第七話『テストは倒せたがゾンビは倒せない』
本日は中間試験最終日。
そして今、最後のテストが終了した。
「んー終わったー!」
「ふぅ、これで肩の荷が下りたな」
勉強の甲斐あって、わからなかったところは少なかったと思う。
まあ最初のテストだし簡単めに作られているのかね。
「良い点とれそうか?」
「わかんないけど、赤点は絶対に無いと思う!」
「半分は解けてるってことか、まあ勉強したんだしそれぐらいはとらないとな」
「努力が実を結んでよかったよー」
「だな。これで明日土曜とかならよかったんだけど」
「ほんと、まだ三日あるのめんどいよねー。まあそのおかげでこの二日分に集中できたわけだけど」
「善し悪しだな」
それでもやはりテストが終わったのは大きい。
残りは気持ちに余裕をもって日々を過ごせる。
しかも今日は午前中の二科目で終了。
おかげで昼前なのにもうフリーだ。
「オレはやることないから帰ろうと思うんだが、孝平はなんかあるのか? 飼育部の仕事があるか?」
「今日は先生が担当してくれるってさ。テスト後だからゆっくり休めって」
「おお、良い先生だ」
先生もテスト後だから色々やることあるだろうに。
「うん、動物たちと触れ合うのもいいけど、流石に今日は何もしたくないよ……」
「そりゃそうだ。……しかし、未だに飼育部っての慣れないな。どうも部活って感じの活動じゃないから違和感がある。委員会じゃダメだったのかね」
「飼育してる動物は学校のじゃなくて先生の管理下にあるからね。学校が責任を持ってるわけじゃないから顧問として責任が持てる部活動にしたんだって、前も言ったじゃん」
「や、中学は学校管理だったからどうもな」
ほとんど趣味を無理やり部活動に昇華させたようなもんだしな。
アニメでへんてこな活動をする部を生徒が立ち上げるってのはよく聞くが、まさか先生側が個人の意思で部活を作るなんて……変わってるわ。
「あれ、もう誰も教室いないね」
「さすがに今日はみんな即帰宅か部活か。運動部も今日ぐらいは休めばいいのに」
「中学ならまだしも高校はテストも部活も両方ハードだからなおさらね……」
「ほんとだよ全く。じゃあオレ達も帰るか」
「あ、どうせならゲーセン寄って帰ろうよ!」
「おお、ぶっ放すか」
ゾンビをボコボコにしてストレス発散といこうか。
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ゲーセンに行く途中。
「そういえば今週やるんだよな、お疲れ様会」
「うん、佐倉さんたちの学校はちょうど金曜日が最終日だからね。それでテスト乗り越えたご褒美として佐倉さんが気になっているランチを食べに行くんだ。んで、その後はなんか買いたいものがあるらしくて。それに付き合うって感じかな」
「乗り越えれてればいいけど」
「あはは……まあ昨日のテストは大丈夫だったらしいよ」
「ならその調子で残りも頑張ってほしいな。土曜日に佐倉さんがやけくそになってないことを祈ってるわ」
赤点決定慰め会ってのも悪くないかもだが……流石に気まずいわ。
「きっと今も勉強してるんだろうし、テスト終わったとだけ伝えておこうかな」
「こっちは終わったってマウントとるなよ」
「ぷっ、真人相手ならそれやったんだけどなぁ。さすがに佐倉さん相手にそれは嫌がられそうだからやめとく」
「うんうん」
オレ相手にやられても普通にウザいもん。
少なくとも佐倉さん相手にするべき行為ではないな。
「ちゃんとラインは見極めて会話してるんだな。調子乗って変なやり取りしてなさそうで安心したわ」
「失礼な、メッセージ送るときも会う時も俺なりに考えて行動してるんだからな! 恥ずかしい姿は見せてないつもりだよ」
「そうかそうか、悪かったよ。その調子で頑張ってな」
まー実は傍から見てるとちょっと怪しい部分もあったりするんだけどな。
佐倉さんが笑った時とか途端に腕の動きとかが挙動不審になるし。
佐倉さん自体は気づいてなさそうだから大丈夫だろうけど。
「でも最近佐倉さんの様子が変わってきてる気がするんだよね」
「というと?」
「日曜日佐倉さんとテスト勉強しに行ったじゃん? そこで話してたら急に敬語外して話してきて、かと思ったらすぐ敬語に戻るみたいなことしてたよ」
「うん? よくわからんが、敬語が外れてきてるのは良いことじゃないか?」
仲が深まっているってことだと思うけど。
「そうなんだけど、内容が内容っていうか。例えば、この問題難しいんだよねって話をしたら、えーそんな問題もわからないの~? ……あっごめんなさい私もわからないですほんとすみませんってペコペコし始めるみたいな」
「おお?」
急に軽口叩くじゃん。
え、佐倉さんの素ってそんな感じなの?
