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第十四話 「また、今度です」

本日二話更新です。これが二話目です。




「これで敵を攻撃するんですね?」


 おもちゃのような見た目をした剣と銃を軽く振りながらウィズが言う。剣とは言いつつも見た目は棒だ。


「そうそう。蹴ったり殴ったりは反則だよ」


「砂かけるのは?」


「だめ。銃と剣だけだよ。銃は五発、剣は二発で敵が気絶するんだ」


 ふぅん、と言いながら誰もいない場所に銃を一発撃つ。黄色い魔力弾が発射された。見てから避けれるかは微妙な弾速だった。


「おし、全員位置についたな。いいか?

 3、2、1、スタート!!!」


 アーガスが開始の合図とともにボールを遥か上空へと蹴り上げる。とんでもない高さまで飛び上がったボールは風に揺られ、どこに落ちるか予想が難しい。


「うーわ、思いっきり蹴ったね。

 流石アーガス」


 舞い上がったボールは風に揺られ、落ちてきたかと思えば空中で突然軌道を変え、ウィズたちから逃げ始めた。


「まずはボールを攻撃して気絶させるんだ!」


 ボールに向かって走りながらルードが叫ぶ。


「ふぅん、こんな感じですか?」


 木が生い茂る森の中を何でもないかのように颯爽と走る。瞬く間に全員を追い抜かすと、悠々とボールを剣で叩いた。

 ポポン! という警戒な音とともにボールが停止、ウィズがキャッチした。

 あまりの速度にルード含め、子どもたち全員が目を丸くして立ち止まる。


「おう、すげえな!」


 アーガスが酒を煽りながらガハハと笑う。


「嬢ちゃん! それ持ってあそこの敵ゴールまで走れ!

 敵に捕まんねぇようにな」


 相手チームの子供達がウィズとゴールの間に立ち塞がる。

ウィズに向けて雨あられと銃が発射された。だが、その時にはウィズは既に木の後ろに体を隠していた。


『魔術師と戦う時は射線に入るな。射線、分かるか? 敵が魔術を撃とうとする場所にいたら駄目だ。その前に避けろ』


 訓練での兄の言葉が頭をよぎる。失敗したら容赦なく魔術を撃ち込まれたものだ。普段の訓練に比べればこんな子供達の攻撃はそよ風に等しい。

 森の中の走り方についてもそうだ。普通の子供達と違ってウィズは物心着いた時から厳しく鍛えられている。そもそも勝負になるはずがなかった。


「囲め!」


 相手チームのイーゼルが叫ぶ。一人が木を回り込もうとしてきた。それを見てウィズは敵のいない方へと逃げる……と見せかけて身体を入れ替えるとその子を剣で数度斬りつけた。

 が、何も起きなかった。


「ボール持ってるチームは攻撃できないよ!」


 ルードの声にそう言えばそんなこと言ってたなと思い出す。そうなるとどうしたらいいのだろうか。敵は四人いて、全員ウィズを見ている。ゴールは彼らの後ろ。流石のウィズも突っ込めば被弾は避けられないだろう。

 少しずつ、端へ端へと追い込まれていく。しょうがない、一か八か……そう思った時、


「ウィズ! ボールちょーだい!」


 ルードがウィズに手を振った。

 えいっと両手でボールを放り投げる。が、ルードから逸れた。ウィズは生まれてこの方ボールというものを投げたことはなかった。ナイフ投げは得意だったのだが。


「寄越せ!!」


 ボールを追いかけるルードをイーゼルが剣で叩く。1ヒット。剣の場合は2ヒットで麻痺だ。後一回でルードは動けなくなる。なんとかルードも応戦しているがボールを持っているチームは攻撃しても意味がないルールだ。直ぐにやられてしまうだろう。他の子供達もルードに銃を向けている。


「あー、ごめんなさい」


 これは駄目だなぁ、そう思いながらウィズが呑気に謝罪する。もうちょっと上手にボールが投げれていればよかったのだが。


 それでも勇者は諦めない。

 防ぎきれない、そう判断したルードはボールに向かってジャンプした。


「ウィズ!!!」


 銃弾が何発もルードにヒットし、ルードの身体を光が包む。麻痺の魔法だ。これでルードは指一本動かせない。

 だがジャンプしたルードの身体は慣性に従ってボールにぶつかり、弾き飛ばした。


「あ!」


 てんてんてん、と誰もいない場所へとボールが転がる。

ウィズはこれでもか! と強く地面を蹴ってボールへと走った。ウィズの足は早かったが、スタートが遅かった。距離が遠かった。ボールにたどり着いたのはウィズとイーゼル同時だった。

 イーゼルがウィズに剣を振り下ろす。


 ウィズはそれを無視して剣でボールをぶん殴った。ゴールの方へ、飛んでいけ!!

