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ヒミツ  作者: 爪楊枝
序章
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4話「ユウヒ」

人間と動物の違い、それは誰にも言えないヒミツを持っている…つまり隠し事をする事と、僕は勝手に考えてはいるが実際問題人に言えないヒミツを持った人間が一体どれだけいるんだろうか。寝たふりを決め込む僕の横の席で、真面目に授業を受ける彼女。立花あきは僕とある意味で主従関係を結んでいるという《ヒミツ》もつ。


そんな僕と彼女の所属するクラス。37人というこの小さな1つの世界で、誰にも話せないようなことを隠し持ったものが居たりするのだろうか。そういえば最近ひどく思い知ったが、ヒミツというものを守るのは結構難しい。


僕が中学の時友人から借りたある一冊の本。それがつい先日、妹に見つかったのだ。学習机の棚をわざわざ二重底にしてまで隠していたのにだ。あれから妹は口を聞いてくれない。それくらい簡単に、そして脆く《ヒミツ》というのは簡単にバレてしまうことがある。


まるでそれは砂の城のように、崩れ去る。

ヒミツを持つことを人間の特権のように考える僕にとってそれはまた、《人間》もヒミツと同じように簡単に壊れてしまう。脆い存在なんだと改めて認識するきっかけとなった。


そう、彼女との出会いもまた…





梅雨が過ぎ、日が暮れる時間が伸び始めたある日の放課後。僕は授業中に寝ていたとかどうとかいう教師からのいちゃもんを付けられ階段の掃除をしていた。なぜ課題を用意するとかではなく階段掃除なのかといえば、教師が僕を困らせるために急に出題した問題を答えてしまったためだ。


もちろん、急にあてられた僕はビビり倒していたがふと隣を見ると、立花がその問題の答えをノートの隅に書いて教えてくれたのだ。立花さまさまである。ふぅーーーと息を吐いて、構内に三ヶ所ある中で唯一屋上へと続く階段を見る。


「正直、屋上は立ち入り禁止だし別にいいか。」


1階から順番に三ヶ所全ての階段を掃除してきたんだし、誰も使わない場所ならほっといても大丈夫かと思いその場を後にしようとする。その時、ほんの少しだけれど僕の頬を風が撫でた。


もう夏だというのに少し冷んやりとした、やわらかい風


「鍵、閉まってるよな?」


嫌な予感がよぎる。なんでも十数年前に生徒が飛び降りるという事件が起きてから、体育祭の時に応援旗や飾り付けを付ける時や部活動の応援幕を付ける時以外の立ち入りを禁止するために鍵がかけられているはずなのだ。そのため上から風が吹いてくるなんてことはあり得ないはず…建物の構造とかに詳しくないからあんまり分からないけど多分そうだ。


幽霊だとかそんなものは信じない方だが、一度気になってしまうと治らない性分の僕は自分でも気づかないうちに屋上へと続く階段を登っていた。


「やっぱ、閉まってるな」


思った通り、ドアは閉まっていたし反対方向にある窓も開いていない。ゴクリと唾を飲み、一応ドアに手をかけ開けようとしてみる。


ガラララっと音を立て簡単にドアは開いた。


「おいおい、鍵空いてんのかよ…どっかの部室じゃないんだから…大丈夫かこの学校。……ん?」


ふと前方を見ると、ひとりの女子生徒が立っていた。


「っておいおい危ねえぞ!」


女子生徒が立っていたのは屋上の床ではなく、腰より少し高めに造られた申し訳程度の壁の向こう。一応その壁の向こうには人がひとり立てる程度の空間と転落防止用のフェンスが設置されているが、彼女はそのフェンスに手をかけよじ登ろうとしていたのだ。


「やめろ!」


叫びながら駆け寄るが女子生徒はこちらに見向きもせず、フェンスに手と足をかける。しょうがないと思いながらも、壁を乗り越えて彼女の足を掴み力強く引っ張った。


「!?」

「いてて…なんで飛び降りなんてしようとしたんだよ…」


自分の上へ落ちてきた女子生徒を受け止めた時、腰を打ってしまいかなり痛かったが女子生徒への質問を優先する。場合によっては、職員室に報告に行かねばならないだろうと思いながら彼女の返事を待つがその返事はいつまでも返されることはなかった。


ひどく驚き、怯えた様子の女子生徒はなにか声にならない声を絞り出そうとしているのか口をパクパクさせるが努力むなしく、空振りに終わる。


しまった、助けたつもりがかなり怯えさせてしまった。女子の扱いなんて母親、姉、妹、変態しか知らない僕にこの手のタイプの相手ができるだろうか。


そう、彼女は美少女だった。


腰まで届こうかという黒髪、程よく長いまつげ、薄いが存在感のある唇。そのどれもが美少女という言葉がふさわしいレベルで整っていた。もちろん僕基準なのでなんとも言えないが、立花がどこか幼さの残る可愛い系だとすればこの女子生徒は清楚系美少女だ…しかしほんとになにも喋ってくれないな…


そう思っていると女子生徒はおもむろにスマホを取り出す。


あれ?この展開まさか写真を撮られたりするのか?

そして美少女へと無理やり襲いかかる変態の証拠として脅されたりするのか?まさかこの短期間に人生の危機が襲い来るなんて……


そんな僕の一抹の不安をよそに、彼女は自分のスマホを指差してから今度は僕の方を指差す。


「え?…スマホ?僕もスマホを出せばいいの?」


確認をとると、彼女はしっかり頷いた。


不思議に思いながらもスマホを取り出すと彼女がある画面を見せてきた。それはhimoと呼ばれる若者の間で大人気のメッセージアプリのQRコードだった。


「登録しろってことか?」


彼女は頷く。とりあえずQRコードを読み込んでみると画面にアイコンが表示された。その下に彼女の名前らしきものが載ってある。


しかもそのまんまフルネームか、今時珍しいなあ…


野美乃のみの莉音りおんていうのか」


すると野美乃さんは早く登録してくれと言わんばかりに画面をタップする動作を促してきた。


「へいへい、わかったわかった」


登録ボタンを押しーータタタタタッ


ポン!


「え!?」


ほぼ登録完了画面になった瞬間、目にも止まらぬ速さで野美野さんからメッセージが届いた。はっや、なんだ今のスピード…


メッセージ画面を開くとそこには


【なぜ陽満君は私を助けてくれたのですか?】


そう書かれてあった。


あれ?僕は彼女に名前を、それも漢字まで教えただろうか?ああ、アカウントがはるまって名前だし、わからないこともないか?しかしなぜ止めたのか、そう言われても困る。飛び降りようとしていた奴がいたから急いで止めたっていうのが本音であるものの、果たしてそれが正解なのだろうか?そんなことを考えながら紡ぎ出した答えは


「君が、可愛かったからさ!」


そんな、どうしようもない言葉だった。おそらくこれは彼女を助けて実際に彼女の姿をきちんと見てから抱いた感想のはずが、そのまま口に出ていたのだ。野美乃さんを見ると耳まで赤く染めて目を見開いている。


いや、今は日も傾いてかなり夕日に照らされているので顔の色は勘違いかもしれないけれどたしかに彼女は驚いて、そのまま立ち上がるなり校舎への入り口にパタパタと移動してこちらを見た。


ポン!


またか、と思いながらスマホの画面に目をやると


【お願いします…】


と、たったそれだけ書かれたメッセージが送られてきていた。意味をあまり飲み込めずにいた僕は野美乃さんの方を見たがすでに彼女はそこにはいなかった。


「なんだったんだ…」


夕日に照らされて、燃えるようなオレンジに染まった屋上でひとりぽつりと呟いた。




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