仲良く帰ろう
龍香と並んで校門をくぐる。
グラウンドのサッカー部の奴ら、見てないだろうな。
変な勘違いするんじゃないぞ!
しばらくお互い無言で歩いていると、龍香の鞄から見慣れた炎が噴き出してきた。
”ぐあああぁ、お前ら何か喋らねえのかよ!”
「い、いやまあ……追い追いね?」
”なんだそりゃ”
俺が諌めると、苛立つように広がっていた炎はじりじりと縮んだ。
だいたいリンゴ1個分くらいの大きさに落ち着いた昂炎は、いつものように龍香の後について飛ぶ。
同じようにして俺の後ろをぽよぽよついて来る月光の気配を感じつつ、俺はまた無言になった。
考えてるんだよ、さっきからずっと。
龍香と何話したらいいんだ……?
共通の話題なんてあるだろうか。
チラっと隣を歩く龍香を見る。
龍香ってクラスに友達居ないよな。
ボウリングとかアクトとかも行かないだろうし、女の子の好きそうな雑貨や服の話なんて俺、分からないぞ。
と、なるとやっぱり霊の話か。
なんか芸がない気もするけど、俺も俺で色々聞きたいことはあるし……。
雑談はそのうち出来るようになるかな……。
よし、と結論を出して、口を開く。
「龍香、俺気になってたんだけどさ」
「どうした」
「昂炎ってどういう霊なんだ?」
”俺の話?嬉しいなぁ”
後ろにいた昂炎が、俺たちの目の前に回り込んでくる。
月光が真似してついてきているのがなんとも可愛いけど、月光はなんで昂炎の真似をよくしてるんだろう。
龍香はふむ、と下唇を指で撫でながら答えてくれた。
「霊というよりは、神だ」
神。
「……えー」
神!
龍香に言われた言葉を反芻して、理解するやいなや俺ははいいいい!?と叫んでいた。
だって、神だぞ?めちゃくちゃ凄い奴じゃないか!
龍香は路上で叫ぶ俺にしかめっ面を向ける。
「そんな叫ぶな」
「だって……神って……!」
「結構居るもんだぞ。八百万の神って言うだろう。結構でたらめな存在だ」
「そ、そういうもんか……?」
あんまり納得出来ないし、声がうわずってしまう。
”そうそう、俺は火の神だけど、火の神だけでもなんでだか結構な数いるからなー。俺なんか下っ端、下っ端!”
首を傾げる俺の背中を、昂炎が楽しそうに突き飛ばす。
龍香はそれを見ながらも表情を変えずに続けた。
「誰かに信じられている限り、存在する。昂炎は下っ端とは言っているが、私達人間からすればとんでもない大きさの力を持っている」
「前に聞いたエネルギーの話で言うと、信仰心が神様のエネルギーになってるってこと?」
「そうだな。なかなか良い調子じゃないか」
龍香に褒められるのは、悪い気分じゃない。
ちょっと偉そうだけど……。
「しかしあれだな、神様でも見た目は月光とあんまり変わらないもんなのか」
”ぽよー”
”なっ……失敬な!”
思わず本音を言うと、ショックを受けたのか昂炎がごおっと抗議するように燃え上がる。
”色々出来るし!俺はこのサイズが楽だからこうしてるだけで……!”
「わ、分かったって!悪かったよ!」
昂炎があんまり火の粉を散らして抗議するもんだから、俺はすぐに謝った。
すぐ近くでぷかぷか浮いている月光に目線を移す。
「……月光も似たようなもんなのかな」
「そうだな……まだよく分からんが」
龍香に付いて歩きながら、二人して首をひねる。
落ち着いた昂炎がややあって口を挟んできた。
”うーん……俺の見た所、そんな気はする。ただそれにしては何も知らなさすぎるし、でも新しく生まれた神にしちゃ力が強すぎる……本当一体、何なんだこいつ……”
”ぼくもわかんない!”
”そうかよ……”
はつらつと答える月光。
昂炎が人間だったら、がっくりと肩を落としていただろう。
実際人間の俺は脱力のあまり肩を落とした。
龍香も肩を落としこそしないものの、微妙な顔付きになったことが俺にも分かった。
全く、何なんだ、こいつは……。