祇園の城を目指して。4
それから月日は流れ、いつしかそんな平穏な時間は気が付けば四年の歳月が経っていた。
そして、私がもう戦を忘れるのには、十分な時間だった。
戦乱続きで、目まぐるしく時間が流れてたあの頃とは、まるで違う。
とてもゆっくりと、ゆっくりと流れる時間。
この悠久の菊田の荘と共に。
そんな当たり前の様な事が、とても大切な事だと感じていた。
いつもの変わらない日常。
穏やかな風が吹き抜ける。
こうして、このままずっと斑鳩と花月、三人で一緒に居たいな。
『どうしたのだ? サクラ。』
『あ、斑鳩……。』
私が、廊下に座って庭を眺めていると、斑鳩がやって来た。
斑鳩の優しい顔に思わず笑みが零れる。
『うん。
私ね、ここに来てとっても幸せを感じているの。』
『そうか。』
『こうして、斑鳩とも花月とも平和な時間を、ゆっくりと過ごせてるから。』
この悠久とも言える時間。
だけど、いつかは終わりが来るのだろうな。
私の知らない所で、歴史は確実に刻まれている。
そして、この悠久とも言える時間は、いつか突然終わりを告げるんだろう。
『外へ行かぬか?』
『うん。』
今日は一頭の馬に二人で乗って出かけた。
いつもは個々に二人で早駆けしてるから、たまには良いなぁ。
馬をゆっくりと走らせて、私達は丘の上の草原に着いた。
『サクラ、握り飯を持って来たぞ。
この辺りで食わぬか?』
『ええ、そうしましょう。』
馬を降り、大きな石に二人並んで腰を掛けて二人で食べる。
何ものにも変えられない、幸せなひと時。
風が気持ちいい。
心地良い風を受けながら、空を見つめながら髪をかき上げた。
『こんな時間が、いつまでも続くといいな。』
『ああ……。そうだな。』
斑鳩が優しく微笑みかける。
私も優しく斑鳩を見つめる。
『私、今とても幸せ。
こうして斑鳩とゆっくりと過ごせている、この時が。』
『私も、いつまでもサクラとこうして、のんびりと一緒に時を過ごしたいな。』
『うん。』
『ああ。』
『でも……。』
『でも?』
『でもきっと、いつかは終わりは来るのよね……。』
斑鳩は、私の気持ちを察して、下を見ながら眼を逸らしてしまう。
私の一言に私と斑鳩は沈黙してしまった。
その時間が、終わりの無い位にとても長く思えた。
『……サクラっ!』
『は、はいっ!』
斑鳩が突然沈黙を破った。
私は驚いて声が裏返ってしまった。
『きっと時は掛かってしまうかも知れぬが、昔サクラが言った様に、いつか平和になったら、皆でまた祇園の城のあの場所で思川を見よう!』
そうね。
思川か……。
もうだいぶ遠くに来てしまったけど。
いつの日かきっと……。
私は笑顔で斑鳩を見つめた。
『うん。
楽しみにしてるわ……。』
そう言って私は、眼を瞑って斑鳩の肩にもたれ掛かった。
『いつも悲しい思いや、心配ばかり掛けてすまぬ。
私がサクラを守らねばならんのに……。』
『そんな事は無いわよ。
私だって斑鳩を守りたいのに、いつも心配ばかり掛けてごめんなさい。』
『アンタ達〜〜っ!!』
花月が私達の事を見つけて遠くから叫んでいる。
『何処にも居ないと思ったらこんな所にいたのねっ!
ったく、心配するアタシの身にもなって貰いたいものだよ!』
『あ、花月だ。』
『そう言えば、花月に何処に行くか伝え忘れてたな。』
『た、確かに。
どうしよ、また花月に怒られるよ。』
そうして、プンスカしながら花月が私達に元へとやって来る。
『ったく、アンタ達はもぉーー!
こっちは心配して必死に探したんだよ!』
『すまぬな花月。
つい伝えるのを忘れてたのだ。
まあ、そう怒るな。』
『怒られたく無かったら、ちゃんと言いなさいっ!』
『まあ四六時中、一番心配して世話を焼いてるのは花月だな!』
『あはは!』
私はその一言が的確過ぎて、思わず笑ってしまった。
『はははっ!』
斑鳩も私につられて笑う。
『花月さあ、そんなに心配性じゃ、しわが増えちゃうわよ?』
『はははっ! 上手いな、サクラ!』
『あはは!』
『はははっ!』
『……ったく、アンタ達はぁ〜〜。
人の心配なんて気にもしてないでしょ!』
花月の顔がみるみると真っ赤になって行く。
『ま、不味い!
逃げるぞ、サクラっ!』
『う、うん。
こりゃ不味いわね!』
『逃げろっ!!』
そう言うと、私と斑鳩は笑いながら走りだした。
『待ちなさぁーーいっ!』
花月は顔を真っ赤にしながら、追いかけて来る。
『今日と言う今日は許さないよっ!』
『サクラ!
捕まるなよっ!』
『うん!
斑鳩こそねっ!』
私と斑鳩は笑顔で見つめ合った。
ああ、いつまでもこんな時間が続いてくれればな。
だけど、私はこの時まだ気が付いていなかった。
戦乱の足音はもう直ぐ側まで来ている事に……。
©︎2020 山咲