 ボールが弾き飛ばされる。


 イーゼルに二発叩かれ、ウィズの身体が麻痺する。

 置物のように地面に横たわりながら、ボールの行く末を目で追いかけた。


 流石にボールは直接ゴールに入ったりはしなかったが、コロコロと転がったそれをウィズたちのチームメイトがゴール前で拾い、ゴールへぽいっと投げ込んだ。


 アーガスがピピーっと笛を鳴らす。


「はい、ゴール! ルードチームの勝ち!」




「「「やったぁ!!」」」


 仲間たちが叫ぶ。


「ウィズ! ナイス!!」


 少し先に麻痺が解けていたルードがウィズを助け起こし、抱きしめる。


「ウィズのおかげで勝てた! ありがとう!」


「私の……おかげ?」


「うん! やったぁ、久しぶりにイーゼルに勝った!」


「おい調子乗んなルード! その子が強いだけだろ!」


 イーゼルが頬を膨らませてルードを叩く。


「私の……おかげ……」


 ウィズがポツリと呟く。


「そんなこと言われたの、初めてです」



 それから3試合ウィズたちはリュードラで遊んだ。ウィズとルードの連携は試合を重ねる度に洗練されていき、三試合目に至っては瞬く間に勝利した。


「いぇーい、僕たちのコンビネーション最強だね!」

「最強です!」


 ウィズとルードがハイタッチをする。


「んー、なんか、ゲームバランス悪りぃな」


 アーガスが頭を掻く。少しずつ負け続けたイーゼルたちが不貞腐れてきたところだった。


「おし、俺が入ろう。

 イーゼルのチーム、ルードのチームと合体。1対8でやるぞー」


「えー! アーガス結局やるのかよ!」


「お? お前ら負けるのが怖いのか? 1対8でも俺様には勝てねぇかぁ? かー! これだからおこちゃまは!

