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第四話『あんたと私は契約関係よ』

シアターを出たオレ達は持っていたゴミを回収員さんに渡して処分してもらう。

一緒に出てきた周りの人達は面白かったねーと笑顔を浮かべていたが、お隣さんは笑顔なんて浮かべてないどころか顔を下に向けてぷるぷるしていた。


「あーその、なかなか面白かったな?」

「ふ、不覚……つい映画に見入ってしまったわ」

「まあまあ、楽しめたんならよかったじゃねーか」

「――」


キッと睨まれた。


なんかこの人のイメージがどんどん崩れていくな。

普通に感情豊かな人だったわ。


「ちゃんと二人の様子はチェックしておいたぞ。大丈夫、見ている限りじゃ変なことをしたそぶりはなかったよ」

「ふん、信用できないわね。ほら見なさい、変な雰囲気じゃないの。きっと嫌なことがあったんだわ」

「あーあれは――」


説明しようとするが、オレが話をする前に二人のところへ向かおうとする。


「――ちょ、待てって」

「何で止めるのよ」

「そりゃ止めるっての。冷静に考えろ? 異性二人っきりで恋愛映画見たら変な雰囲気にもなるだろうし、そもそも険悪って感じではないだろ?」


さっきの映画の恥ずかしさをまだ引きずっているようで、二人の間には変な雰囲気が漂っている。

恋人ならむしろラブラブになったりするのかもだが、そうじゃないとなぁ……


「そんなのあんたの勝手な判断じゃない。そんなの信用できるわけ――」



「あーあ、リア充どもが初々しい雰囲気出しやがって、ケッ」



オレ達の隣を通り過ぎた男が孝平達を睨みつけながらそう呟く。


「ほら、な。他の人からも険悪そうな雰囲気には見えてないみたいだぞ」

「というより私怨が強すぎるだけなような……」



「綺麗な女がいると思ったらそいつの隣にも男がいるし、どいつもこいつもイチャイチャするんじゃねーよ」



さっきの男が今度はこちらを睨みながらそう呟いて去っていく。



「……どうやらオレ達もそう言う風に見えてるみたいだな」

「ええ、短絡的な判断ね」

「どう考えてもオレ達イチャイチャしてないわけだが、まあ男女二人が映画館にいるわけだし仕方ないのかもな。それとも逆に本当にデートするか?」

「は? 調子に乗ってるんじゃないわよ。あんたとデートなんて絶対にお断りだわ。そういうつもりならどこかへ消えて」

「いや、冗談だから。もう少し優しくあしらってくれよな……」


問答無用で離れない辺り察してはくれているんだろうが、言葉が強すぎるぜ……


「まったく、私と行けばあんな雰囲気にならずに済んだのに」

「タイミングが被っただけだろ。とりあえず不穏な雰囲気ではないってことでいいよな?」

「ふん。仕方ないわね……」


めっちゃ不服そうだが、なんとか留まってくれた。

よかった、あれぐらいで介入されてたらたまったもんじゃないしな。



======



しばらく孝平達の間に変な雰囲気が漂い続けたが、館内の席に座って映画の感想を話し始めてからはそんな雰囲気も吹き飛び、また楽しげな雰囲気が戻ってきていた。

二人とも映画をしっかり楽しんでいたようだ。


「アンタ的にはあの映画は「……」イエ、なんでも」


映画の話を振ると睨まれた。

どうやら触れてほしくないようだ。


「え、えーと、アンタってイチゴ好きなんだな」

「それが何よ」

「別に何ってわけでもないが、オレもイチゴは好きだがオレンジとかの柑橘系の方が好きかもな」

「聞いてないわよ……あ」


ったくこの人は。

世間話ぐらい付き合ってくれてもいいだろうに。

まあ仕方ないか。


「えっと、その……ポップコーン……」

「ん? どうしたよ」

「あの……なんでもないわ」

「……?」


なんかまた急に挙動不審になったな。

よくわからん人だ。



そこからオレ達の間にしばらく会話はなく、孝平達の様子を見守るだけだった。




************




時間は過ぎ、夕方になったためお開きの時間になった。

佐倉さんの家はやはりそこまで遠くなかったようで、近くまで送って行くとのこと。

前回もそうしたらしいしな、その調子でどんどん距離を縮めていってほしい。


「相手の家の場所を知るための典型的な方法ね。前回は家まではいけなかったから今度こそってことかしら、不快だわ」

「ちょっと偏見が過ぎるだろ……というか、別に佐倉さん一人暮らししてるわけじゃないんだから家の場所知ってもって気がするんだが」

「甘いわね。ストーカーするかもしれないでしょう」

「あーなるほど?」


こうして直接会ってるのにストーカーになることってあるのか?


