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第十七話『バトンパスは姿勢とタイミング』

リレーの代表に選ばれた次の日の放課後。

オレはリレーの練習のためグラウンドに足を運んでいた。



今日はずっと曇ってるな。

天気予報によれば明日からしばらく雨と。


体育祭本番は雨が降らないって言ってたけど流石にそれまでの期間は別の話か。

これはあんまり練習できそうにないな。


「おお橘、こっちこっち」

「おう。山口だけか?」

「まだ俺達だけだ」


結構のんびり来たつもりだったが、意外と優等生だったか。


「これから何回ぐらい練習するつもりなんだ?」

「うーん、といってもみんな部活あるからな。天気もあるしできてあと数回ぐらいだと思うな」

「そんなものだよな」


所詮は体育祭なんだしそこまで時間は割けないよな。



山口と軽く話しているとそう時間が過ぎる間もなく他の五人が集まった。


「よし、集まったな。今回の体育祭はこの七人でリレーを走ることになる。みんなよろしくな」


知らない人しかいないな。


「この内陸上部は四人だ。他の組も大体同じぐらいだが、短距離専門は俺含めて三人いるからこっちが有利だと思う。陸上部じゃない奴も速いしな」

「……ん? なんでこっち見るんだよ」


他の人からの視線もあってなんか居心地悪いんだが。


「お前がその筆頭だからな」

「ああそう」

「へぇ。えーと、悪いけど名前教えてもらっていいか?」

「橘真人だ、よろしく。しかし、俺ってそんな言われるほど速いのか?」

「6.76秒だろ? 普通に陸上部の中でも速いわ」

「6.76!? そりゃあ速いわ!」


しまった、平均タイム調べておくんだったな。

全然ピンとこない。


その後みんなのタイムを聞いてみると、確かにオレのタイムは短距離専門の三人に次ぐタイムだった。


「ほら、速いだろ?」

「よくわかったわ」

「ま、そういうわけで速い奴が集まってるから勝てると思ってる。でもバトンミスしたらそうもいかないからな。そこは練習しよう」

「でもトラックは空かないよな」

「大体どっちかの陸上部が使ってるからな。まあバトン練習ならトラック走らなくてもいいだろ」


そういえば女子陸上部もあったか。

休日でもない限りトラックが丸々空いていることはなさそうだな。


「ちなみに他のクラスには短距離の女子いたから、多分出てくると思うぞ」

「ほー」


中学の時も男子よりも速い陸上部の女子いたもんな。

オレよりも速い女子がゴロゴロいるんだろうか。

簡単には抜かれたくないもんだ。



そこからバトンパスの練習になるかと思われたが、まずは一回競争してみようということになった。

実際どれぐらい走れるかの確認をしたいんだろうな。

50mじゃ短すぎるから100mでやるってことだが、いけるだろうか。




その辺にいた人にスタートコールをしてもらって走った結果、さっき聞いたタイムの通りの順番になった。


100mでも走りきれたな。

でもやっぱり普段から短距離やってる人は速いな。


「橘本当に速いんだな! 危うく負けるかと思ったわ」

「危うく短距離専門の面目丸つぶれになるところだった……」

「50m早くても100mとかになるとそこまでってやつもいるんだけど、橘はそうじゃないんだな」


確かに何とかなったけど、オレの場合は50mの方が速そうだ。


「橘って何部なんだ?」

「帰宅部だ」


ここは中学みたいに部活強制してないから入らない選択が取れるのは楽だ。


「マジかよなんで陸上部入ってないんだよ!」

「中学の時は何部だったんだ?」

「バスケ部だったぞ」

「バスケか、だから短距離速いのか」

「そこはあんまり関係なさそうだが……」


確かにバスケは何回もコートを行き来することになるけど、短距離の速さというよりかは瞬発力の方が大事だし。

50m走なら関係するんだろうか。


