激甘な溺愛(1)
澄んだ青い空が晴れ渡る秋の空が広がった、空を見上げながら中庭のベンチで休憩をとっていた。
私は有栖川総合病院に務める新人ナース、忍足海奏。
いつもこと人気の少ない中庭のベンチで休むのが定番になっている。
「また、ここいたの」
「⋯⋯ はるちゃん」
話しかけられて振り向くとそこにたっていたのは脳外科で働く天才ドクターと呼ばれている、長門春嘉だった。彼は私にとっては幼なじみ。
「そろそろさむくねぇ?ここ」
彼はそう言いながら私の横に座った。
普段冷徹なんて彼は言われているが、私にはとても優しくて甘い。
私も彼も、多くの人を助けたいそれだけの想いで日々を送っている。
「いいの、人が少なくて落ち着くから」
「⋯⋯ 中にも人の少ないところあるけど?」
「⋯ はるちゃんの言うそういうところは、襲ってくるき満々だから行かない」
そう言うと、彼はくすくすと笑って、持っていた飲み物を啜った。
楽しく話をそこでしばらくしていると、電話が鳴って我に返る。彼の電話だ。仕事用の方だろう。顔がキリッと引き締まるのを感じた。
「⋯⋯ 海奏。俺行ってくるな。⋯⋯ 今日は早めに帰れるようにするよ」
彼は急いで去っていくその顔はもう私に向けられる優しい笑顔ではなかった。
私もお昼休憩を終え仕事へ戻った。
その日の日付の変わる頃、春嘉は帰ってきた。『遅くなる』と連絡もらったのは夕方仕事ももうすぐ終わりの頃だった。
「⋯⋯ はるちゃん、おかえり」
「⋯⋯ ん。海奏ただいま」
普通に話してくれているが、普段と何か違う雰囲気を感じて首を捻る。
なんだか彼は心ここに在らずというかふわふわした雰囲気を纏っていて、ほんのり顔を紅く色づいているようにも思えた。
「⋯⋯ はるちゃん、もしかして飲んできた? 接待?」
「⋯⋯⋯ うん」
返事をなんとなく覇気がない。視線もなんとなく定まっていないような。
「⋯⋯ はるちゃん? まず着替えてきたら?」
返事だけすると私を連れて寝室へと向かった。なんでと思うまま彼に組み敷かれていた。
とろんとした目が私を見つめ、キスを落とされた。それが始まりの合図だった。
眩しく暖かな日差しに目を覚ました。いつもはその日差しと隣で寝る彼女をみて癒されるだけなのに、違和感を覚えた。
身を捩った彼女の素肌が触れる感覚に昨日のことを思い出すが思い出せない。何とか帰った記憶はある。だが、それ以降は記憶がない。
考えていては仕事に遅れてしまう。彼女も起こさなければならないが、まずは朝ごはんの準備をした。
「⋯⋯ 海奏、起きろ。遅れる」
「⋯⋯ ん〜 ⋯⋯ 。もうちょっと」
起こそうとすると腕を掴まれる。そしてまだ寝ようとしている。
「おい、起きろ。日勤だろ。起きないと遅刻」
「⋯⋯ ん〜 ⋯⋯ はるちゃん」
やっとこさ起きた彼女の額に軽くキスを落とし、着替えて来るように促し離れた。
朝飯を食べて車で一緒にでて地下の駐車場へ車を停めた。
「⋯⋯ 着いたぞ。降りな」
助手席に回った春嘉はドアを開け、海奏に降りるよう促した。
そこからは別行動。先に春嘉が歩いていき、後を追って海奏が歩きそれぞれの場所へ移動した。
海奏は有栖川総合病院の整形外科棟で仕事をしている。
唯一同期で一緒の渡辺莉緒菜と新人としてやっているが、莉緒菜の方は物覚えがよく、テキパキと業務をこなせる。
「⋯⋯ あっ! 珍しい。長門先生がいる」
「あら、ほんと。師長と話してるわ。だけど相変わらずの無表情ね」
「でも、かっこいいですよねー、仕事できるし脳外科の期待のドクター」
春嘉はナースたちの間でも見かけられるだけでレアであり、噂の的だ。
