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ヒミツ  作者: 爪楊枝
序章
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6話「コワシテ」


放課後、屋上へと行くとすでに野美乃のみのさんは待っていた。陽が傾き始めたといってもかなり熱い、床からの照り返しによりジリジリとした鬱陶しさも感じる。太陽を背にした野美乃さんは全体的に薄暗く、夕日の赤と影の黒がはっきりと別れているように見えた。


後光がさす…というよりも黒を際立たせるように赤い光が包んでいる。


【来てくれてありがとうございます。】


僕がつくと同時にメッセージが送られてきた。

そうだ、今こそ聞きたかったことを聞こう…


ゆっくりと野美乃さんへと近づいて行く。近づけば近づくほどに夕日が眩しくなり、彼女の影が大きくなっていく。まるで彼女自体が闇に呑まれていくかのように錯覚するほどその影は濃い。ある程度近づいて、彼女の存在を手繰り寄せるように今まで聞かなかった…否、聞こうとしなかったことを彼女へなげかける。


「なんで…直接喋ってくれないんだ…?」


最初から…いや、実際にやり取りをしてみてその答えには辿り着いていた。でも、彼女がそれを隠しているのだろうかと思うと怖くて聞けなかったのだ。


もし、これが彼女にとっての《ヒミツ》なのだとしたらそれを知らないままの方が僕は良かった。ヒミツがヒミツでなくなればそれは人間が人間でいられなくなることのような気がしたからだ。少なくとも、ヒミツを知ったものはその人物との関係が壊れるかよりきつく絡まることとなる。


しかし、彼女は自分から僕へと近づき関係を築こうとしている。さらには自らの手でヒミツを明かそうとしているのだ。隠し事が人にバレるということは、それだけで死にたくなるほど恥ずかしい…はずだ。少なくとも僕はそうだった。


それを覚悟して僕に近づく彼女は、僕にとって初めての存在でもあった。


立花は僕のヒミツを暴く代わりに2人だけの《契約》を結ぶことで僕にそれを新しい《ヒミツ》として受け入れさせた。


しかし今までの野美乃さんの行動は自らヒミツをさらけ出すだけの行為に等しかった。彼女にとって《僕》はヒミツをうちあけるほどに大きな存在になったのだろうか?この短期間のうちに一体何が彼女にそこまでさせるに至ったのか考えても考えても、その答えにはたどり着けなかった。



だからこそ今僕は自分の口から野美乃さんに聞いたのだ。


一方的に人が隠していることを打ち明けられるなんてサラサラごめんだ。そんな状況に陥るなら、自分から片棒担いで一緒にヒミツを守り通す。それが僕と野美乃さんの関係を人間同士という範疇に収めるのに、一番ふさわしいと思ったのだ。愛くるしい大きな目をさらに見開いた野美乃さんはかなり驚いた様子だが、すぐに微笑んで口を開いた。


「ぁ……ァ………」


掠れたような、必死にもがくような声とも音ともいえない息のようななにかを吐き出し、野美乃さんは口を閉じる。そして


ポン!


スマホ画面に、僕が出した答えと同じ内容が映し出された。


【私は喋ることができません。】


やっぱり…そうか…

自分で想像したよりも、遥かに重い重圧…

これからきちんと向き合っていけるかどうか不安に駆られる、そんな僕をよそに野美乃さんは壁にもたれるように座ってポンポンと右横あたりの床を叩く。


となりに座れってことかな?


とにかく彼女の隣に座り、さらに送られてくるメッセージを見る。


【私が喋れなくなったのは2ヶ月前、お医者様からはストレスが原因だろうと言われました。幸いにも治る可能性は高いようです。】

「そうなのか!良かった…な」

【はい、ですので声に関してはあまり気にしていません。それに、嬉しかったです陽満くんが気にかけてくれて】

「え、気にしてないのか?」


この時、僕の中でなにかが崩れた気がした。

喋れないことはそもそも彼女の中でヒミツでもなんでもなかったのだ。いらない心配をしてしまったのかもしれないと、申し訳なさげに画面から彼女の方へと顔を向けて言葉を失った。


彼女は見たこともないほど笑顔だった。

しかしそれは、恐怖を覚えるほど歪なものだった。


ポン!


と再びスマホが鳴ったので一瞬目を向け【やっと、私を見てくれた】


画面に表示された文を読む前に、野美乃さんは僕を壁に押し付ける形で覆い被さってきた。向かい合って座るような形で、急に目の前に現れた彼女の目はどこか虚ろだったがそれでいてしっかりと僕を…僕だけを捕らえていた。


「ハァ…ハァ…んっ」


最初はなにが起きたか分からなかったが、野美乃さんが僕にキスをしているのが分かると急に怖くなって離れようともがいた。が、信じられないほどの力で両腕を掴まれ両足も野美乃さんの太ももでがっちりとロックされている。必死に口を閉じて抵抗していた僕の唇にしゃぶりついていた野美乃さんは次に顔全体を舐め回し始めた。驚いて思わず口が開くと、その隙を逃さず舌を入れてこじ開けてくる。


歯を、舌を、歯茎を、鼻を、耳を、唇を、舐められ、蹂躙される。


体が熱い…頭もぼーっとしてきた。


彼女が唾液を僕の口へと送り込めば送り込むほど、意識が遠のいていく。今までの美少女然とした顔が嘘であったかのように顔を真っ赤に染め上げて、肩で息をしながら餌を貪る獣のような汚い笑みを浮かべ…


彼女はただひたすらに、僕を喰った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何分経ったか分からない程、顔中舐められベトベトになった。満足したのか野美乃さんが立ち上がり僕を見下ろす。僕はまだ体に力が入らないほど興奮して、ぼーっとしていた。僕を見下ろす彼女の顔は、うっとりとしていながらもかなり歪んだ笑顔だった。


【可愛い…陽満くん】


野美乃さんからまたメッセージが送られてくる。


【私は、貴方のヒミツを知っています。】

「…え?」


この子は、なにを言ってるんだ…?

僕のヒミツ?


【貴方が新体操部の部室でなにをしているかも、全部】


僕の心臓が跳ねる。


【でも大丈夫、誰にも言っていなし言うつもりもありません。】


バクバクと心臓の音が大きくなり、彼女にも聞こえているのではないかと思うほどの息苦しさに襲われる


【これは、私と貴方だけの《ヒミツです》】


歪んだ彼女の目がさらに細くなる。


体が震えてきた

手足の感覚が遠のいて行く


【私は貴方を愛しています。】




【あなたも私を愛してください。】




【私のことだけを見てください。】




【私をどうか見つけてください。】




【これからずっと、これは私と貴方の】




【《契り》として残します。】




1枚だけ、画像が貼られた


僕が新体操部の部員全員のタイツや靴下、ジャージのズボンを抱えて、だらしない顔で匂いを嗅ぐ……そんな姿だった。すっと一歩僕へと近づいた彼女は片手でスマホを持ち、空いたもう一方の手でスカートの裾をつまみ、ゆっくりたくし上げた。スカートが胸あたりまでたくし上げられ、露わになる純白の布は夕日のせいか真っ赤に燃え上がったように僕のことを照らす。


耳まで真っ赤になりながら、目尻に涙を溜めながら先ほどまで魅せていたような歪んだ笑顔とは違い下唇を噛み、まるで何かを覚悟したような表情で。


僕に最後の言葉を


声にならない言葉をなげかける。















【私を()()()










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