4話『オウジサマ②』
「桜花さん…俺と付き合ってください!」
「……ご、ごめんなさい」
あれは確か夏休みが始まるよりも前、ある日の放課後のことでした。クラスメイトの男子に呼び出された体育館裏で私は告白を受けました。こういったことは何度かあったのですが私はその全てを断ってきました。
ほとんど喋ったこともない人といきなりお付き合いするなんて、想像ができなかったから。なにより私は男の人が怖かったのです。だからこの日も…
「な、なんで…!俺じゃダメなのか!?」
「え!?…い…いえ…そういうわけじゃ……」
ちゃんと言わないと…
「ならいいだろ!」
「ひっ……」
怖い
「なぁ!絶対後悔させないから!」
「や、やめて…ください…」
怖い
「なあ」
「あぁ!?」
「……!」
「…ごめんなんか取り込み中だったか?」
「ま…待ってください!」
私は突然現れた男子生徒…学年集会などで見たことがないから先輩でしょうか?に慌てて声をかけます。
「…ん?」
「た…たす……「なんでもないからとっととどっか行ってくれよ!な、桜花さん大丈夫だよな!」
「……え…」
遮るように男子生徒が声を発します。
「はぁ……なんでもいいんだけど、できれば他所でやってくれないか?もう時間が無いんだよ」
「はぁ?何言ってんだあんた」
「いやだからこっちも急いでるんだよ、それに見たところその子嫌がってるみたいだけど」
「なっ…そんなことあるかよ」
「ほらその子泣いてるじゃないか、先生呼ぶぞ」
「くっ…くそ!」
男子生徒が慌ててこの場を去ります。
「うぅ〜…焦った焦った、暴力振るわれたらどうしようかと思ったよ、大丈夫か?」
「はひ!?……あ、はい…ありがとう…ございます」
「変な奴にほいほいついていっちゃダメだぞ、じゃあほれもう教室に戻りな?」
「はい……」
先輩に促されてその場を去った私でしたが、もう一度だけちゃんとお礼をしておこうと振り向きましたがすでに先輩の姿はそこにはありませんでした。
「はぁ?あんたそれ大丈夫だったの?」
「うん…」
その日の夜、姉さんにその日あったことの説明をしながらその先輩のことを訪ねて見ました。やはりちゃんとお礼を言っておかないとと思ったのもありますがそれと同時に少しだけあの人のことが気になっていました。姉さん以外の人で私に普通に話しかけてくれたのも助けてくれたのもあの人が初めてだったから。恥ずかしがり屋でも私だって女の子です。
「うーん、名前も分かんないんじゃあ断定できないけど…とりあえずあんたに近づく奴がいるってことね」
「……ううん、私が探してるんだよ?」
「任せて、どんな奴でも私が追い払ってあげるから!」
「姉さん…?」
その日から、姉さんは度々傷だらけで帰ってくることが増えてきました。お母さんも私も驚きましたが、姉さんは気にしないでと言うのみでなにも教えてはくれませんでした。それは夏休み中も変わることはなく、私の知らないうちに髪も染めて普段なら絶対しないような制服の着方までし始めた頃には姉さんの性格そのものが変わってしまったんじゃないかと思えてしまうほどでした。
夏休みも終わり数週間が経った頃、昼休みに私は思い切って姉さんの後を追ってみることにしました。なぜ姉さんが変わってしまったのか知るには、やはり実際に見て見ないといけないと思ったからです。姉さんが階段を登り鍵がかかっているはずの屋上の扉をあけて外に出るのを確認してから私も扉をあけます。チラリと隙間から見渡しますが姉さんの姿はありません。
「おっ、今日は早いじゃん関心関心」
「…別にお前を待ってた訳じゃない」
姿は見えないのに姉さんともう一人誰か男の人の声が聞こえてきます。恐る恐る扉をあけて屋上に出てもやはり二人の姿はありませんでした。
「なんで毎日毎日僕の弁当を食べるんだ?」
「いや〜いろいろあってさ、今私不良娘だから」
「意味わからないぞ…」
どうやら二人の声は上から聞こえてくるようです。確か横の壁に上に登るための梯子があったはずなので私はそれを使って確認してみることにしました。
「ねえそれよりさ、そろそろ私の名前とか気になったりしないの?」
「なんだそれ、僕の弁当を勝手に食ってるやつのセリフか?今までのお礼含めて自分から自己紹介しろよ」
「あっはっは!ごめんごめん、私桜花っていうの。名前は伽夜ね」
「桜花?どっかで聞いたことあるな」
「へっへっへ、聞いて驚くな?実はね…」
気づけば私は逃げていました。自分でも驚きましたが、私は泣いていたのです。姉さんと一緒にいたのはあの日私を助けてくれた人でした。最初から…最初から姉さんはあの人のことをしっていたのでしょうか…姉さんはあの人と……付き合っていたりするのでしょうか…
いろんな感情がぐるぐるしたまま、逃げるようにして私は教室に戻りました。