「否定しないのかしら」

「そりゃあ可能性の話をされたら0ではないからな。まあそんなこと孝平がするわけないが」

「教えるって言ってた割には中身がないわね」

「こればっかりは信じるしかないからな。ただ、佐倉さんにはアンタがいるし、孝平にはオレがいる。どっちかに何かあればどっちかが気づくだろうし、それは佐倉さんがストーカーされてるかもってなってから考えるのでいいんじゃないか?」

「……まあ、それを完全否定しろってのは流石に無理難題か」

「おお、物分かりがいい」

「うっさい」


話していると二人はいなくなっていた。


「さて、オレ達も解散するか。ちなみにどうだったよ。孝平が良いヤツで、佐倉さんに釣り合う男だってわかってくれたか?」

「はっ、全然わかっていないわ。私は認めないわよ」

「さいですか……」


うーむ、映画の後もオレなりに孝平のいいところを伝えたつもりなんだが、足りなかったか。

今日だけだと厳しいな……


「まあでも、あんたが言うことは割と、ちょっと、ほんの少しだけど説得力があったわ。少なくともまともなことを言っていたことは認めてあげる」


お?


「つまり?」

「少しは見守ってあげててもいいわ。でもあんたが意味わからないことを言った時点でこの契約は破棄するから」

「契約、ね。とりあえずは今日と同じようにすることを認めてくれるんだな」

「とりあえずは、よ」

「よかった、ありがとう」


ぐっと拳を握る。


なんとか最低限の信頼は得られたみたいだ。

今後も気を抜けないが。


「……ほら、教えなさいよ」


喜びをかみしめていると手をくいくいしてくる。


「ん? 何を?」

「連絡先よ。ないと連絡できないじゃない」

「あ、ああ。そうだな、頼む」


確かにそうだが、まさか向こうから言ってくるとは。


「言っとくけど、あんたと私は契約関係よ。そしてこれは契約のための連絡先。調子に乗って関係のない連絡でもしてこようものならすぐに破棄するから」

「わかってるよ」


そんなつもりは全くないし期待してない。

そういうのはもういいんだ。







解散して少し経った後、携帯が震えた。


孝平かな。


「え、あの女から?」


『その……ハンカチ、返すの忘れていたわ。洗って次の時に返します』

『あと……折半してくれたのにポップコーンほとんど食べてしまってごめんなさい』


「は? ……ぷっ、くふふふ……」


『そういえばハンカチ渡してたな、オレも忘れてたよ。まあ覚えてたら返してくれ』

『ポップコーンの件に関してはいいもの見れたからそれでチャラにしておくわ』

『(男の子がクスクス笑っているスタンプ)』


それに対して向こうは犬がぷいっとそっぽを向いているスタンプだけを返してきた。


白石、か。




************




『~♪』


解散してしばらく経ったところで今度こそ孝平から電話がかかってきた。


「よう、こうへ『真人! 佐倉さんと遊んできたよ!!!』う、うるせぇ……」


声量考えてくれ……


『あ、ごめんごめん。なんかまだふわふわしててさ!』

「あー今デートから帰ったところ『デートじゃないってば!』……はいはい、テンションがお高いことで。その感じだと失敗したってわけではないみたいだな」

『うん! すごい楽しかったし、佐倉さんも楽しんでくれてたと思う!』


うん、見てたんでわかります。

あれで楽しんでなかったとか言われたら価値観おかしくなるわ。


「それはよかったな。どんな感じだったんだ?」

『ファミレスでお昼ご飯食べてから映画見に行って、しばらく映画の感想とか話してあとは館内ぶらぶらしたって感じかな』

「佐倉さんは大丈夫だったのかよ。ハンカチの時はあの人随分挙動不審だったが」

『うーん、まだ若干? まだ敬語もとれないしね。でも前よりも少しは気安く話してくれたと思うな』

「ほー」


以前の噛み噛みフェーズは脱出できたってことかね。


『でさー映画がすごかったんだよね。もうすっごい少女漫画的な恋愛映画だったよ』

