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09.ガードナー家の人々


 日が沈み始めた時刻。

 やや怯えた様子のメリンダがアレクシアの滞在する客間を再度訪れ、夕食の準備ができたことを伝えてきた。


「わかったわ。それから、夕食の間にお風呂の準備をしておいてもらえるかしら」


「承知いたしました。では、ダイニングルームへご案内いたします」


「ええ。ありがとう」


 その言葉を聞いて、メリンダの表情が少し明るくなる。

 本当に許してもらえたのだと安心した様子だった。


(ちょっと考えなしで無謀だったけど、心底悪い子ではなさそうね)


 扱いやすそう、という感想は心の奥にしまっておいた。


 ダイニングルームに着くと、ガードナー家の人間が勢揃いしていた。

 当主の席に辺境伯ヴァージル・ガードナー。

 サイドの席には、昼間一度会ったレニーと、興味津々という様子で頬を染めながらこちらを見ている幼い女の子。

 メリンダが引いてくれた椅子に座ると、辺境伯が給仕の者以外に退出を命じた。

 メリンダも出ていく。


「さて。あらためて、ようこそヴァンフィールドへ、アレクシア嬢。ささやかではあるが、歓迎のための料理を用意させてもらった。ここには身内しかいないから、気楽に食事を楽しんでほしい」


「お心遣い感謝いたします、閣下」


 たしかに、テーブルの上には高級食材を惜しみなく使った料理が並んでいる。

 食事が始まればもっと運ばれてくるだろう。


「ところで、娘のフィオナの紹介がまだだったな。フィオナ、ご挨拶しなさい」


「フィオナ・ガードナーともうします、六歳です。よろしくおねがいします」


 つるつるふわふわの頬を赤くしながら言う。

 胸の中で「きゅん」という謎の音が鳴った……ような気がした。


「こちらこそよろしくお願いします、フィオナ嬢」


「は、はい!」


 フィオナが元気よく答える。


(かわいいわ……)


 くせのない柔らかそうな金茶色の髪に、新緑のような緑色の瞳。

 目はくりくりと大きく、たれ目がち。

 愛らしいものを集めてできたような子だと思った。


 食事が始まったところで、「ときにアレクシア嬢」と辺境伯が声をかけてくる。


「はい」


「メリンダについての話を聞いた。本当に申し訳ない。こちらの教育が行き届いていなかった」


「お気になさらないでください。こちらこそ出過ぎたことをしてしまいましたわ。まだ彼女の主人とは言えない立場ですのに」


「いいえ」


 そう答えたのは、レニーだった。


「メリンダを専属としてつけたのですから、彼女の主はアレクシア嬢です。失礼な態度をとるような者に身の回りのお世話を任せてしまったこと、心からお詫び申し上げます」


「ふふ、わたくしは本当に気にしていませんわ」


「メリンダではない者を君に付けよう。君が不快に思うなら彼女を解雇しても構わない」


 辺境伯のその提案に、アレクシアは「いいえ」と答える。


「お気遣いはありがたいのですが、それは不要です。わたくしをメリンダの主としてくださるというのなら、わたくしが教育していけばいいだけです」


「専属メイドはメリンダのままで構わないということですか?」


 レニーの問いに、アレクシアは微笑を浮かべる。


「ええ。反省を知らない者には何を言っても無駄ですが、彼女はそうではないようですから。一度の過ちで簡単に捨てたりはしませんわ。主とはそういうものでしょう?」


 レニーが少し驚いたような顔でアレクシアを見る。

 少し笑みを深めて彼を見ると、彼は慌てて下を向いた。

 予想通りのその初々しい反応がかわいらしい。


「さすがはアレクシア嬢だ」


 辺境伯の言葉に、アレクシアの斜め向かいに座るフィオナがこくこくとうなずく。

 話の内容をさほど理解していない様子であるのに、なぜか尊敬の眼差しをアレクシアに向けている。

 その様をとても愛らしく感じた。


「アレクシアさまは、お兄さまと結婚してわたしのお姉さまになってくれるのですか?」


 子供らしいストレートすぎる質問に、さすがのアレクシアも言葉に詰まる。


「こらこら、気が早いぞフィオナ」


 笑いをこらえながら辺境伯が言う。


「アレクシア嬢は実に素晴らしいご令嬢だからな。レニーが振られるかもしれないだろう?」


「ええっ、そうなのですか。お兄さま頑張って!」


「ああ……ありがとう……」


 アレクシアはただ苦笑を浮かべた。


「ところで、レニー様」


「はい」


「お食事が終わったら、少し二人でお話をしたいのですが」


 一瞬の沈黙のあと、レニーがうなずく。


「わかりました。場所は……共用の場所がいいですね。どこがいいか……」


「お兄さまのお部屋じゃだめなの?」


「婚約者といっても結婚前だから、そういうのは良くないんだよ、フィオナ。それを変な目で見る人間がいないとも言い切れないから」


 照れているだけではなく女性としての立場を気遣ってそう言ってくれているようで、ふわりと胸が温かくなる。


「では城を案内してくださいますか? どこでお話するかはそのときに決めましょう」


「承知しました」


「ふっ、若いというのはいいものだな」


 そんなことを言われ、アレクシアは落ち着かない気持ちになる。

 だが不快には感じなかった。

 義父となるかもしれない辺境伯は豪快でまっすぐで、義妹となる女の子はとても素直で愛らしい。

 仮の婚約者の家族は悪くないと思った。

 だが、何よりも肝心なのは、「夫となるかもしれない人」がどんな男性かということ。


(顔はわりと好みで、今のところ人間性も悪くなさそうなのだけど。どういう性格で、どこまで‟へたれ”なのか)


 もう婚約や結婚でゴタゴタしたくないし、男に裏切られるのも真っ平だ。

 しっかりと見極めねば、と心に誓った。

 

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