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第十六話『仲直りした後の日常』

真宵の家の前で真宵が出てくるのを待つ。


仲直りしてから数日が経った。


仲直りする前は何を話してご機嫌を取ろうかとか考えてたけど、もうそんなことを気にする必要はない。

ずっと朝は憂鬱だったけど、今はこうやって晴れやかな気持ちで真宵と会うことができるようになった。


今日の天気も晴れ。

本当にいい朝ね。


「咲希ちゃんお待たせ~」

「おはよう真宵」

「うん、おはよう!」


朝から元気に挨拶してくる真宵。

小学校からずっと見慣れてる光景のはずなのに、たった二ヵ月ほど見なかっただけでなぜか新鮮味を感じてしまう。


これも関係が変わったからなんだろうか。


「そういえばあのクマは大事にしてくれてる?」

「ええ、もちろんよ。ベッドにおいて、寝るときは抱き枕代わりにしているわ」

「抱き枕かー。咲希ちゃん抱く力強いからぬいぐるみ痛がってないといいけど……」

「そんなつぶれるような力で抱いていないわよ」


なぜか時々クマのぬいぐるみの瞳が潤んでいるようにも見えるけど、まあ気のせいでしょう。


「今日は部活の日だからね! 咲希ちゃんの作るお菓子楽しみにしてるよ」

「自分でおいしいの作るといいわ」

「えー私が作るとなんか焦げちゃうし」

「砂糖とかを適当に入れすぎなのよ……」

「えーでもみんな測ってないし」

「それは慣れてるからよ」


出来ないうちは丁寧にやらないと上達しようがないんだけど。


「咲希ちゃんの小言はききませーん。ほらほらおいていっちゃうよー」

「はいはい」


こういうところは全然変わらないわね。



======



「白石さんおはよー」

「おはよー」

「おはよう」


学校に着くと靴箱や廊下、教室で挨拶を交わす。


当然真宵にも挨拶してくれるのだけど――


「佐倉さんもおはよー」

「ひゃ! お、おひゃようございましゅ……」

「あ、あはは……」


――この調子。


挨拶してくれた方が気まずく感じるってどういうことなのよ。

藤本孝平と会ってから変わったとか言ってたのに全然じゃない。


「白石おはよう!」

「……おはよう」


目線だけ向けて挨拶を返す。



「おい、性懲りもなく白石に声かけてるのかよ」

「少しぐらいニコリとしてくれてもいいのにな。男子と話すときはいっつも仏頂面だ」

「まーずっと声かけてたらワンチャンあるかもじゃん?」


挨拶してきた男子が話しているのが聞こえてくる。


はぁ……下心がバレバレなのよ。

どうせ少しでもニコリとしたら勘違いするんでしょうに。

そんな男相手にまともな対応するわけないでしょ。


「ねぇ、白石さん。今日の数学なんだけど――」


クラスの女子と話をしながらSHRまで過ごした。




************




昼休み。

今日は天気がいいので校庭で弁当を食べている。


「……ねぇ、真宵。気のせいか最近弁当の量がどんどん増えていない?」


先週よりも目に見えて多いんだけど。


「最近すごいお腹減るんだよね。前はストレスかと思ってたんだけどねー」

「……」


こっち覗き込むのやめて。


「でも咲希ちゃんと仲直りしてからも食べる量変わらないから成長期ってことだと思う!」

「運動もしてないのに消費エネルギーが増えてるのね」

「きっと体が成長しようと頑張ってるんだよ! 見ててよね、もうちょっとしたら咲希ちゃんみたいにだいなまいとぼでーになってるから」

「ダイナマイトボディっていつの言葉よ……というか、私別に巨乳とかではないんだけど」


変に思われるからスタイルがいいって言ってほしいわ。


しかし、真宵が成長期ねぇ。


「一気に横に広がらないといいけど」

「へへん、私食べても太らないもーん」

「それ、絶対他の女の子に言わないでよね」


絶対に反感買うから。


「咲希ちゃんもそう思われてるんじゃないの? すごい細いんだし」

「確かにそこらの男どもはそう思ってそうね……裏での努力を少しは察してほしいわ」


