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第三十四話 エピローグ

最終話です。

「あ……ジュード……」


 イリーナが目を覚ますとそこには当然ジュードの姿はなく。だが、それでも、それでも、やっと、会えた。

 目尻の涙を拭う。


 そしてようやく、自分が何かヌメッとして冷っとした何かの上に乗せられていることに気づいた。景色が後ろへと流れていく。どうやら自分は移動しているらしい。振動はほとんどなく、悪くない乗り心地だ。

 何なのかは知ってる。実は前にも乗ったことがある。


 サルモの触手だ。寝ている間に運んでくれていたらしい。


「サルモ、起きたわ。下ろして頂戴」

「おはよう、ママ。いい夢見れた?」

「ええ、最高の夢だったわ」

「よかったね」

「ありがとう」


 サルモがイリーナを下ろした。

 そしてサルモの横を並走する。今の状況は聞かずとも分かった。

 

 逃げているのだ。


 強敵アーガスは何とか倒したが、かの死霊魔術師の脅威はまだ去っていない。いつ追いつかれるかも分からない状況でゆっくり休むことなどできない。イリーナには分かる。次追いつかれたら終わりだ。

 勝てる相手じゃない。カースやアーガスとはまさしく次元の違う存在だ。


「ルード君は起きてないのね」


 同じくサルモの横を走るサラが頷く。


「うん。魔力の使いすぎ……だと思う。

 アリスさん? の補助があったにしても、あんな世界を作るなんて、相当無理をした筈だから。

 でも、命に別状はないわ。だからイリーナお姉様は心配しなくていいのよ?」



「……起きたらお礼を言わないとね」


「イリーナお姉様もよ? 来てくれなかったら絶対勝てなかったもの。サルモちゃんもね」


「私は私のためよ。

 でもサルモは別。付き合ってくれてありがとうね」


「むふー。サンドッチ。おさかなもりもり」


「帰ったら作ってあげるわ」


「やたー!!」


「帰ったら、か。私はハンバーグ食べたいな」




「じゃあ私はルード君とキスしたいです」


 突然ウィズが爆弾を放り込む。

 愕然としたサラの顔を見てウィズが笑い、すぐに「冗談です」と付け加えた。サラは本当に冗談だったのかしら、と不安そうな顔で「そ、そうよね!」と愛想笑いをした。


「あら、冗談なの? ならルード君のキスは私がもらおうとかしら」


「う、嘘よね? お姉様……?」


「ジュードもルード君なら文句言わないと思うのよね。

 だってウィズちゃんは冗談だって言うし……。いい男になったわよね……」


「あ、やっぱ冗談じゃないです。

 バリバリの本気です」


「バリバリの本気!?」


「じゃあ私とウィズちゃんで一回ずつね。

 サラちゃんは要らないってことね」


「ル、ル、ルードとはっ! 私がキスするの!!!」


「あ、やっぱ私冗談でした」「私も」


「!!!??? もうっっ!!!」


「「あはははは!」」


 顔を真っ赤にするサラを見て二人が笑う。それを見て結局はサラも笑い出す。女たちのその姿は友をからかって笑っている様でもあったし、単に不安を紛らわそうとしている様にも見えた。



 ひとしきり笑ってからイリーナが言う。



「あははは、まあ、冗談はさておき。


 まだ冗談とか、まだ早いとか。

 そうやっていつか、いつか、なんて言ってると後悔するわ。人はいつ死ぬか、分からないんだから。


 先輩からのアドバイスよ。


 ね、サラちゃん、ウィズちゃん」





「その通り。

 だが残念ながらもう遅い。


 君たちは死ぬんだ。今、ここで」


 彼女たちにとって大きすぎる障害。千年生きた死神。

 ドブロイ・ネクロマンシーが空から彼女たちを見下ろしていた。


 使役された無数の死者たちが彼女たちを取り囲む。



「残念だけど、まだ死ぬわけにはいかないの。

 幸せになるって、約束したから」


 イリーナの手に顕現する漆黒の呪剣。サラが仲間達に身体強化を発動、ウィズが短刀を構える。

 彼女たちの目は生きるという決意に燃えていた。

 針の穴ほどの大きさであっても、必ず突破口をこじ開けて見せる。死んでもいいと思うものなど、そこには一人もいなかった。


「やれやれ、また()()に追いつかれると面倒だ。悪いが、時間がない。

 最速で仕留めさせてもらおう」


 ドブロイが手を振る。彼女たちを取り囲む死者たちの口が開き、同時に術を唱える。


「「「「ペンティゴア・ダーキサイト・オールキャスト!!」」」」

 

 死者たちの口から放たれた術が彼女たちを吹き飛ばすーー

寸前、天から降り注いだ万雷があまねく死者たちを焼き滅ぼした。


 


