絶叫するもの。
ホラー映画そのものや。その中で「しずかに」という威厳ある長老の声が響き、あたりは水を打ったように静かになった。
長老は、周りを見渡し、
「前々から、町中で人間に化けた狸や狐を見かけたちゅう情報が時々寄せられとるんや、わしらは人の目に見えんものも見えるよってな」と厳かに言った。
「そう言えば、ワテも見たことあるわ」野良一。
「大通り、すまして歩いとった」野良二。
「コスプレ大会でもあるんかいなと思ったわ」野良三
「まぁ、化けるんは、狸や狐の専売特許やよってな」むかいのトラ。「金持ち女に化けるくらいお手のもんや」
ちょい待ち。納得できんで。うちに来たのは、どう見ても貧乏人や。なんでリズん家がブランドてんこ盛りの金持ちでうちが貧乏真っ盛りやねん。ものすご~く納得いかん。
「まぁ、狐は白狐の眷族や。それでもって白狐は金の精霊やよって金はあるわな。」したり顔で長老がのたまう。
「へッ?」
「金持ちは金持ち。貧乏人は貧乏人と相性が合うってわけやな。まぁ世の中の理屈やわな」リズ、なんか腹立つ
「それにな、裏山の大規模な開発で住みかを追われた獣がぎょうさんいてるって話や。狸や、狐が町に下りてきてもしかたないわな」長老は訳知り顔でうなずいた。
「まぁ、このまま様子みようかい」それで集会はお開きになった。
ちょう、うちの狸追い出し作戦は、どないなったんや。サトシが憑りつかれたらどうすんねん。使えん爺さまやで。
腹たちまぎれに、帰りしなリズのふかふかのしっぽを、踏みつけてやった。「フギャ―ッ」言うとったけど、そんなもんで、気がおさまる筈ないやん。
サトシ憑りつかれんうちに、狸、追い出さな。
それから、ワイは、サトシの居ない時を見はかって棚のもん落としてみたり、出来上がった料理の上を歩いてみたり、サナエ狸を引っかいたり、噛みついたりしてみた。
その日、サナエ狸に頭突くらわしておったら、サトシに見つかった。サトシ、びっくりしてる。サトシの前では、ワイそれこそネコかぶっとるさかいな。
「こら、ポン太、アカンやろ」そういうとワイの首根っこを捕まえて、宙ぶらりんにしてから「わしら家族やろ。家族は仲ようせな」と説教たれた。
すると、サナエ狸がこれ以上無いほど優しく「まぁ、ネコのする事ですよって」と言いよった。
なんちゅう上から目線や。ハラワタ煮えくり返って腹の中爆発するわ。狸がネコより偉いんか、言うてみいっ。
意外の事にサナエ狸は、ええ嫁やった。かいがいしくサトシの世話をし、家事にも手ぇ抜かへん。近所付き合いもそつなくこなす。
「ええお嫁さんやねぇ」褒められるサナエ狸はものすごく嬉しそうや。サトシも喜んどる。サナエ狸は、サトシに憑りつくはずやのに、えらい想定外やないか。
集会でリズに狐はどないやと、聞いてみた。うちとよう似たもんやった。ワイとリズは顔を見合わせ、肩を落とし深いため息をついた。そのうちリズが気を取り直したのか、
「そやけど、うちのはものすごいべっぴんらしねん。うちへ来るお客は、みな目ェ丸うして美人、美人言いはる。うちの目には狐にしか映らんけどな」と言いよった。
「まぁ、狐が化けるのは、みな美女と決まっとる。玉藻の前からの習わしや」長老がしたり顔でうなずく。玉藻の前?誰や?
