3話『ハリケーン①』
人生において、大切な出会いとはどのようなタイミングで訪れるものなのだろうか。保育園から大学、または専門学校や社会に出てからの出会いを含めれば、その数も種類も多岐に渡る。入学式なんかだけでなく、クラス替えなんかもその数に入れるとするならば、もうそれは人生における進路決定よりも大事な取捨選択の連続だ。毎年、もしくは毎日のように知らない人に会い、知人と再開し、そのうちの何人と死ぬまで関わることができるのか。または別れることになるのだろうか。
「……もう寝よう」
「……んん…」
朝、なにやら不自然に布団の中が温かくなったため目を覚ました僕の目に、これまた不自然な態勢の思緒姉ちゃんの姿が写った。いつもなら、目の前にあるはずの思緒姉ちゃんの顔が僕の頭の横、つまりは僕の枕の上に乗っていた。
「…なんで思緒姉ちゃんが俺のベッドで一緒に寝てるんだ?」
「……」
寝ている。間違いなく寝ている。とても可愛らしい寝顔である。玉波先輩に見せてあげたいくらいの。
「…思緒姉ちゃん」
「……ん…」
「起きたか?」
「おはよう…ハル君……」
「なんでここで寝てんの?」
「ハル君を起こしに来たんだけれど…寒くて…………」
「……」
思緒姉ちゃんは完璧超人ではあるが、朝に弱い。異常に早起きで僕を起こしてくれるためありがたくはあるけれど、休日なんかは二度寝をしている姿をよく見る。昨日は特に疲れていたようだし、眠ってしまったのも無理はないか?しかし今日は平日、学校に行かなくてはならない日だ。
「ほら、思緒姉ちゃん目を覚ませ!」
僕は心を鬼にして布団を剥いだ。
通学路、思緒姉ちゃんとふたりで歩く。ずいぶんと朝が冷える日が多くなったせいか厚着の人が増えて来たように思える。僕たちが通う学校は衣替えといった習慣が特になく、その日の気温等に合わせて自分で調節してくれというスタンスなため、生徒たちの格好は様々だ。僕と思緒姉ちゃんも今のところはセーターを着る程度の防寒にとどまっている。
「ハル君、もう少し寒くなる前にマフラーを編んであげるわ」
「…去年もマフラーと手袋編んでなかったか?あれどこやったんだ?」
「……新しい方がハル君もいいでしょ?」
今、露骨にはなしをそらさなかったか?
「まあいいや。早く学校行こう。寒いし」
「ええ…ハル君、前!」
「え……?」
思緒姉ちゃんの叫びも虚しく、僕は曲がり角から出てきた人影にぶつかって、そのまま尻餅をついてしまった。
「いてて…す、すみませ……ん!?」
僕が驚いた理由は2つある。まずひとつは相手が女性であるにも関わらず僕の方が尻餅をつき、相手はよろけたそぶりすら見せずに堂々と立っていること。そしてもうひとつは顔見知りであったためだ。
「こ、こちらこそごめんなさい、あまり前を見てなく……って、おや!おやおやおや!家内君に家内さんじゃないですか〜!」
「……剣崎先輩…」
「こんな朝から偶然ですね。こんな角でぶつかるなんて、運命感じちゃいますね」
「朝から冗談が面白いわね剣崎さん。貴女、家こっち方面だったかしら?」
「あ、あれ…家内さん顔が怖いですよ?いえ、私昨日は母の実家のほうに泊まってましてそれで今日はいつもと違う通学路なんですよ」
「そう」
「いやぁ〜これも何かの縁ですし、ほらほら!一緒に学校行きましょう」
朝から思わぬ出会いを果たした僕と思緒姉ちゃんは元気よく歩き出した剣崎先輩の後に続いて、学校を目指した。




