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第六話 追放



「どうして……ここにいるの、ドブロイ」


 そう聞き返すのがやっとだった。


「うぅん? いやぁ、飲みすぎてね、風を浴びたくなった。それだけだよ。逆に聞くが、君たちはどうしてここへ?」


「……分かってるくせに」


「おいおい、つまらない返しは止しておくれよ。君たちも風にあたりに来ただけ、そうだろう?」


「……そうかもね」


「そうかそうか! それはよかった。僕はてっきり、逃げ出そうとでもしたのかと。勘違いでよかった!」


「……」


(くそ、こいつ……)


 賭場での言葉が思い出される。ドブロイの言葉を借りれば、彼は『この時間を少しでも輝かせようとしている』のだろう。

 要は僕たちで()()()()()



「ルード君? そんなことしないよねぇ? だって僕たちは、仲間だものねぇ? 裏切ったり、しないよねぇ?」


「裏切ったのはあなたじゃない!」


 サラが叫ぶ。


「僕が裏切った? 一体なんの話だね?」


 ドブロイがわざとらしく、首を傾げた。


「あんなに沢山人たちを殺して!」


「ふぅむ。僕が君たちと人を殺さないと約束をしたか?」


 男は否定をしなかった。代わりに吐いたのはふざけた問い。


「は?」


 ドブロイが懐から切断された指を引っ張り出し、弄ぶ。

 パキりと乾いた音を立てて指がへし折られた。ドブロイはそれをルードたちの足元へ放り投げた。無造作に。



「教えてくれないか。僕が一体、いつ、どこで、誰と、何故人を殺さないなんて約束をしたんだ?

 僕はそんな記憶ないんだがね、であればやはり僕は裏切ったことにならないんじゃないか? 謙虚堅実、誠心誠意、いつだって正直者の君たちの仲間ドブロイ・ネクロマンシーだ! そうは思わないか? クハハハハ!」


「っ……」


 あまりの詭弁にサラが絶句する。


「あまりの正論に言い返せないか? だとすればやっぱり裏切ったのは君たちじゃないか、置いていこうとするなんて酷いなぁ。僕は、ふかぁく……傷ついたよ」


 ドブロイの頬を涙が伝う。否、杖から出した単なる水だ。


「お前は人の命をなんだと思ってるんだ」


「なんとも思ってないとも! ルード君。逆に聞くが、いきなり置いていくなんて君は仲間をなんだと思っているんだ? 教えてくれよ。我らがパーティー『ルビーブレイブ』リーダーのルード君」



 

 僕の足元に新たにへし折られた指が投げ捨てられた。

 新しい指が、今度は数本まとめて懐から取り出される。



 パキッ



 パキッ



 パキッ






「……クビだ」


「なに?」


 深く考えての言葉ではない。意味もない。衝動的に出た言葉だった。腹が立った。それだけだった。


「お前なんて、どこが仲間だ! クビだ! パーティーから出て行け!」


 こんな奴を、こんな異常者を仲間だと思っていたなんて。一瞬でも信じた自分が、馬鹿だった。

 

 パーティーの証である指輪をドブロイへ向けて投げつける。

 指輪はドブロイの胸に当たり、地面に落ちた。


 ドブロイはしばらく何も言わず黙っていた。

 地面に落ちた指輪を拾い上げ、ふむ、と呟いた。


「これは……予想外だ。この後に及んで、ハハハ……そんな、くだらない話が出るなんて……。フッフッ……まさか、パーティーから追い出されるとは……。この千年で初めてだよ、クックック。実に、楽しいね。

 ああ、僕はなんと言うべきだろうか!


 そうだ。


 あーあー、ゴホンっ! こんな感じはどうだ?


 『何故だ、リーダー!? 僕をパーティーから追い出すなんて! 僕が何をしたというんだ!?

 ああ、僕を分かってくれないなら仕方がない。だが、覚えていろ。絶対に後悔させてやる。

 追い出したことを悔やんでももう遅いぞ!』


 クハハハハハハハハハ!!!」


 

 本当に愉快そうに、目を爛々と輝かせ魔導士が嗤う。

 


「あー、楽しいなぁ! ルード君。これで晴れて僕は復讐する立場だ! おいおい、そんな目で僕を見るなよ。悪いのは、君なんだぜ?

 これでも僕は君を仲間だと思ってたんだ。それを……追い出すなんて、あまりにも酷い」


「僕たちを……殺す気?」


 


「ああ、もちろん。殺すとも。他に何かあるか?

