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第13話 先生、それはズルいです!

 先生が僕のことを色々調査してあるというのは、間違いなく本当のようだ。


 自慢できるほどではないが、僕は様々な現場仕事を経験している。

 それこそ、完成クオリティを気にしないのであれば、平屋の家一軒くらいならなんとか作れるかもしれないほどだ。電気配線、水回り配管まで含めて、全部一通りはやったことがある。


 もちろん、技能資格を持っているわけではないし、お金がとれるほどの仕上がりでもない。

 しかし──、当座の間に合わせ程度でいいなら、充分対応できるだろう。

 

 先生の、この不十分な活動環境を賄うくらいならお手のものだ。他人に見られてはいけないというなら、……むしろ、うってつけとも言えるであろう。


「僕の技能が必要って、そう言うことだったんですか……」


「ええ、そうよ」


 だが肯定しながらも、先生は別な理由も述べ始めた。

「でもね、一番の理由はあなたの……周辺環境が大きいわ」

 先生は、遠慮がちにそう言った。


 周辺環境、という遠回しな言い方をしてるが、要は僕に身寄りがいない、ということだろう。


 ───情報漏洩の、決して少なくない要因の一つに家族の存在がある。

 おまけに、こんなド田舎であれば村全体の距離感が家族に近いだろう。噂など、一瞬で広がるのは間違いない。


「……その上、交遊関係もごく少なくスマホも持っていない……。SNSの使用履歴も皆無。性格的にも堅実で実直……」

 先生は他にも付随する条件を並べていた。


 それほどに……

「秘密厳守が重要……、ということなんですね……?」

「その通りよ」

 先生は、少し固い表情で頷いた。


「……でもね、あなたという協力者から情報が漏れないなら、リスクはほぼ無視できるわ。一番のネックが、協力者の信用だったから……」


 そう言って先生は、今度は少しいたずらっぽい微笑みをした。

 それを見て、僕はむしろ不思議になった。


「……もちろん、僕は絶対に漏らしませんし、その自信もありますけど……」

「なぁに?」

 先生の瞳に、興味という名の光が宿る。


 ……まただ。

 僕は、先生のこの瞳の光に弱い気がする。

 興味と好奇心……その奥にある、開拓者のような探求心が……僕の気持ちを否応無くときめかせてしまうのかもしれない───。


「……そ、その」

 ちょっと、恥ずかしくなってしまう。


「よく、信用する気になりましたよね? 僕なんか……。そりゃ、僕はこういう人間ですけど……ただの、身寄りの無いだけの高校生ですよ?」


 すると、先生は、くすくすと笑った。

「もちろん、手放しで信用した訳じゃないわ」


 それは、そうだろうけど……

「その、差し支えなければ……、僕のどこが…お眼鏡に適ったのか……」


 教えてほしいと思った、その訳を。


「明確なものは無いわ、直感よ」

 先生の答えは意外だった。

「勘……、ですか?」

 すると先生は、う~ん、と少し首をかしげた。


「……勘、って言うとね、ヤマ勘かよ、って思うかもしれないけど……。でもね、経験と論理に裏打ちされた勘って、侮れないのよ?」


 そう言って、また先生は楽しげに僕を見た。

「でもね、あなたに関しては自信があったの。……実は、はっきり、あなただ! って決断したのは、さっきなのよ。ふふふっ」


 え、さっき……?

 さっき、って……


「え?え、……身体の…相性とか、そんな…アレですかぁ!?」


 僕は、思いっきり動揺してしまう。

 初めてだったのに、そんなに良かったのだろうか……?


「あ、そっちはね……。まだまだよ?」

「あぅ……」


 ……わかってたけど、ちょっとショック。


「心配しなくても、そっちはあたしがしっかり鍛えてあげるから♪」

「……き、鍛える、って…」


 ふふふっ、と先生は愉快そうに笑う。


「少しはあたしにも、年長者っぽいこと言わせてよ~♪ ……入口で言われた、あれ。……あたし、結構ショックだったのよ~?」


 入り口での、あれ……


「あ、人を殺めるとか、そういう?」

「……それもショックだったけど。……そうじゃなくて」


 先生は、少し胸を張って腕を組んだ。少し、諭すような表情も見せている。

 これは、虚勢を張るときに見られる姿勢だ。先生は……僕に、劣等感のようなものを持っているというのだろうか……?