「他にも、今までは隣に座った時とかも微妙な距離あったんだけど、勉強教えてる時とかすごい距離詰めてきて、それに気づいてめっちゃ離れるみたいなことしてたし」
え、そんなことあったのか。
二人して気づかなかったな。
「やっぱり佐倉さんの距離感はちょっと違うってことなのかね」
「うん、そうみたい。疲れてぐったりする姿とか見せてくれたし、少しは気を許してくれてるってことなのかな」
「そうだとは思うが。なんか控えめな佐倉さんからは想像できないな」
「だよね。思わずグッときてしまったよ」
「孝平はなんでもいいんだな……」
「う、うるさいよ!」
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「真人! そっちいったよ!」
「やべ、数多すぎ……!」
「任せて!」
ゾンビの大軍に押し切られそうになったところを孝平がすべて打ち殺す。
相変わらず孝平のエイムすげー。
「ほんとゲームでは頼りになるよな」
「むっ、なんか言葉にトゲを感じるよ」
「いやそういうつもりではなかったんだが」
しばらくテスト勉強で情けない姿見てたからつい、な。
「真人大丈夫!?」
「ちょい無理無理無理! ……うわぁ、やられた。ここからはコンティニュー不可か」
ボコボコにされてしまったぜ……
「よくも真人を! うぉぉお、唸れ俺のエイムぅぅぅ!」
「全然外さねぇ……腕をあげたな」
結果、最終ステージをほぼ孝平一人で突破するのだった。
「いぇーい」
「どんだけやりこんでんだよ」
「まあちょくちょくね。じゃあ次は音ゲーやろうか!」
「お、ダンスするやつなら負けねぇぞ」
「うっ、ここぞとばかりに俺の苦手分野を出してこないでよ」
運動神経はオレの方がいいから動く系なら孝平に勝てる。
それ以外はボロボロだけど。
「ちょ、おい、これ反射神経だけじゃどうしようもないだろ!」
「ふふん、まだまだだね真人。音ゲーは譜面を覚えてから始まるんだよ」
「オレそんなガチ勢じゃないからな!?」
うわわわ、見てから反応できる量じゃない!
あ~。
「うわぁ、スコアボロボロ……」
「よーしSランク! 音ゲーはカンニングだよカンニング!」
「テスト終了日に聞く言葉じゃねぇなそれ」
「次はこの曲で行こうかな」
「おい、ちょっとは手加減してくれ……」
「ふっ、ほっ、ここっ!」
「わ、ちょ、その態勢キツイ……!」
「おい孝平、動きが硬いぞ!」
「なんで真人、ダンスやってるわけでもないのに、そんなにキレがいいのさ!」
「へへへ。フィニッシュっと!」
「はぁ、はぁ……やっと終わった……」
おいおい、たかが一曲踊っただけでそんなに息切れしてるのかよ。
「ほんと孝平体力ないな」
「俺は真人みたいに走り込みとかしてないからね!」
「誘っても来ないじゃん。来てくれるのなら一緒に走るのに」
「いくら真人の誘いでもそれは嫌だよ……」
「ちぇ、まあ無理強いはしないけどさ」
一緒に走れたら楽しそうなんだけどな。
「というかこれもカンニング必須なのによくできるよね」
「いやしてたじゃん、カンニングってやつ」
「二、三回見るだけで対応してるのは流石としか言えないよ……」
「動き込みなら覚えやすい」
これはポーズさえあっていればOKのシンプル仕様だからな。
身体で覚えればいいだけだ。
譜面だけとかシステムが複雑なゲームは無理だ。
「あー疲れた。一旦休憩!」
「ん、ちょうどお昼の時間だしな。飯食いに行くか? それとも帰るか?」
「うーん、帰って昼食食べてそこから家で一緒にゲームしてもいいんだけど、せっかくだし外で食べたいかなぁ」
「オレも孝平の家に帰るのは決定事項なんだな」
「?」
そんな当たり前でしょって顔するなよ。
もちろん断る理由はないんだけどさ。
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「ハンバーグ定食とカルボナーラをお持ちしました」
「ありがとうございます」
「「いただきます」」
「そういえばお疲れ様会では何か食いに行くって言ってたよな。何食うのか聞いてるのか?」
「それがね、なんかステーキ屋に行きたいんだって」
「ステーキ屋!?」
え、昼から?