 初めの初めからそのつもりだ。

 まあ、君たちが気付きさえしなければもう少し育ててから、と思っていたがね。


 


 おっと、抵抗は許さないとも。動くなよ?」



「キャァァァっっ!」

「サラっ!?」


 背後で響くサラの叫び声。

 慌てて振り向き、目にした光景に絶句する。


「アーガス!? 何してるんだ!?」


 アーガスがサラの首を掴み宙吊りにしていた。


 首を絞められているサラが苦悶の表情を浮かべる


「……」


 アーガスから返事はない。


「やめろぉぉぉ!」


 叫びながら飛びかかるが、半歩で躱され、膝蹴りを喰らう。

 息が詰まり、膝をつく。


「っ、ごほっ! アーガス……どうして……!」


 腹を抱えて見上げるルードにアーガスは答えない。

 

「なあなあ、ルード君。どうしたんだろうな? 僕たちの頼れるアーガスが寝返るなんて、不思議なこともあるものだ。それに何も返事をしないじゃないか、もしかして彼はーー」


 そううそぶくドブロイが咳き込むルードの肩に腕を回し、耳元で囁く。


「ーーもう死んでるじゃないか?」


 

 無表情のアーガスがサラを投げ捨てる。

 小刻みに震えながらぐったりと地面に横たわるサラ。

 駆け寄るルードを再びアーガスが蹴り飛ばした。



「歯応えがないなぁ、ルード君。もっと抵抗して見せろよ。勇者の末裔だろ?」

「どう、して、アーガスが……」


「さっきまで元気そうだったのに、不思議かい? 不思議だよなぁ? 実はね、君たちがあの指を見つけた時、アーガスは既に死んでたんだ。

 3日前、指に気づかれてしまったからね。結界を解いた君たちを叱責したアーガスの言葉は体験談だったってわけだ! 笑えるぜ!

 なぁ。君らといいアーガスといい、僕のこと舐めすぎじゃないか?」


「そんな……」


「僕のこの魔術は指を奪った死者を操るんだけどね、ルード君。君、この三日間一度もアーガスの指、見てないだろう?

 これでも工夫したんだぜ? 適当に隠すのは。風呂入る時にタオルで左手ぐるぐる巻きにしたりとか、普段から革手袋させたりとかね。



 おい、せっかくなんだ、聞いてくれよ。


 最後なんだぜ?」


 サラの元へと這いずるルードの顔をドブロイが踏みつける。口の中に鉄の味が広がる。

 

「サ、ラだけは……サラ……」


 サラに手を伸ばす。


「君は本当にあの子が好きだなぁ」


 ドブロイが指を鳴らすとサラが宙に浮き上がった。


「どうやって殺そうか? 油で煮るのは? 串刺しにするのは? 毒か? 絞殺か? 選択肢が多すぎるのも困りものだ……」


 ぐつぐつと煮えたがる釜に、何本もの槍、ゴポゴポと湧き立つ怪しい紫の液体に、人を簡単に絞め殺せそうな蛇。ドブロイの言葉に合わせて次から次へと悍ましい物品が現れては消える。


「やめて……お願いだから……サラだけは……」


「サラサラ煩い。ああ、そうだ、先にサラ君を殺して、あの子を操って君を殺させるのはどうだろうか」


 ドブロイが指を鳴らすと

 アーガスが剣を抜き、振りかぶった。



「やめっ! やめてよアーガス! アーガスっ!!!!」


 剣が振るわれる。


「サラ!!!」


 極限状態で、ルードにはその光景がスローモーションになったように見えた。


 生前となんら変わらぬアーガスの美しい剣筋。

 刃がサラの首へと、吸い込まれていく。


 ルードはただ目を見開き、それを見ていることしかできなかった。



 そして、サラの首が両断されるその瞬間



 アーガスの身体が真っ二つに裂けた。


 ()()()()()()()()()

 剣を振り抜いたルードの瞳がドブロイを捉える。


「なんだと?」



 今日初めて、ドブロイの顔が驚きで歪んだ。


「……遅い」


 そしてドブロイの首が宙を舞う。


 

 頭部を失った胴体が血を吹き出しながらゆっくりと倒れていく。


 ルード、いや、ルードの身体に乗り移った過去の英雄が言う。

 剣を鋭く振り、血を払う。


「やっと……隙を見せましたね……マハト。

 君の……悪い癖です。遊びに……夢中になりすぎる」


 過去の英雄。アリステア・アリストラの顕現。


「今の剣技、その鬱陶しい話し方……。

 まさか君か? アリス。

 ルード君の中にいるとは、どういう道理だ?

 これは実に……面白くないな」


 地に落ちた生首が吐き捨てるように言った。

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