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第一話『好きな人ができた』

この高校に入学して2週間ぐらいか。


最近にぎやかになってきた教室内を横目に窓の外を見る。



「真人、おはよう」


少しは慣れてきたかなとつぶやいていると聞き慣れた声がした。


「ん、おはよう孝平」


開いていた本を閉じて孝平の方に向く。

時計をちらりと見ると、SHR開始ギリギリだった。


「やけにギリギリだな。いつもはもうちょっと余裕あるのに」

「うん、ちょっと登校中色々あってね。それについて後で話したいんだよ!」

「へぇ、なんだろ」


話があるということだったが、休み時間に話せる内容量じゃないということで昼休みを待つことになった。



************



昼休み、学食で弁当を広げて孝平を待つ。


「お、今日は焼きサバ定食か。うまそうだ」

「真人の弁当も相変わらずおいしそうだね」


いただきますと挨拶をして食べ始めてすぐに孝平が話を始めた。


「で、朝言ってたことなんだけどね」

「うん、どうしたんだよ」

「じ、実は俺……」

「うん」

「す、好きな人ができた」

「ふーん…………ぶっ!?」

「だ、大丈夫!?」


ゲホッゲホッとむせるオレに孝平が水を差しだしてくれる。


「い、いや大丈夫。い、いまなんつった? すきなひと?」

「う、うん。好きな人が出来たんだよ」

「ま、まじか……」


(たちばな)真人(まひと)15歳、親友からの突然の告白に驚愕する。


だって結構長い期間コイツ、藤本(ふじもと)孝平(こうへい)の親友やってるけど、一度も好きとかそういう浮ついた話聞いたことないし。


逆にこいつを好きってやつもいなかったからなぁ。良いやつなんだが。


「ず、随分と唐突な話じゃねぇか。さては漫画みたいなことでもあったな?」

「え、真人って実はエスパー? 実はそうなんだよ」

「そ、そうなのか」

「うん、今日の朝のことなんだけどさ――」



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈



「ふんふーん」

「いぇーいぼくがいちばんのりー!」

「はっ!?」


いつも通り自転車に乗って登校してたんだけど、急にすごい細道から小学生ぐらいの男の子が飛び出してきてさ。


「え、うわぁぁ!」

「くっ」


なんとか男の子とは別の方に自転車乗り捨てて轢くのは回避できたんだよね。その代わり思いっきりこけたけど。

わお、すごいなお前。

でしょ?


「っ……いてて……」

「うわーん!!!」

「だ、大丈夫?」

「う、うん。でもお兄ちゃんが……」

「俺は大丈夫だからね。でも今度からは飛びなさないようにね」

「う、うん……ごめんなさい」

「気を付けてねー」


「ぅう、結構痛い……」


小学生なのに謝れるの偉いな。

そうだよね。もう飛び出さないといいけど。

だな。で、お前は本当に大丈夫だったのか?

いやぁ……男の子にはかっこつけたんだけど、結構がっつりすりむいちゃってさ。ちょっと立ち上がれなかったんだよね。それで動けないでいたんだけど。


「あ、あの……だ、だいひょうぶでしゅか?」

「え?」

「え、えと、その、あ、あひとか、すりむいちゃってるんじゃ」

「そ、そうですね。でもそんな「そ、その、わたひ消毒液! 持ってるので!」は、はい……」

「その、足、みせてくだひゃい!」



≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈≈



「――って感じで、多分格好的にはおんなじぐらいの高校生だったと思うんだけど、そんな女の子が心配してくれて、その上すりむいた膝とかを消毒して絆創膏まで貼ってくれてさ!」

「お、おう」


なんかその女の子、すげぇ噛み噛みだったような……?


「てか傷見せてくれよ。そんなに激しくこけたのか?」

「別にスピード出してたわけじゃなかったんだけど、咄嗟すぎて受け身とれなくてさ」


孝平がズボンや袖をまくると複数個所に絆創膏が貼られていた。


うわ、結構大きい傷もあるし他にもいろんなところ怪我してんだな。


「名誉の負傷とはいえ、聞いてる感じだとこんな怪我しそうな感じではなかったが」

「真人が頑丈すぎるんだよ。そもそも真人ならまずこけてすらいなさそうだし」

「孝平が貧弱なだけだと思うけどなぁ。そんな怪我してるんなら一回保健室行った方がいいんじゃないか?」

「うーん、じゃあこの後一応行っとく」


てかよくこんなに絆創膏持ってるもんだ。

随分女子力高い人なんだな。


「っと、話がそれたな。じゃあその女の子ってのが?」

「あ、うん。通りがかってる人はそれなりにいたんだけど、話しかけてきてくれた人はその女の子だけでさ。だから余計にうれしくて、余計に魅力的に見えちゃったというか。可愛かったなぁ……」

