日常
「いや、いやいやいやちょっと待てい!」
「これは命令だ。二度は言わん」
「なんでじゃあ!」
思わず立ち上がる。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
月詠お前、何言ってんだ?こちとら普通に憑かれて死にかけた素人だぞ!?
”すごいはなしだ、よかったねそうた!”
「良くねえわ!」
”そうなの……”
月光お前、実は話良く分かってないだろ……。
一気に脱力して、ぼすんとソファに座り直した。
なんとかしてこの子を説得しなきゃ……。
「いや、あのな月……緋村。俺今日こいつに憑かれて死にかけたからね?流石に国の仕事は無理かなー、なんて……」
「あぁ、面倒臭いな……命令だと言っただろう?これ以上同じことを言わせるのか?お前は馬鹿なのか?私は馬鹿と雲丹がこの世で一番嫌いだ」
露骨に顔を歪ませ、毒突かれた。
俺の脳内で悪口と書かれた板が勢いよく滝壺へと滑り落ちていく。
雲丹が嫌いとか贅沢な奴め!と喉まで出たけど我慢だ。
人間同士の喧嘩を見兼ねたのか、昂炎が俺たちの間に入ってくる。
”あー……水谷クンごめんな?一応理由としては、お前さんと月光の管理を効率よくする為なんだ。その体質だとまたいつどんな霊に憑かれるかも分からんからな”
「ま、まぁそれは確かに……」
”てへへ”
”月光は褒めてないからな”
月光がしょぼーんとして俺の膝に帰ってくる。
俺はそれを見て、溜め息。突飛すぎる。
体質は仕方ないけど、いくらなんでも損しすぎだ。
「だからお前はここで働け。もう言わんぞ」
”まず一週間でいい!どうしても駄目そうなら無理にとは言わねえ。高校生だしな”
「はい……」
ぶっきらぼうな月詠と、諭すような口調の昂炎にもそもそと返事をした。
こうして、俺の日常はおかしくなりはじめた。
「えーと……今日は水曜、だから仕事はないな」
”だねー!”
月曜から月詠の手伝いを始めて、もう3日目だ。
水曜日は俺の友達が全員部活が休みの日だから、交友関係を邪魔しない為だとか言って仕事を休みにしてくれた。
仕事とは言ってもまぁ、難しそうな書類と向き合う月詠をぼーっと見てるだけなんだけど…。
帰り支度を終えた俺に、友人の1人が話しかけてくる。
「創太ー今日は暇かよ?」
「トモ!暇だよ、どっか行くか?」
「おお、ボウリングとかどうよ?他の奴ら誘ってくるわ」
「へーい」
手をひらひらさせて駆けていくトモを見送る。
ここのところずっと月詠に拘束されてたからなぁ。解放感がすごい。
まぁ、月光はいるんだけど……慣れてきたしもういいや。
”たのしそう!”
「いやー楽しいぜ?あ、ボウリングって分かるのか?球を投げて立ってるピンを倒すんだよ」
”いいなー。ぼくもぼうりんぐ、したいー”
出来ないじゃん。
月光を見上げた瞬間、ドタドタとトモが帰ってきた。
「っしゃー創太!久々に投げまくるぞ!」
「おっやったね!」
どうやら1チーム分誘えたみたいだ。テンション上がってきたぜ!
「そうと決まれば早いとこ家帰って着替えねぇとな!場所はいつものとこでいいのか?」
「おーよ!じゃあ後でな!」
鞄を引っ掴んで出ていくトモ。
嵐のような奴だ……いい意味でな?
俺も早いとこ帰らなくちゃ。