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第五話『勉強勉強勉強』

GWが終わり、中間テストが迫ってきた。


入学して初めてのテストだ、気合い入れていかないとな。


「な、孝平」

「……」

「孝平?」


教科書から顔をあげると、孝平は顔を突っ伏していた。


「はぁ……高校の内容難しすぎ」

「ちゃんと復習してないからだ。いつも言ってるじゃん、こまめにやっとけよって」

「それでやるなら俺はもうちょっと頭がいいよ」

「そりゃそうか」

「ひどい!」


わーわーと騒ぐ孝平を無視して時計を見る。

それにしても、教室にだれもいなくてよかった。

まあいたら騒いでいないと思うけど。


……勉強始めて1時間以上経ってるな。

ま、ちょっとは息抜きしてもいい時間か。


「わーわー! ……あー勉強嫌だー」

「おいおい、受験の時さんざん勉強しただろうが。慣れたもんだろ?」

「慣れるわけないじゃん! 地獄の日々だったよ!」


地獄の日々ねぇ――



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈



「真人ー中間テストどうだった?」

「いつも通り、まずまずだ」

「……まずまずとか言っときながら平均80点超えてんじゃん」

「いつも通りだろ? 孝平は……もっと勉強しないとな。せめて平均70は行こうぜ」

「えー」

「そんなんじゃオレと一緒の高校は行けんぞ」

「うっ……」


ほんと、よくあんな成績で一緒のところ行きたいって言ったよな。

やっぱ孝平と一緒に通いたかったからさ。

ほー嬉しいこと言ってくれる。


「よく部活しながら勉強できるよね。テスト期間だってなんだかんだ練習してるし」

「日頃からコツコツやっていれば何とかなるもんだよ。……本気で一緒のとこ行きたいんだったらそろそろやらないと無理だぞ?」

「……そうだよね、流石にこのテスト見てまずいなって俺も思ったし」

「オレが部活じゃないときは教えるからさ。頑張れよ」


でも結局一人じゃ勉強できてなかったよな。

わからないってなるともうやる気なくなるんだよぉ。


「まひとぉぉ。わからないよぉ」

「ちゃんと覚えないでその場しのぎしてる証拠だな」

「お願い! お菓子とか用意するから休日は俺の家で勉強教えて!」

「えぇ……」


まさか孝平の家に行く→部活に行くみたいな、出勤スタイルになるとは思わんかったぜ。

でもああでもしてないと投げ出してたと思うからさ。

ふーん、にしても全然地獄の日々じゃないじゃん。どちらかと言えばオレの方が多忙で地獄見えてね?

まあ確かにこの頃はまだ余裕があったけどね……




「真人、部活引退お疲れ様」

「ああ、悔いなく引退できてよかった」

「これからはもっと遊べるね」

「何言ってんだよ孝平」

「え?」

「これでようやく孝平の勉強に集中できるな。まだオレの志望校に受かるレベルじゃないんだし、頑張っていこうな」

「え、いや、今までぐらいでもなんとかなるんじゃ……あはは」

「ン?」

「いや、えと、その……」

「さーて帰るぞー!」

「ま、まひとぉ~」


めっちゃいい笑顔してたよね、あの時の真人。

そうだっけ?

そうだよ。とにかく、真人が部活引退してからはほんとすごかった……放課後ほとんど毎日勉強してたし、休日だって勉強勉強。

ちゃんと息抜きに遊びに行ったりはしてただろ?

いやいや、本当に勉強するか遊ぶかでだらだらする時間なんてなかったじゃん!

まさしく学生の本分だな。

極めすぎだよ!