 土煙が晴れる。


 魔法障壁に身を包んだドブロイが、遥か上空を忌々しそうに睨む。


「来たか、『雷帝』ラルク・ブレイバー」



****************


 彼らの前に男が降り立つ。

 青と白の入り混じった特徴的な髪をかきあげ、端正な顔が顕になった。


「俺は後悔している。ドブロイ・ネクロマンシー。

 民や貴族、魔術師連中からの信頼厚く、黒龍の件の功労者。貴様を証拠なく裁くのは王への反感を生む。それは事実。

 それでも俺は貴様を消すべきだった」


「クハハハハハ! そうしなかった、出来なかったのが今の君だろ? おかげで随分手駒が増えた」


 ドブロイが殺めた王国の民だろう、何人もの死者たちが地面から這い出てくる。


「それはどうでもよい」


 雷鳴が轟く。操られた王国の民たちが瞬く間に灰に変わった。

 ドブロイが顔を顰める。


「ひどいことをする。この国の民だぞ?」


「雑兵が増えようが脅威ではない。が、無垢なる王国の民を殺めたことは許さん。死後に隷属させることもな。


 貴様の蛮行も今日で終わりだ。

 死して償えドブロイ」


「残念だが地獄の女王には嫌われていてね

 顔も見たくないと言われているんだ」


「安心しろ。塵に顔なぞない」


 ラルクが腰の剣を抜いた。

 安物の練習用の剣。


 刀身を青白色の雷光が包み込む。


 ラルク・ブレイバーを最強足らしめる雷の宝具『雷宝』、そのうちの一つ。


『雷刀』


 莫大な雷の魔力を刀一本分の大きさに凝縮したそれは、全てを切り裂き灰塵に帰す。かつてエゼル海紛争で戦艦一つを消しとばした最強の刀だ。ラルクの突出した感知能力も相まって回避も困難。



「ラルク君。今日はここで退こう。

 だが僕はいつか必ず君を手に入れる」


「貴様に明日はない」


 ラルクが雷刀を構えた。居合の体勢から放たれる、磨き上げられた美しい軌跡。



 同時に、ドブロイの前に一人の女が現れた。




「アカシア。迎え撃て」



 世界を雷光が埋め尽くした。



****************



 それから半日後、程なくして目を覚ましたルードは街の門にいた。


 ドブロイとラルク・ブレイバーの衝突。それは辺り一帯を吹き飛ばし、その爪痕は半径一キロほどの巨大なクレーターとして大地に残っていた。ラルクが保護していなければルードたちも全員木っ端微塵になっていたことだろう。

 相変わらず無茶苦茶な力だと乾いた笑いが出たものだ。もはや嫉妬する気にもならない。


 ドブロイの消息だが、ラルクは分からないと言っていた。少なくともラルクが感知出来る範囲にはいないとのことで、相当遠くに逃げたか本当に死んだかのどちらかだと思われる。だがルードの勘は告げていた。必ず、生きている。


「私たちはラルクと一緒に王都に向かうわ。もしあの男が生きていてもそれが一番安全だと思うから。


 ルード君たちはどうするの? 一緒に王都に来る?」


 そう、ラルクと一緒にいるのが一番安全だ。


 だが、ルードは首を横に振った。


 きっと数えきれない人たちがドブロイのせいで命を落とした筈だ。

 ジュードとイリーナのような悲劇もどれだけの数起きたことか。

 サラが、アーガスが、殺された。大事な人が命を落とす、あの感情。

 それを知ってしまった。


「僕は、強くなりたい。

 強くなって、ラルク兄様に頼らなくてもみんなを守れる様に。そして、いつか、ドブロイを倒したい」


 ドブロイの力を知った。今の自分では逆立ちしても敵うまい。だけど諦めない。いつか、必ず。


「私も。一緒に戦うわ」


 サラがルードの横で決意に満ちた目をした。

 

 ルードにとって意外なことに、ラルクは『貴様には無理だ』とか、『足手まといだ』とか、そう言ったことを言うことはなかった。

 代わりにラルクが差し出したのは封筒だ。


「旅に出るならまずはここへ行け。


 魔法王国の首都『石版都市』へな」


****************


 ゆらゆらと船に揺られながらルードとサラは国を離れる

 ルードの手には二通の手紙。


 一つはラルクから、そしてもう一通は、


『ルード君へ


 短い間でしたがありがとうございました。

 何度も死ぬかと思いましたが、思い返してみれば、楽しかったです。


 これにて私とルード君の冒険はおしまいです。

 私は私の、あなたはあなたの旅を続けましょう。


 次に会う時、私はもっと強くなってます。

 そしてもっともっと綺麗になってます。

 ルード君惚れちゃうに違いないです。


 大丈夫です。ずっと先になるかもしれませんが、

 またいつか会えますよ。


 楽しみにしてますね。


 あなたの勇者、ウィステリア・ソーン』



 ルードは丁寧に手紙を畳むと懐にしまった。

 優しい風が吹いている。


「また、会えるかな。ウィズ」


****************


「なぁ、ウィズ。良かったのか?

 流石に挨拶くらいしても文句は言わねぇ」


 船の上。海風にあたりながらケインが言う。


「いいんです。名残惜しくなりそうですし、

 手紙でお別れってのも粋じゃないですか。


 で、どこに向かうんでしたっけ?

 船乗ったら教えてくれるって約束でしたよね」


「ん、ああ。ったく、あのクソチビ……こき使いやがって……


 俺たちの目的地か? 『石版都市』だ」




 完

 

『名ばかり勇者が追い出したのは史上最悪の死霊魔術師でした。後悔してももう遅いと滅茶滅茶襲ってくるので死ぬ気で抗う。』

 完結です。ここで一旦区切りとさせてください

 


 ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。面白いと思ったら是非ブクマ、ポイント評価お願いします!!

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