次々に飛び交う噂話されていたりするが彼は全く気にもしてなかった。いつだか、海奏がナースとして入ってすぐの頃とかは婚約者が、とか好きな人いるらしいとか聞いて嫉妬心で聞いたら彼には『全部おまえだろ?』とかえされたっけ。
今でも、そんな噂は飛び交い、かっこいいと言いよっているナース達もいっぱいだ。
手付かずなナースたちの視線の先で春嘉が話し込んでいるようだが、ふと目が合う。
フッと笑ったその顔に釘付けになっていたナース達は慌てている。ただ私だけ混乱していると、彼の口は「かわいい」そう動く。さらに混乱して真っ赤になる私をみてさらに笑う。人前で見せるあの作ったような顔。
「⋯⋯ それではよろしくお願いします」
「はい。分かりました」
春嘉は頼み込んで、持ち場に戻って行った。それを気にフッとみんなもキビキビと仕事が始まった。
「⋯⋯ ねぇ、おっし、今日って仕事のあと時間ある?」
「え? えっと〜、大丈夫だよ」
「ちょっと付き合って」
それだけ言うと、莉緒菜は仕事に戻った。
仕事終わり莉緒菜に連れてこられたのは、ショッピングモールだった。
彼女の買い物に付き合わされてぐるぐる歩く。仕事終わりなのに体力がある。
疲れ知らずな彼女は学生時代は陸上部で長距離選手だったとか言っていた。
疲れて休んでいた海奏の元に連絡が入った。春嘉である。『迎えいる?』たったその一言だけ。ありがたく受け取って頼むことにした。
休みながら、春嘉の迎えをアクティブな莉緒菜と待った。
「本当に、長門先生が来るの?」
「⋯⋯ うん。お願いした」
「海奏が先生と繋がりがあるのは知らなかったよ。でも助かるな、買いすぎちゃったし」
莉緒菜が春嘉との事を知らないことは何も考えていなかった。自分だけ送られるのは忍びないので、一緒に帰ることにしたが、こんな形で教えることにるとは考えてもいなかった。
しばらく、たわいもない話をしながら待っていると、目の前に車が止まった。直ぐに海奏は春嘉の車だと分かると助手席に回り込んで、後ろの席には莉緒菜を促した。
「⋯⋯ はるちゃん、ありがとう」
「ん。⋯⋯ 渡辺さんも乗って送るよ」
「ありがとうございます。というか! 海奏と先生が継がりがあるのがびっくりなんですけど!」
乗ったそうそうに食い気味に聞く莉緒菜は春嘉と話したいようで、2人の関係を問い詰めたいようだ。
「あの! 先生、海奏とどういう関係なんですか!」
どうしても聞き出したい莉緒菜は春嘉に詰め寄る。
春嘉も車を発進させながら食い気味な莉緒菜の問に、苦笑を漏らし答えてくれる。
「海奏、話してないんだな。うーん、俺の親友の妹。そして俺の嫁?」
「⋯⋯ え? 嫁ぇ!? 親友の妹?」
「⋯⋯ その親友はもう居ないけどな。嫁のはずなんだけどなー? 海奏はどう思ってるか話してくれないからなー」
突然話を振られ海奏は慌ててしまう。勝手の分かる、春嘉の車で音楽を聞こうと機械を弄っていた手をとめる。
「⋯⋯ はるちゃんはいつも意地悪。わかってるくせに聞く」
海奏の文句に春嘉は喉を鳴らして笑った。
2人の仲の良さそうなやり取りに莉緒菜もそんな相手が欲しいと心の中で思った。
「⋯⋯ あ、莉緒菜、はるちゃんとの事は内緒にしてね?」
「⋯⋯ わかったよ、またね、ありがとうございました」
莉緒菜を送り届けて自分たちの家へ帰った。
帰る車の中で、好きなように音楽をかけて、直ぐに眠りについてしまった。
ゆらゆら揺れて心地よい温かさに包まれ、美味しそうな匂いにつられて目を覚ました。
器用な春嘉の作る夕飯が出来上がっていた。いつの間に連れてこられたのか分からないベッドから起き上がり、いつもの席に着いた。
たわいない話をしながら夕飯を食べて、洗ってくれたお風呂に入ってまた寝る。いたり尽くせりで、彼に甘やかされている。