「あいまいみーまい……ごうどうそうじ……してんりきてんさよーてん……」

「孝平?」

「ふふふ、いいくにつくろう……ぜったいぜつめい……」

「しっかりしろ孝平!」

「なんだよまひとー。つねにふくしゅうしておかないと~」

「逆にめちゃくちゃIQ下がってるからな?」

「あと、いっかげつ……あと、いっかげつ……」

「……大丈夫かこれ」


うん、よくよく思い返すと受験一ヶ月前ぐらいが一番やばかったな。

そうなんだ。実はその辺りの記憶全然ないんだよね。

……オレそんなに追い詰めてたか?

受かりたい気持ちとか勉強へのストレスとかいろんな気持ちがごちゃ混ぜになった結果、かな?

もうちょいメンタルケアしないとだったか。

まあその辺りがやばかっただけで他は何とかなってたから。




「さて、オレの番号は……ある! 孝平は」

「……」

「ど、どうだ?」

「――うがっだぁぁあ~やっだぁぁぁ~ありがどう~」

「うわぁ!?」



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈



「――いやぁ、ほんと合格できてよかったよな」

「うん、父さんも母さんもすごい喜んでくれたし、つらかったけど真人には感謝感謝だね」

「おう、孝平もよく頑張ってくれたよ」

「うん……マジであの時の俺はプロの学生だったと思うよ……」

「まあ涙と一緒に知識も流れていっちゃったけどな」

「そ、それは言っちゃダメな奴かなー」


マジで合格発表の次の日に記憶喪失になったかと思ったわ。


「ほんとは入れてよかったよ。ここには入れてないと佐倉さんと会うこともなかったかもだし」

「このために頑張ったってか? それを言うにはまだ段階が早いと思うが」

「いいんだよ、佐倉さんのおかげで毎日がもっと楽しいんだし」


ほほう、青春してるねぇ。


「そりゃあいいことだ。最近はどんなこと話してんだ?」

「相変わらず他愛もないことだけど……あ、佐倉さん食べることが好きで、それで高校ではお料理部に入ったんだって最近聞いたよ」

「ほー。食べるのが好きな女の人ってよく聞く気がするけど、佐倉さんもそうなんだな」

「部に入るぐらいだし相当好きなんだと思う。前にも話したけど、映画の時の佐倉さん本当においしそうにお昼ご飯食べてたからね」

「言ってたな。へぇ、ちょっと意外だったわ」

「グルメなイメージは沸かないよね」

「まあオレは一回しか見たことない(ということになってる)からイメージも何もないんだが。ちなみに、孝平としてはそのギャップいかかです?」


孝平は力強くこぶしを握りこむ。


「……イイ!」

「ぷふっ、そ、そりゃあよかったな、ハハハ」



生き生きとした表情で拳を突き上げている孝平の姿がしばらくツボに入るのだった。



「あーおかし」

「はぁ……佐倉さん、今何をしてるのかなぁ」

「向こうも同じぐらいにテストって言ってたよな。じゃあ勉強してるんじゃない?」

「そうなのかなぁ」

「孝平も負けずに頑張らないとな」

「えーこうも難しいとやる気も出ないよ」


難しいなら余計に勉強しなきゃだと思うんだが。

勉強しなかったらそりゃあわからんままだろうに。


「じゃあどうしたらやる気でるよ」

「え、そんなのわかれば苦労はないよ」

「そうだ、佐倉さんを誘って勉強すればよかったじゃん」

「え、そ、それは……」


どうなんだろ、好きな人の前だと集中できないもんなのか?