「でも今はバスケ部ですらないんだろ? なんか理由でもあるのかよ」

「事情があるとか言ってたけど、聞かない方がいいのか?」

「いや、そんなんじゃないよ」


別に隠すようなものでもないしな。


「オレ長期休暇はがっつりバイトするつもりでね。だから部活で拘束されたくなかったんだよ」

「あーまあ部活やってたら夏休みとかも練習だしな」

「流石に長期休暇以外の時だけ部活に参加したいってのは我儘だろ? それで部活自体に入らなかったんだよ」


運動部だろうが文化部だろうが部活に入ってると好きなタイミングでバイトできなくなるからなぁ。

バイトの妨げになるようなものは少ない方がいい。


「なるほど」

「長期休暇だけ? ここって長期休暇以外はバイト禁止だっけ」

「そう。そもそも高校生で日ごろからバイトできるところの方が少ないだろ」

「まあ部活やってる身からすれば、バイトなんて引退したらやろうかなって感じだしな。今できてもどうしようもないか」


彼らが話してる通り、長期休暇以外はバイト禁止なんだよな。

まあ……禁止だからってやらないとは言わないんだけども。


「なんでそんなにバイトしたいんだ? 欲しいものでもあるのかよ」

「欲しいもの……まあそんな感じ。どっちにしてもお金はたくさんあった方がいいだろ?」

「そりゃあそうか」


部活に入る気がないオレの様子に残念がってた陸上部組だったが、気を取り直してバトン練習を行うことになった。


中学の時の経験があるからそれなりにうまくできているつもりだったんだが、陸上部からすれば改善点はあるらしい。

迷惑かけるわけにはいかないし、少しぐらいは改善しないとだな。




〇▲□★




あれから数日過ぎたがリレーの練習ができたのは顔合わせを除くと一回しかできておらず、あと二、三回できるかなといった程度だった。

今日も練習はなく、孝平と下校中である。


「別にみんないなくてもいいんじゃないの? 例えば真人の次を走る人と練習するとか」

「確かにそうなんだけど、走る順番が確定しているわけではないんだよな」

「あーそうなんだ」


別に順番が違っても意味がないってことはないんだろうが……やっぱりそこで練習してもって気がしてしまう。


「何もしてないってわけではないんでしょ?」

「まあな。練習できないなら知識つけるかと思って本読んでる」

「おー流石真人」

「今日の昼休みに図書室で読んだんだが、バトンパスのコツとか意識すべき点とか書いてあったぞ」

「へぇー」


タイミングはもちろんだが、受け渡される側の姿勢とかどれぐらいの距離で渡したほうがいいとか色々あるらしい。


相槌こそ打ってくれたものの、孝平の反応は少し興味なさげだ。


まあ運動しない孝平からすれば知っても知らなくてもどうでもいいよな。

クラスメイトとかならまた反応変わるんだろうが、オレ相手にそんな気を使わなくていいし。



話が止まるといつものように孝平が別の話題に切り替える。


「そういえば、前に佐倉さんに真人がリレーの代表に選ばれたって話をしたんだけどさ。……ぷふっ」

「おう。……なんで笑ってんだ?」

「ふぅ。ああいや、思い出し笑い。佐倉さんに真人がリレーの代表選ばれたんだよすごいでしょって話したら、その後に佐倉さんの親友さんも代表に選ばれたって返ってきたんだよね。面白くない?」

「ははは。は、はー、向こうの親友さんとやらも。そりゃあすごい偶然だな」


アイツ、文武両道ってマジかよ。

才色兼備って言葉がここまで似合う人物がいるとはな……

アイツが完璧にこだわろうとしてたのもなんとなく理解できるわ。


「だよね! 互いの親友どっちも足速いんだって盛り上がってね。まさかそんな意外な共通点があるなんて思ってなかったよ。真人ってば向こうの親友さんと気があったりするんじゃない?」

「え、い、いやー。どうだろうな」


思わず顔が引きつる。


アイツの存在出すだけに飽き足らず気が合うとは、随分突っ込んでくれるな孝平よ。

マジでオレがソイツと面識あること知らないんだよな?


