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兄との思い出と春嘉からの言葉

春嘉と約束した兄の命日の今日はいつもより自然に目を覚ました。

隣で眠る春嘉を見て、久しぶりに彼の寝顔を見たことを思い出す。

彼は一緒に住むようになってから私より早く起きていることがほとんどで寝顔を見れるのはレアだ。だから、見るのは1年ぶりくらいである。

寝顔を眺めていると、突然手が伸びてきてギュッと抱きしめられた。彼の胸に顔を埋める状態になり、寝顔を見ることが叶わない。

「おはよう、海奏」

「おはようはるちゃん」

見ていたことに気がついているだろうが何も言わず挨拶する彼は抱きしめる腕を話さない。

「⋯⋯? はるちゃん、お兄ちゃんのとこ行かないの」

「いくよ。こんなことしてたら海翔に怒られるな」

頭を優しくポンポンと軽く叩きながら苦笑をもらしがら言った。それから彼は出かける準備をした。


春嘉の運転で兄のお墓へ向かいながら兄の海翔と過ごしていた日々を思い出す。

毎年この命日の日だけは、音楽を聴いたりせず、静かなまま兄のことを思い出す時間を過ごすのが、春嘉と2人だけでくるようになってからの決まりにしていた。


兄と一緒に過ごした期間は生まれてから6年間の間だけ。それでも海奏にとっては濃厚な6年だった。

幼い海奏だったけど、兄との記憶は未だ鮮明に残っている。

海奏はお兄ちゃんっ子だった。

兄も海奏のことを気にしてくれていたし、6年間育ててくれた親のような存在。

父は仕事が忙しく母は海奏が生まれて直ぐに離婚して出ていっていたので、海奏には兄しか居なかった。

よく覚えているのは海翔お兄ちゃんと作る夕飯。

「海奏~、今日は一緒に作るか」

そう言われた日にいつも夕飯に作るのはハンバーグ。海奏が物心のつき始めた頃からの習慣だった。そして決まってその日は言っていたのが、『はるちゃん』

「きょう、はるちゃんは?」

「海奏は、春嘉のことが好きだな。 ⋯⋯ 今日は春嘉は部活。帰りに寄るように頼んでみるか」

一緒に作る夕飯は春嘉を呼ぶんだと幼いながらに思っていた。

春嘉のことはよく兄に聞いて遊んでもらえるのが楽しみで来てくれるのを待ち望んでた。

だけど、やっぱり海翔お兄ちゃんが大好きで、兄が亡くなったとわかった時には大泣きしたのは鮮明に残っている。

あの日まで、毎日欠かさず海翔が迎えに来てくれていた。

最後に迎えに来てくれた事故の日は春嘉も一緒で、嬉しくて信号が変わったのを見て飛び出したが、信号無視のトラックに轢かれそうになった海奏を慌てて助けようとした2人が手を伸ばしてくれた。だけど、1歩早かった海翔が、海奏を春嘉に向かって投げ、2人は助かった。しかし海翔が犠牲になってしまった。

その時は何が起こったのか分からぬままの海奏は自分を抱き抱え痛みに耐えて、悔しそうにする表情の春嘉が目の前にいて、ギュッと抱きしめられ状況が何も分からぬままだった。

自分を助けて兄が亡くなったと理解したのは、病院でもう兄とは会えないんだと教えられた時だ。

『海奏。海翔はもう居ないんだ。海翔は海奏を助けて亡くなったんだ。俺たちは海翔に助けられた』

春嘉が、顔に白い布を被せられた海翔を前にして泣いていた、海奏に言ったその一言で何があったのかすべて思い出した。

事故は自分が飛び出して起きたもの。自分が飛び出さなければ兄は死ななかった。春嘉も怪我をしなかった。

その後悔は幼い心にも深く刻まれずっと忘れることがない。

幼い記憶にも忘れられない光景に海奏はそうとう落ち込み後を追ってしまいそうなぐらいにまで塞ぎ込んでしまった。そんな海奏を救ったのも春嘉だった。

『海奏。俺たちは海翔に助けられた命を大事にしなければならないんだ。海翔の分まで長生きしよう』

彼の言葉がストンと落ちてくるようだった。その言葉で自分が生きていかなければと思い知った。


「⋯⋯ 何を思い出してたの」

「ハンバーグ ⋯⋯ 」

春嘉は海奏が移動する道中での会話は海翔のことだけ。

「ハンバーグね、一緒に作ってた夕飯だな。そして必ず俺を呼ぶやつだ」

「⋯⋯ それ以外も呼んでたよ?」

「うん。でもその日だけは欠かさず呼び出された」

必ず呼んでいたのはなんとなく記憶にあった。作る日=春嘉は幼い海奏の中では出来上がっていた。

「⋯⋯ それはそうだったと思うけど。作ろうって言われたらはるちゃん呼ばなきゃって思ってて」

「でしょうね。俺のこと大好きだったんだろ〜。海翔が嫉妬してたな」

そんな前から大好きだったかなんて分からないが、そうだったんだろうと今になると思う。

車の中でそんな話をしてる間に霊園に到着していた。車を停め、助手席側にまわって扉を開けてくれた春嘉の紳士ぶりに照れくさくなった。

海翔お兄ちゃんのお墓の前で手を合わせて報告するのは少し緊張する。

「⋯⋯ あのね、お兄ちゃんに報告は子供出来たんだよ。来年は一緒に連れてこれるといいな」

「⋯⋯ は? 今なんて?」

突然の報告に春嘉も驚き、海奏の方を向いた。

「子供。双子だって」

「⋯⋯ は? ちょっと待っていつの間に? え、ていうかなんで俺より先に海翔なの?!」

春嘉は完全に海奏の発言に驚きのあまり、頭の良いはずの彼は頭は思考停止していた。

「⋯⋯ お兄ちゃんに報告しないとだもん」

「いや、俺に先言えよ! え? まじなの?」

働かない頭で、お墓の前で言われていることを忘れ聞き返すのに対して「ほんとだよー」とニコニコしながら兄に向かって言う。

その後は海奏が兄への報告している間ブツブツと春嘉は言っていたが彼女は構うことなかった。


帰りの車の中では行きとは違い楽しげな曲が流れる。口ずさみ楽しくノリに乗ってる彼女の隣で複雑な思いのまま春嘉は運転していた。

「⋯⋯ あっ。はるちゃん。この後時間まだある?」

「あるよ。どこか行くの?」

「……お父さん」

海奏の思い立ち行動にはいつも振り回される。まだそれは無いのか。でもいることはわかっているとなると病院に行ってる。

「わかった。1つ聞いていい? いつわかったのそれ」

「先週~。病院行ったの」

いつもすぐしてくれる報告は、命日が近かったのを理由に後にしたらしい。

彼女の言う通りに動くしかなかった。

昔から春嘉は海奏に弱く、突然呼び出されても海翔より『海奏が』と聞くと行ってあげるほど、可愛くて仕方がない妹のようで、そうではない愛しい存在。今では夫婦になる。


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