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31.王子、相談する


 久しぶりに離宮を訪れたマクシミリアンの顔を見たとき、クリストファーは救いの神が降臨したかのように感じた。

 ソファから立ち上がり、弟に駆け寄る。


「よく来てくれたな、マクシミリアン」


「あまり来られなくて申し訳ありません。それより朗報です!」


 マクシミリアンは兄の手を両手で握った。


「朗報……?」


「もうすぐ兄上の謹慎が解かれ、離宮から出られることになりました!」


「……!」


 それを聞いて、喜びと安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになる。

 だが、兄としてみっともない姿を見せるわけにはいかないという思いでかろうじてこらえた。


「建国記念パーティーを兄上の復帰日とするようです。ですから、その準備のためにそろそろ王宮へ戻れるはずです」


「ああ……そうか、よかった……」


 長かった、と思う。

 ここにいたのはひと月と少し程度のはずだが、その何倍も長く感じた。


「ただ、その……」


「なんだ?」


「よくない知らせもあります」


 マクシミリアンが気まずそうに目をそらす。

 離宮から出られることが決まった今、よくない知らせといえば思い当たることは一つしかない。


「アレクシアに関係することか?」


「はい。貴族会議でブラッドフォード侯爵が城に来ていたので、雑談をしつつアレクシア嬢について少し探りを入れてみたのですが。彼女がレニー卿と正式に婚約届を提出するのだと、珍しく上機嫌でした」


「なん、だと?」


 クリストファーは足元がぐらついているような感覚に襲われた。


(アレクシアが。私のアレクシアが、他の男の婚約者になる? 駄目だ、そんなのは駄目だ。彼女ほどの女はいないし、彼女さえいればすべてがうまくいくというのに……!)


 カサカサに渇いた唇を噛む。


「それはいつの話だ? もう婚約届は提出したのか」


「いいえ。アレクシア嬢とレニー卿は建国記念パーティーに参加するため王都に来るとのことで、まずはブラッドフォード家で婚約の挨拶をし、それが済んでから二人で貴族庁に婚約届を提出するそうです」


「……詳しい日程は?」


「そこまで聞き出そうとすると怪しまれたと思うので、日程まではわかりません。パーティーの数日前だとは思いますが」


「……」


 ブラッドフォード家に行ってもアレクシアに会わせてもらえないであろうことは想像に難くない。

 たとえ王家の人間であっても、屋敷の主人の許可がなければ門を通過することすらできない。そしてブラッドフォード侯爵は娘の元婚約者の来訪を許しはしないだろう。

 ブラッドフォード邸は王宮並みに警備が厳重で、侵入も不可能。そもそも侵入などしたら今度こそ王子としての人生が終わる。

 かといって命令して王宮に来させることもできない相手。


(ガードナー家の馬車がブラッドフォード邸に入る前を狙う? いや、いつ来るかわからないのに、何日も外で待ってなどいられるか。そもそも、本当に“この方法”でアレクシアを奪い返せるのか? あとで問題になりはしないか?)

 

 傍らに立つ弟を見る。

 マクシミリアンなら、きっと味方になってくれる。この方法が間違ってはいないか、正しい判断をしてくれる。

 クリストファーは、そう信じて疑わなかった。


「マクシミリアン。少し、相談したいことがあるんだが……」


「なんでしょう」


「アレクシアについてだが」


 兄弟の話し合いは、日が落ち始めるころまで続いた。


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幸せな時間を邪魔するバカ王子どもめ!地獄に落ちてしまえ! マクシミリアンは何が目的なんだ?
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