でも世の学生カップルとか一緒に勉強してるし、オレも特に気にしてなかったよな。


「佐倉さんと学力の話したことあるのか? 向こうの高校もこっちよりちょっと偏差値低いだけでそんな変わらんだろ。どうなのよ」

「したことあるよ。佐倉さん自身は普通みたいなんだけど、友達が頭いいからいつも教えてもらってたんだって。そのおかげで順位も結構高かったらしいよ」


友達と聞いてGWに会った女のことを思い浮かべる。


アイツ頭もいいのか。

容姿端麗頭脳明晰、すさまじいな。


「ふーん、聞く限りじゃ孝平よりも頭よさそうだな。佐倉さんに教えてもらえるならもっとやる気出たんじゃないか?」

「それいいなぁ。あ、でも勉強範囲とか違うかもだし」

「まー確かに。その辺確認して、いけそうだったら教えてもらえないか聞いてみろよ。数学とかならそんな変わらんだろうし」


計算系が理解できればあとは暗記ゲーだしな。


「そうだね。おーなんかやる気出てきた! ……でも今回は無理かぁ」


一瞬声に力が戻ったが、すぐになくなって机に突っ伏した。


「やる気出してすぐ萎えるなよ」

「はぁ~」

「ま、佐倉さんとやるときに恥かかない程度には勉強しておこうぜ」

「……はーい」


しぶしぶといった様子で顔をあげてシャーペンを手に持った。


そこからはしばらくはカリカリという音が響いた。




〇▲□★




時は過ぎて土曜日。

テストまでもうあと数日だな。


「真人、そろそろ休憩しない?」

「んー? おお、いい時間か」


午前中から勉強して、もう昼か。

今日は結構集中できてるな。


「孝平、真人君ー。そろそろお昼よー」


ガチャっとドアが開く。


「ナイスタイミングー」

「あ、孝平のお母さん。ちょうど今区切りつけたところなんですよ」

「あら、ちょうどよかったわね。ご飯の準備できてるから食べて食べて」

「いつもありがとうございます」

「いいのよー。真人君は二人目の息子のようなものだから。何度も言ってるけど、そんなに堅苦しくしなくていいのよ?」

「い、いやぁ……どれだけ親しくなっても目上の人に向かってため口は憚られるというか、あはは」

「そう、残念ねぇ」


孝平のお母さんにはとてもお世話になっているため、どうにも敬語を外そうって気にならない。

多分いつまでも敬語のままなんだろうな。


「母さん、今日のご飯は何?」

「ナポリタンよ。さ、行きましょ」



======



「美味かった」

「お腹いっぱいだ」


いつものことながら孝平のお母さんのご飯はおいしい。

勉強場所だけじゃなくご飯も作ってもらえるし、ほんと良いところだ。


「てか毎回皿洗おうとしなくていいって。遠慮されてるようで悲しいっていつも母さん言ってるよ」

「んーオレが食べたんだしなぁ。別に遠慮とかじゃなくて単純に申し訳ないだけなんだが」

「いいんだよ。真人が美味しいって言いながら食べてるの見られるだけでいいって言ってたから」

「良い人すぎだろ……」


ほんと、孝平もご両親も良い人ばかりだ。


「あ、佐倉さんから返信来てる」

「お、何の話してたんだ?」


短いメッセージでやり取りしているのを見ると、初期の佐倉さんがどれだけ緊張してメッセージ送ってたんだっておかしくなる。


ん、まだ敬語口調はとれてないんだな。


「今してたのは勉強の話だけど、最近は友達とちょっとうまくいってないって話を聞いてるよ。今まではその友達と勉強してたみたいなんだけど、それもあって一緒に勉強できてないから捗ってないみたい」

「あらら」


アイツまだ仲直りできてなかったんかい。

もう一か月になるぞ……?


「その友達のことで相談受けたりしてるのか?」

「たまにね。あんまり詳細は言えないけど、今は仲が良くないけど友達をやめたいわけではないからどうしたたらいいか悩んでるみたい」

「ふーん。そんな相談してもらえるぐらいの仲にはなってるんだな」

「佐倉さんが言うには言える相手が俺しかいないってことらしいけど」


その苦笑いを見て察する。

それがロマンス溢れる言葉などではなく本当に孝平しかいないという悲壮感溢れる言葉だということに。


「……じゃあしっかり相談に乗ってあげないとな」

「一応俺なりには頑張ってるつもり。女の子同士のこととなるとよくわかんないけど、何かきっかけが作れればいいねって話してるよ」

「なるほどな」


おい、きっかけがあれば佐倉さんと仲直りできるチャンスがあるかもしれないってよ。

早く仲直りしろよな。


「っと、返信は勉強についてだったよな。今も佐倉さん一人で勉強してるのか?」

「うん、そうみたい」

「そっかぁ、それは寂しいな」

「だねぇ。頑張ってほしいんだけど」


……待てよ。

それチャンスじゃね?