しかも女の子が?
「食べるのが好きってのは前聞いたけど、そんなにガッツリ行くのか?」
「いやまあステーキ屋だからってたくさん食べるとは限らないと思うけどね。勉強の時のお昼ごはんはオムライス食べてたんだけど、別に大盛りとかじゃなかったし」
「ああなるほど、おいしいステーキをちょっとだけって感じか」
「そうそう」
なんか通みたいな感じだ。
食べるのが好きってだけでなくちゃんとおいしい店を探すタイプなんだな。
「オレ昼からステーキなんて食べたことないかも。ファミレスでもステーキには手を出さないしな」
「俺もそうかも。何かのお祝いとかで家で食べるぐらいだなぁ」
「そういうちょっとお高い食べ物に手を出すっての、なんか高校生になって一歩大人になった気分するな」
「確かに、中学の時じゃお小遣い少なくてそんなことしたくてもできないもんね」
ステーキかぁいくらぐらいするんだろ。
ランチならそんなに高くないとは思うんだけどな。
……やばいな、行く前提で考えてしまっている。
どうせその内メッセージ飛んでくるんだろうけどさ。
「佐倉さん美味しそうに食べるって言ってたけどそれだけなのか? ここが美味しいみたいな食レポとかしないのかよ」
「うーん、ただ美味しいっていうだけかなぁ」
「そうか。そういうのしてきたらめっちゃ面白いのに」
「確かにね。流石に笑っちゃいそう」
「孝平はどうせギャップ萌えするだけだろ」
「うっ……否定できない」
「ふーん、青春だねぇ」
「にやにやしないでよ! ほ、ほらご飯食べるのに集中しないと」
「ふっ、なんだそりゃ」
変な誤魔化し方。
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「ちょ、おい! オレを狙いすぎだろ!」
「気のせい気のせい。真人がたまたまそこにいるだけだよ。あ、またごめーん」
「コイツぜってぇわざとだ!」
さては孝平のヤツさっきからかったの根に持ってるな!
わざと後ろに順位つけてアイテムぶつけてきやがる。
「早く前行けよー!」
「いやぁ、真人は速いなぁ。あ、ごめんなさーい」
「孝平テメー!」
「いぇーい一位だー!」
「くそがぁ……」
結局ひたすらボコボコにされて最後の最後に順位も抜かされた……
屈辱的すぎる。
「いやぁ気持ちいいなぁ。また音ゲーやろうかな」
「疲れたしオレはパスで。しばらくやってるの見てるわ」
「え、そう? なら何回かやろうっかなー」
ダンス踊ったら速攻でバテるくせに音ゲーとかガンシューティングとかは疲れ知らずで無限にやってるのほんと意味わかんねぇ。
何回かやっただけでオレはもう精神的疲労がすごいよ
得意不得意でこうも体力の減りようが変わるんだな。
「うぉぉぉお!」
うわぁ、動きが早すぎる。
もはや手元の動きに残像が見えるもんな。
何やってるのか全く分からん。
しばらく孝平の音ゲーをぼーっと眺めていると携帯が震えた。
『土曜日の朝10時に○○に来なさい。店の予約は既にとっているわ』
ほら案の定来たよ。
てか席予約済みか、気が利いてることで。
はぁ、今週も尾行かぁ。
音ゲーに集中している孝平を眺める。
……ま、孝平が佐倉さんと楽しんでる姿を見る理由付けになるからいっか。
結局その日はゲーセン後も孝平の家でゲームをやることになり、対戦ゲームでひたすらボコされた。
折角テストが終わったというのに、ゲーセンでボコボコにされ家でもボコボコにされるという中々に辛い一日だった。
最初はゾンビをボコボコにしてストレス発散するつもりだったのになぁ。
オマケ
孝平の家にて
「いぇーい、また俺の勝ち―!」
「うぅ、つえぇ……」
マジで一回も勝てねぇ……
「ちょっと孝平! また真人君を虐めてるの!?」
「か、母さん。いやこれは遊んでるだけであって」
「ごめんね真人君。ちょっと貸してもらってもいいかしら」
「あ、はい。どうぞ」
「真人君を虐めるのなら私が相手よ、孝平」
「望むところだー!」
数戦後
「ま、参りました……」
「ふん、他愛無いわね。そんなので真人君を虐めてるんじゃないわよ」
「す、すみません……」
「ありがとうね、真人君。また孝平が虐めてきたらすぐ私に言うのよ」
「は、はい。ありがとうございます」
なんで孝平の家族はみんなゲームがうまいんだ……?
藤本家のゲーム上手さ序列
母親≧父親>>>孝平