「玉藻の前言うたら、平安時代、鳥羽上皇の寵姫やった狐や。絶世の美女で大変な博識の持ち主やった」
「べっぴんの上、頭もええんか。うちのご主人にぴったりやな。まぁ、 狸がべっぴんに化けたちゅう話は、聞いたことないなぁ。
うさぎにええようにされたカチカチ山のまぬけな狸は知っとるけど」なんで、いちいちワイを見る。
長老のウンチクは続く。
「まぁ、最後には、正体見破られて退治され、那須野原で殺生石になったちゅう話や」ええ気味や。
「あのな、それからな」リズが大慌てで、割り込んできた。
なに、あせっとるねん。
「うちのは、仰山、お金持ってんねん。このネックレスかて買うてくれたんや」リズのふさふさの毛の間から、キラキラした首輪が見える。
光る石はめこんだえらい重たそうな首輪や
「あのな、言うとくけど、これはガラス玉やないで。本物のダ・イ・ヤ・モ・ン・ドや」さよか。ワイのは、特売のビニールや。
軽いし、気にいっとる。 第一、それ肩これへんか。
「それからな、ご飯かって毎回まぐろやひらめの刺身が付いてくんねん。正直もう飽きたけどな」
鼻の穴おっぴろげて、ワイを横目で見る。
そうか、張りおうてんやな。
ワイのはスーパーの{猫満足}ちゅう大袋や。栄養士はんが一生懸命考えてくれたバランスとれた栄養満点のご飯や。
ひらめやの、まぐろやの、そんなもんばっかり食べとったら、成人病になるわ。
何ぞ、自慢たらたらのリズに対抗する話ないか。そや。
「うちのサナエ狸は所帯持ちええねんぞ。いつも、スーパーのチラシ見てちょっとでも、家計浮かそう思て研究しとんねん」そう言うとリズのやつは、鼻の先で笑いよった。
「貧乏くさい話やな。うちはお手伝いさんがいてるよってスーパーの安売りのチラシなんか見たことないわ」こいつ、いつにもまして腹の立つやつや。
あれ、ワイいつの間にサナエ狸の肩もっとんねん。
なんかムシャクシャしてきたよってリズにネコパンチくれてやった。「何すんねん!」リズも応戦してくる。
「やめぃ、やめぃ」ニャゴ,ニャゴ、ギャオ、ギャオ、
皆の声を、バックにワイとリズの攻防戦は、窓を開けた人間が、「ウルサイッ」と叫ぶまでつづいた。
しかし、キツネ憑きちゅう話は聞くが、タヌキ憑きちゅう話は聞かんなぁ。
ちょっとアホ寄りの庶民代表選手のサトシに憑りついたって何もええ事ないしなぁ。
もやもやした気持ちが、晴れん。時々、思いだしてサナエ狸にいやがらせしてるうちに、なんかサナエ狸が丸くなってきよった。
何や、自分一人でええもん食べよんのかぁ。ワイにもたまには新鮮な刺身喰わさんかい。
そして、運命の日がやってきた。
サナエ狸が苦しがっとる。ど、どないしょ、どないしたらええんや。
こんなん初めてや。ハンマーで叩きつぶしても、ゾンビみたいに生き返る思てたサナエ狸が、ものすごく痛がっとる
ワイかて鬼やない。狸、出ていけ思てたけど、苦しんでるの見たら焦るわい。
そや、救急車、救急車!119や!
…そやけど、ワイの言葉分かるんかぁ?ただ、ネコがギャァ、ギャァ騒いどるだけにしか、思てくれへんや。ああ~体二つに折って痛がっとる。
ワイは、サナエ狸の周りをうろうろ走り回るだけや。
と思たら、しばらくしてケロリとし、落ち着いてサトシに電話をしとる.と、また痛がる。その繰り返しや。どっちかにせんかい。
サトシが、血相変えて帰ってきた。ものすごく興奮しとる。「ポンタ、弟か、妹、生まれんぞ」と宣言した。なにぃ~?