「孝平、今だ」

「なにが?」

「今、誘え。明日勉強しようって」

「え、えぇ!?」

「佐倉さん一人だと捗ってないんだろ? なら一緒に勉強すりゃあちょっとは捗るだろってことで。その感じだとそのお友達に関しては普段から話題に出てるんだろうし、相談的な意味でも会えれば楽だろ」

「な、なるほど」


いきなり明日会おうってのは唐突すぎるとは思うが……最近仲良くなってきてるんだしなんとかなるだろ。

こういうのは勢いだ勢い。


「で、でも俺勉強教えられないよ?」

「別に教えられなくてもいいだろ。一緒に勉強するってだけで変わってくるだろうし」

「まぁ……確かに一人よりは捗りそう」

「だろ? というか、オレとちゃんと勉強してるんだし、テスト範囲が重なってれば少しぐらいはなんとかなるだろ。行かない理由はないぜ」

「そ、そうだね。よし、誘ってみる……!」

「そうだ、いけいけー」


完全にその場のノリだったが、タイミングが噛み合ったようで即OKの返信がきた。


うんうん、ちゃんと進展してるようで何より。


「やった、佐倉さんに会える! ありがとう真人!」

「勉強をしに行くんだからな? そこは忘れるなよ」

「もちろん! しっかり勉強しつつ楽しんでくるよ! はっはっは。勉強、なんて良い響きなんだろう」


うむうむ、テスト間近にしてやる気が満ちているようで何よりだ。


「さて、じゃあみっちりいくか」

「え?」

「明日勉強を教えることになるかもしれないし、事情によっては勉強に時間が割けない可能性もあるんだ。なら今日詰め込むしかないだろ?」

「あーイヤ、俺はもう十二分に勉強できてるかなーって」

「ン?」

「わ、わぁ……その笑顔どっかで見たことある―」

「よーし、寝るまで勉強祭りだー!」

「い、嫌だぁぁぁ!」



お泊りを許可してくれた孝平の両親に感謝しつつ、寝るまで復習をしまくった。

孝平の寝顔は死人のように安らかだったよ。



孝平いないのに家にいさせてもらうわけにもいかないし、明日はどうするかな。







『明日、朝10時に駅前に来なさい』



げぇ……


オマケ


合格がわかった後


「どうざん、があざん、俺受かったよ~!!!」

「二人とも? やったぁ!!! うぅ、よかったわねぇ……」

「偉いぞ! よく頑張ったな!」

「ゔん~」

「よーし今日はお祝い会だ!」


うお~

どんちゃん♪どんちゃん♪


――次の日


「よう、孝平。いい顔してるな」

「もう何も気にしなくていいからね!」

「昨日はため込んだストレス吐き出すかのように泣きまくってたもんな」

「おかげですごいすっきりしたよ! もうきれいさっぱり!」

「今はいいけどまだ学年末もあるし高校はもっと大変なんだからな。勝って兜の緒を締めよって出ただろ?」

「……なにそれ?」

「え、だから受験のテストで…………えっと、数学の――は?」

「なにそれ」

「れ、歴史の――は?」

「ナニソレ」

「……(口をあんぐりさせて唖然としている)」

「……てへ☆」


思いっきり頭をはたいた。




【作者から】

今回もご拝読ありがとうございます。

私事ですが、月曜日のPVが100を超えていました。

3桁とか行くんですね……驚きです。

本当にありがとうございます。

読み続けていただけるようにこれからも頑張ります。

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