第71話 一難去って
研究所に冷房機器が完備された。
さらに冷凍庫も増設され、施設としての能力はほぼ完成に近づいたと言えるであろう。
その後、再び買い物に出かけ……その途中、この前のラブホテルにも立ち寄ったりしながら、食料の備蓄量も増やして体勢を万全としていた。
先生のためのアイスも大量に購入して備蓄してある。今までは暑い最中だったため、ガリガリ君に代表される氷菓子ばかりだったが、クーラーの効いた部屋で食べるならバニラアイスの方が先生は好きらしい。量も充分なので、今度は僕もご相伴に与れるであろう。
冷凍食品の類いも、多めに購入して籠城にも備える。最近では野菜の冷凍食品まで出ているので有効に活かそうと思っていた。
……………
相変わらず猛暑は続いていたが、冷房の威力はまさに覿面であった。
研究棟の方の冷房も早々と設置を済ませ、今では建物内のどこにいても快適と呼べるような状態を維持できている。
そして、食欲増進のために、先生には秘伝の料理を食べてもらうことにした。
以前植えておいた、赤紫蘇と葱がようやく食べられるところまで育ったので、僕はそれらを使って『紫蘇味噌』を作ることにしたのである。
◯材料
・赤紫蘇 ボウル1杯(多ければいくらでも)
・青ねぎ 20本ほど(多ければいくらでも)
・赤味噌 カップ1杯(200gくらい)
・酒 大さじ3
・みりん 大さじ1
・砂糖 カップ2/3杯
・顆粒だし 小さじ1
・食用油 大さじ1(ごま油を使うと香りが良いのでお勧め)
まず、赤紫蘇と葱はよく洗ってみじん切りにする。
その後、厚手のフライパンに油を引き、紫蘇とねぎを入れて全体がぺたっとするまで炒める。
その後、赤味噌と調味料を全て混ぜ合わせたものを、先程の炒めたフライパンに投入。(味は、甘辛いほうが美味しいので、材料の量とお好みに合わせて砂糖を増減すると良いでしょう)
かき混ぜながら弱火でじっくり炒め、水分が適度に飛んだら完成である。
難しくはないが、紫蘇の処理が割と面倒で、毎回作りたくないので一度に大量に作り貯めておくのである。
味噌と銘打ってはいるが紫蘇は多いほど良いので、その場合は「紫蘇の味噌炒め」みたいな見た目である。
さて、この紫蘇味噌。
食欲の落ちる夏場でさえも、抜群の食欲誘引効果を発揮してくれるのである。実際、僕はこれだけでどんぶり飯3杯はいけるのだ。
他にも、茹でたてのうどんに絡めたり、きゅうりに付けて噛ったり、野菜炒めのベースの味付けに使ったりと応用も効く、誠に便利な食べ物なのである。
「───深山くん、ご飯おかわり!」
「はい、いっぱい食べてくださいね」
──この味噌を作ってからというもの、先生は朝晩かならずご飯をもりもりと食べるようになったのである。少々、塩分過多が気になるところではあるが、汗も大量にかいているので、夏場の間は気にするほどでもないだろう。これと梅湯のおかげで、先生の食欲は以前と変わらないくらいまで回復したのだ。むしろ、いつもよりたくさん食べているくらいである。
「ご飯が美味しいって、幸せよね~」
「ほんと、そうですよね」
二人で囲む食卓は、いつものように明るく楽しい。
先生の体調も万全で、心配事が一つ減った気分であった。
これで夏場は無事に、乗り切れるかな……そう思っていたのだが───。
………………
……先生がお風呂に入ったタイミングで、僕はネットの天気予報をチェックした。
この猛暑がいつまで続くかという確認のためであったのだが、どうも3~4日後から天候が崩れだすらしい、ということが報じられていた。
「──土嚢を用意しておこうかな……。あとは、地下水槽の入口の加工もしておこうか」
地下水槽への入口は一段高くなっているのですぐには浸水したりしないだろう。しかし、予測を超えて敷地が冠水したりすると、地下水槽へ雨水が流入してしまうことも考えられる……。
そこで、入口の金属ドアの下半分を溶接してしまって、封鎖してしまおうと考えていたのだ。地下は、現在ではめったに行くこともない。確認の際に入れればいいだけなので、思い切ってドアを半分に切って上半分だけ開閉するようにしようと考えたのだ。これなら、1mくらい冠水したとしても、雨水の流入は避けられる。入口に踏み台を用意しておけば、その状態でも充分出入りは可能だろう。
先日、クーラーを搬入してきた際に源さんに追加で溶接機の手配を頼んでおいたのだ。それが、今日の午前中に、西藤さんによって置き配されたと連絡を受け、正門前に行ってみた所、しっかりと梱包された機材が置いてあったのだ。
これがあれば、扉の加工が可能である。
扉を下半分で切断して、その部分を溶接してしまえば堤防の役割を果たすだろう。
うん、これは明日早速取り掛かろう。
土嚢の準備は……、先生にも手伝ってもらって多めに作っておこうかな。
件の、浴室のタイル絵の制作が終わってしまったため、先生の気分転換にできる作業が無くなっていたのだ。そのため、研究所周辺の草刈りや壁の修繕など、こまごました作業のときは、先生も外に出てきて手伝ってくれることが増えてきたのだ。
少々、申し訳なくも思っていたのだが、先生自身が楽しんでやってくれていることなので、僕としては不満はなかった。むしろ……、一緒の作業ができて、僕自身とても満たされた気分になっていたのである。
───研究棟の作業で、僕にできることは無い。
普段から一緒にいるのに、共同作業というのは驚くほど少ないのだ。
だから最近では、簡単な作業で人手が必要なときには、朝のうちに積極的に話して先生にも手伝ってもらうことにしていた。
本業の方への支障が心配でもあったのだが、そちらは順調だというので、先生のメンタルヘルスを優先させてもらうことにしたのである。
そして、その数日後……いよいよ天候が悪くなってきたのであった。
猛暑に続いての、大雨の予感である。