ワイかて家族の一員や。それでもって長男や。ネコやけど。
そやけど、狸の兄弟はいらんわい。
狸の子生まれたら、さすがにサトシもショク受けるで。
あかんぼうは、まだ、人間によう化けやんやろし。
何かサトシが帰ってきはらへん。ショックのあまり、川に飛び込んだりしてへんやろな。生きた心地せんで。
ワイには、どうしょうも出来ん。しょせんネコやしな。
・・・ひょっとして、サナエ狸、亡くなったんちがうやろか。お産で命落としてしもたん違うか。お産は命がけいうよってな。
あれは、あれで、ええとこいっぱいあった。なにしても怒らへんし、ワイやさとしに精一杯尽くしてくれた.
、ワイときたら、高いとこから、サナエめがけて飛び降りたり、雑巾バケツひっくり返して部屋中水びたしにしたりした。悪かったなぁ。
いや、サナエが狸なんが一番悪いんやけど。しんみり今までの悪行を反省し、最悪の結果を想像して落ちこんどったら、満面の笑顔でさとしが帰ってきはった。
「生まれた。生まれたぞぅ」ワイを抱き上げダンスするみたいに部屋じゅうをグルグル回る。目が、目が回る。
そうか、狸の子ぉやなかったんやな。それとも、サナエ狸に目くらましの術でも、かけられたんか。ワイは騙されへんぞ。
・・・なんかワイって根性悪ないか。
サトシに抱かれて帰ってきたあかんぼうは、かわいらしい、ちゃんとした人間のあかんぼうやった。それに、何や、サナエ狸が人間に見える。ワイの目どうかしたんやろか。
昔からネコは、見えへんものが、見えるちゅう神通力をもっとるのに。
えらいこっちゃ。目医者に行かな。しかし。ネコ専門の目医者って聞いたことないで。
うつうつとした気分でおったら野良一が、今夜集会があるとテレパシー飛ばしてきた。何や。今夜は満月ちゃうぞ。
不思議に思いながら、いつもの公園に行くと皆集まっとる中にちんまりと人間の女が二人座っとる
1人は、細面の美人や。もう一人は、ぷっくりして愛嬌がある。
お姫さんとお付きのお女中みたいやな。
何で、秘密のネコ集会に人間がおるんや。ここは猫カフェちゃうぞ。
滑り台の上の長老が皆を見渡し「今夜集まってもらったのは、他でもない。ここにいるお二人から、皆にお願いがあるそうや」と言うた。
・・・いつも思うけど、長老、牢名主みたいやな。
長老が言い終わると、二人は顔を見合わせうなずきあった。
何や、何や、なにが起こるんや。固唾をのんで見守る皆の前で、二人は、空中で一回転した。そして、そこには狐と狸が座っておった。
「わたくし共は、裏山の大開発によって住かを追われた狐と狸の代表でございます」二人が頭を下げた。
「皆さまは人間があまりにも傲慢であるとお思いではありませんか?」狐が口を開いた。
「地球は人間だけのものではありません。自然を破壊し大気を汚染し他の種の尊厳を踏みにじり発展してきたのが、人間という種なのです」
狐、なにを言い始めるんや。
「大いなる力は、化身の術を持つ私たちに本来の地球を取り戻せと命じられました」
皆、キョトンとしとる。「大いなる力ってなんや」誰かが言った。
「地球の声でございます」
「どうする気ィや」又、他から声が上がる。
「人間との間の子が礎となり、人間社会を破壊し、本来の地球を取り戻します」
なんやとー。そんな大それた事が出来るんかいな!