「がっつり一目惚れしてるねぇ」


おーおー、完全にホの字だなこりゃ。しっかり出来上がっちゃってるよ。

絆創膏といいその行動といい、随分できた人だなぁ。


「まーしかし本当にべったべたなことで」

「い、言わないでよ、自覚してるんだから。制服見る感じ同じ高校ではなさそうなんだけどさ」

「他校の女子高生か。となるとなかなか会おうと思っても会えないな」

「大丈夫! 傷口を消毒してもらったときにハンカチもあててもらったんだけど、それでその子のハンカチ汚しちゃってさ。お礼も兼ねて新しいハンカチを買いに行くことになってるんだよね」

「おお!」


コイツ、やるな。

恋愛経験ないのに意外と積極的だ。


「それが今日の放課後?」

「そう、どうやら同じ駅使ってるみたいでさ。そこで17時に待ち合わせしてるんだよね」

「そういえばそういうことになるか」


孝平は家から最寄り駅まで自転車で移動して、学校までは徒歩移動だからな。


「じゃあ住んでる場所はそんなに遠くなさそうだな。いいね」

「うん。で、放課後にまた会うわけなんだけどさ。ちょっと助けてほしいんだよ」

「……助け?」


うん? 女の子と会うだけで助けることなんてあるか?


「その、冷静になってみれば女の子と二人っきりで出かけるなんて初めてだからさ。ちょっと見守っててほしいというか……」

「はい? 見守ってどうするんだよ」

「変なとこあったら指摘してほしいな、と言いますか」

「えっと……どうやって? 隣にいるわけにもいかんだろ」

「電話つなげて、イヤホンつけて指摘してもらうとか」

「いや、お前ワイヤレスイヤホン持ってないじゃん」

「あ、そっか」

「ワイヤレスがあったとしても、ずっとイヤホンつけてる人は心象悪いぞ」

「そっかぁ……」


個人的にはって話だけども。

たとえ何も流していなかったとしてもこっちの話聞こえてなさそうだし、外そうぜって思う。


「だろ? 見守っててもできることなんか「お、お願いだよぉ。トイレ行った時とかに相談できるだけで安心するからさ!」……そういうもんか?」

「そうだよ! 恋愛経験あるんだから助けてよぉ!」

「いやまあ助けないとは言ってないからな?」


見守ってどうするんだって話だったんだが……まあそれで多少落ち着けるのならいいか。


「わかったわかった。孝平とその女の子を後ろから見守って、後で改善点を伝えればいいんだな?」

「あ、後でじゃなくてできればその時に……」

「無茶言うな。仮に電話かけるって言ったって、度々電話で席外してたらそれこそ印象悪いわ。取り繕わないで孝平らしく話せばいいんだよ」


親友の贔屓目抜きにしても孝平は良い奴だと思う。

孝平らしくしていれば誰相手でも好印象を持つだろ。


「うぅ……できるかなぁ」


情けない声を漏らしながら定食をほおばる孝平。


孝平がここまで不安そうな顔してるのは初めて見るかもしれないな。

それだけその女の子を好きになったってことか。


「まあそんな不安そうにするな。相談には乗るからさ。取り繕わないとは言ったが、最低限相手の好感度を稼げるような立ち回りはしないとだからな」

「好感度? 真人ってギャルゲーやってたっけ」

「ゲームの話じゃねぇよ」




************




そんなこんなで時間は過ぎ、放課後を迎えた。

当然時間に遅れるわけにはいかないため、足早に学校を出る。

ガタンゴトンと電車に揺られながら集合場所へと向かう。


「やばい、緊張する」

「気持ちはわからんでもないが、いつも通りにやってれば大丈夫だ。変に意識して挙動不審にならないようにな」

「だから見守って指摘してくれって言ったんだよぉ」

「無茶言うなって……それともなにか? 黒子の服着て毎回耳打ちしろってか?」

「ぶはっ!」


孝平、その受け答えは悪手ですぞ……ってか?

うーむ、意外とおもろそうだ。


「ぷふふ……あんな黒い服着てしゅばばばって動いてる真人想像したら……ぷぷぷ」

「そんなに面白いか?」


なんか孝平のツボにはまったらしい。


「あー面白い。なんか気が楽になったかも」

「そいつはよかった。さて、着いたな。じゃあ頑張れよ」

「うん、少しでも仲良くなるよ」

「後連絡先な。そう簡単に会えないかもだし」

「う、うん。連絡先……」

「それに相手の目を見て「だ、大丈夫だから! アドバイスは覚えてるから!」ならいいや」

「じゃあね!」


孝平は待ち合わせ場所へと歩いて行った。

さて、オレも孝平たちが見える位置を陣取って、ばれないように尾行しないとな。


うーむ、親友の恋路は応援してるのだが、まさかこんな形でオレも巻き込まれるとは思わなかったなぁ。







なんだかんだ完全には落ち着けてない様子でキョロキョロしている孝平を眺めていると、孝平の元に一人の女の子が寄っていくのが見えた。


おお、あの子が孝平の好きな人か?

確かに可愛らし、い?

……な、なんか動きが変だな。それにやけに顔強張ってね?


