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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚魔法は有害です!~呼び出したものはきちんと帰そう~

作者: 佐々荒洞

使った後は片付けましょう。

「先生!隣国の勇者が暴れていやす!!ちょっと退治をお願いできやせんですか。」


「先生と呼ぶのはよしてくれ。ヤクザの用心棒じゃあるまいし。」


あと、その口調もやめろ。何に感化されたんだ。


「でも、先生は我が国の用心棒と言っても過言じゃないお立場じゃないですか。」


口調が普段のものに戻ったな。


この男は国境警備隊の隊長、そして俺はといえば、こういった有事に備え飼われているちょっと特殊な専門職だ。隊長が「用心棒」と呼ぶのもあながち間違った話ではない。


「それで、勇者サマは今どのあたり?」


「国境の峠を越えて、現在我が軍と交戦中です。国境を越えるまでは隣国の国防軍が勇者の相手をしていたはずですが、こりゃあうまいこと押し付けられたみたいですな。」


「オーケー。んじゃ、出張(でば)るとしますか。」


「お車の用意ができておりやす、先生。」


ワイバーンの背中に鞍をつけた物を「車」と呼ぶのかね、君は。



ワイバーンの背中から見下ろせば、戦場と化した国境付近に立ち上る火柱や、ビームの光芒が見える。

こちら側の兵士も反撃しているようだが、圧倒的に暴走勇者のほうが優勢だ。


「勇者どもめ、派手に撃ちまくってやがる。ま、いつも通りだな。」


俺はワイバーンの御者に高度を下げさせると、戦場の只中に飛び降りた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


――魔法は戦闘の役に立たない。


長いことそう考えられてきた。火の玉を飛ばす、氷の塊を降らせる、なるほど敵兵にダメージは与えられるだろう。しかし人類は、より速く、より簡単に、魔法よりもよほど大きなダメージを敵兵に及ぼす兵器の数々を、驚異的なスピードで進化させてきた。


こうなると魔法は武器として使用されることは少なくなり、基地の設営や物資の運搬といった補助的な役割や、負傷兵の治療のような医療目的での役割が重視されるようになった。


――召喚魔法が確立されるまでは。


最初に召喚魔法で呼び出されたのは、異世界の大精霊だった。召喚魔法による呼びかけに偶然応えてくれたのが発端となり、その後、効率良く呼び出すための術式やアクセスするための座標が確立され、召喚した後に要望を聞いてもらうための儀式が整えられた。いにしえの儀式では、生贄として人間が捧げられたことも頻繁だったと聞く。それで気分良く大精霊様が要求を聞いてくれたかどうかはわからないが。


この様に大精霊召喚には手間とコストがかかる。そのため、次に召喚対象になったのは、異世界の巨獣たちだった。

火を吐く二足歩行の大トカゲ、空飛ぶ巨大ガメ、三つ首のドラゴンなどなど様々な巨獣が召喚され、戦場に送り込まれた。

この巨獣たちにも問題があった。そもそもあんまり言うことを聞いてくれないのだ。中には人間と念話でコンタクトできる個体もいたようだが、ほとんどが無制御に暴れまわるだけだった。


最大の問題は、帰ってくれないことだった。


大精霊のような知性ある存在ならば、こちらの要求に応えた後はしずしずと元の世界にお帰りあそばされたものだが、人間から見てわかりやすい知性を持たない巨獣たちは、当然自力での帰還など考えるわけもなく、この世界で暴れ続けたのだった。

今、この世界でモンスター扱いされている生物のうち、何割かは異世界から召喚された巨獣の末裔であるらしい。

……え?"つがい"で召喚したの?