「……あの、言葉の切り込み方。あれ、何よ!?……うっかり真に受けちゃったじゃないのよ! ……おまけに、勘違いだったしっ!!」

 先生は、憤慨して……、少し悔しそうでもあった。


 ああ、あれは……、


「あれは……、説法の組み立てなんです。上手くできてるか、自信無かったんですけど……、僕にはあれしかないと思って……」


「説法?……お坊さんの?」

 先生は、不思議そうな顔をしている。


「はい」


 ───説法の組み立ては、


 始め、(おごそ)

 (なか)可笑(おか)しく

 終り、(とうと)


 と言うのがセオリーである。


 自然と、話に引き込まれる、説法術の基本だそうだ。


「───落語というのは、この説法の『中、可笑しく』の部分を切り出したものである、という説があるらしいですよ」


最後に、そんな豆知識も添えておいた。


「……お坊さん仕込みだったのか。道理で……、んもぅっ! ……思い出すと腹が立つのよ!」


 すみません……。

 説得力は、あったみたいだけど……。

「腹を立ててしまうようでしたら、僕の説法は失敗ですね……」


 今度もう一度、ちゃんとしたものを栄蔵師に聞いておこう。


「──だからね、悔しいからあなたの内面を利用させて貰ったの。ちょっと狡いけど……これでおあいこ……バランスとらせて貰うわよ?」


「バランス?」


 つまり、何か僕も仕掛けられていたということかな?


「正直…始めはね、年頃の高校生だから……性欲を刺激してやれば、ある程度縛れるっていう打算もあったんだけどね……」

 そう言って先生は、少し苦笑した。


「いえ、効果抜群でしたよ……」

 これに対抗できる男は、いないんじゃないかな。


 自分で言うのもなんだけど、先生の魅力的な裸で、僕は思考力の殆どを奪われていたようなものだ。


「……あの、説法?…あれ聞いたから、私も確信したのよ……もっと、確実なものがあるって♪」


「え?……性欲……よりもですか!?」


 あり得無いだろう……。

 僕の必殺技、般若心経でさえ対抗できなかったのに。


「あなたは、いざとなったら……自分の事は平気で犠牲にできる人よ……。だから、退学とかその程度のものじゃ、あなたは縛れないわよね?」


 いえ、結構それでも辛いですけど…!?


「……でも、自分以外の誰かが犠牲になるなら……、あなたは絶対に芯を曲げない人よ」


「…………」


 そう、なんだろうか。

 僕だって自分がかわいい、いざとなったら我が身惜しさに変節するかもしれないと思うのだが……。


「そんなこと無い、っていう顔ね?」

「……そりゃ、そうですよ。僕は、そんな……強い人間では……」


 すると先生はなぜか、してやったり、という顔をする。


「言うと思った♪ だから……、あなたと……()()のよ……。もちろん、手付金の替わりっていう意味もあるけどね、ふふふっ」


「…………」


 やっぱりわからない。

 それは、性的に釣られただけじゃないのかな。


 すると先生は、気づかない僕に……少し呆れたように、言った。


「……あのね、あたしこれでも教職なのよ? 生徒と、こんなことしてるのがバレたら間違いなく首が飛ぶし、……それ以前にこれ、犯罪だからね?」


「……あ!!」


 ……未成年者略取、それに監禁、場合によっては強制性交等罪も付いてくるだろうか。


 何処に行くかも告げられず、連れてこられた部屋は施錠されていて、そのまま先生に……()()されてしまった。


 一応、僕は先生と()()事に合意はしてるんだけど……。


 客観的には、僕は自由意思を制限された状況と見なされるだろう。一応、性同意年齢は越えてはいるが……それでも未成年相手だ、何らかのペナルティは課せられるだろう。例え、僕が先生の潔白を証言しても、それがすんなり通るとは……思えない。


「法律変わったから、女でも加害者に成り得るしね」

 ……以前だと、女性は性加害者になり得なかった時代もあったらしいが、今はそんな事は無い。


「いい?……あなたから事が漏れたら、あたしは犯罪者よ。わかるわね?」

「そ、それは……」


 まさか……こういう縛られ方をするとは、思わなかった…。

 やはり年長者、一筋縄では行かない。


「わかっています……! 先生をそんな事には……させませんから!」


 先生は、今までで一番の笑顔を湛えた表情で、

「わかれば、よろしい♪」

 そう言った。

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