孝平も平常とは言えないが、それ以上に女の子の様子がおかしい。


声が聞こえそうな位置まで近寄ってみる。


「そ、そにょ! 男の人と二人っきりって、は、初めてで……」

「え! お、俺も初めてなんで! は、初めて同士ですね!」


何言ってんだアイツ。

ぶっちゃけ気持ち悪いぞそれ。


「そ、そうですか。よかったぁ……」


そしてなんで相手さんは安心してるんだ。

なんだこれ。


「えと、敬語とかなしで大丈夫なので! これはお礼の場なのでもっとリラックスしていただければ! それで少しでも仲良くなれたら、と……」


おい、最後なんか下心漏れてないか。

頼むからやっちまったみたいな顔しないでくれ。


「仲良く……そ、そうですね、仲良くなりひゃいです! で、でもいきなり敬語なしはちょっとハードル高いっていうかその……」


意外と好印象なのかーい。


「そ、そうですよね。じゃあ外したくなったら言ってください。俺は……敬語で話すの恥ずかしいから外させてもらうよ。嫌だったら言ってね?」

「だ、大丈夫です! あの、私も頑張りましゅ!」

「うん、じゃあ行こうか」

「はい!」


孝平と女の子が歩いていくのをしばし見送る。


なんか……お似合いそうだな?

お互いめっちゃきょどってたけど、そのおかげでお互いの印象悪くなさそうだし。

最後の方は両方ともちょっとは落ち着けてたみたいだしな。


頑張れよ、孝平。



……ちなみに、女の子の名前は?







道中、お互いの自己紹介をしてなかったことに気づいた二人は慌てながら名乗りあった。

どうやら女の子の名前は佐倉(さくら)真宵(まよい)さんらしい。

丁寧に漢字まで教えてくれてた。


「佐倉さんはいつも歩いて登校してるの?」

「は、はい。えと、そんなに駅まで遠くないのと、あの、私自転車持ってなくて」

「へぇ、そうなんだ。あったら便利なんだけどね」

「そ、その、だいたい両親とかが送っていってくれるというか」

「なるほどね」

「そ、そうなんです。……って、自転車! 乗らなくてよかったんですか、自転車!」

「あ、あぁ……まあ今回は佐倉さんとハンカチ買いに行くって約束だったから。あとから取りに来てもいいし、別に歩きで行けない距離でもないしね」

「あ、ご、ごめんなさい。その、気にさせちゃいました、よね」

「ああいや! そうじゃなくてその……正直な話、忘れてちゃってたんだよね、緊張しすぎて」

「え?」

「今言われて気づいたぐらいだもん。ちょっとかっこつけちゃったけど、たはは……」

「……ふふふ、それは緊張しすぎですよ」

「あ、佐倉さんがそれ言う?」


なんかめっちゃいい感じ。

さっきまできょどりまくってたのに、いい感じに力が抜けてきているな。

わざわざ見守ってるわけだが……色々と大丈夫そうだな。




緊張が抜けてきて楽しそうに話しだした二人を見守っていると、あっという間に目的地である大型店舗についた。

たまに孝平と来ることはあるが、佐倉さんも来てたのだろうか。

実はすれ違ったことぐらいあったのかもな。


店舗の中にある雑貨屋さんへと向かう二人を追う。

流石に人が増えてきたから二人の話も聞こえなくなってきたな。


でも笑顔の孝平とあわあわしている佐倉さんを見る限り――


こんなハンカチはどう?

え、そんな良いものじゃなくていいですよ!

いいって、これはお礼なんだから。これ結構いいと思うんだけど、どう?

え、えっと……


――って感じか。うん、好感触っぽい。

なんだ、孝平って意外とプレイボーイの才能あるのかもな。

新たな発見だ。



お、そのハンカチに決めたみたいだ。

めっちゃ頭下げて佐倉さんがお礼してるけど、佐倉さんも気に入ったのかうれしそうだ。



どうやらそのまま直帰というわけではなく、カフェに行こうとしているみたいだ。

うんこれオレ必要ないな、何もアドバイスする必要がない。

やっぱ孝平らしくできれば何も問題なかったわ。


正直もう帰ってもよさそうだが、慣れない尾行をして疲れたし、オレもカフェで一休みするか。

一応二人の近くの席に座ったが、変わらず楽しげなのでもう気にしないでおく。




さて、カフェオレ飲み切ったし、ここらでお暇するか。


もう一度二人の方に目を向けたが問題ないと判断し、そのまま出口に目を向けようとしたところで二人の方を見ている女性の姿が目に入る。


そういえばカウンターでカフェオレ待ってるときに注文してた気がするな。

さっきは気づかなかったけど、すごい綺麗な人だ。

服も似合っていし、あれは相当モテるだろうな。

なんかめっちゃ二人の方見てるけど、カップルの様子を見るのが好きだったりするんだろうか。

あの二人カップルじゃないけど。


まあいいや、帰るか。

親友は結構うまくやってるし、美人は見られるし、今日はいい日だな。


良い気分のまま、適当にぶらつきつつ大型店舗を後にするのだった。




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