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ダスク・シンドローム  作者: 有町 衣
信頼関係
14/18

上司命令

 俺たちは気を取り直して、歩き続ける。


 やっぱり龍香は何か言うわけでもなく、紅い目でじっと前を見て歩き続けている……。


 仕事と霊のことだったら結構会話がもつと気付いた俺は、頑張って龍香に話しかけた。


「ところで今日の見回りってのは、具体的には何するんだ?」


 学校からずっと、俺たちは特に何をするわけでもなく歩き続けている。

 わくわくの俺をよそに、龍香は特に表情を変えずに言った。


「特に何も」

「へ?」


「見張るだけでも抑止力になる。勿論変なやつが居たら何とかしなきゃならんが」


 思わず拍子抜けだ。

 何もしないなんて……今までしていた覚悟と期待が空振りして、安心したような、ちょっと残念なような。


 ってか一言で会話終わっちゃったよ。

 どうしよう。


 月光と目を合わせて首を捻りあう。


「そういうもんか……」

”もんかー”

”まぁ取り締まりの仕事なんて、仕事無いのが一番良いんだから”


 俺たちの間の抜けた声に、昂炎のなだめが入る。


 言われてみればそりゃそうだ。


 でももしものために俺は強くなろうってこの間決めたわけで、実際龍香はもしものシチュエーションにも対処できる実力があるわけで。


 札を手に霊に立ち向かう龍香の背中と、その手で紅く身を焦がす昂炎を思い出す。


 つまり俺は、早く色んなことが出来るようになりたいんだ。

 平和なのは勿論嬉しいことなんだけど、焦れったい。


「……簡単なことじゃないと思うんだけどさ、俺早く色々出来るようになりたいんだ。龍香、教えてくれるって言ってたよな」


 焦れったさが声に出てたんだろうか。


 眉をひそめた切れ長の目が俺をじっとりと睨みつける。


「急ぐな。すぐに教えられることでもない」


 それだけいうと、龍香はぷいっとそっぽを向いて早足で歩いて行ってしまった。


”おいおい”


 もー怒りっぽいんだから……昂炎がぶつくさ言いながら、しっぽのような黒髪を追いかけて行く。


 俺は盛大にため息を吐いた。


 何だよ。

 分かっちゃいたけど、何もそこまでピシャッと言わなくたって……。


 龍香が特別俺を嫌ってる訳じゃないとは思う。


 でも俺は、こんな奴とこれからやっていけるだろうか。


「……あぁ、そうだ。水谷お前」


 だらだら足を進める俺の10歩手前で、龍香がピタリと立ち止まる。

 へ、と間抜けな返事をする俺を振り返って、龍香はその射抜くような紅目を向けた。


「これから勝手に力を使うな。エネルギーの譲渡なんてもってのほかだ。……危ない」


 ……何だよ、それ。


 すたすたとまた歩いて行く龍香を目の端で見送る。


 この間は付いて来いって言ったくせに。


 ちゃんと教えてくれるんだろうか……?


 むっと来た感情を、深呼吸で落ち着かせる。


 落ち込んだ俺を慰めるように、傍らの月光がぺかぺかと光った。



 ・・・・・・と、その時。

 500mくらい先だろうか。


 湧き出すように、何か大きな力が蠢いた。


 いや、もっと正確にその時の感覚を表現するなら・・・・・・地中から巨大な、自分の体の何倍もある蛇のようなものが突然顔を出したみたいな、そんなどうしようもない力。


 はっと顔を上げて、周囲を見回した。


 昂炎も気が付いたらしい。


”龍香、おい”

「・・・・・・」

 

 龍香は、難しい顔でじっと前方を睨んでいた。

 纏う空気がピリピリ張り詰めていて、触ったら爆発するんじゃないかなんて思うくらいの緊張感だった。


「・・・・・・・・・・・・まだ何もしていないみたいだが、一応、見に行ってみるか」


 慎重に口を開く龍香。

 俺はそれと同じくらい慎重に頷いた。


「・・・・・・西のほうだったよな。行こう!」


”待った!”


 西に向かって歩き始める俺に、昂炎がストップをかける。


 どうした・・・・・・?


 立ち止まる俺に、付いてきていた月光がぷぎょっとぶつかった。


”お前何にもしてないのに、どこにアレがいるか分かってるのか?”



 龍香がはっとしたように俺を見た。

 俺は訳が分からずに、うろたえながら答える。


「そりゃ何となく分かるけど、それがどうしたんだよ・・・・・・?」


 何で黙ってるんだ、昂炎・・・・・・?

 龍香も何を考え込んでるんだ?


 不思議に思っているとそのうち、龍香がややあって話し始めた。


「・・・・・・やはり普通じゃないな、お前の体質」


 俺が首をかしげていると、龍香はそのまま続ける。


「色々と説明すべきだが、今は急ごう。西だったか」

「あ、あぁ・・・・・・」


 俺が曖昧に返事をするや否や、龍香は歩き始めた。

 ・・・・・・本当になんなんだ、一体。




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