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ヒミツ  作者: 爪楊枝
ヤクソク
9/109

prologue


家内いえうち真実まなみ所謂いわゆる反抗期、というやつである。


僕に対して常に何かしらイライラしていて、何かあればあたってくる。

しかし、そんな彼女も昔は…否、今ももちろん可愛いのだが


「私、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだっ」


などと男冥利に尽きる言葉を聞かせてくれた。

あの約束があるからこそ思春期真っ只中にある我が妹の心中を察する僕は寛大に、そして自信を持って言える。


僕の妹は、ツンデレであると。


ーーーーーーーーーーーー


莉音りおんと別れた後、家で姉にお世話されそのまま寝てしまった。朝になり、体の調子は良かったもののやはり昨日今日でまた倒れたら困るから安静にしてろと母に言われたので学校は休むことになった。ちなみに、姉は夜遅くまで看病に明け暮れていたせいか未だに僕の部屋で寝ている。両親はといえば朝早くから出かける準備をしていたと思ったら夫婦水入らず、2泊3日の温泉旅行へと旅立っていった。


息子が学校休んでいるのに、いいのかそれで…


つまり今、実質この家で活動しているのは僕とそして僕の愛する妹のたった2人だけだ。時計の針は午前9時を指している。SHMショートホームルームが終わったぐらいだろうか。なぜこの時間に妹が家にいるのかというと、妹の通う中学校、つまりは僕や姉の母校は以前まで9月の終わり頃に体育祭を行なっていたのだが今年度から6月開催に変更になりその振替日が今日というわけらしい。


リビングのソファーに座り、ニュース番組を観ながらゆっくり朝食をとる。そんな贅沢なひと時を拒むように2階から降りてくる足音が聞こえた。落ち着きのない、ドタドタと駆けるようなこの足音は間違いなくマイシスターのものだろう。命をかけてもいい。


「ママお腹減った〜………げっ!?」


約1週間ぶりに聞いた妹の声はなんとも物悲しくなるようなそんな小さな悲鳴だった。


少し癖っ毛で茶色がかった髪を肩のあたりで2つに纏めたツインテール、ほどよく目つきの悪い三白眼。こちらを視認するやいなや「げっ」と声を上げてチャームポイントである八重歯をチラリと見せるその姿はやはり、我が家の末っ子であり両親から溺愛されて育った妹…家内真実だった。せっかく清々しい朝に運命的な出会いをしたのだからここはひとつ兄妹の絆を確かめ合うべきだろうと僕は妹の方へ顔を向けて喋りかける。


「おいおい、親愛なる兄に対してその反応はないんじゃないかそれと母さんなら父さんと出かけたぞ。恐らく3日間は帰って来ない。」

「う、うるさい!喋んな変態!」


せっかく真実が言うところの「ママ」についての情報を提供したというのに、その反応はつれないものだった。久しぶりに妹との意思疎通が図れたことに感動しつつ真実の反応を考えるに、やはり真実は僕の部屋で見つけた本のことをまだ引きずっているようだ。


やれやれ今年高校受験だというのにこんなことでイライラしていてもしょうがないだろうに…よし、ここは兄として人生の先輩として愛する妹へ手を差し伸べてあげよう。


「そんなにカリカリするなよ、俺も男だああいう本のひとつやふたつ隠し持ってるのが普通さ気にするなって」


……おや、これは妹に対するフォローになってはいないのではなかろうか?


「さ、サイテー!」


案の定、真実はドタドタと足音を立てながら冷蔵庫から低脂肪牛乳を取り出し自らの部屋へと帰っていった。女心とは難しいもので、思春期真っ只中の難しいお年頃の妹について僕はまだまだ知らないことが多すぎたのだった。


「暇だな…」


唯一の話し相手がいなくなりなんだか急に部屋が寂しくなったように感じる。生まれてこのかた、学校を休んだことなど数回あればいい方だったし休んだ場合はいつも思緒しお姉ちゃんが常に看病してくれたから暇になることなどありはしなかったのだが特に体調が悪いわけでもなく、ただやることもなく平日の朝から無駄な時間を浪費するというのはこうも虚しいものだったのか。なんだかズル休みしているような罪悪感すら湧き上がるほど僕は暇をもてあましていた。


「散歩でもするか…」


食器を片付けて出かける準備をする。

外はすでに外出を拒んでいるのかと錯覚するほどの日差しだけれど、僕は気にせず探検に出かけるかの如く上機嫌で家を出た。



体を焼くような日差しと、アスファルトからの強烈な照り返しを受けながら住宅街を行くあてもなく彷徨さまよっていると人っ子ひとり見当たらない公園を見つけた。鉄棒と滑り台、ブランコと砂場がそれぞれ四隅に配置されており中央には…はて、あの漫画やアニメでよく見る穴があって中に人が入ることのできるドーム状の遊具はなんという名前なんだろう。小さい頃に何度か家の近くにある公園で遊んだ記憶はあるものの、今覚えばあの特殊な遊具の名前を知らないことに気づいた。


「暑い…」


このまま突っ立て考えても仕方がないのでここはひとまず童心に帰って、あの遊具の中で涼んで行こうではないか実際入ってみて分かったが、案外高校生が入っても十分スペースに余裕があった。