「とても会うの2回目のチョイスとは思えんな」

『ふふ、確かにね。俺ああいうの見たことなくてさ。申し訳ないけど面白さとかよりも恥ずかしさの方が上回っちゃったわ。途中から雰囲気変わって面白かったんだけどね』


やっぱ孝平もそう思ったか。


「そんなに恋愛重視な感じだったんだな。それを異性と二人っきりってならなおさらか」

『そうなんだよ。佐倉さんも最初は純粋に楽しんでいたんだけど、途中から今の状況に気づいたみたいで急に挙動不審になっちゃってさ。でも何度もチラチラこっち見てくる佐倉さん面白かったし可愛かったよ』

「ふっ、そりゃあよかったな」

『そうー。映画の後座って感想を言い合ってたんだけど、時々その恥ずかしさを思い出してあわあわしている佐倉さんも可愛くてさ――』



その後しばらくやれご飯を美味しそうに食べる佐倉さんが可愛いだの服を見せてくる佐倉さんが可愛いだの、今日一日どんな感じに過ごしてどう佐倉さんが可愛くうつったかの話が続いた。


うん、一片の隙すらない程にベタ惚れ状態だ。

恋愛するってこういうことを言うんだろうな。

ほんと、こういう孝平見たことなかったから新鮮で楽しいわ。



『――だったんだよ! いやぁほんと楽しかったなぁ』

「大成功じゃねぇか。佐倉さんとの仲も深まったみたいだし」

『そうだと思いたい!』

「次の予定は作れたのか?」

『あーいや、そういう話はしなかった。また映画見に行きたいねとかどこか行きたいところがあったら行きたいねって話はしたけど』

「まあ行きたいときに誘えばいいって感じか。ちゃんと今後も続きそうでよかったよ」

『うん、次が楽しみだ!』


そうだなと返しながら携帯を見る。

携帯には電話し始めてから一時間以上経っていることが示されていた。


『結構時間経ってたんだ、そんな気しなかったのに』

「夢中でしゃべりすぎだろ」

『いやーついね。今からご飯だからもう切るわー』

「おう、また学校で聞かせてくれ」

『あ、そういえば残りのGW空いてないんだっけ』

「おう、後の日は予定でいっぱいだ」

『うわー頑張ってね。じゃあまた学校で』

「ん、じゃあな」

『じゃあねー』


電話画面を閉じる。


見てるだけじゃ会話まではわからなかったが、話に困るとかもなく会話できてるのは流石孝平だな。

好きな人の前で緊張してるだろうに、よくそんなに口が回るもんだ。

佐倉さんも少しずつ堅さがとれつつあるらしいし、回数を重ねていけば順調に仲良くなって行けそうだな。


次はどんな予定で会うことになるんだろうか。

ま、どうせオレは契約によりアイツに孝平の説明をしながらそれを見守ることになるんだろうさ。



カレンダーアプリを開く。



GWが終わったらすぐに中間テストが来るな。

高校初めてのテストだし、好スタートを切るためにも良い成績を取りたい。

やれることはしっかりやらないとだな。



オレはぐぐぐっと背中を伸ばすのだった。



登場人物おさらい


橘真人(たちばなまひと)

主人公。親友の恋を応援している。


藤本孝平(ふじもとこうへい)

主人公の親友。最近好きな人ができてテンションが高い。


佐倉真宵(さくらまよい)

初対面の時めっちゃ噛んでた人。


白石咲希(しらいしさき)

すごいコソコソしてた人。苺大好き。



【作者から】

ここまで読んでくださってありがとうございます。

この4話で一旦の導入部が終了したことになります。

今後の更新は隔日になると思いますが、よろしければ読んでいただけたら幸いです。


また、私事ですがこの小説に評価が付けられていました。

つけてくださった方、ありがとうございます。

たかが一つの評価と思われるかもですが、私からすれば嬉しいことこの上なしです。

今後も更新していきますが、もし何か思ったことがあればぜひ評価や感想などいただけたら幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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