「人間は、地球の全生命体にとって害悪でしかないのです」
狐の目が青く光った。
「皆さまも同胞が人間の都合で殺処分されているのはご存じでしょう」
テレビで見たことがある。殺処分される為ガス室に入れられた沢山の犬や猫の悲しそうな目が忘れられん。
「皆さま方は、私たちの真の姿を見抜くお力をお持ちです。どうか、地球の全生命体の為ご協力をお願いします」
二匹は深々と頭を下げた。
「はよ言うたら、狐や狸見ても、ちょかいかけんなっちゅうことやな」野良一。
「威嚇したり、追いかけまわしたりすんなと」フンフンと野良二
「そう言えば、この頃、町で狐や狸あまり見かけんようになった」と野良三
最初は短い時間しか人間に化けていられなかった狐や狸も訓練の賜物か、今では長時間化けていられるようになったらしい。
そうか、ワイの神通力がのうなったわけやないんやな。安心した。
「分かったか」長老が皆を見渡した。
「ハイ」
「ホイ」
「ファーイ」
皆気のない返事。リズでさえ横向いてあくびしとる。
大体ネコちゅうもんは、気まぐれなんや。町中に狐や狸あふれとっても、興味のうなったらどうでもええんや。
そやけどワイは違うで。
「人間社会に溶け込むには役所で色んな手続きせんならん。住民票や、戸籍謄本どないしたんや」
ワイは、キッと二匹を睨んで問い詰めた。
(ああ~面倒臭い奴や)皆うんざりした顔でワイを見ている。
何やねん。自分にやっかい掛からんかったら、どうでもええんか。と聞きたいとこやけど、(当たり前や)ちゅう答えが返ってくるに決まってる。
「それは、木の葉でちょいちょいと・・・」
狸が、ぼそぼそ言いよった。ごまかしたんか。
「ポン太さま」狐が進み出た。なんで名前知っとるねん。
「サナエが、おたくさまでごやっかいになっているのは存じております。この度、おたくのご主人さまとの間にお子をなしたとか。
これこそ我らが理想とする本来の地球を取り戻す礎となるお子でございましょう」そやから、何でワイのうちのプライバシー知っとんねん。
狐がワイを見据えた。こ、怖いやん。
「わたくし共にも、あなた様方同様神通力、がございます」
目、目が笑ってへん。」二匹は地面に手をつき頭を下げた。何や。こっちが悪者みたいやん。皆の冷たい視線が突き刺さる。
「まぁ、まぁ、ポンタかてあんたらや地球の声とやらの計画がうまいこと進むんか心配しとるんや」
長老が、とりなしてくれた。狸がおずおずと進み出、頭を地面にこすりつけた。
「どうか、どうか、サナエと仲ようしてやって下さい」
だから、その土下座止めんかい。
隣の狐の目が青く光ってワイを睨みつける。
「地球は、人間だけのものではございません、そして、いつまでも地球の支配者であるという保証もございません」
どういう意味じゃ。住か追われて怒るんは分かるけど、ワイに当るんは止めんかい。それにしても、狐、怖いんじゃぁ~
帰り道々、ワイは考えた。人間は万物の霊長たらで、思いあがっとるん違うか。ジャイアントモアも、タスマニアタイガーも、ドードー鳥も、皆人間の都合で、絶滅してしもた。ワイら犬や猫は人間のペットとして生きのびた。狐や狸は人間社会に融合して生きのびようとしてる。(なんちゅうても化けれるっていうのは強みやで)。そして、人間と結婚して次々子を作る。そしたら、いつかその子や孫やその子孫が、社会を形成する。
己が発展の為、他種を犠牲にし築いてきた人間の文明を破壊し、地球をあるべき原始に戻す。
荒涼としたビル街を闊歩する動物たちが目に浮かぶ。そんな計画が着々と進行しとるんと違うやろか?
そんなとりとめもない事を考えていたら、家に着いた。窓に明かりが点いとる。
そーっと窓を開けたら、あかんぼうを抱いたサナエがいてワイを見て「おかえり」と言った。どこから見ても、立派な人間の母親や。
あかんぼうが、無心に乳を吸っとる。このあかんぼうが、次世代の基礎を作るリーダーやて?本当にそんな時代が来るんか?
とか思いながら、あかんぼうを見ていたら、サナエが小首をかしげ「さぁ、どうでしょう」と笑った。
終わり