 しょうがねぇ、ハンデで俺銃でも剣でも一発当たれば麻痺発動だ! お前らは剣十発当たったら麻痺な! あと俺は銃つかわねぇ」


 迷っている子どもたちの中で一人が意気揚々と手を挙げた。ルードだ。


「やるよ! ね、ウィズ?」

「え? あ、はい」


「しょうがねえなぁ。アーガスと遊んでやるかぁ」


 やれやれ、とイーゼルたちが追従する。「しょうがないねー、アーガスかわいそうだもんねー」と別の子が言う。


「おい、なんで俺が遊んでもらうみたいになってんだよ」



 アーガス対子供達全員。一試合目、勝者、アーガス。

 アーガスは銃弾を全て剣で叩き落としたかと思えば、子供達たちに近づいていき瞬く間に全員を麻痺させた。ルードとウィズもあっという間にやられてしまった。

 アーガスの前ではウィズも他の子達も大して差はなかった。数秒長く生存しただけだった。


「ルード君、無理です。勝てません」

「ほんと、容赦ないよね……アーガスらしいけど」

「もうやめません? 何回やっても無駄ですよ」

「そうかなー、ねぇ、次さ、他の全員で足止めするからウィズ、ゴールに走ってよ」


 二試合目、勝者、アーガス。

 ルードたちで稼げる時間ではウィズはゴールに辿り着けなかった。子供達を全員葬ったアーガスからウィズは必死で逃げたが直ぐに麻痺をくらった。

 高笑いしながらゴールにボールを蹴り込むアーガスをウィズたちは芋虫のように転がりながら見つめるしかなかった。


「駄目かー、次はみんなで広がってボール回そうか。

 ボール回して時間を稼げば麻痺から復活できるかも」


 三試合目、勝者、アーガス。

 全然無理だった。開始早々にボールを空中でキャッチされ、ゴールへと駆け込まれた。広がっていたルードたちはまともに攻撃することも出来なかった。


「全員でボール無視して一斉に銃を撃ち込もう」


 四試合目、勝者、アーガス。

 アーガスは手始めにルードを麻痺させると、動かないルードを盾にして銃弾を全弾防いで見せた。最後にはルードとボールが一緒にゴールにぶち込まれた。


「ゴールゴールゴールゴールゴール!!!」


 叫びながら森を駆け回る大男を無視してルードたちは円陣を作る。


「ねぇ、やっぱり無理ですよ。勝てません、化け物です。兄さんと同じです。結局化け物には勝てないんです。才能が違うんです」

「うん、僕もそう思う。才能が違うよね。中々勝てないんだよなー。

 んー、やっぱりさ、二試合目にやった時間稼いでウィズが走るのが一番良いと思うんだ。あんな感じでなんか出来ないかな?」


 勝てないと言いつつも頭を捻るルード。ウィズにはとても、理解できなかった。


「ちょっと、なんで作戦考えるんですか、やめましょうよ。勝てません」


 地面に作戦を書いていたルードが手を止め、ウィズの目を見た。その目はなんでそんなこと聞くの? とでも言いたそうだった。


「だってウィズいるじゃん」


「へ?」


「僕が一人でアーガス倒すのは無理だよ? でもさ、今はウィズも、イーゼルも、ヨハンも、コルドも、ミアも、シズも、ハイドもいるじゃん。こんなに仲間がいるんだから、力を合わせたら勝てるかも」


「なかま?」


「うん、仲間でしょ、僕たち。

 僕は勇者だけど、一人で勝てないことなんていっぱいあるもん。ご先祖様も仲間と一緒に魔神を倒したんだし」



 仲間、私が? 私に、仲間?

 役立たずの、私に?

 落ちこぼれの、私に?


「私、弱いですよ」


「アーガスに比べたらね。でも弱い人が集まっても弱いなんて、誰が決めたの? 力を合わせようよ。そしたら勝てるかも」


 そっか、仲間。


「……さっきは最後に捕まりましたが、もう少し時間があればボールを投げ込めたかもしれません。

 その最後の一瞬が稼げれば、もしかしたら」


「じゃあ、僕がやるよ。僕がウィズを守る」


「あー、じゃあ俺らがルード抜けた分の時間も稼がねえとな。一斉にかかるんじゃなくて時間差で仕掛けてみるか?」


 イーゼルが言う。彼も、仲間。


「それだと三試合目みたいにアーガスに逃げられない? 三人ずつで当たるのはどうかな?」


 ミアが言う。彼女も、仲間。




 自分に初めてできた、仲間たち。



「皆が稼いだ時間、絶対に無駄にはしません」









 結局、勝てなかった。

 その後何試合やっても勝てなかった。その都度全員で作戦を打ち合わせ、アーガスに立ち向かったが、全て粉砕された。互いの特徴を理解し、作戦に盛り込んでも、駄目だった。頭を働かせれば働かせるほど、アーガスは嬉しそうにそれを打ち砕くのだ。

 最後はアーガス以外の全員体力が尽きて解散となった。


 街を二人でとぼとぼと歩く。


「あー、くっそー、勝てなかった!

 アーガス強すぎ!!」


「本当に。でも、ルード君、私、楽しかったです。

 きっと、人生で一番」


「うん、僕も楽しかった。でも勝ちたかったなぁ」


「ですね」


「ね! ウィズ。次はさ、勝ちたいね!」


 屈託のない笑顔が眩しい。

 このまま毎日遊べたらどれだけ幸せだろう。

 だが変えられないこともある。


「すいません、でも私、明日の朝には国に帰らなきゃです」


「そっかー、じゃあまた今度だね!」


「今度?」


「別に直ぐにじゃなくても次はあるでしょ? 何年後かでも。僕それまでに強くなるよ」


「また会えるとは限りません」


「会えるもん、仲間だから」


 そう言われるとそんな気がしてくる。


「会え、ますね。きっと。いえ、絶対に。

仲間、ですもん。


 ルード君、また、今度です」



****************


「どうした、ウィズ。やけに機嫌良さそうじゃねえか」


「兄さんこそ」


「あ? んなわけあるか。気のせいだ。で、どうした」


「ねぇ、兄さん。帰ったら訓練付き合ってください」


「へぇ、どういう風の吹き回しだ。厳しくするぜ?」


「是非そうしてください。私、強くなりたいんです」


「才能が違うから無駄なんだろ?」


「どうも無駄じゃないみたいです。

 ねぇ、兄さん」


「なんだ」


「また、来たいですね」

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