何もしないで今の私を維持してると思ってる人がいるならかなり心外よ。


「運動とかの成果ってことだもんね。あ、運動と言えばそういえば」

「うん?」

「藤本君が言ってたんだけど、あっちの学校今日から体育祭の練習が始まったんだって」

「ふーん」


うん、全然興味ないわね。


「急にテンション下がるんだから……って、伝えたいのは藤本君のことじゃなくて、その体育祭で藤本君の親友さんがリレーの学年代表に選ばれたんだって」

「リレーの代表?」

「そうそう。藤本君の親友さんも足が速いんだって。なんだか咲希ちゃんみたいだなって思っちゃったよ」

「ふ、ふーん。そんな偶然があるのね」


あいつ足速いんだ、ふーん。

いやまあ全然興味ないけど。


「あい、その親友さんは陸上部なのかしら?」

「いや、部活はやってないみたいだし、今まで陸上やってたとかでもないみたい。元から速いんだって」

「へ、へぇー」


陸上やってるわけでもないのに代表に選ばれるぐらい速いですって?

あいつムカつくわ。


「咲希ちゃんとどっちが速いんだろうね」

「といっても私がやってたのは中学の時だし。最近は本格的なトレーニングしてないから」

「そっかー。その親友さんにはぜひリレーで活躍してほしいよね」

「ふん、大人数の前で転んで無様な姿を見せないといいけどね」

「なんか男嫌いとはまた違う私情を感じるような?」

「き、気のせいよ」


あいつまさか私より速いとかないでしょうね。


……速かったらムカつくから練習しよう。

それでマウント取られたら我慢ならないわ。


「というか、咲希ちゃんも体育祭でリレー走ることになるよね」

「どうかしら。クラス対抗とかなら走ることになるかもだけど」

「選ばれるよ! あ、でも最近トレーニングしてないんだっけ」

「そうね。……じゃあ選ばれたときのために少しはトレーニングしておこうかしら。あくまで体育祭のために!」

「う、うん、気合入ってるね……その時はいっぱい応援するからね!」

「ええ、お願いね」


あいつには絶対に負けないわ。




************




家庭科室に向かうと、すでに甘い匂いが漂っていた。

その匂いの発生源は布で隠されている。


「心なしか今日はみんなテンション高めだね! やっぱお菓子だからかな」

「女子だけでなく男子も高めなのね」


まだ全員集まっていないが、みんなどこか落ち着きがない様子。


料理を好む男子=スイーツ系男子ってことなのかしら。

まあ甘いものは正義だし男でも好きなのは理解できるけどね。



「はい、全員集まりましたね。今日はお菓子を作ると伝えてましたが何を作るでしょうか」


「ケーキ?」

「ものにもよりますが、放課後だけじゃ厳しいです」

「クッキー?」

「もうちょっと凝ったもの作りますよ」


「はい、正解はクレープです」

「「「わぁぁあ!」」」


先生が布をめくると、そこには生地の材料の他にたくさんのフルーツが並んでいた。

イチゴがあるのは当然のチョイスね。


「ちょっと、咲希ちゃん落ち着いて」

「落ち着いてるわよ」

「口調以外は落ち着いてないよ!」


「ふふふ、みんなで美味しいクレープを作りましょうね。作り方自体は単純ですが、クレープ生地を作るところが難しめですからね。生地の材料は多めに用意しているので、失敗を恐れずに作っていってください。では、各班に分かれてください」


真宵とは今回も別の班だ。

今回こそは班員と交流できるといいけど……


「白石さんよろしくね」

「よろしくお願いします。それぞれ何のクレープを作りますか?」


食べたいクレープの材料を取ってこないと。

……お菓子と言いつつ、ハムや野菜とかもあるわね。

甘いものが苦手な人にも食べられるように気配りされてるのね。


「私チョコバナナかな」

「カスタードクリーム!」

「あずきとか美味しそうだな―」

「俺はおかず系で行ってみようかな」

「私はイチゴにします。じゃあ生クリームとカスタードクリームを作らないとですね」


ちらりと真宵の様子を伺う。

相変わらずあたふたはしてるけど、今のところ逃げる様子はなさそうね。


真宵、頑張るのよ!




