表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

旅人

作者: Re:over


「まだ行かないでよ……」


 泣かないで。お願い。私だって辛いんだよ。


 私は君の目元に人差し指を当てる。指は瞬く間に濡れた。そして、その手を君は握る。君の手の暖かさは残酷なほどに現実を突きつけ、私は寂しくなっていく。


 旅立ちの時は刻一刻と近づいていることを実感し、私の目にも涙が姿を現わす。


 鳥籠から旅立ち、本当の自由になれるが、ここに戻ってくることはできない。


「大丈夫。私がいなくても、君は上手くやっていける」


 君の強さや優しさは私が知っているし、きっと大丈夫。心の底からそう思う。私利私欲を言えば、まだ君といたい。君と一緒にまだ見ぬ世界の美しさを見たい。


「私は先に行くだけ。またいつか、会えるはずだから」


「でも……。嫌だ、まだいかないで」


「そうしたいのも山々だけど、これは宿命なの」


「すぐに迎えにいくから。絶対に待っててね」


「急がないで。迎えに来る必要もないから」


 君との思い出が胸を焼き、痛みに耐えきれなくなった。涙は頬を通らずに地面へと滴り落ちる。


「君には君の人生がある。その人生を私なんかのせいで無駄にしないで。お願い……」


 眠たくなってきた。視界がゆっくりとぼやけていく。盲目になる前に君の顔を記憶に刻もうと凝視する。


「そんなの卑怯だよ……」


「私ね、もう眠たいの。だから、泣いていないで笑ってほしいな。ほら」


 私は笑った。何もかもを忘れて笑った。そうして最高の笑顔を君に届ける。君もそれに答えるように笑ってくれたけど、その顔には私との別れを惜しむような表情も混じっていた。


「じゃあ……ね……」


 私の想いはマリーゴールドの咲く花畑で散ってゆき、声も力も失った。私は君の気持ちも聞かずにあの世へ旅立つ旅人だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