epilogue
目を開けると、2年間の学生生活のうち数えるほども来たことがない保健室の天井が見えた。固めのベットの上でぼーっとしていると
「良かった目が覚めたのね」
声のする方に顔を向けると、話したことの無い保健の先生が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「…あの…僕と一緒に、女子がいませんでしたか?」
「大変だったのよ?急に貴方をおんぶした女の子が入ってきたと思ったら泣き出しちゃって」
「とりあえずあの子は帰らせたけど貴方たちなにしてたのこんな時間まで」
「いや…えっと」
「まあ、ちゃんと避妊はしなさいね」
この先生、他人のことをなんでも決めつけるタイプに違いない。しかし
【私を壊して】
あのメッセージを見た後の記憶が酷く曖昧だった。
恐らくは気絶したんだろう。彼女がここまで運んでくれたとのことだが、屋上からここまで運ぶなんてかなり大変だったろう。
「もう、大丈夫そうなんで帰っていいですか?」
「ダメよ、熱中症かもしれないし今お母様が迎えに来られてるからそのまま寝転んでおいて」
なんということだろう、この歳にもなって母親に迎えに来てもらわねばならないなんて…しかもあの母のことだ
「だらしないねえ!!」
なんて言いながら、僕の背中を一発叩くに決まっている。そしておそらく家に帰ってから姉による介護が展開されるのだ。
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案の定、母は開口一番「だらしないねえ‼︎‼︎‼︎」と僕の背中を二発叩いた。僕の想像を超えてくる母に対し「まあまあお母様」と保健室の先生がなだめていたが母を止めることはできず僕はおまけでもう一発叩かれた。母とともに校舎を出て校門前に止めた車へと向かう途中、母から気になる言葉を聞かされた。
「ああ、車で野美乃ちゃんが待ってるから」
「えぇ?どういうことだ?野美乃さんは先に帰ったって先生が…」
「バカだなねぇ、アンタが心配だったんだろうよ〜私がつくまでずっと校門で待ってたたんだよ。全く見せつけてくれるねえ」
なんだか癪にさわる言い方ではあるけれど、その言葉が本当ならば少し覚悟を決めて行かなければならないなと思いながら、足を進める。
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結論から言えば拍子抜けするほど何もなかった。
母が車に乗った後、少しの時間外で野美乃さんと話すことになったのだが体は大丈夫なのかとか僕に対する心配と確認が主だった。僕は気になって仕方がなかったので思い切って彼女にどこまでやってしまったのかと聞いてみたが
【大丈夫、なにもしてませんよ】
と笑顔で答えていたので多分ほんとうに何もしていないのだろう。母さん、結局僕は何もできないクソ野郎だったよ。とりあえず、母と相談して明日は学校を休んでゆっくりすることを野美乃さんに伝えると彼女から
【ゆっくり休んでくださいね、あとこれからは苗字ではなく名前で呼んでください。】
と催促されたのでこれからは莉音、そう呼ぶことになってしまった。女子の名前を、しかも呼び捨てで呼ぶやつなんて妹しかいなかったので恥ずかしい気持ちになったがまあ今更気にしてもしょうがない。
莉音と別れてからはおおよそ予想通り
家に帰るやいなや姉が普段の姿からは想像できないほど慌てふためき、身体中をくまなく検査された。そこまで心配するほどのことでは無いと言っても聞く耳を持たない姉に看病されながら僕の非常に濃い一日は過ぎていったのだ。