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ヒミツ  作者: 爪楊枝
学園祭準備
66/109

prologue


「……あき…なんで……」

「…なんで?そんなの、ハルちゃんが私のことを忘れてるからだよ」


ゲロをぶち撒け、壁に背をつけて床に座る僕に、あきは言う。その表情は決して穏やかとは言えないもので怒りや悲しみ、色々なものが混ざり合っているようにも見えた。


「陽満君!」


ドアが開かれ、慌てた様子の莉音と泉が教室に入ってきた。


「どうしたの泉ちゃんに野美乃さん、そんなに慌てて…まだ朝のHRまでは時間があるよ?」

「なにをしてるんだ立花ちゃん…」

「気にしないで泉ちゃん、これは私とハルちゃんの問題だから」


淡々としたあきの返しに、反応したのは莉音だった。いや、厳密に言えば莉音が反応したのはあきの言葉ではなく彼女が放った僕の名前であったが。


「ハル…ちゃん?」

「…?なに?野美乃さん、なにか不満でもあるの?」

「……」


莉音と目が合う。しかしその目はいつもの優しい彼女のものではない。


「陽満君に…ハルちゃんに酷いことしないで!!!」


莉音が叫ぶと同時に、教室に聞くだけで頬が痛むような音が響いた。莉音があきの頬を叩いたのだ。それもかなりの勢いで。


「痛ったいなあ…」


衝撃によって倒れたりこそしなかったあきは、それでも顔をしかめながら莉音を睨む。


「立花さん、貴女はなにを考えてるんですか!ハルちゃんにこんな…暴力ふるって……貴女はハルちゃんのことを…!」


莉音の言葉を聞いたあきの表情が一変する。これまでのどんな表情よりも感情のこもった、激情にかられた怒りの表情に。


「あんたに…あんたにだけは言われたくない!この裏切り者!!」


その言葉と同時に、もう2人ほど教室に人が入ってきた。しかしその人物を見て僕だけでなく他のみんなも動揺している様子だった。


ドス黒いオーラを纏っているように見えたのだ。膝裏まで伸びた黒い髪で顔全体は見えないけれどキョロキョロとなにかを探している様子だった、そして床に座り込んだ僕を一目見てからあきに向けられた表情は、言葉では言い表せないほどの憤怒を携えており、僕の前では一度も見せたことのないものだった。


「思緒…姉ちゃん……」


なぜこんなことになってしまったのか。どこから道を間違えたのか。いや、僕のことだから最初から道を踏み外していた気もするけれど、とにかく、事の発端はあの地獄のような学園祭のもっと前。たまたま見つけた卒園アルバムの中から一枚の写真を見つけた翌日まで遡らなければならない。否、僕とあき、そして莉音の関係を語るのならばそれこそ幼稚園児時代まで遡る必要があるかもしれない。まあ、とりあえず思い出すならまずはあの日からだろう。


確かあの日も今日と同じように、朝は僕とあきしかいなかった。





「はぁ……ぁあ〜あ」

「大きいあくびねハル君」

「当たり前だろ?なんだよ思緒姉ちゃん、いつも通り起こしてくれたのかと思ったらめちゃくちゃ早いじゃんか…」

「ハル君が勝手に目覚めたのよ。私は悪くないわ」

「そうですか…」


目を開けると姉の顔面が目の前にあるというある意味ホラーな起こされ方をした僕は、学生服に着替え終わった時点でまだ登校するには早すぎる時間だということに気がついた。しかし目が覚めてしまったのもあり、こうして散歩ついでに思緒姉ちゃんと一緒に登校している。


まだ仄暗い通学路は、いつもとは違う雰囲気が漂っており新鮮だった。それでもやはりいつも通っている道なのでなにか目新しいものがあるわけでもない。散歩ついでという名目なのだからどこか違う小道にでも冒険すれば良かったんじゃないかと若干後悔するレベルで早く学校に着いてしまった。


「すげえ、こんな時間でも校門開いてるんだな」

「私達は入ってないけれど朝は部活動で早めに来る生徒がいるからでしょ」

「あぁ、それもそっか」


下駄箱で靴を履き替え、思緒姉ちゃんとは2階の階段で別れる。自分の教室がある3階へとやって来た僕はそこであることに気がついた。どうやら、校門の鍵が開いているからといって、全ての教室の鍵がこの時間から開いているとは限らないらしい。隣のクラスには誰一人おらず、少し不安になった僕はドアを一度開けようとしてその事実に辿り着いた。職員室に教室の鍵を取りに行くか先生に開けてもらうかしなければならないとなればそれはかなり面倒くさい。それならば思緒姉ちゃんの元にでも行った方がマシか?そんなことを考えながら教室の前まで行くと、僕の予想とは違い僕のクラスのドアだけ開いていた。


「誰かいるのか?」


こんな朝早くから一体誰が教室に来るのかと不思議に思いながら、もしふたりだけだと気まずいなと億劫になりながら、僕は教室に入る。


「……お!おはよう陽満くん」


結果としてそれらは杞憂に終わった。教室にいたのは僕の隣の席に座ったあきだけだった。


「なんでお前こんな時間に学校にいるんだ?」

「あはは…今日部活ある日だと勘違いしてて」

「はは…案外ドジなところあるよな」

「そうだね」


あきは笑う。僕にたまに見せる歪んだ笑顔ではなく、女の子らしく可愛い笑顔で。


「あ、そうだあき、お前僕と同じ幼稚園通ってただろ?」

「へ……?」

「いや昨日卒園アルバム見つけてさ、それであきと莉音の名前見つけたんだよ。それでさ、もしかしてこの子ってあきじゃないのか?」


僕は昨日見つけた写真を胸ポケットから取り出して、髪が短くむすっとした表情の女の子を指差しながらあきに見せた。


「…………うん、そうだよ」

「やっぱりか!?やっぱそうか〜ごめんな、なんかこれだけ前のことだとほとんど覚えてなくてさ」

「ううん、小さい頃の話だもんね。仕方ないよ」


あきは変わらず笑顔ではあったけれど、その表情は先ほどまでと少し違ったように僕には見えた。



少しだけ時系列が前後している部分がありますが、また元に戻ります。


次回更新は明後日です。

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