まあアイツの性質上、気が合うことは絶対ないだろうけど。


「まあ俺もそんなに知らないんだけどね」

「じゃあどうしようもないな」

「だね」


はははーとお互い笑いあったところでこの話題は終了した。


……オレの笑い乾いてなかったらいいけど。


しかし、アイツも代表か。

そういえば仲直りの経緯聞いてる時に中学は陸上部やってたとか言ってた気がする。

短距離型だったんだな。


全校生徒の前で走るアイツの姿を想像する。


花形競技に参加する数少ない女子でしかも美人。

うん、すっごい目立つだろうな。

今までがどうだったか知らんが、広くに知れ渡ることになりそうだ。


それをきっかけに高校でもトラブルに巻き込まれなければいいが……

アイツの男嫌い度が上がってしまったらそれだけ孝平への逆風になるからな。


何もないことを祈るばかりだ。




〇▲□★




本日は三回目のリレー練習日。

二回目でお互いの性質を見定めて順番を決めるとのことだったが――


「はぁ!? オレが第六走るの?」

「おう、それがいいかなって思ったわ」


――アンカーにラストパスする順番に割り当てられることになった。


「オレが山口にパスするのかよ……なんか他のところよりもプレッシャーを感じる」

「大丈夫よ。二回目でかなりバトンパス良くなってたし、あと何回か練習すればもう完璧よ」

「本当かよ……」


指摘されてた身としては力不足に感じるんだけどなぁ。


「他の陸上部の方がいいんじゃないのか? 慣れてるだろうし練習する機会も多そうだし」

「それは思ったけど、短距離の二人には第一、第二でリードとってほしいなって思って。やっぱりずっとイン取れてたらそれだけ速いじゃん?」

「それはそうだけど」


まあスタートダッシュも陸上部の方が慣れてるから最初を任せるのが自然か。


「どうせどこも重要だから変わらんよ。中盤だろうがバトン落としちゃったらもうきついし」

「そうそう。バトンパスの難易度なんてどこも変わらないよ」

「橘自信持てって」


変に気負う必要はないよな。

どこだろうがミスしないようにするだけか。


「そうだよな、ありがとう」

「まあ橘がどれだけうまく渡せるかで、この中で一番速い山口が力が発揮できるか変わってくるけど」

「おい、あげて落とすな」



三回目、四回目とリレーの練習を重ねていき、少しずつバトンパス周りの練度をあげていくのだった。




〇▲□★




時は過ぎ、体育祭の準備日を迎えた。

準備日は一日全てが体育祭のテント張りや垂れ幕準備などにあてられることになっている。


本番だけでなくこういう準備も意外と楽しいな。


「孝平、これ持ってくぞ」

「うん、せーの!」


テントの脚パーツを二人で抱える。


一人でも持っていけそうだが、効率は結局は変わらなさそうだ。


「ふぅ、こんなに色々準備するんだね」

「看板とかも作ってるしな。流石高校。中学とは手の込みようが違うな」

「装飾もしっかりしてるしね。これは盛り上がりそう」

「だな」



ひたすらテントのパーツを運ぶ。



「あ、そうそう。この前佐倉さんの親友さんの話したじゃん?」

「あったな」

「あれからその親友さんの話をたまに聞くようになったんだけど、すごい頑張っているみたいだよ。合同練習以外にも個人的に走りこんだりしてるんだって」

「ほほう、流石元陸上部」

「そうだよねぇ。……あれ、俺それ真人に伝えたっけ」

「! っとと!」

「だ、大丈夫!?」

「ああ、悪い。つまずいた」

「転ばなくてよかった」


思わず動揺して落としかけた。

あっぶねー。


「えっと、知ってるってことは聞いたことあったんだろ。それか最近陸上部と良く絡んでたから混ざってしまって、たまたま当たったんじゃないか?」

「んーまあどっかで話したんだろうね」


……何とか誤魔化せたか?


あ、焦ったぁあ!

うっかりぽろっと反応してしまったわ。

気を付けないとな。


しかしそんなに気合入ってるのか。

どうせ走るのならそこらの男子には負けてられないってことなのかね。


「その親友さんと真人、競争したらどうなるんだろうね」

「うーん、元とはいえ短距離やってたのなら負けそうだけど」

「え、そんなに女の子って速いの? 俺ならともかく、真人なら身体能力で勝ると思ったんだけど」

「身体能力で勝ってても足が速いかは別だろ。まあ向こうがどのくらい速いかわからないし」

「そういうものなんだ」


とりあえずアイツに関してはあんまり触れない方がいいか。

どのぐらいオレのことを話題に出してるかは知らんが、ここで下手に勝てるかもとか言ってそれが伝わったら面倒だからな。


「そういえば佐倉さんを体育祭に誘わなかったのか」

「うーん、別に来てもらえてもそんな話せるわけじゃないからねぇ。大半は組の待機場所にいることになるだろうし。気まずいかなって」

「なるほどな」


ただ一人知ってる人の活躍を見るためだけに行こうとは思わないだろうってことか。

オレは人に関係なく競技見てるだけで楽しめると思うが。


「あと佐倉さんのところは来週が体育祭だからね。こっちの見て自分達のが面白くなくなってもあれだし」

「ふーん。孝平はどうするんだ? 向こうの体育祭行くのかよ」

「あ、どうしよう。そもそも行くとかそういう話にもならなかったんだけど、別に俺は行ってもいいかなとは思うんだよね」

「いいじゃん。急に現れたらびっくりするだろうから、会うなら事前に伝えておいた方がいいだろうけど」


会わないなら別に誰が行こうが関係ないだろうがな。


「行こうかな……? ちょっと考えてみるよ」

「貴重な会えるチャンスはものにしておけよ」

「うん。あ、せっかくだし行く時は真人も一緒に行こうよ。一緒に応援しよう!」

「え」


あー……そりゃあそういう話になるか。

これどうしよう。

別に会う時まで一緒にいなければ大丈夫か?


「あれ、もしかしてあれ入れちゃってる?」

「いや、入れてない。会う時はオレどっかいけばいいか」

「え、そんな気にしなくていいよ。佐倉さんに真人を紹介したいしね」

「そ、そうか。孝平がいいなら……」

「うん! 来週の予定確認しておかないとだ」


うーん、ほんとどうしよう。

佐倉さんと会うってことは確実にアイツともその場で対面することになるよな。

どういう体で会えばいいんだ……?


行くってなったらアイツと相談しないとだな……



っと、話しているうちにいつの間にかこれが最後か。


「よし、じゃあこれ持っていってテント立てるぞ」

「はーい」


よいしょよいしょと最後のパーツを運ぶ。



懸念事項が上がってしまったが、一旦は明日の体育祭に集中しないとだな。


明日は頑張ろう。



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