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激甘な溺愛(2)

冬が近づき寒さが本格的になってきた風の冷たさに身震いしながらいつもの中庭で休憩をとっていた。

突然後ろからコートが掛けられ、振り返ると自分もコートを羽織った春嘉がたっていた。

「また、ここで休憩か? 寒いだろ」

「⋯⋯ うん。寒いけど、ここが落ち着くし。⋯⋯ それに ⋯⋯」

「⋯⋯ 海翔(かいと)のことか? 明日行くか。海奏休みだろ」

口ごもった私の言いたいことを理解した春嘉はいった。

「⋯⋯ はるちゃん、やすみなの?」

「休みとってるよ。明日だろ」

海翔の命日で、明日は私たちにとって特別な日だった。

私たちにとって運命を左右された日であり、自分たちの未来を決めた日。

海奏は兄の命日前後は、気持ちがどうしても落ち込む時期なのだ。

「海奏、大丈夫だよ、海翔はいつでも海奏を見ててくれてるだろ。明日いい報告できるように頑張ろう?」

静かに涙を流した海奏の頭をそっと抱き、優しく声をかけてくれた。

この時期落ち込む海奏には、普段から甘いのに春嘉はさらに甘い。

普段病院では話しかけては来るものの密着するようなことはしない。医者と新人看護師で休憩を同じところでする人というようなただ、話す人を徹底しているような関係だ。

むしろ彼は病院では冷徹と言われているし、誰もこんなに甘くて、優しいなんて思っていない。

彼が冷徹なんて言われるようになったのも、海奏という存在がいるからこそというのがわかったのは新人として入ったすぐのこと。

言い寄ってくる看護師やら、上司からのお見合いを勧められて会ったりしたことはあったそうだが、スパッと切り捨てる言い方から、冷徹だ。と言われるようになったようだ。それと仕事には真面目で笑顔も少ない彼はまさに冷徹そのもの。

「⋯⋯ はるちゃん、ありがとう」

「ん。落ち着いた? 仕事戻れそう? 」

「⋯⋯ うん。頑張ってくる」

私の返事にはるちゃんは「よし。頑張れ」と笑顔で声をかけると自分も持ち場に戻るため、背を向け歩き出した。その顔はもう笑顔は無い。無表情でキリッとした顔だった。

春嘉の言葉に元気をもらった私も後を着けるように立ち上がり仕事に戻った。

いつも気持ちが落ちてる時ほど、春嘉の言葉は昔からスっと入り、気持ちを楽にしてくれる。

お昼休みのあの時間は彼と会えるのと会えないあの時間で午後の気持ちの持ちようはだいぶ変わってくる。会えれば私の気持ちをあげる言葉をくれる。会えなければ当然それもなくて、気持ちは少しばかり落ちる。

浮ついた気持ちのまま仕事しているのもどうかと思っているが、仕事に支障をきたすようなことはけしてしない。

午後のモチベーションの高い私は業務をテキパキとこなした。

いつもテキパキとこなす同期はもちろん文句言う事ないので、私によく言ってくる嫌味な先輩の八神茉希(やがみまき)さんも特に何も言ってこない。

一緒に働くナースの中でも1番の年下の私は可愛がられている方である。嫌味な先輩には可愛がられている自信はないが、同期だが、2つ年上の莉緒菜にも優しくて憧れの先輩の美姫さんにも、そのほかの同じナース達には少なくとも。

「忍足さん、今日はやる気が違うね。そろそろ仕事慣れてきた? 」

「⋯⋯ そうですね。だいぶ慣れたと思います」

「うん。良かった。忍足さんのこと期待してるのよー。若いけど、やる時はやるし。なんたってこの間、長門先生に忍足さんのこと褒めてたし」

主任の期待の眼差しは新人で来た頃から変わらないが、莉緒菜との差がはっきりしてきた今でもこうして期待を寄せてくれている。





春嘉にとっても午後の診療のスイッチは、やはり海奏と話すのと話さないのではだいぶ違った。

相変わらず冷徹とかは言われるものの自分の中のスイッチは違う。

「⋯⋯ 長門、今日はやる気違うな。昼いいことあったか?」

「⋯⋯ 降谷(ふるや)、何しに来た」

話しかけられて、素っ気なく返す言葉に同僚の降谷 柚輝(ゆずき)はクスクスと笑う。彼は海奏との関係を院内で知るものの1人で、こうして海奏と昼にあった日はだいたい茶化しにくる。

