√アキ①『カラッポ』
学園祭2日目、今日も僕は教室で時間を潰している。けれどやることがないからではない。昨日ほどじゃないにしても僕には今日もやらなければならないことがある。まずひとつめは莉音と一緒に学園祭の模擬店や展示を見て回ることだ。しかしこれは本日の午後からという連絡が莉音から昨日来ていたのでまだ時間がある。ふたつめはメイドカフェに行くこと。つまりは玉波先輩に会いに行くことである。体調はすっかり良くなったらしく、昨日の夜に明日は来るようにと連絡があった。しかし現在、玉波先輩のクラスの教室の前にはなぜか長蛇の列ができており、目的地にたどり着くにはかなりの時間がかかるとのことだった。一応先輩にそのことをメールで報告すると【受付の子に言っておくから入れてもらいなさい】と返ってきたが、僕にそんな勇気はない。僕は見てしまったのだ。呼子をしているメイド姿の女子生徒が玉波先輩のことを大々的に宣伝しているのを…たぶんあそこに並んだ客層のほぼ全てが玉波先輩狙いだ。そこに僕が特例で割り込んだらどうなるか…考えただけでも恐ろしいことになるのは避けられない。だからこそ、混雑が解消されるまで僕はしばらく教室で待っておくことにしたのだ。
その時、教室前方のドアが開いて誰かが中へと入ってきたようなので僕は机に顔を伏せる。まあ、もちろんこの教室に入って来るのは僕のクラスメイトなわけであるが、それならなぜ顔を伏せる必要があるのか?と僕も若干思う。しかし理由はあるのだ。まず気まずい。僕はクラスの模擬店をほとんど手伝っていない。それは実行委員の仕事が忙しいからで言い訳こそできるものの、泉はバッチリ手伝っているんだからあまりいい顔はされないだろう。
…ドアが閉められ、足音が室内に響く。1人か?うーん、余計に面倒臭いぞ…新田先生に家内君が教室でサボってましたと報告のひとつでもされればすぐに連行される可能性もある。
足音はなぜかゆっくり僕の席の近くに近づいてきて、そして止まった。
…なんだ?だれだ?顔を上げて確認してみるか?いやでも…くそっ!躊躇っても仕方がないし一瞬見るだけだ!
「なんだ、起きてるじゃん」
「……あき?」
顔を上げた僕の目の前に、しゃがんだあきの顔があった。
「せっかくいたずらしようと思ったのに」
「…何しに来たんだ?」
「何しなって、ここに来ちゃダメなの?」
「いや、そんなことは全くないけど…」
「それで、陽満くんこそ教室でなにしてるの?サボり?」
「…疲れたから休んでただけだ」
「まだ2日目始まったばっかりだよ?」
「……昨日の疲れが残ってんだ」
「サボりならサボりって素直に言えばいいのに」
なにも言い返せない。なんせサボりだから。
「そうだ!陽満くん今どうせ暇でしょ?」
「どうせってなんだどうせって」
「一緒にまわろーよ学園祭」
「え?」
あきと一緒に回るなんて、考えてもいなかった。これでもあきは結構周りの目を機にするタイプだ。だからあまり教室でも僕に積極的には話しかけてこない。
「……ぷっ!」
「なっ!?」
「今本気にしたでしょ!うそうそ!私すぐに模擬店戻らないといけないから」
「……そ、そうか…」
「じゃあね」
「おう」
そう言ってあきは立ち上がって教室から出て行く。
「あ」
「?」
「陽満くん」
「なんだ?」
「18時20分のチャイムが鳴る前に屋上に来て」
「……え、は?」
「命令だから」
「あ、あき!?」
……18時20分のチャイムとはこの学校での下校下校時刻を知らせるためのチャイムのことだ。……以前、帰り道で思緒姉ちゃんに言われた噂話を思い出す。チャイムが鳴ると同時に告白した女子の告白は必ず成功するとかしないとかいうあれだ。……え?いや、まさかな?たしかに命令ということなら僕は行かなければならないだろうけれど…流石に考えすぎだよな?
「……」
言っちゃった……
「どうしよ…」
もしかしてハルちゃんあのウワサのこと知ってたかな…もし知ってたら完全にバレたよね。てゆーかなんで嘘とか言ったの私!あのまま一緒に模擬店でもなんでもまわれば良かったのに!あぁぁあ!!!
「…お、おちつこ」
そうだ。私は変わったんだ。もう逃げないしもう諦めない。




