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エモいナウい。インスタ映え〜

「————つまり、俺と心に魔王の座を引き継げと……?」

「うむ」

「しかも……その理由は、アンタが可愛い可愛い孫と遊ぶ時間が欲しいから……?」

「そういうことじゃ!」

「んな無茶苦茶な!!」


 涼真の悲痛な叫び声が反響した。

 そんな涼真を見た爺さんは、バツの悪い顔で声を唸らす。


「全く、何が不満なんじゃ?魔王の能力も譲渡すると言っておるのに」

「この状況で、はい分かりました!って即答するやつ、俺が人間だと認めないわ!」

「うーむ……もっと泣いて喜ぶと思ってたんじゃが……」

「急に異世界に拉致られて、『俺は勇者として生きるんだ!』ってすんなり受け入れるのは、正統派ラノベ主人公だけだから!常人の反応はこう!」

「話を聞いておったか?勇者ではなく魔王じゃぞ?」

「あ───もう!」


──どうもこの爺さんとは話が噛み合わない!


 怨嗟の入り混じった声音で、涼真は言葉を詰まらせる。

 しかし、そんな兄とは真逆に、妹の方は目を輝かせながら涼真の体を押しのけて前に出た。


「魔王になれるの!?何それ楽しそう!」

「もちろん楽しいぞぉ!魔術で人間の街を破壊したり、我が物顔で世界を闊歩してる有象無象を吹き飛ばしたりのぉ」

「凄い!!心も魔法でドカーンて吹っ飛ばしたい!」


 豊かな胸をたゆんと弾ませながら、小兎のように跳ねる心。

 同族を追い詰めることに楽しみを見出さんとしている心を危惧した涼真は、爺さんと心の会話に割って入った。


「いやいや!爺さん、俺の妹に殺戮意識芽生えさせないでくれない?確かに、魔法ってフレーズにはちょっと惹かれないこともないけど、それで人と集落をドカーンはマズいから……」

「でもさ、お兄ちゃん。どうせ元の世界に帰れないなら、今いるこの場所でエンジョイしないとだよ!青春は短いんだから、一生懸命謳歌しないと後悔しちゃうよ?」

「お前大分サイコパスめいたこと言ってるの気付いてる!?『ナウいエモい、インスタ映え~!』の陽キャJKの考えること怖すぎなんだが……。お前の言う青春を謳歌しようもんなら、一生枕を濡らして悪夢にうなされることになるわ!」

「お兄ちゃんさ、JKが発する言葉、その三つだけだと思ってない……?」

「……え、違うの?」

「ほんとに人間社会で生きてた?もしかしてお兄ちゃん、異世界人?」


 愚物を見るかのような目で涼真の顔を覗き込む心。

 そんな二人のやり取りをぼんやりと見ていた爺さんは、哄笑こうしょうしながらそれまで閉じていた口を再度開いた。


「お主らは本当に仲が良いのぉ」

「これは仲が良いっていうのか……?」

「十分すぎるくらいじゃ。わしは魔王の座を奪おうとして襲ってきた兄と弟に殺されかけて、その二人ともわし自身が手にかけたからのぉ」


 爺さんは、口元はにこやかにしていながらも、寂しそうに遠い目をしながら続ける。

 

「血縁があったとしてもこの始末じゃ。きっとお主らには、血縁以上に固い不可視の繋がりがあるんじゃろうな」

「……魔王でも、そういうことって考えるんだな意外」

「ふぁっふぁっふぁっ。久方振りに思い出しただけじゃよ。……それより、そろそろ選択の時じゃ。まぁ選択肢など元よりないが、魔王の力を継いで人類の敵となるか、この場でわしに殺されて本当の本当に生を終えるか、お主らはどちらを選ぶ?」


 はつらつとしたしゃがれた声音から一転、実に魔王らしい、背筋をゾクッとさせる低い声音で問うてくる爺さん。

 涼真はごくりと生唾を呑み込む。


 こちらの都合とは関係なしに異世界へと連行され、やれ魔王だ、やれ魔術だなど言葉を並べられてもそう簡単に受け入れられるものでのないし、頭の中は混乱したまま全く釈然としない。

 しかし、涼真は実際に体感してしまったのだ。

 架空の──それこそ、アニメの中だけの神秘だと思っていたことが、目の前で顕現し涼真の肉体を炎で焼いたことを。あの時は半ばふざけていたため、焼死するほどの火力ではなかったが、この魔王と名乗る爺さんが涼真と心を殺すことなど造作もないのは容易く想像ができる。


──この爺さんが本当に魔王なのかは分かんないけど、本物だろうがそうじゃなかろうがどっちにせよ、俺達をまっさらな灰にできるくらいの力はあるだろうな……。


 もし仮に、ここへ来たのが自分だけであれば、涼真はどうせ一度死んだ命だからと諦めがついたかも分からない。だが、ここには心も一緒にいるのだ。

 血が繋がってないとはいえ、涼真にとって何よりも大切な妹。爺さんからの提案を拒否することで心も道ずれとなる可能性があるのなら、その択は断じて否だ。


「……ッ」


 涼真は、下唇を噛み押し黙ってしまう。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 いつの間にか涼真の横へと位置を変えていた心は、涼真の冷たく血の気のない右手を温もりのある左手で握り、ぼそっと爺さんの耳にも入らないであろう小声でそう呟く。


──心のこういうとこ、昔から変わんないな


 涼真は微笑をもらし、心の左手をぎゅっと握り返した。

 

「……ったく、何が大丈夫なんだよ?」


 心は満足そうにはにかみながら「何でも!」と朗らかな笑顔を見せる。


「決まったぜ爺さん。なってやろうじゃないか、魔王とやらに!俺は今日から人類の敵だ!!」


 心の手を強く握りながら、高らかに宣言する涼真。 

 その返事を聞いた爺さんは、欣然きんぜんとした表情で小刻みに頷きながら、あの炎を顕現させた時と同じように、指をパチンと鳴らした。


「あい分かった!では、譲渡の儀を始める!」


 そう言い放ったのと同時に、涼真と心の足元に紫紺色の巨大な魔方陣が展開される。

 その魔方陣は微かに発光を帯びており、その光の具合は徐々に強さを増していく。


「さぁ、我の血を喰らい、新たな魔の王としてこの混沌を統べるのだ。可愛い孫とわしのバカンスのために!」

「……何回聞いても、やっぱ理由が釈然としないんだよなぁ……」


 発光が輝きへと変わり、その眩しさに目を細めながら涼真は苦言を呈す。


魔王契約ディアボロ・ミーラ!!」


 巨大な魔方陣の放つ紫の輝きは、声高々に詠唱された宣託に共鳴するように最高の煌めきを放ち、そのあまりに神秘的な美しさに涼真はぽろっと一言呟いた。


「エモいナウ。これは、インスタ映え~」

 

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