そして、最後に召喚対象になったのが、異世界の人間だった。


何故か異世界から召喚される人間は異常に高い戦闘力や、戦いに有用な知識を持っていることが多く、また、コミュニケーションも(巨獣に比べればはるかに)容易であったため、たいへんに重宝されることとなった。


彼ら彼女らは「勇者」と呼ばれるようになった。


それでも最初の頃は、いきなり異世界に召喚されため、錯乱したり、絶望したり、単純に怒ったりで言うことを聞かない者も多かった。苦労して説得したり、望む報酬を与えることで懐柔したりしてどうにか要求を呑んでもらうことが多々あったらしい。記録には残されないが、結局殺されてしまった勇者も少なからずいたことだろう。


だが、ある時、質の良い勇者が大量に生息する座標が発見された。現地の言葉では、

「21世紀の日本」

と呼ばれる時空間だそうだ。

この座標にいる者たちは既に「異世界に召喚され勇者として活躍する」という概念を持っており、いきなりの召喚にも

「お、これが異世界召喚か!やったぁ!」

と説明なしで理解しかつ好意的にそれを受け止めてくれる、たいへん使い勝手の良い存在なのだ。


この「勇者召喚」にたどり着くまでの試行錯誤の中で、別の召喚魔法が生み出された。

それがもう一つの召喚魔法「召喚攻撃魔法」である。


これは、生き物ではなく、エネルギーや現象を異世界から呼び出すという魔法を指す。

発端はやはり偶然だった。記録に残っている最古のものでは、有名な魔術師が手当たり次第に異世界座標にアクセスする内に、溶岩流を召喚してしまった顛末がある。

いきなりマグマが溢れ出したおかげで当の魔術師は両足を焼損することになったが、自ら治癒魔法で傷口を塞ぎ、術式と座標を記録に残したという功績が伝えられている。この魔術師は今でも「召喚攻撃魔法の父」とたたえられているそうだ。


この後、安全に召喚攻撃を行えるよう、術師をシールドしたり、召喚されるエネルギーに方向性を与えたりといった術式が確立されていくことになる。


それでも召喚事故のうわさは現在でも絶えることがなく、

「某国の魔術研究所が恒星の中心部にアクセスしてしまい、都市一つまるごと閃光と化した」

などという話がまことしやかに耳に入ってくる。


何故か勇者たちはこの召喚攻撃魔法が得意なことが多く、使い勝手の良さとあいまって、勇者の戦術的価値はさらに向上したのだった。


だが、なにごとも良いことばかりではない。

勇者達の中に暴走する者が出現し始めたのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「こちらは王国防衛局 勇者対応特別顧問 サー・サット・カエーレです。隣国の勇者御一行様にお願いです。速やかに戦闘行為を止め、自国にお帰り下さい。」


勇者一行の50メートルほど先に着地した俺は規定通りの勧告を行い、様子をうかがう。


「ハッ!帰る『自国』は次元の彼方よ。今となっちゃ、この世界が俺の王国。国境も軍隊も俺にゃぁ関係ねぇ。ま、それでも俺を追い返すってんなら、力ずくで来いよぉ!!」


お、いかにも勇者といった風情の割には良い口上を述べるじゃないの。


「なにアイツ、キョーヤ相手に生意気かましてんの?100世紀早いって―の!」


「キョーヤ様が出るまでもありません。このようなクソ雑魚の相手はわたくしで十分。」


うん、勇者の脇にいる娘二人のセリフは型どおりで知性を感じられないし、ガラも悪い。30点。


「遍く万物を融解せしめる灼熱紅蓮に揺らぐ(ほむら)よ、遠き炎熱の世界より疾く来たりて我が前の怨敵を焼灼しつくせ!」


東国の民族衣装を完膚なきまでにアレンジしつくしたような(それでいながら露出部分が多いという謎仕様の)衣装を着た方が長い召喚呪文を唱えると、その手から紫がかった炎が噴き出し、俺に向かって伸びてくる。


俺はそれに手を伸ばし、炎に触れる。


――と、炎が消滅した。


「は?」


「アンタ何やってるのよ?!つっかえないわね。もーいい、ワタシがやる。」


もう一方の、下着以外に何も衣装を着けていないように見える娘(一応薄衣は羽織っているが、ほぼシースルー)が苛立った声を上げて、詠唱を開始する。

どうでも良いが勇者パーティーに属する娘はかなりの確率でこういった破廉恥な格好をしている。勇者関係以外ではまったく目にしない格好なので、勇者の趣味なのだろうか。


「暗く深きわだつみに眠る深淵の王よ、我が願いに応えて破壊の水流を遣わし給え!」


すさまじい高圧がかかった水がビームのように俺に襲い掛かってきて、俺に触れた瞬間、やはり消えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