「⋯⋯ 単刀直入に言うと、また院長より縁談の話あり。俺の姉」

「⋯⋯ 断ってくれてんだろ」

「まぁな、だけどそろそろ限界だぞ。姉は乗り気だし、院長はお前の断る理由には納得いかないようだから、今度連れてこいと聞かないんだ」

降谷はそう言いつつ困ったという顔だ。

彼は病院長の息子で、人事的なことも任されているから春嘉の事情も知っているからこそそういうのは先を読んで断ってくれてはいた。

「⋯⋯ という訳で、今暇か? ちょっと来てくれ」

言葉巧みに強引に連れていかれる。

乗り気でない縁談にいつも断って貰っているが、彼も限界と見て自ら断って欲しいとの事のようだ。

縁談相手という彼の姉には何度かあったことはある。知らない中ではないが春嘉としては、縁談を受けたいと思う人ではない。それに言っては無いが海奏と結婚している。

「悪いな、長門。俺一人じゃもうどうしようも出来ないんだ。お前の口から正直に話せ」

「⋯⋯ わかった。ずっと任せてたのは俺だし」

ずっと、降谷に任せていたが困っているなら仕方がない。自分の意思がないことを正直に言うしかない。

降谷に連れられて院長室にやってきた春嘉は1つ息を吐き、先に入る降谷に続き踏み入れた。

入った先で、目の前には男と女が1人ずつ向かい合って座ってるのを目にした。

男はスーツに白衣姿の年配の人、女は美人という言葉が似合いそうな顔立ちの淡い色のワンピースを着た女性だ。

春嘉はそのふたりが誰なのかをよく知っていた。そして先程の話の元であることも。

「⋯⋯ ご無沙汰してます。入ってきてすぐで申し訳ないですが、単刀直入に言わせてください。柚輝の方から聞いていると思いますが、僕は縁談はお断りします」

「⋯⋯ 聞いているが、悪い話じゃないだろ? うちの娘と結婚してくれれば、出世も保証する。なんなら院長の座も譲る」

「僕は、出世も院長の座も興味はありません。そういった地位が欲しくて医者はやってないので。僕はただ、1人でも多くの患者を自分の手で救いたいそれだけです」

春嘉にはそれだけの決意しかない。医者になると決めたその時からその思いはずっと変わらない。だから地位や出世などには興味が無い。

「⋯⋯ けど、それだけで、縁談を断るとは」

「春嘉、話しちゃえば? 全部正直に」

「⋯⋯ 話すつもりなかったですけど。この際はっきり言います。そこにいる柚輝は、知っててそれを黙ってもらって僕にその気がないから断って貰ってたのですが⋯⋯」

もうこのままではずっと続くのだと悟った春嘉は全てを打ち明けることにした。

海奏の存在。彼女が自分の嫁であること。彼女以外の存在は自分にはいないことをはっきりと。

「⋯⋯ 僕には彼女しかいない。だからお断りします。お断りしたからと彼女になにかしようものなら、僕は許しません」

はっきりと言った言葉に唖然とした表情の女性と、院長とは裏腹に柚輝は笑いを堪えた表情をしている。

「⋯⋯ これが春嘉の断る理由よ、わかっただろ姉貴。それと親父。彼には地位も興味なければ、1人の思う女性がいる。そして夫婦」

柚輝の言葉に納得したのか、表情が和らいだ2人に少し胸を撫で下ろす。

そして柚輝が、ずっと断ってくれてはいたが、自分で話せと言った意味が今やっとわかった。彼はずっと本当の理由を黙っていてくれていたということ。

納得の言葉を漏らした院長と話すと、解放してくれた。

院長室を出た瞬間緊張の糸がほぐれ、海奏の存在がもう恋しくなった。昼休みにあって癒されていたはずだったのに。

帰るまで会うことはかなわない。だけど、仕事は残っているし、切り替えてやるしかない。

切り替えて戻ると、仕事に取り掛かった。

予定していたオペをこなし、急患のオペと、忙しく動き会いたいと願ったことを忘れて仕事へ、打ち込んでいた。

終わった頃にはすっかり遅くなっていた。

もう、彼女は寝ているだろうなと思いながら帰宅した。案の定寝ているようだ。いつもの出迎えがなかった。

寝室へ足を運び気持ちよさそうに寝ている彼女を見て自然と笑を零し、疲れも癒された。

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