「うーん、そんなに変わらないか?」


日差しが無い分、いくらかマシなのかもしれないが空気がこもって逆に息苦しくも感じる。


「ダメだ!出よう出よう」


堪らず穴から顔を出そうと外に目をやると、誰かが中を覗いていた。


それはまるで神がこの世に遣わした天使のようだった。


うなじあたりで揺れる小さなポニーテール

少し広めのおでこ

不思議そうに僕を見る2つの眼まなこ

全く起伏のない胴体

よく似合う赤いワンピースから覗く可愛らしい膝小僧

夏らしくサンダルを履いた小さな足


そう、僕の前に小学5か6年生ぐらいと思われる


女児が現れた。


ーーーーーーーーーーーー



さて、平日の朝10時30分頃住宅街のど真ん中にある公園で高校2年生の男子が女児に対してどんな対応をするのが正解なのだろう。


ケース①気さくな挨拶をする。


「やあ、今日も暑いね!僕は陽満っていうんだ君は?」

「えっ…」


急に挨拶をした僕に対して驚く女児の姿が容易く想像できる。却下だな。


ケース②アイスでも奢る


「お嬢さん、そんなに汗をかいて…熱中症になってもいけない僕とアイスでも食べに行きませんか?良い駄菓子屋を知ってるんです。」

「あ…えっと…」


事案だな。


ケース③学校はどうしたのだと問いただす


「こらこら〜学校はどうしたんだい?まさかサボりか〜?そんな悪い子にはお仕置きが必要だな!」

「ひっ…」


ダメだ…ろくな案が浮かばないぞ…僕の乏しい対人スキルではこの程度が限界でありどうあがいても僕が逮捕、連行される以外の道筋はあり得なかった。


「あの…さっきから急に挨拶して来たと思ったらアイス食べに行こうだとか言い始めるし、果てには学校がどうのこうの言ってくるし…なんなんですか!?」


………おっと、どうやら頭の中でのシュミレーションを僕は全て行動に移していたらしい。


「一応言っておきますが、今日学校は体育祭の振替で休みなんです!」


女子小学生(js)にしては物怖じせずよく喋るなと感心する。


ん?体育祭の振替で休み?

確か、妹の中学校も同じく今日が振替だった気がするが…


「あぁ、君の小学校も運動会が6月にあってその振替が今日ってことか!」

「ち・が・い・ま・す!!!」


「そもそも私は、15歳!中学3年生です!!」

「嘘はダメだぞ〜そもそも君は152cmの体重45kgだろ?よって君はおそらく小学6年生だっ!」

「!?!?な、なんで私の身長と体重をピッタリと!?」

「男ってのは女子の身長や体重はもちろんありとあらゆる情報を見ただけで判断できるんだよ」

「何ですかそれ!?気持ち悪いです!」


ああ…こうもストレートに気持ち悪いと言われると少しばかり悲しい気持ちになるな…もちろん、僕にも他の男子諸君にもそんな特殊能力はありはしない。身長152cm体重45kgとは小学6年生の女の子の6月から7月頃の平均身長と平均体重だ。そうネットに書いてあった。


「ぐぬぬ…と、とにかく!これを見ていただければ分かってもらえるはずです!」


そう言って、女児もとい少女は手帳のようなものを僕へ見せてきた。どうやらそれは、中学校の生徒手帳のようだ。つい先ほどまで、自らにセクハラ紛いの言葉をかけてきた不審な男に対して個人情報の塊である生徒手帳を見せるとはこの子の危機意識はゆるゆるだ。


「可愛かわ…川?」

可愛川えのかわです」

「……なるほど可愛川瀬里奈せりなちゃんね、なんだ僕の妹と同じ学校じゃないか」

「!へぇ〜、お兄さんの妹さんも上石中なんですか?ちなみにお名前は?」

「ああ、家内真実って言うんだけど知ってるか?」

「…いえ、知らないですね」

「そうなのか」

「ひと学年の人数も多いですから」


もしかしたらこの子を通じて、妹との仲直りが達成できるかもしれないと淡い期待を抱いたが空振りに終わってしまった。


「まあ、もし出会ったら仲良くしてやってくれ」

「わかりました!」


「あ!そういえばお兄さんはうちの学校の卒業生だったりするんですか?」

「?…あぁ、一応そうなるな」


一体この質問に何の意味があるのだろう


「じゃあ…」



可愛川瀬里奈は、ひらひらとワンピースを揺らし公園の出口の方へ歩きながらこちらに振り返り健康的に焼けた肌とは対照的な白い歯を見せて見た目通り、無邪気にはにかむ。


「次からは先輩って呼びますねっ」


そう言い残し可愛川は去っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


可愛川が帰って、蝉の声だけが響く公園内で僕はふとスマホを取り出し時間を確認する。


「やっべ」


最近、スマホの通知音で寝不足だった僕は今日だけ通知をオフにしていたことをすっかり忘れていた。画面には莉音りおんからの定期的な連絡の表示と




姉からの不在着信の通知が20件ほど表示されていた。




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