原理的に、「召喚」というものは「退去」と対になっている。呼んだモノはきちんと帰しましょう、という当たり前の話だ。


だが、この世界の召喚術は呼び出すことのみに特化してしまい、退去ということを疎かにしすぎた。そのせいで呼ばれたものに蹂躙される日常を強いられている。そればかりか、別の世界からエネルギーを持ってきてしまっているので、世界そのものの熱量が本来よりも大幅に増加しており、気候に悪影響が見られるようになった。学者たちはこれを「気候温暖化」と呼んで警戒しており、召喚魔法の規制化を求めている。


それは世界の防衛機構なのか、ここ数十年の間、退去術をもった子供が生まれてくるようになった。意図することなく、常に退去術を発動しているので、召喚攻撃魔法の一切を無効化してしまうのだ。俺に触れた召喚攻撃魔法は即座に「退去」の効果を受け、この世界から弾き出されることになる。

こういった能力は、召喚攻撃魔法の悪用に悩む政府にとってたいへん重宝され、軍隊や警察機構で活躍する者が多い。

かく言う俺もその一人で、今もこうして戦っているというわけだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「アイツ、魔法が効かない!」


「ホラ、あなたの魔法もダメだったでしょう?先ほどの暴言を謝罪してくださいな。」


「よし、ここは俺が行こう。お前たちは下がっていてくれ。」


言うが早いか勇者が距離を詰めてくる。それだけでなく、剣の間合いに入るまでのわずかな時間も召喚攻撃魔法で埋めてきた。


「レーザー!」


極太の光束が走り、俺の頭部を襲う。兜が消滅した。俺の体に触れるまでは召喚攻撃魔法は有効なのだ。

だが俺本体は無傷。

これまでのお返しとばかりに俺は剣を振るう。勇者の基礎体力は常軌を逸したレベルだが、正規の訓練を受けたわけでもないため、剣術ではこちらに一日の長がある。それに、俺には召喚攻撃魔法が使えないことが初期の段階から判明しているため、魔法の習得のために使う時間を全て剣術、体術に充てることができている。


――あと、対人戦闘の場数もお前さんの比じゃないんだよ。どれだけの勇者を相手にしてきたと思ってるんだ。


勇者の剣を弾いて半歩ばかり後退させる。焦った顔で剣を大上段に振り上げる勇者。肩に力が入っているため、剣速は遅いし、軌道も丸見えだ。


ギィィン!


剣が折れる音が響いて、勇者の剣が根元から飛んでいく。


「なっ?!」


柄だけになった剣を握りしめて勇者が呆けた顔をする。ここが勝負どころだ。


俺は自分の剣を投げ捨てて叫ぶ。


「そんなナマクラじゃあお前の力は出し切れないだろう!

勇者だったら(こぶし)で来ぉい!!」


剣が折れたのは自分の技量が劣っているせいではなく、剣が悪かったせい。

自分の力を最大に発揮できるのは、やはり自分の拳。


そう考えてくれなくては困る。ここで次の剣をストレージから出されたりしたらイチからやりなおしだ。


「よぉし!その勝負、受けた!!」


籠手も外して素手で殴りかかってくる。


――かかった。


たいていの勇者はこれに引っかかってくれるから助かる。


あえて俺は両腕を大きく左右に広げて勇者の拳を受ける。

兜が破壊されてむき出しになっていた俺の頬に勇者の拳が吸い込まれ、

――そして勇者ごと消える。


召喚されたものは、俺に触れれば全て退去させられる。人間であっても違いはない。


勇者が装備していた鎧や兜が惰性で飛んでくるのを躱し、俺は国境警備隊に討伐完了の合図を送る。

勇者を失った一行は戦闘意欲を失い、即座に拘束された。


俺の力で退去させられた勇者がどこの世界に行くのか、それはわからない。

それでも俺は、やはり元来た世界に帰ってくれていることを願っている。


だって、絶対全裸で出現しているはずなのだ。知り合いがいる元の世界の方が恥ずかしさもひとしおというものだろう。



整理整頓は割と得意です。まめにやらないだけなんです。

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