「ほら男子ー、生クリーム作ってよ。混ぜるの大変なんだから」

「いや、生クリームって混ぜ方大事ですよね? 俺やり方知らないんですが……」

「白石さんは知ってる?」

「私も知らないです。あまりお菓子作ったことないので」


何回かバレンタインデーで真宵にあげたことあるけど、クッキーとかマフィンとかでクリーム系は作ったことなかったし。


「ふふーん、私の出番ね! こうやってぐるぐるぐるーカカカカーってやれば」

「すごーい! どんどんとろみが出てきた!」

「おおー」

「これが空気を入れて混ぜるってことなのね」


擬音ばかりで全然伝わってこないけど。


生クリームづくりは先輩に任せて、具材のカット、クレープの生地作り、カスタードクリーム作りに作業を分担する。

生地に使う材料の計測を丁寧に行い、生地の元作りを進めつつ自分が使う具材のカットも行う。


作業の合間に真宵の班に視線を向けると――


「さ、佐倉さん! そんなに力いっぱいやっても出来ないから! もっと力抜こう!」

「で、でも全然固まってない……」

「一生懸命なのは伝わってきたけど、大事なのは角度だから! 斜めから回すというか……ああ! そんな叩くようにしないで!」


――ものすごい先輩を困らせていた。


先輩は丁寧に教えてくれているんだろうけど、焦っちゃって全然話を聞けてない。


「ちょっと離れますね」

「はーい」




力いっぱい混ぜたことによって真宵の周囲には生クリームが飛び散っていた。


「あわわわわ」

「ほら真宵、しっかりして」

「し、白石さんいいところに!」

「ええ、見ていましたので」

「さ、咲希ちゃーん~。全然うまくいかないよ~」

「全く、不器用なんだから」


涙目の真宵の頭を撫でる。


こんな状態になってるのに、私がやるからと真宵から取り上げないで必死に教えようとする先輩はとてもすごいと思う。


「すみません先輩。真宵に悪気があるわけではないのですが……」

「うん、それはわかってるんだけど……」

「そんなかわいそうな目で見ないでよ~」

「先輩、今度は私に教えてもらっていいですか? 真宵、一緒にまずは聞きましょう」

「う、うん」

「わかったよ。生クリームを作るときはね――」


先輩の教えにしたがって私が実践する。


「真宵、こんな感じにやるみたいよ」

「ふんふん」

「そうそう! そのまま混ぜ続けて」


空気を入れることを意識して混ぜ続ける。


「あ、とろみが出てきた」

「咲希ちゃんすごい!」


泡だて器をあげるとサラサラではなくトロトロとした液が流れ落ちる。


なるほど、こうやって作るのね。


「ほら、続きは真宵がやって。やり方見てたでしょ」

「う、うん。やってみる」


さっきみたいに力いっぱい混ぜるのではなく、正しい混ぜ方を意識しながら泡立てる。


「その調子よ佐倉さん!」

「は、はい!」


しばらく見守っていると、確実にクリームが立ってきた。


「咲希ちゃん! どんどん生クリームっぽくなっていくよ!」

「すごいじゃない。やり方掴んだみたいね」

「うん!」

「先輩ありがとうございます。ほら真宵も」

「えっと、あ、ありがとうごじゃいます!」

「どういたしまして。教えるのが先輩の役目だからね」

「真宵、引き続き頑張ってね」

「うん、咲希ちゃんもありがとう!」



自分の班に戻ると、生地やクリームの準備ができていた。


「すみません、準備任せてしまって」

「大丈夫よ。友達手伝ってたんでしょ?」

「今日は佐倉さん逃げてないんだね、よかったよかった」


もう真宵は逃げる子って認識されてるのね……


「ありがとうございます」

「じゃあクレープ作ろうか!」


まずはお手本見せるねと先輩がフライパンに生地を広げる。

ちゃんと薄く広がっており、瞬く間に生地が固まる。


「はいっと!」


フライ返しを生地の下に入れてひっくり返す。


わぁ、全然破れてないし折れてもない。

綺麗なクレープ生地ね。


「こんな感じで生地を作るんだよ」

「くるくるすいって感じだね!」

「そ、そういうこと」


いや、全然わからないんだけど。


「せっかくだし自分の分は自分で作ってみようか」


えっと、先輩が使ってた生地の量はあれぐらいよね。

よしやってみよう。




「……むぅ」


生地をひっくり返そうとしたら端っこが折れてしまった。

しかも若干焦げてる。


破れないようにって思ってちょっと時間かけすぎたわね……


「おお! きれいにできたぞ! ほらほら」

「おーやるじゃん」


男の先輩の生地は焦げもないし破れてもいない、ちゃんとしたものになっている。


あれと比べると流石に私のは失敗ね。

もう一度やろう。


