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ヒミツ  作者: 爪楊枝
ナツのオワリ
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2話『ウブゴエ』


莉音に連れられ、とある喫茶店に入る。カウンターとボックス合わせても十数人入れるかどうかという店内には僕達以外に客はおらず、お年を召した店主のいらっしゃいませという声とジャズ?と思われるお洒落な曲がかかっていた。


【さぁ、陽満君こっちです】


莉音は迷わず一番奥の席に僕を案内して座らせる。もしかして莉音がよく来ているお店なのだろうか?


【隣、失礼しますね】

「ちょっと莉音さん?」


当然のように僕の隣に座った莉音は困惑する僕に小首を傾げてみせた。


「ほ、ほらカウンター席じゃないんだから向かい合って座ればいいんじゃないか?わざわざ隣に来なくても…」

【いいえ、これでいいんです】


なるほど、これでいいらしい。


莉音と僕のスケッチブックを通した会話に、店の店主はなにも思わないのかなにやらカウンターの中で雑誌を読んでいる。


【それではお昼ご飯を食べましょう】

「あ、うん…えっとすみま…」


僕が店主を呼ぼうとすると莉音が僕の口に手を当てて止める。よく見れば雑誌を読んでいた店主がなにかを作り始めていた。…え?もしかしてもう注文せずとも料理が運ばれてくるレベルの常連なの?すごい……


それからしばらく待っていると、パスタとスープ、サラダのセットが運ばれて来た。僕は莉音とともに運ばれて来た料理に舌鼓をうちながら楽しい昼食を過ごした。





喫茶店を出てからはまたも莉音に引っ張られる形でショッピングを楽しみ、最後は流行りの恋愛映画を見てお昼に集合した場所まで帰ってきた。


……ん?あれ?これってデートとかいうやつでは?


「あ、あの〜?莉音さん?確かなにか聞きたいことがあるとおっしゃっていた気がするんですけど…」

【こっちです】


莉音は僕の問いには答えず僕の手を握って歩を進める。


「莉音!?」





驚いた。まさかこんなところまで来るなんて……


あれからなにも書いてくれなかった莉音に連れられてやって来たのは海だった。といっても、臨海学校で訪れたような大きなビーチがあるわけではない。昼は親子連れで賑わう地元の海浜公園で整備されてはいるが小さな砂浜がある程度だ。


「…莉音?こんなところまで来てどうしたんだ?もう暗いし戻ろう」


莉音に語りかける僕の顔をなにかが照らす。どうやら莉音がスマホを手に取ったようだ。まあ、あたりはすでに暗いのでスケッチブックでは意思疎通ができないか。


【2日目の夜、なにがあったのですか?】


……彼女のスマホに映し出された文字は思いもよらないものだった。いや、このタイミングで聞きたいことと言われればそれしかないだろうか…


「なんのことだ?」


誤魔化す。別に莉音は知らなくてもいいことだ。これは僕と伊藤さんの問題であり、僕とちひろの話なのだから。


【立花さんから聞きました。陽満君が苦しんでるって…なにがあったか、私には言えませんか?】

「あきが?」


たしかにあきなら僕になんらかの出来事があったと知っているが、なぜそれを莉音に?


【私には陽満君が苦しんでいることが耐えられません、もしそれが誰かの手によるものならば…私が陽満君を守ってみせます】

「莉音…」


いつになく真剣な彼女の目が、スマホの光で闇夜に浮かぶ。


「…ごめん、言えない」


それでもこればかりは僕自身が解決しなければいけないことなのだ。


莉音からの返事はない。スマホの光は消え、闇に目が慣れるまで視界がぼやける。すると、莉音のいた方向からジャブジャブと何者かが海に入る音が聞こえて来た。…思い当たる人物は一人しかいないが!?


「莉音!?なにしてんだ!?」


僕は慌てて走る。目も慣れて来て、腰あたりまで海に入った莉音の姿を確認した。


「危ないだろ!」


なんとか追いついて彼女の肩を掴む。振り向いた莉音は泣いていた。


「……莉音?」

「……わ…たしは…」


波の音に消えそうな声が、彼女の口から漏れる。


「…あな…た…に…ひつ…ようと……」


途切れ途切れだった言葉が少しずつ繋がり、彼女の思いが溢れる。


「あなたに…必要とされたい……」

「莉音…声が……」


初めて聞いた莉音の声は嗚咽まじりだったが、透き通った綺麗な声だった。





なんとか落ち着いた莉音とともに、夜道を歩く。二人ともビショビショなため足跡がずっと続いている。


「陽満君…どうしても…私には、言えませんか?」


まだ喋り慣れていない、途切れ途切れの言葉が莉音から漏れる。


「ごめん…」

「いえ、気に…しないで…ください…」


彼女の顔を見ることはできなかった。莉音に隠し事をしていることが後ろめたかった。僕にとってヒミツは大事なことだけど…これは…この気持ちはなにかが違った。





時間も時間なので莉音を家まで送って行こうとしたが、ここまででいいと言われたので途中で別れ僕も帰路についた。


「…これ、思緒姉ちゃんに問い詰められるだろうな…」


未だに歩くと水が滴るズボンをはたきながら歩く。


「あ、スマホ大丈夫かな…」


一応防水機能はついているが……スマホをポケットから取り出して電源ボタンを押す。


「…なんとか電源はつくな…ん?」


メールが1通届いていた。差出人は


「玉波先輩?」


先輩からのメールにはこう書かれていた。


【明後日、遊びに行きましょう。もし大丈夫なら明後日の朝は早いので明日は私の家に泊まってください。着替えも持ってきてください。】


………ん?


次回更新は明後日です。

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