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第十三話 思い出

本日二話更新します。

 迷宮の床に転がって寝入っているルードをウィズはぼんやりと眺めていた。

 懐かしい横顔。随分と昔のことで、当時はお互い幼かったが、その面影は今も残っている。


「覚えてるのは私だけでしたが、無理もないですよね」


 いつか会えたら、そう思っていた。

 この大陸に来たのはケインたちについて来たからで、ウィズの意志ではなかったが、訪れてからはずっと期待していた。

 同じ街にいることを知った時はワクワクした。


 昔、昔の大切な思い出。

 僅か一日でしかない、ウィズという女の子の宝物の記憶。


**************** 



 兄に手を引かれ、トコトコと歩く。


「ウィズ、お前今日も訓練サボったな」


「頑張っても意味ないです。私は兄さんみたいにはなれません。才能が違うんです、才能が」

「んなこと自慢げに言うんじゃねぇ」


 訓練なんてつまらないものよりも楽しいものはいっぱいある。

 幼いウィズにとって、そこは初めてくる異国の地。一から十まで全てが新鮮で、輝いて見えた。


「ウィズ、あまりきょろきょろするな。みっともない」

「父様。でも、あそこ、すごい綺麗です」


「ステンドグラスだな。なあ、親父。やっぱウィズは無理だぜ。会談中大人しくしてる未来が見えねぇ」


 手を離せばどこかに行ってしまいそうなウィズを見て兄がそう言った。父が顔を顰める。


「むぅ。仕方ない。小遣いをやる。

 これで夕方まで街でも見てきなさい」


「えー、私も勇者様に会ってみたいです」


「駄目だ。お前にはまだ早い。

 さっさと行け」


「……はい」


 しょぼしょぼとお小遣いを受け取ると、振り返ることなくとぼとぼ去っていくウィズ。


「大丈夫か?」


「ラルク・ブレイバーのいるこの街は世界で最も治安の良い街の一つだ。問題あるまい」


「俺が心配してるのそこじゃねぇんだけどなァ。

 つうかさ、何で俺らがわざわざ別大陸まで来ないといけないわけ? 慣例なら向こうが来るべきだろが」


「致し方あるまい。エゼル海紛争のころからラルク・ブレイバーは各国にとって要注意人物だったが、魔法国の一件が決定的だった。いまやあの子供を入国させる国などない。

 懐に爆弾を抱えるようなものだ。

 貴様もくれぐれも喧嘩を売るような真似はするな」


「ちっ、はいはい、分かったよ。

 ああ、噂をすれば、だ。来なさった」


 晴れた昼空に雷鳴が轟いた。






「おじさん、串焼き2本ください!」

「あいよぉ!」


 最初こそ追い出されて不貞腐れていたが、やっぱり旅行は楽しい。気づけばウィズは状況を満喫していた。

 手にした串焼きやお菓子を手に街を練り歩く。

 少し疲れて、噴水脇の椅子に腰掛けて街並みを眺める。


「ねぇ、君。どこから来たの?」

「ん?」


 声をかけられた方を見るとそこにはウィズと同い年くらいの男の子がいた。手にはウィズが持っているのと同じ串焼き。


「なんかあんまり見たことない服」

「レドラ公国から……」


「レドラ!! よその大陸だ! よく来たね!

 僕、ルード・ブレイバー!」


「あ、ウィステリア・ソーンです。

 ブレイバーってことはブレイバー家の人ですか? 勇者の家系の」


「うん、そうだよ。僕、実は勇者。って、あれ、ソーン?

 父上と兄様が今日会うって言ってたお客さんかな?

 こんなところで何してるの? 迷子?」


「あなたのお兄さんたちと会うのは私の父と兄です。私は大人しくできないから街でも見てこいって言われました。

 みんな私を除け者にするんです」


「あ、僕と一緒だ。

 僕も外で遊んで来いって。

 ねぇ、せっかくだし一緒に遊ばない?