「お、白石もう一回作るのか。きつそうなら俺が作るぞ!」

「いいえ結構です」

「そ、そうか」


先輩の申し出であろうがきっぱりと断る。

たとえ善意からのものであっても、こんなことで頼って後が面倒になるのは避けたいから。


というか失敗したままなの嫌だし。




結局もう一度失敗して三回目で及第点のものができた。


うーん、よく先輩はあんなにスムーズにフライ返しを下に入れられるわね……

そこで若干手間取って火が入りすぎてるところがあるわ。

お好み焼きとは全然違うのね。


反省をしていると真宵が駆け寄ってくる。


「咲希ちゃん! クレープの生地きれいに作れたよ!」

「本当にきれいにできてるじゃない。一回で出来たの?」

「えへへ、実はこれ五回目。それまでは失敗しちゃった」


真宵の班の方を見ると黒こげの塊が皿に横たわっていた。


あれが生地のなれの果て……無残ね。


「これなら美味しいクレープが食べられるわね」

「うん! これも根気よく教えてくれた先輩のおかげ!」

「そう。じゃあその先輩にお礼しないとね」


すごいねいい子だねと真宵の頭を撫でる。


「……なんか小学生扱いされてない?」

「気のせいよ。ほら、自分の班に戻らないと」

「あ、そうだね。じゃあねー」


……あ、せっかくなら写真でも撮ってあげればよかったかしら。






完成したクレープを口にする。


「ん~」


自分で作ったのもあって、いつものクレープよりもおいしい気がするわ。

たまにはお店のものじゃなくて自分でスイーツ作るのもありね。


「……白石さんってそんな表情するんだね」

「なにか」

「いや、そんなキリッとしても誤魔化されないけど」


真宵はおいしくクレープを食べられてるかしら。


「あ、そっぽむいちゃった」

「白石さんにもそういうかわいいところあるんだね」

「ほんとねーこのこの~」

「ちょっと、つっつかないで……!」

「イチゴはまだあるぞ!」

「大丈夫です」

「そ、そうか」

「そういうところは平常運転なのね……」


男の先輩に同情するような視線が送られた。



************



部活が終わり、真宵と一緒に下校する。


「部活楽しかったね!」

「そうね。最初はどうなるだろうと思ってたけど、後半はちゃんと話を聞けてたわね」

「言ったでしょ、成長してるって!」


前の真宵では私が間に入らないと教えてもらうことすらできなかったからね……

これは明確な成長だわ。


「大きくなったわね……」

「私咲希ちゃんの娘とかじゃないんだけど……頭撫でないで!」


子ども扱いするな―と騒ぐ真宵を無視して頭を撫で続ける。

ちょっと前まで気軽に撫でることすらできなかったからね。


そのまま撫でてたら逃げられたので追いかける。


「待ってよ真宵」

「もー私は咲希ちゃんと同い年なんだからね!」

「もちろんよ。純粋に親友の成長を喜んでいただけ。真宵はすごいわね」

「ふふん、そうでしょう!」

「うんうん」

「だから頭を撫でるなー!」


得意げに胸を張った真宵が微笑ましくてつい。

流石にちょっと怒られた。


「ごめんってば」

「全くもう!」

「子ども扱いとかじゃなくてスキンシップだから、許して?」

「つーん」

「ふふふ」


わかりやすく不満を表す真宵に笑いが漏れる。


「ふへへ」


そんな私を見て真宵も笑顔になった。


「あ、今日はうちで一緒に晩御飯食べようよ! 今日の私の活躍を明凛に話して姉の威厳を見せないとだから」

「私がいないと話を信じてもらえないって時点で威厳も何もないと思うんだけど……」

「ガーン!」


これ以上真宵を刺激しないようになんとか笑いをこらえる。


そして落ち込んだ真宵を慰めながら真宵の家に向かうのだった。



これが戻ってきた、私の日常。


オマケ


帰宅後、佐倉家にて


「――って感じできれいで美味しいクレープを作れたんだよ!」

「咲希ちゃんほんと?」

「ええ、ほんとよ」

「いちいち咲希ちゃんに確認しないで!?」

「へぇ、すごいわね真宵」

「ふーん」

「ふ、ふふんそうでしょ。どうよ明凛、お姉ちゃんすごいでしょ」

「……本当にすごい人はそれをわざわざ口に出さないで行動で示すと思う」

「がーん!」

「どうせもう一度やれって言われてもできないでしょ。たまたま一回うまくいったぐらいで自慢してこないで、ウザい」

「ががーん!」

「えげつない言葉のナイフだわ……」


後日、じゃあ作ってやるーとクレープ作りを試みる真宵だったが、結局焦がして咲希に泣きつくのだった。


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