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ヒミツ  作者: 爪楊枝
学園祭準備
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2話『タントウ』


「なあ陽満、どうしてもダメか?」


週明けの昼休み、屋上。以前断った学園祭実行委員の件を泉がまた誘ってきた。


「うーん…」


この場には現在泉と莉音、そして桜花姉妹がいる。所謂ハーレム状態と言って差し支えないのだろうけれど、あまり嬉しいものでもない。


「わ、私も家内先輩に実行委員に参加して欲しいです」


そう、敵は泉1人ではないのだ。生徒会長であり、実行委員には強制参加である桜花妹もあちら側であり、その姉には以前妹のためにも委員になれと言われている。つまりこの場に僕の味方は莉音ひとりのみだった。しかし……


「私も実行委員になったので陽満君もなってくれれば嬉しいです」


莉音も実行委員だった。それにしても意外だ。莉音はそういった表立った活動に積極的に参加している印象は薄い。いや、声が出せるようになったことによって積極性が上がったのか?それにうちのクラス以外はほとんど委員が決まっているみたいじゃないか。新田先生はなにか言われたりしないのか?


「……はぁ…わかったよ。やればいいんだろ?知らないぞ。僕は普通にサボるかもしれない」

「本当か!?ありがとう陽満!それでこそ友達だな!」

「うわ!急に抱きつくなよ泉!」


そんなこんなで、昼食後に新田先生の元へ行った僕は晴れて実行委員になった。




それから数日後の放課後、とある空き教室で最初の実行委員会が開かれた。


「どうも〜今年度実行委員長の剣崎嵐で〜す」


各クラスから2名ずつ選ばれた実行委員数十人が集まった教室内は重苦しい雰囲気に包まれていたが、教壇に立ったやけにふわっとした剣崎先輩の挨拶で場の雰囲気が和らいだように感じた。


「…会計の家内です」


あ、思緒姉ちゃんだ。なんだ、思緒姉ちゃんも実行委員なのか…というか玉波先輩の姿もあるし知り合いが結構いる。


「は〜い、それではまず当日までの役割分担をしますので前にクジを引きにきてくださいね〜」


1年生から順番に列を作り思緒姉ちゃんの前に置かれた箱からなにやら小さな紙切れを取り出して行く。先輩の説明では装飾、備品、警備、イベントという文字が書かれていてその書かれた文字通りに班を作って作業にあたるとのことだけれど、できれば僕は警備がいい。確か駐車場とかにつっ立っていれば良かった筈だ。


「陽満陽満!一緒の班になれればいいな!」

「そうだな」


ウキウキという音が実際に聞こえそうな泉とともに席を立ち列に並ぶと、ちょうど僕達の後ろに莉音ともうひとりが並んだ。


「君が家内君?」

「…?そうだけど」

「野美乃さんと仲が良いらしいけど、ふん!大したことなさそうだね」


……なんだこいつ。やけにキザッたらしいメガネをかけた男子生徒が突っかかって来た。


「やめてよ吉井君、家内君に迷惑だよ」

「野美乃さん、君もこんなやつに話しかけられて嫌なら嫌とはっきり言わないとダメだよ」


ふむ、どうやらこの吉井君というやつは莉音に惚れていると見た。だとしたらあまり関わりたくないなあ。吉井君から見れば莉音とよく一緒にいる僕は目の敵だろうし、なにより仲良くはなれないだろう。


「なんだこいつ。なあ陽満、一回殴っておいた方がよくないか?」


泉が僕の思ったなんだこいつという感想をそのまま口にし、さらに暴力で黙らせた方がいいという脳筋キャラのような発言をし始めた。


「なっ!?連れている女まで低脳か。ますます野美乃さんには近づけさせられないな」

「あっそう」


こういうのはまず相手にするだけ無駄なので無視して進む。くじの入った箱の前にたどり着き、箱に手を入れようとした時、それを遮るように一枚の紙切れを持った手が前方から差し出された。


「……思緒姉ちゃん?」

「ハル君、代わりに取っておいたから」

「いや…代わりにって」

「取っておいたから」


圧を感じる。おそらく思緒姉ちゃんと同じ班の名前が書かれている。うーん…あまり気乗りしないが思緒姉ちゃんの気持ちを無下にするわけにもいかないし仕方がないから受け取


「ズルはダメですよ〜」


僕が紙を受け取ろうとした時、剣崎先輩が紙を横から取って握りつぶした。


「剣崎さん、貴女なにしてるの?」

「こっちのセリフです家内さん。姉弟だからってズルはダメです」


……なんだ、ただの変態かと思っていたが剣崎先輩にもまともな部分はまだ残っているようだ。言い争う2人を尻目に僕はくじを引いて席に戻った。


「陽満、くじの結果はどうだった?」

「ん?えっと……お、警備だ」

「…そうか私は備品だ…別々だな」

「仕方ないな。まあ警備は当日までやることないし他の班の手伝いって言ってたから一緒になるときくらいあるだろ」

「だといいけど…」




全員がくじを引き終わったところで各班ごとに教室に分かれ、顔合わせをする。


「チッ、なんだ君と一緒か」


露骨に嫌そうな顔をした吉井君と同じ班だった。僕のほんの僅かにあったやる気が削がれていく。唯一嬉しかったことといえば


「班長の玉波です。では各自当日出てこれる時間帯と学年、クラス、名前を黒板に書いてください。友人同士で同じ時間帯を担当しても構いませんがダブりが多かった場合はこちらで調整して後日シフト表を配布します。書いた人から解散していただいて構いません。それと、他の班で人手が必要な場合は手伝ってあげてください」


玉波先輩と同じ班だったことだろうか。もし知っている人間が吉井君だけだったら僕はストレスから不登校になっていた。うん、そうに違いない。


ぞろぞろと生徒達が前に集まり好き勝手に名前やクラスを書いていく。僕はそれを座って眺める。しばらくして人が減り、ほとんど教室から出て行ったあたりでやっと腰をあげるのだ。あんな密集地帯に突撃するなんて自殺行為以外の何者でもない。窮屈な上に暑苦しい。


「同じ班ね家内」

「そうですね」

「私と一緒の時間を書いておきなさい。話し相手いないでしょ?私が話し相手になってあげるから」

「わかりましたよっと」


玉波先輩の提案をすんなりと飲む。言われた通り、知らない相手と同じ時間、場所の担当になっても暇なのは確実だった。それならば玉波先輩と一緒がいい。


「それと、これからちょくちょく私の手伝いをしてもらうからそのつもりでね」

「手伝い?」

「今描いてる絵よ。家から持ってきたからこれからは部室で描くわ」

「あぁ…なるほど、それならわかりました。いつでも呼んでください」

「えぇ、そうさせてもらう」


こうして、実行委員会1日目は終了した。


次回更新は明日20時です。

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