 僕もソーンと仲良くなったって知ったらみんなびっくりすると思うんだ。あのさ、これって外交? ってやつだよね」


 ルードの提案をしばし考える。

 ウィズが会いたかった勇者はラルク・ブレイバーで、ルード・ブレイバーなど聞いたこともないが、確かにその提案は楽しそうだった。


「いいですね。遊びましょうか。

 あ、私のことはウィズと呼んでください。みんなそう呼ぶんです。

 よろしくお願いします。ルード君」



 それからルードとウィズは二人で街を見て回った。

 お菓子を食べ、料理を食べ、ジュースを飲んだ。有名な観光地にも訪れたが、結局少し見ただけで食べ歩きに戻った。

 子どもなんてそういうものだろう。


「この国はご飯が美味しいですねぇ」


「僕他の国行ったことないんだよね。外に行くのは兄様ばっかり! ねぇ、レドラのご飯ってどんな感じなの?」


「うーん、正直言って、そんなに美味しくないですね。

 そもそも食べ物に興味がないというか、温かいものを食べる文化があまりないんです。冷めたパンとか、ソーセージとか、冷めた芋のスープとかばっかり食べてます」


「へぇー、へんなのー」


「うちは特に厳しくて、修行中はそれすらご馳走に思えるくらい美味しくないんです。木の皮とか、草とか、カエルとか、蛇とか」


「蛇!? うっそだー!?」


「みんなそう言いますね。火を通せば割と美味しいですよ。最悪なのは生のやつです。普通の人が食べたらお腹壊すんですが、私たちは慣れてるから食べれるんです。とってもまずいです」


「うげぇ……」


 ルードが想像もしたくないとばかりに顔を顰めた。


 ゴーン


 ゴーン


 ゴーン


 三度、鐘の音が鳴った。ルードが「あっ」と声を上げる。


「そろそろ行かなきゃ、僕、今日リュードラの試合があるんだよね。ねぇ、よかったらウィズも観に来ない?」


「リュードラ……この国のスポーツですね。

 観たことないので、行ってもいいですか?」



****************


「おい、ルード! おっせぇぞ!

 逃げたかと思ったぜ!」


「ごめんごめん、イーゼル」


 ウィズが連れてかれたのは森だった。

 ルードとウィズの他にはイーゼルと呼ばれた男の子を含めて6人の子供と、一人の大柄な大人がいた。


「やっほー、アーガス」


 ルードが大人に手を振る。アーガスは寝癖のついた髪をくしゃくしゃとするとため息をついた。


「なぁ、ルード。なんで俺なんだ? 審判なら他にもいるだろ」


「え? 暇そうだったから。非番でしょ?

 イリーナお姉さんに聞いたらどうぞどうぞって」


「あの野郎……」


「ねぇ、イーゼル。それよりウザンは?」


「ウザンは今日来れなくなったってよ。

 隠れて猫育ててたのバレたらしい」


「あー、あれか! 猫は?」


「そのまま飼うって。でも怒られてウザンは謹慎中」


「なら良かった。でも今日の試合どうしようかな。

 兄様呼ぶ? 緊急用の笛持ってるけど」


 リュードラは四人対四人でやるスポーツだ。

 ウザンがいないので、一人足りない。


「そんなことであの人呼ぶなよ……。ってか、あの人入ったら試合にならないだろ。虐殺だ虐殺」


「大丈夫だよ? 多分空気読んでくれるから。まあ負けてはくれないから兄様の入ったチームが絶対勝つけど」


「それ楽しいか? やだよ」


「うーん、じゃあアーガスに入ってもらう?」


「おい、ルード。俺は嫌だぞ。審判は仕方ねぇからやってやるが、酒飲みながらやるんだ俺は。試合に参加したら酒が飲めねぇ」


「騎士団長も駄目だろ。なぁ、その金髪の子は?」


 イーゼルがウィズの方を見て言う。


「え? 私、ですか? ルール知りませんよ?」


「大丈夫、大丈夫。教えるからさ」


「ねぇ、ウィズ。せっかくだしやってみない? 楽しいよ」


「えっと、じゃあ、はい」



 リュードラは四人対四人のゲームだ。

 使う道具はボールと剣と銃、当然非殺傷だ。

 ボールを相手陣地奥にあるゴールに入れれば勝利となる。ボールは蹴ってもいいし、投げても、持って走ってもいい。

 注意しないと行けないのはボールは魔法がかかっていて逃げようとすることだ。

 プレイヤーは剣か銃を使ってボールを気絶させ、相手ゴールへと運ぶ。

 ボールを持っていないチームは相手チームを剣と銃で攻撃できる。剣と銃を一定以上当てられると30秒間麻痺の魔法がかけられる仕組みだ。ボールを持っているチームは敵の攻撃を躱しながら敵陣へと進む必要があるが、その間に相手チームを攻撃しても麻痺の魔法は発動しないので注意が必要だ。ボールを持っている間は剣と銃は防御にしか使うことができない。

 ゴールが決まった時点で試合終了だ。


「じゃあ、やってみようか。

 大丈夫、やってればルール覚えられるよ。

 頑張ろうね、ウィズ」





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