「ヒキョウモノ」
屋上のドアを少しだけ開け、話す二人の様子を見る。先日のこともあり心配だったけど大丈夫そうだった。
家内には悪いけどあの子のためにも相手をしてもらいたい。あれから家に帰った陽京はまさしく壊れていたという言葉がぴったりな様子だった。指の爪を噛みながらブツブツとなぜ家内に断られたかを考えている姿はとても見ていられるものではなかった。
あの子の中ではもう自分は家内と付き合うことになっていたんだろうけど、まさか私まで巻き込まれるとは…できれば家内に陽京を振ってもらって陽京も家内のことを諦める…それが理想ね。でも今のあの子に何を言っても聞きそうにないし…
「桜花さん?」
「ひゃっ!?」
後ろからかけられた声に驚いてしまった。振り向くとクラスメイトが立っている。あまり同じクラスの女子とは話さないし名前もほとんど覚えていなかったけど、この子は知っている。クラスで一番可愛いと評判な上につい先日まで喋ることができなくなっていたことも相まって非常に目立った存在だったから。
「えっと…野美乃だったっけ?」
「はい…もう昼休みも終わってしまいますよ、教室には戻られないのですか?」
「あ、うん。そうだね戻るよ…ていうかなんで野美乃もこんなとこにいんの?まさかあんたも屋上に?」
「ふふふ、まぁそんなところです」
驚いた。普段教室ではこんな笑顔を見せることはなかったと思うし真面目な人だと思っていた。随分と印象の違う彼女に驚きながらも立ち上がった私はわずかに開けていたドアを自身の体で隠しながら締める。
「陽満君とはどういうご関係なんですか?」
「え?」
「そのドアの向こうで彼といるあなたの妹は陽満くんとどんな関係なんですか?」
「な、急に何言って…」
決して崩れない笑顔が怖い。なんでこいつが妹のことを…
「知ってるんです。貴女達がコソコソと陽満君を屋上に連れ出していることも…先日一緒に出かけていたことも…」
「……」
「ねえ、桜花さん同じクラスのよしみで教えてくださいよ。貴女達は陽満君のなんなんですか?」
なんと答えればいいのか…何が正解なのかわからない。というかどんな関係だよと聞きたいのはこっちだ。
「……と、友達!ただの友達だから!」
「とも…だち?」
「そう友達!なんもやましい関係とかないから!」
「そうですか……友達……」
咀嚼するように、友達という言葉を繰り返す野美乃の表情が次第に変わり、それを見た私は動くことができなかった。可愛らしかった笑顔は消え失せこちらに対する嫌悪感がひしひしと伝わって来るその表情に気圧された。
「卑怯者」




